56 / 93
56.小さな虐めばかりで小物感満載
しおりを挟む
リチャードとセアラが一緒にいる姿が学園のあちこちで見られるようになった。練習の前にカフェテラスでお茶を楽しんだり、昼休みにやって来たリチャードがセアラをエスコートしながら生徒会室に向かったり。
「いい加減になさいませ」
「恥ずかしくありませんの!」
ルークと一緒に歩いているセアラを見慣れない女子生徒が詰問した。
「何を仰っておられるのかしら?」
「婚約者のおられる方と仲良くするなんて恥を知るべきだと申し上げているのです」
「婚約者と言いますと⋯⋯」
ルークを見上げたセアラは首を傾げた。
「予想できるのはリチャード王子殿下だが婚約はしておられない」
「で、でも。もうお相手は決まっておられるわ!」
「確かにそのような噂は聞いておりますけど。噂ですし」
「それにいつもルーク様の時間を奪っている事も」
「俺は自分の意思でセアラと一緒にいるんだ。とやかく言われる筋合いはない」
グラウンドの外れにあるベンチで二人きりの昼食をとる姿まで見掛けられるようになってからと言うもの、Sクラスはピリピリと胃の痛くなるような緊張感に包まれた。
「ねえ、大丈夫?」
今日は移動教室から帰って来た後セアラの鞄と教科書がズタズタに切り裂かれており、心配したイリスが声をかけて来た。
「ええ、大丈夫よ」
「この間は机の中にゴミが入れられていたし、口紅を使った落書きだって!」
「どれも大したことはないわ。イリスやルーク達のお陰で実害はほんの少しだけだもの」
毎週末レトビア公爵家から週末は屋敷に帰って来るようにと記された手紙が届いていたが、セアラは毎回生徒会の仕事が忙しく時間がないと断っていた。
昼休憩の後教室に戻ると担任のオーシエン先生がやって来て『面会だ』と言い、そのまま応接室に連れて行かれた。
ドアを開け中に入るとソファにレトビア公爵が腕を組んで座り、その後ろに執事のジョージが以前より益々不機嫌そうな顔で立っていた。
「お久しぶりです」
苦虫を噛み潰したような顔をした公爵がチッと舌打ちした。
「要件はわかっているだろうな」
「いえ」
「私の指示を無視してこんな所まで足を運ばせるなど!」
「お手紙にはちゃんと帰れない理由を書いてあります」
「生徒会? 男漁りの間違いだろう? 王子を誑かしただけでなく奴の護衛や辺境伯の弟まで手玉に取っているそうじゃないか」
「仰っている意味がわかりません」
「そんな口を利いてホプキンス伯爵家がどうなってもいいのか!? 援助を打ち切って支援金の返却をさせたら一瞬で破産だ」
「⋯⋯」
「まさか王家が助けてくれるとでも思っているのか? は! アイツらなど私の一言でどうにでもなるんだ。レトビア公爵家に楯突いてただで済むと思っているのか!?」
「わたくしは生徒会の仕事としてリチャード王子殿下のお世話係をしております。護衛の方とお話しすることがあるのもそのせいですしルーク様はクラスメイトです。
学業を疎かにした覚えはございませんし、不品行な行いも致しておりません」
「大人しそうだと思っていたがこれぽど頭の悪い奴だとは思わなかった。いや、股の緩いやつと言うべきか。
養子縁組は取り消しホプキンスには一括返済を要求する」
「⋯⋯」
「お前は特別な存在だとでも思っていたのだろうが、お前の代わりなど掃いて捨てるほどいる」
「一つお聞きしたいことがありますの。わたくしがレトビアの呪いで命を落としたらその次はアメリア様が長女になられるのではありませんか?」
(ずっと疑問だったの。アメリアと私は誕生月がそれ程離れていないから、もし私が本当に呪いで死んでしまったらどうするつもりなのか? ほんの数ヶ月で次を準備するにしても間に合わないかも)
「ふん、呪いなどある訳が無かろう。お前はそれを証明するための駒にすぎん。
お前が死ななければアメリアにそのまま家督を継がせるし、お前が死ねばアメリアは即嫁に出せばいいだけの事。
こんな簡単な図式もわからんとは」
「そんなに簡単に行くでしょうか? ほんの数ヶ月でアメリア様のお嫁入り先を決めるなんて」
「簡単だとも。リチャードはアメリアの婿になりアメリアが爵位を継ぐ。だがもしもの時にはリチャードを大公としてアメリアを嫁にさせる。
その為の書類はすでにできている」
貴族であれば後継は早くから決められている。婿に出した息子が突然家に戻ってきて爵位を継ぐというのは色々問題が起こる可能性がある。
従属爵位では下位貴族になる可能性が高いのでプライドの高いアメリアは我慢ができないだろう。
その点王族であれば簡単に大公を名乗らせることができる。領地などはその後時間をかけて決めればいい。
「何故それ程リチャード王子殿下に固執するのですか? 公爵家なら他にも候補者は沢山いるでしょう?」
「お前のような田舎者にわからんのは当然か。王太子に子が出来ずアメリアがリチャードの子を産めばどうなる? 王太子は幼い頃体の弱かったしな子ができん可能性やら病気が再発する可能性も⋯⋯。
態々簒奪者とならずとも王家を手に入れる方法はいくらでもあると言う事だ。そう、私に相応しい地位が待っておる」
最後の辺りはまるで独り言のようだった。小さな声でつぶやいていた公爵の声だったがセアラの耳にははっきりと聞こえた。
