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44.令嬢達の熱気と疲労困憊したセアラ
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土曜日の引っ越しとアリエノールやウルリカとの食事、常にそばにいる完璧侍女のメアリーアン。
月曜日、教室の自分の席に座ったセアラは疲れ果てていた。
(至れり尽くせりで居た堪れない⋯⋯贅沢だってわかってるけど、この後はルーク・マクルーガー様がいらっしゃるのよね。はぁ、心が⋯⋯)
運んだ椅子に立って窓を磨き絞りきれない雑巾でテーブルを拭いていた幼少期のセアラ。庭の草むしりも馬の世話も苦にならなかったがここ最近の人生は途轍もなく激動しすぎており今までの中で一番気疲れしている気がする。
公爵家での軟禁生活で運動不足に悩まされシャーロット達に囲まれて能面を保って暮らしていた時よりも肩が凝る。
(王侯貴族の暮らしには向いてないってことね。問題が解決したら貴族なんてやめて農家とか商家に嫁入りするわ。それとも商売をはじめるとか⋯⋯。兎に角それまでに私に出来る事を考えなくちゃ)
椅子の上に貼り付けられていた画鋲を手の中で転がしながら将来に思いを馳せていると担任のオーシエン先生がルークと共に教室に入ってきた。背筋を伸ばして警戒する男子生徒と身だしなみを気にして髪に手をやる女生徒。
ルークは体格の良さで威圧感があるが顔立ちはかなり整っており辺境伯の弟と言うのも婚約者候補として高評価なのだろう。リチャードとアリエノールが婚約者を決めていないせいで未だに婚約を決めていない令息にとってルークは強敵となり、令嬢にとっては大きなチャンスになる。
リチャードとアメリアの婚約が間近と言われはじめているので新しい獲物の出現に令嬢達は普段より濃いめの化粧としっかりと整えた髪、ギラつく目には本気の気迫が溢れている。
「二番煎じになるが、もう一度挨拶をしなさい」
「ルーク・マクルーガー。長年ヴァイマル王国に留学していて帰国したばかりです。宜しくお願いします」
「それだけか? まあ良いだろう。マクルーガーには暫くの間だけだが移動や休憩時間に侍女がつく。マクルーガーは留学生活が長かったので他国からの留学生と同様の特例措置を使うそうだ。だが同じクラスメイトとして仲良くするように」
女生徒の『是非!』と言う心の声が聞こえてきた。
授業の合間、ルークの周りには人だかりができていた。高位貴族令嬢が殆どで数人の男子生徒もいる。
「王都はどこか行かれましたかしら?」
「いや、まだ」
「寮はもう落ち着かれました?」
「殆どは」
「本当に剣術大会にお出になられるのですか?」
「ああ」
「ルーク様とお呼びしても良いでしょうか?」
午前の授業が終わった直後、聞き慣れたシャーロットの声が聞こえてきた。途端に静まりかえった教室にセアラは溜息を飲み込んだ。
「構いませんが?」
「申し遅れました。わたくしはメイヨー侯爵家の長女シャーロット・メイヨーと申します。以後お見知り置きを」
「ルーク・マクルーガーです」
「宜しければ食堂にご案内致しますわ。是非留学中のお話などお聞かせくださいませ」
かなり興奮気味の取り巻き達がシャーロットの後ろで頬を赤らめている。
「いや、ウルリカ嬢と生徒会室で待ち合わせしているんで」
「ではご案内いたしますね。生徒会室は別棟にございますの」
「いや、セアラ嬢も呼ばれてるんで。セアラ嬢案内してくれ」
キッと睨んだシャーロットの目を見ないようにしながら立ち上がったセアラがルークと共に教室を出ると途端に教室の中がざわつきはじめた。
「凄いな。編入生には皆ああなのかな」
