【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

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第一章 はじまり

3.移転

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 かつて十字軍の遠征にも利用されたエバンズの街は、長い城壁に囲まれた城塞都市。
 海に面した大きな港には、大小様々な船が行き交い交易の拠点となっている。

 メインゲートを入った正面の大広場には、かつての英雄の像が威風堂々とした佇まいを見せており、広場の周りは酒場や商店がひしめき合い終日賑わいを見せている。

 この大広場の東側に、リディアが商会長を務めるスペンサー商会の本店は移転してきた。


「漸く落ち着いたわね」
「はい。急な移転だったのに、あの短期間で良くここを見つけられたと感心しています」
 執事役も兼ねている秘書のセオは、ゆるいウェーブのかかった金髪を後ろでむすんでいる。

「元々この町に支店を出すつもりだったからある程度下調べは済んでいたの。
でもこの場所が空き店舗になったのはラッキーだったわ」

「支店の引き上げも順調に進んでいるようです」
 営業と郊外折衝担当のイーサンは、自衛の為と称して毎日の筋トレを欠かさない。

「引越しできない従業員の再就職先も何とかなりました」
 事務と経理担当のルーカスは、気難しそうにいつも眉間に皺を寄せている。

「イーサン? お得意様への連絡はどうなってるのかしら?」

「引っ越しと同時にお手紙をお送りしました。
暫くの間連絡は全てヴェンナの支店経由で行います」

「ロスタイムが出てお得意様にご迷惑をかけないよう気を付けてね」

「畏まりました」


 リディア・ポーレット伯爵令嬢が12歳で興した商会の名前はスペンサー商会。
 表向きの商会長の名前は、父であるライリー・ポーレット伯爵となっている。

 当時伯爵領は貧困を極め伯爵家存続の危機に陥っていた。

「螺馬を育てたらどうかしら?
馬より体力があって病気にも強いって聞いたし粗食でも良いのですって」

 リディアは領内で交配した螺馬を農耕馬の代わりに使用した。
 力強く従順な螺馬は農作業の効率化や農産物の輸送に力を発揮して伯爵領を窮地から救った。

「まあ、貴族令嬢が交配だなんて。貴方達のせいですよ」

と苦言を口にしていた義母もこの頃になると何も言わなくなっていた。


 有能な螺馬の噂は近隣の貴族から王都まで瞬く間に広がっていった。
 取引の打診が後を経たず、リディアは領内に広大な飼育場を建設した。

 現在の伯爵領は国内唯一の螺馬生産地となっている。
 螺馬の価格は馬の数倍だが、繁殖能力がない為定期的な取引が見込める。

 螺馬の育成の他にも輸送用に街道整備を行い低所得者の雇用を拡大する事に成功した。
 王都や貴族への販売ルートの確保など、スペンサー商会は瞬く間に王都一の商会に成り上がった。


 そうなると必ず振って湧いてくるのが、

「うちの息子はどうかしら?」
「あら、うちの方が年齢的にちょうど良くてよ」
「うちの三男は経営学を学んでいてね」


 山のような贈り物と共に精一杯着飾った絵姿付きの釣書が届けられるようになった。

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