小さな物音を拾って祖父の動きを察知していたセアラには大きな声で話しているかのように響いた。
「いい加減になさいませ」
「恥ずかしくありませんの!」
ルークと一緒に歩いているセアラを見慣れない女子生徒が詰問した。
「何を仰っておられるのかしら?」
「婚約者のおられる方と仲良くするなんて恥を知るべきだと申し上げているのです」
「婚約者と言いますと⋯⋯」
ルークを見上げたセアラは首を傾げた。
「予想できるのはリチャード王子殿下だが婚約はしておられない」
「で、でも。もうお相手は決まっておられるわ!」
「確かにそのような噂は聞いておりますけど。噂ですし」
「それにいつもルーク様の時間を奪っている事も」
「俺は自分の意思でセアラと一緒にいるんだ。とやかく言われる筋合いはない」
グラウンドの外れにあるベンチで二人きりの昼食をとる姿まで見掛けられるようになってからと言うもの、Sクラスはピリピリと胃の痛くなるような緊張感に包まれた。
「ねえ、大丈夫?」
今日は移動教室から帰って来た後セアラの鞄と教科書がズタズタに切り裂かれており、心配したイリスが声をかけて来た。
「ええ、大丈夫よ」
「この間は机の中にゴミが入れられていたし、口紅を使った落書きだって!」
「どれも大したことはないわ。イリスやルーク達のお陰で実害はほんの少しだけだもの」
毎週末レトビア公爵家から週末は屋敷に帰って来るようにと記された手紙が届いていたが、セアラは毎回生徒会の仕事が忙しく時間がないと断っていた。
昼休憩の後教室に戻ると担任のオーシエン先生がやって来て『面会だ』と言い、そのまま応接室に連れて行かれた。
ドアを開け中に入るとソファにレトビア公爵が腕を組んで座り、その後ろに執事のジョージが以前より益々不機嫌そうな顔で立っていた。
「お久しぶりです」
苦虫を噛み潰したような顔をした公爵がチッと舌打ちした。
「要件はわかっているだろうな」
「いえ」
「私の指示を無視してこんな所まで足を運ばせるなど!」
「お手紙にはちゃんと帰れない理由を書いてあります」
「生徒会? 男漁りの間違いだろう? 王子を誑かしただけでなく奴の護衛や辺境伯の弟まで手玉に取っているそうじゃないか」
「仰っている意味がわかりません」
「そんな口を利いてホプキンス伯爵家がどうなってもいいのか!? 援助を打ち切って支援金の返却をさせたら一瞬で破産だ」
「⋯⋯」
「まさか王家が助けてくれるとでも思っているのか? は! アイツらなど私の一言でどうにでもなるんだ。レトビア公爵家に楯突いてただで済むと思っているのか!?」
「わたくしは生徒会の仕事としてリチャード王子殿下のお世話係をしております。護衛の方とお話しすることがあるのもそのせいですしルーク様はクラスメイトです。
学業を疎かにした覚えはございませんし、不品行な行いも致しておりません」
「大人しそうだと思っていたがこれぽど頭の悪い奴だとは思わなかった。いや、股の緩いやつと言うべきか。
養子縁組は取り消しホプキンスには一括返済を要求する」
「⋯⋯」
「お前は特別な存在だとでも思っていたのだろうが、お前の代わりなど掃いて捨てるほどいる」
「一つお聞きしたいことがありますの。わたくしがレトビアの呪いで命を落としたらその次はアメリア様が長女になられるのではありませんか?」
(ずっと疑問だったの。アメリアと私は誕生月がそれ程離れていないから、もし私が本当に呪いで死んでしまったらどうするつもりなのか? ほんの数ヶ月で次を準備するにしても間に合わないかも)
「ふん、呪いなどある訳が無かろう。お前はそれを証明するための駒にすぎん。
お前が死ななければアメリアにそのまま家督を継がせるし、お前が死ねばアメリアは即嫁に出せばいいだけの事。
こんな簡単な図式もわからんとは」
「そんなに簡単に行くでしょうか? ほんの数ヶ月でアメリア様のお嫁入り先を決めるなんて」
「簡単だとも。リチャードはアメリアの婿になりアメリアが爵位を継ぐ。だがもしもの時にはリチャードを大公としてアメリアを嫁にさせる。
その為の書類はすでにできている」
貴族であれば後継は早くから決められている。婿に出した息子が突然家に戻ってきて爵位を継ぐというのは色々問題が起こる可能性がある。
従属爵位では下位貴族になる可能性が高いのでプライドの高いアメリアは我慢ができないだろう。
その点王族であれば簡単に大公を名乗らせることができる。領地などはその後時間をかけて決めればいい。
「何故それ程リチャード王子殿下に固執するのですか? 公爵家なら他にも候補者は沢山いるでしょう?」
「お前のような田舎者にわからんのは当然か。王太子に子が出来ずアメリアがリチャードの子を産めばどうなる? 王太子は幼い頃体の弱かったしな子ができん可能性やら病気が再発する可能性も⋯⋯。
態々簒奪者とならずとも王家を手に入れる方法はいくらでもあると言う事だ。そう、私に相応しい地位が待っておる」
最後の辺りはまるで独り言のようだった。小さな声でつぶやいていた公爵の声だったがセアラの耳にははっきりと聞こえた。
小さな物音を拾って祖父の動きを察知していたセアラには大きな声で話しているかのように響いた。
10
お気に入りに追加
717
あなたにおすすめの小説
男爵令嬢と結婚するから婚約破棄?二代続けてふざけるな!この低脳がっ!!
