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92.リチャード殿下危機一髪

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「セアラ様、どうしてここに!? イーサン、あんたが裏切るとは思わなかったわ」

「イーサンはただの⋯⋯うーん、何かしら? ただついてきただけで、畑の案山子より役に立ってない上に気分的に邪魔だっただけの人だわ」

「⋯⋯ぷふっ、セアラ様にかかるとイーサンも案山子以下ですか?」

 笑いながらセアラに席をすすめてくれたメアリーアンは少し疲れた顔をしていた。

「今日は役立たずの日みたいね」


「⋯⋯ウルリカ様は?」

「旧神殿の宝物庫かなぁと思ってルークに頼んできたの」

 やってきた店員に紅茶とお薦めのケーキを注文した。無視されて立ったままだったイーサンは寂しそうにカウンターに行って何か注文している。

「流石ですね。よくお分かりになられました。このくらいの時間なら無事に助け出されてますねぇ」

「そうなるように、あの場所を選んだんでしょう? 地理に疎い私達でもわかる場所を選ぶなんて親切すぎるわ」

「⋯⋯幼馴染がいたんです。訓練ばっかりでうんざりしてても、その子がいたから何とか頑張れた」

「うん」

「ウルリカ様のお父様の本業は王家の下での情報収集や情報操作と王家の影の管理育成。彼が育てた筈の影の一人が功を焦って⋯⋯」

 ある任務で失敗をし降格された男は何としてでも目新しい情報を仕入れて元の役職に返り咲きたいと、メアリーアンの幼馴染を誘拐し情報を聞き出そうと監禁⋯⋯二度と歩けなくなってしまった。

「彼女は私と間違って捕まったんです。王家の内部資料を調べていたのは私。彼女は別の任務、レトビアについて調べていたのに⋯⋯何度か一緒に食事をしててそのせいで」

「間違われちゃったんだ」

「この店、二人で来たことがあるんです。私たちのルーツを見学だとか言って任務の合間にこっそり来て⋯⋯。その時、次に来たら舟に乗ろうって約束したんですけどね」


 窓から舟を眺めるメアリーアンは少し吹っ切れたような顔をしている気がした。

「ウルリカ様が悪いわけじゃないってわかってますけど⋯⋯我慢できなくて」

「じゃあ、その間違ってメアリーアンのお友達を傷つけた男は今でも任務についてるんだ」

「どうしてそう思うんですか?」

「そうじゃなかったらウルリカ様を狙わないんじゃないかと思ったの。そんな間違いをした男を許して今でも仕事をさせてるウルリカ様のお父様に腹が立ってるってことでしょう」

 大きく開いた窓から涼やかな風が吹き、川をのんびりと遊覧している舟からかすかな笑い声が響いてくる。

「捕まる気も謝る気もありませんから」

「当然だよね。メアリーアンを捕まえようとするなら私が逃す。で、代わりにその男とウルリカ様のお父様を牢屋に入れる方法を考える」

「どうやって? 相手は飛ぶ鳥落とすと言われてる内務大臣ですよ」

 ケーキをもぐもぐと食べながら少し首を傾げた後セアラはにっこりと笑った。

「誰にでも何かある筈だもの。何年かけてでも見つけるわ、私はすごくしつこいから大丈夫」

「セアラ様が仰ると現実になりそうで怖いですね。でも、ウルリカ様には恨まれましたからお仕事は出来ないです」

「ウルリカ様の性格から考えると多分恨んでないと思う。それよりもお父様とその男をケチョンケチョンにしそう」

「血は水より汚いって言うんですよ」

「賭ける?」

「何を賭けますか?」

「私が勝ったら何か教えて欲しいの。こう、必殺技みたいなのを」

「セアラ様にですか?」

「ええ、守られるばかりじゃつまらないもの。さっきイーサンがラーセン司祭に向けて暗器を構えたの。いざという時あんなことができたらいいなぁって」

 メアリーアンの殺気が届いたようでイーサンの後ろ姿がビクッと震えた。

「メアリーアンが勝ったら、我が家の宝をプレゼントするわ。部屋一杯になるくらい」


「⋯⋯それって」

 メアリーアンが大きな口を開けて笑い出した。店にいた他の客が驚いて見つめる中メアリーアンが涙を拭き拭き立ち上がった。

「では、是非ともセアラ様には勝って頂かなくては。を押し付けられては困りますから」

「あら、知ってるなんて狡いわ。やっぱりイーサンに押し付けるしかなさそう」



 セアラとメアリーアンが会計をイーサンに押し付けて店を出た。

「メアリーアン、それは酷すぎるよ。俺、何にも喋ってないのに」

「セアラ様のドレスの裾がボロボロになっています。レディにそんな思いをさせた罰ですね」

「えーっ、それってメアリーアンが⋯⋯あっ、いえ、なんでもないです。はい」

 王宮でセアラの部屋だけが離れていたのはメアリーアンの策略だった。ウルリカを誘拐する時一番ネックになるのはセアラだろうと隔離したらしい。

「折角の努力でしたが意味がなかったのが残念でした」

「部屋で食事を取らないようにしたり、少しスリリングだったわ」




 王宮に帰ると荷物の片付けは終わっており、セアラ達の帰りを皆が待っていた。

 セアラを見つけた途端脇目も振らずセアラを抱きしめたルーク。

「ルーク、痛い! 痛いってば」

 あまりの力強さにセアラが必死で背中を叩くがルークは気にも留めずセアラの足が宙に浮かんでいる。

「ルーグ、ぐるじいの~」

 メアリーアンがルークの首に手刀を当てようとして漸く手が緩んだところを逃げ出したセアラはイリスの背中に隠れた。

「イリス、お姉ちゃんなのよね。助けて!」

「無理! 無理無理無理、一人で突っ走ったセアラが悪い。ルークがどれだけ心配したと思う? 落ち着けって言ってくれたリチャード王子殿下に斬りかかりそうになったんだからね。もうちょっとで王子惨殺とか怖すぎだって」

「え? 嘘⋯⋯ごめん」

「謝るならルークにどうぞ。帰りの馬車は二人きりにすることになったから、しっかりご機嫌取ってね~」

「えーっと、お姉様と一緒がいいなぁ。たまにはほら、ゆっくりとおしゃべりしたりとかさ」

「ルークの頼みでさ、ラーセン司祭も王国にいらっしゃる事になったの~」

「ん? そうなの?」


「相変わらずセアラは鈍いんだから⋯⋯ラーセン司祭と言えば?」

「言えば?」

「私とライルの結婚式を執り行ってくれた司祭様だよ~」

「うん、知ってる⋯はっ、家族の前でやり直しするのね」

「うーん、その時は合同結婚式になりそうね」

「イリスゥ、意味わかんないよ」

「俺がちゃーんと教えてやるからな。リチャード殿下にはしっかりと話をつけておいた。もう邪魔はさせん」

 メアリーアンと睨み合いを続けていた筈のルークがセアラを後ろから抱え込んだ。

「は、はぁ。えーっと、はい? 痛いし重いんですけど?」

「逃げる奴が悪い。イリスもきっとそう言うよな」

「ほーっほっほ。お姉様を巻き込まないでくださる?」




「ウルリカ様⋯⋯謝りませんから」

「ええ、わたくしも謝ってもらいたいとは思っていないの。だけど、王国に着いたら説明してもらうわ」

「はい、賭けに勝つか負けるか⋯⋯とても重要なので聞いて頂きます」

 不思議そうに首を傾げたウルリカだったが何も言わずアリエノールと一緒に馬車に乗り込んだ。




 帰国中の馬車の中でルークの頑張りが功を奏したのか、帰国の祝宴で泣き崩れるシスコンな兄を慰めるイリスが間違ってシャンパンを飲んで大笑いしていたり。

 ルークを誉めてバンバン背中を叩く辺境伯がルクセル侯爵に『セアラはうちのもんだ』と睨みを効かせていたり。





(馬車に二人っきりだって言うだけでもう終わってるとお姉様は思います。ね、司祭様)

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