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56.小さな虐めばかりで小物感満載

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 リチャードとセアラが一緒にいる姿が学園のあちこちで見られるようになった。練習の前にカフェテラスでお茶を楽しんだり、昼休みにやって来たリチャードがセアラをエスコートしながら生徒会室に向かったり。

「いい加減になさいませ」
「恥ずかしくありませんの!」

 ルークと一緒に歩いているセアラを見慣れない女子生徒が詰問した。

「何を仰っておられるのかしら?」

「婚約者のおられる方と仲良くするなんて恥を知るべきだと申し上げているのです」

「婚約者と言いますと⋯⋯」

 ルークを見上げたセアラは首を傾げた。

「予想できるのはリチャード王子殿下だが婚約はしておられない」

「で、でも。もうお相手は決まっておられるわ!」

「確かにそのような噂は聞いておりますけど。噂ですし」


「それにいつもルーク様の時間を奪っている事も」

「俺は自分の意思でセアラと一緒にいるんだ。とやかく言われる筋合いはない」



 グラウンドの外れにあるベンチで二人きりの昼食をとる姿まで見掛けられるようになってからと言うもの、Sクラスはピリピリと胃の痛くなるような緊張感に包まれた。

「ねえ、大丈夫?」

 今日は移動教室から帰って来た後セアラの鞄と教科書がズタズタに切り裂かれており、心配したイリスが声をかけて来た。

「ええ、大丈夫よ」

「この間は机の中にゴミが入れられていたし、口紅を使った落書きだって!」

「どれも大したことはないわ。イリスやルーク達のお陰で実害はほんの少しだけだもの」



 毎週末レトビア公爵家から週末は屋敷に帰って来るようにと記された手紙が届いていたが、セアラは毎回生徒会の仕事が忙しく時間がないと断っていた。

 昼休憩の後教室に戻ると担任のオーシエン先生がやって来て『面会だ』と言い、そのまま応接室に連れて行かれた。

 ドアを開け中に入るとソファにレトビア公爵が腕を組んで座り、その後ろに執事のジョージが以前より益々不機嫌そうな顔で立っていた。

「お久しぶりです」

 苦虫を噛み潰したような顔をした公爵がチッと舌打ちした。

「要件はわかっているだろうな」

「いえ」

「私の指示を無視してこんな所まで足を運ばせるなど!」

「お手紙にはちゃんと帰れない理由を書いてあります」

「生徒会? 男漁りの間違いだろう? 王子を誑かしただけでなく奴の護衛や辺境伯の弟まで手玉に取っているそうじゃないか」

「仰っている意味がわかりません」

「そんな口を利いてホプキンス伯爵家がどうなってもいいのか!? 援助を打ち切って支援金の返却をさせたら一瞬で破産だ」

「⋯⋯」

「まさか王家が助けてくれるとでも思っているのか? は! アイツらなど私の一言でどうにでもなるんだ。レトビア公爵家に楯突いてただで済むと思っているのか!?」

「わたくしは生徒会の仕事としてリチャード王子殿下のお世話係をしております。護衛の方とお話しすることがあるのもそのせいですしルーク様はクラスメイトです。
学業を疎かにした覚えはございませんし、不品行な行いも致しておりません」

「大人しそうだと思っていたがこれぽど頭の悪い奴だとは思わなかった。いや、股の緩いやつと言うべきか。
養子縁組は取り消しホプキンスには一括返済を要求する」

「⋯⋯」

「お前は特別な存在だとでも思っていたのだろうが、お前の代わりなど掃いて捨てるほどいる」

「一つお聞きしたいことがありますの。わたくしがレトビアの呪いで命を落としたらその次はアメリア様が長女になられるのではありませんか?」

(ずっと疑問だったの。アメリアと私は誕生月がそれ程離れていないから、もし私が本当に呪いで死んでしまったらどうするつもりなのか? ほんの数ヶ月で次を準備するにしても間に合わないかも)

「ふん、呪いなどある訳が無かろう。お前はそれを証明するための駒にすぎん。
お前が死ななければアメリアにそのまま家督を継がせるし、お前が死ねばアメリアは即嫁に出せばいいだけの事。
こんな簡単な図式もわからんとは」

「そんなに簡単に行くでしょうか? ほんの数ヶ月でアメリア様のお嫁入り先を決めるなんて」

「簡単だとも。リチャードはアメリアの婿になりアメリアが爵位を継ぐ。だがもしもの時にはリチャードを大公としてアメリアを嫁にさせる。
その為の書類はすでにできている」

 貴族であれば後継は早くから決められている。婿に出した息子が突然家に戻ってきて爵位を継ぐというのは色々問題が起こる可能性がある。
 従属爵位では下位貴族になる可能性が高いのでプライドの高いアメリアは我慢ができないだろう。

 その点王族であれば簡単に大公を名乗らせることができる。領地などはその後時間をかけて決めればいい。


「何故それ程リチャード王子殿下に固執するのですか? 公爵家なら他にも候補者は沢山いるでしょう?」

「お前のような田舎者にわからんのは当然か。王太子に子が出来ずアメリアがリチャードの子を産めばどうなる? 王太子は幼い頃体の弱かったしな子ができん可能性やら病気が再発する可能性も⋯⋯。
態々簒奪者とならずとも王家を手に入れる方法はいくらでもあると言う事だ。そう、私に相応しい地位が待っておる」


 最後の辺りはまるで独り言のようだった。小さな声でつぶやいていた公爵の声だったがセアラの耳にははっきりと聞こえた。

 小さな物音を拾って祖父の動きを察知していたセアラには大きな声で話しているかのように響いた。


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