三条桜子
恋愛
「男爵令嬢と結婚するから婚約破棄だ」第一王子が切り出した。へー。ふーん。低脳ここに極まれり。終わったな……はぁー。
この国は、17年前にも婚約破棄事件が起こりました。当時の王子と当時の公爵令嬢、当時の男爵令嬢。当時の公爵令嬢は、今や隣国の王妃に大出世。まずい!当時の公爵令嬢は、この17年ずーっとざまあ活動継続中。この国は、虫の息です。(イメージ、キューバ。アメリカにフルボッコにされています。)
子供世代は、大迷惑。モームリー。 破滅キーワード『婚約破棄』。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!
Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。
転生前も寝たきりだったのに。
次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。
でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。
何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。
病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。
過去を克服し、二人の行く末は?
ハッピーエンド、結婚へ!
【完結】悪女扱いした上に婚約破棄したいですって?
冬月光輝
恋愛
私ことアレクトロン皇国の公爵令嬢、グレイス=アルティメシアは婚約者であるグラインシュバイツ皇太子殿下に呼び出され、平民の中で【聖女】と呼ばれているクラリスという女性との「真実の愛」について長々と聞かされた挙句、婚約破棄を迫られました。
この国では有責側から婚約破棄することが出来ないと理性的に話をしましたが、頭がお花畑の皇太子は激高し、私を悪女扱いして制裁を加えると宣い、あげく暴力を奮ってきたのです。
この瞬間、私は決意しました。必ずや強い女になり、この男にどちらが制裁を受ける側なのか教えようということを――。
一人娘の私は今まで自由に生きたいという感情を殺して家のために、良い縁談を得る為にひたすら努力をして生きていました。
それが無駄に終わった今日からは自分の為に戦いましょう。どちらかが灰になるまで――。
しかし、頭の悪い皇太子はともかく誰からも愛され、都合の良い展開に持っていく、まるで【物語のヒロイン】のような体質をもったクラリスは思った以上の強敵だったのです。
悪役令嬢はヒロインをいじめていましたが、そのヒロインはというと……
Ryo-k
恋愛
王立学園の卒業記念パーティーで、サラ・シェラザード公爵令嬢は、婚約者でもあるレオン第二王子殿下から、子爵令嬢であるマリアをいじめていたことで、婚約破棄を言い渡されてしまいました。
それは冤罪などではなく紛れもない事実であり、更に国王陛下までいらしたことで言い逃れは不可能。
今まさに悪役令嬢が断罪されている。最後にいじめられていた側のマリアが証言すれば断罪は完了する。はずだが……
※小説家になろうでも投稿しています
断罪イベント? よろしい、受けて立ちましょう!
寿司
恋愛
イリア=クリミアはある日突然前世の記憶を取り戻す。前世の自分は入江百合香(いりえ ゆりか)という日本人で、ここは乙女ゲームの世界で、私は悪役令嬢で、そしてイリア=クリミアは1/1に起きる断罪イベントで死んでしまうということを!
記憶を取り戻すのが遅かったイリアに残された時間は2週間もない。
そんなイリアが生き残るための唯一の手段は、婚約者エドワードと、妹エミリアの浮気の証拠を掴み、逆断罪イベントを起こすこと!?
ひょんなことから出会い、自分を手助けしてくれる謎の美青年ロキに振り回されたりドキドキさせられながらも死の運命を回避するため奔走する!
◆◆
第12回恋愛小説大賞にエントリーしてます。よろしくお願い致します。
◆◆
本編はざまぁ:恋愛=7:3ぐらいになっています。
エンディング後は恋愛要素を増し増しにした物語を更新していきます。
悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる