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52.いつの間にかリチャード王子にタメ口を聞いているルーク

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 ローランドは護衛をつけて寮に戻らせ、護衛はそのままローランドの監視につくよう指示を出した。


「知りませんでした。殿下に真面目な時期があったなんて」

「あったあった。当然だろ? お前がヴァイマル王国の剣聖と呼ばれる爺さんに育てられたのを隠してるのと一緒だな」

「全然違うと思います」

「俺は今が丁度いいんだ。俺の剣は陛下と王太子の御世を守るためにある。それ以外は遊んで暮らす」

 リチャードが得意げに笑った。

「そこでサムズアップとか⋯⋯まあ、殿下らしいっちゃらしいですけどね。負けませんから」

「はあ? そこは感動して殿下に従いますとか応援しますとか言うところだろ?」

「言うわけないじゃないですか。正々堂々戦いますから」

 はぁっと大きくため息をついたリチャード王子が頭をガシガシとかいた。


(剣技大会と練習の事ね。私も応援しますわ)

 勘違いしたセアラが満面の笑みを浮かべた。

「勘違いしてるだろ」
「間違いなく」


 護衛の一人にジュースの成分を調べさせるよう指示をしてセアラ達は慰労会に戻った。




 二月半ばが近付く頃、帰国した調査団から有力情報が入った。

 サルドニア帝国の田舎町にある寂れた教会の地下に残されていた古い資料の中に、イーバリス教の成り立ちから聖女の使命や儀式について事細かく記された書類があった。
 襲撃された神殿に保管されていた宝物についてもいくつか記述があり、聖女の装身具について書かれていた。

「ウルリカの予想通りみたい。アメリアが言っていたのは恐らくティアラとブレスレットだわ」


 聖女の装身具は繊細な細工のティアラとブレスレット。

 新しく聖女となる者が初めて神の声を聞く為に使われるそれらは大司教が厳重に管理し神殿の奥深くに隠されていたと言う。

 イーバリス教誕生の際に戦乙女から下賜されたと言われる宝物。それを身につけ祈る事でディースと一体化し死を迎えた者を神の元に導く力を与えられるとされていた。

 中央が高くなっているプリンセスティアラで精巧な細工の中にルビーとダイヤモンドが飾られている。ティアラと同じ細工のブレスレットもあり、聖女は白いローブを纏いティアラとブレスレットを身につける。

「当初、聖女は王族の娘がなっていたのだけど時代と共に王族の娘若しくは王族の伴侶に限定されたのですって」


 イーバリス教の教えからすると、うっとりと夢見るアリエノールは聖女の資格を持っていることになり、リチャードと婚約した後であればアメリアにも資格ができる。

(アリエノール様がそのティアラをつけたら聖女様のイメージにピッタリだわ)

「剣技大会の前夜祭でアメリアがティアラを身につけてきたくなるように、お兄様に本気で頑張ってもらわなくちゃね」



「アメリアが言っているのがティアラだと確信できた場合、それと似た物を作ることは可能でしょうか?」

「どう言うことかしら?」

「例えばなんですが、アメリアが見たティアラに似た紛い物が目の前にあってそれを周り中の人達が褒め称えたら。誰よりも1番でいたいアメリアは直ぐに口を滑らすのではないかと思うのです」

「ウルリカ、どうかしら?」

「調査団の報告書を元にある程度似た物を作るのは可能だと思います。宝石の手配と彫金師の確保をしておきます」

「多分ですが報告書にある、中央が高くなっているプリンセスティアラでルビーとダイヤモンドが使われている物だと言う条件が一致しているだけでも大丈夫だと思います」

「では、お兄様にはアメリアの言っているのがティアラかどうかだけを聞き出していただくだけでも良さそうね」

「はい、使われている宝石がルビーかどうか分かれば完璧ですが」




「で、毎日頑張っているセアラにサプライズですわ」

 ニコニコと笑うアリエノールが合図をするとメイドがケーキと紅茶を運んできた。

(確かに甘い物は好きだけど最近はほとんど毎日いただいているような気が⋯⋯)


「セアラ、ただいま!」

 セアラの横に立っていたメイドの声が⋯⋯。

「イリス!!」

 立ち上がったセアラの後ろでバタンと音を立てて椅子が倒れた。

「調査団が帰って来たってアリエノール様が仰ったのに気付かないなんて、私の事忘れてたでしょう」

 少し照れたようにツンツンとセアラを指でつつくイリス。

「イリスイリスイリス⋯⋯このおバカ!! どれだけ心配したと思ってるの!? 勝手なんだから。わた、私⋯⋯。ごめん、ごめんね、ありがとう!!」

 イリスに飛びついて泣きじゃくるセアラの頭をスリスリと撫でるイリスが照れ笑いをしてアリエノール達に小さく頭を下げた。

「あーもー。
アリエノール様、ウルリカ様。セアラがこうなっちゃうとちょっと長いかもです」

「久しぶりですものね。お部屋でゆっくりしたらどうかしら?」

「はい。セアラ、お部屋に案内してくれる? 王女殿下のお部屋は見せていただいたから、次はセアラのお部屋ね。高位貴族の方のお部屋すごく楽しみなの」

「うん。叔母様に謝っておいてね」

 半分壊れかけのセアラの手を引いたイリスがアリエノールの部屋を後にした。



「幼馴染って素敵ね」
「はい」

「ねえ、わたくし達も幼馴染でしょう? あの二人みたいに話してみたいわ」
「⋯⋯ぜ、善処します」

「ふふっ、セアラ可愛かったわ。お兄様には秘密ね」
「は⋯⋯そうね」



 イリスに手を引かれセアラの部屋のソファに並んで座ったセアラは、無事に帰ってきたイリスに会えた安心感と休学して調査団に参加させてしまった罪悪感でボロボロと泣き続けた。


「もう泣かないで。セアラは相変わらず泣き虫ねぇ」

「とっ、止まっらなの止まらないの。なき、泣きっ虫は、ちがっし違うし

「はいはい。すっごく楽しかったんだから、泣き止んで話を聞いて」

 トントンとイリスがセアラの背を叩いているとようやく落ち着いてきた。

「すっごくさみ、寂しかったんだから。話をき、聞かせて」



「オッケー。先ずはどこから話そうかなあ。⋯⋯えーっと、サルドニア帝国ってイーバリス教会がすごく力を持ってるでしょう。だから、どこに行っても話をして貰えない状態だったの。
図書館とかも旅行者が閲覧できるエリアは限られてるしね。
で、王都近辺から少しずつエリアを広げてたそうなんだけど全然情報が見つかってなくて。だったらいっそのこと、うんと田舎に行ってみることにしたんだって」

 帝国で古くからある町の中からあまり観光地化されていないところを選んだがやはり上手くいかない。

「調査団の人って当然だけど大人ばっかりなの。それが問題なんじゃないかって思って、私たち二人だけで教会に突撃して『イーバリス教の歴史を勉強してます』ってお願いしまくったの。ライルセアラの兄って分厚いノートを持たせたら歴史とか何かのマニアっぽいじゃない? 片言でお願いしまくってたらシスター達に滅茶苦茶気に入られてアレコレ教えてくれたの」

 いくつかの教会を回るうちにマーシアと言う町の名前が出て来たと言う。

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