「いえ、マクルーガー様が特別なのではないでしょうか?」
「これから一緒にいる時間は長いんだし、普通に話してくれると助かる。それから、俺はルーク」
「ルーク様、宜しくお願いします」
「うん、こちらこそ。セアラ嬢は母上にお聞きした通りだった。まあ、それ以外の生徒もだけど。そっちは悪い方で当たってたな」
「わたくしは詳しくないのですが一年生で剣技大会の有力候補になるのは珍しいそうです」
「まだ候補にはなってないんだけどね。アリエノール様が壇上で発表されたせいで、注目されているとは聞いた」
「はい、しかも副会長秘書になられましたし」
「それな、ウルリカ様って怖いんだよな。理路整然と話すあ「怖くて申し訳ありません。慣れていただくしかないかと思います」」
「げっ! やっ、やあ。えーっと」
背後から聞こえてきたウルリカの声にビクッと大きな体を縮こまらせたルークの横をウルリカが無言で通り過ぎた。
セアラが助け舟を出す暇を見つけ出せないうちに生徒会室にたどり着いたウルリカが振り返った。
「食事はもうすぐ届きますので」
返事を待たずに生徒会室に入ったウルリカの姿を呆然と見ていたルークが呟いた。
「なっ、怖いだろ?」
「えっと、きちっとした話し方をされる方だなと思うくらいで、今まで一度も怖いと思った事はありませんけど?」
「マジか? 慣れ⋯⋯かなぁ」
生徒会室に入ると何故かアリエノールの隣にリチャード王子がいた。
「来ちゃったのよ。全く困ったお兄様でしょう?」
あからさまにホッとした様子のルークを見たリチャードがケラケラと笑った。
「俺が来たのを喜んでくれた奴もいるみたいだぞ?」
「はいはい。突然お食事を増やすのは大変なのよ」
セアラ達の後ろからやってきたのはウルリカが食事の追加を頼みに行っていたのだろう。
「ルークにはこれから色々手伝ってもらわないといけないから激励に来たんだ。情報のすり合わせも必要だしな」
「牽制はすり合わせる必要がございません」
定番になりつつあるウルリカの指摘にアリエノールがクスクスと笑いはじめた。
生徒会室の続き部屋に行くと広いテーブルが片付けられて既にクロスが敷かれている。
「予備の部屋だったのだけど変更したの。ここで食事することが多いのに真面なテーブルもないんですもの」
「俺の時なんて執務机の隅に置いて食べてたんだぞ」
歴代の生徒会長は男子生徒ばかりだったそうでアリエノールが初の女子生徒会長に就任した。目の前の食事用のテーブルや新しいソファとコーヒーテーブルを持ち込み、カーペットも一新したらしい。
「気持ちの良い空間は仕事の効率を高めますの。美味しいお茶とお食事も同じですわね」
運び込まれた5人分の料理はワンプレートに並べられた温野菜とチキン。バターとジャムが添えられた温かいパンとスープ。白地に鮮やかな青で模様が描かれた皿は⋯⋯。
「マイセンのブルー・オニオン?」
「ええ、わたくしのお気に入りなの」
学園の中で取る食事とは思えない豪華な食器に載せられた豪華な料理を食べながら作戦会議がはじまった。
月曜日、教室の自分の席に座ったセアラは疲れ果てていた。
(至れり尽くせりで居た堪れない⋯⋯贅沢だってわかってるけど、この後はルーク・マクルーガー様がいらっしゃるのよね。はぁ、心が⋯⋯)
運んだ椅子に立って窓を磨き絞りきれない雑巾でテーブルを拭いていた幼少期のセアラ。庭の草むしりも馬の世話も苦にならなかったがここ最近の人生は途轍もなく激動しすぎており今までの中で一番気疲れしている気がする。
公爵家での軟禁生活で運動不足に悩まされシャーロット達に囲まれて能面を保って暮らしていた時よりも肩が凝る。
(王侯貴族の暮らしには向いてないってことね。問題が解決したら貴族なんてやめて農家とか商家に嫁入りするわ。それとも商売をはじめるとか⋯⋯。兎に角それまでに私に出来る事を考えなくちゃ)
椅子の上に貼り付けられていた画鋲を手の中で転がしながら将来に思いを馳せていると担任のオーシエン先生がルークと共に教室に入ってきた。背筋を伸ばして警戒する男子生徒と身だしなみを気にして髪に手をやる女生徒。
ルークは体格の良さで威圧感があるが顔立ちはかなり整っており辺境伯の弟と言うのも婚約者候補として高評価なのだろう。リチャードとアリエノールが婚約者を決めていないせいで未だに婚約を決めていない令息にとってルークは強敵となり、令嬢にとっては大きなチャンスになる。
リチャードとアメリアの婚約が間近と言われはじめているので新しい獲物の出現に令嬢達は普段より濃いめの化粧としっかりと整えた髪、ギラつく目には本気の気迫が溢れている。
「二番煎じになるが、もう一度挨拶をしなさい」
「ルーク・マクルーガー。長年ヴァイマル王国に留学していて帰国したばかりです。宜しくお願いします」
「それだけか? まあ良いだろう。マクルーガーには暫くの間だけだが移動や休憩時間に侍女がつく。マクルーガーは留学生活が長かったので他国からの留学生と同様の特例措置を使うそうだ。だが同じクラスメイトとして仲良くするように」
女生徒の『是非!』と言う心の声が聞こえてきた。
授業の合間、ルークの周りには人だかりができていた。高位貴族令嬢が殆どで数人の男子生徒もいる。
「王都はどこか行かれましたかしら?」
「いや、まだ」
「寮はもう落ち着かれました?」
「殆どは」
「本当に剣術大会にお出になられるのですか?」
「ああ」
「ルーク様とお呼びしても良いでしょうか?」
午前の授業が終わった直後、聞き慣れたシャーロットの声が聞こえてきた。途端に静まりかえった教室にセアラは溜息を飲み込んだ。
「構いませんが?」
「申し遅れました。わたくしはメイヨー侯爵家の長女シャーロット・メイヨーと申します。以後お見知り置きを」
「ルーク・マクルーガーです」
「宜しければ食堂にご案内致しますわ。是非留学中のお話などお聞かせくださいませ」
かなり興奮気味の取り巻き達がシャーロットの後ろで頬を赤らめている。
「いや、ウルリカ嬢と生徒会室で待ち合わせしているんで」
「ではご案内いたしますね。生徒会室は別棟にございますの」
「いや、セアラ嬢も呼ばれてるんで。セアラ嬢案内してくれ」
キッと睨んだシャーロットの目を見ないようにしながら立ち上がったセアラがルークと共に教室を出ると途端に教室の中がざわつきはじめた。
「凄いな。編入生には皆ああなのかな」
「いえ、マクルーガー様が特別なのではないでしょうか?」
「これから一緒にいる時間は長いんだし、普通に話してくれると助かる。それから、俺はルーク」
「ルーク様、宜しくお願いします」
「うん、こちらこそ。セアラ嬢は母上にお聞きした通りだった。まあ、それ以外の生徒もだけど。そっちは悪い方で当たってたな」
「わたくしは詳しくないのですが一年生で剣技大会の有力候補になるのは珍しいそうです」
「まだ候補にはなってないんだけどね。アリエノール様が壇上で発表されたせいで、注目されているとは聞いた」
「はい、しかも副会長秘書になられましたし」
「それな、ウルリカ様って怖いんだよな。理路整然と話すあ「怖くて申し訳ありません。慣れていただくしかないかと思います」」
「げっ! やっ、やあ。えーっと」
背後から聞こえてきたウルリカの声にビクッと大きな体を縮こまらせたルークの横をウルリカが無言で通り過ぎた。
セアラが助け舟を出す暇を見つけ出せないうちに生徒会室にたどり着いたウルリカが振り返った。
「食事はもうすぐ届きますので」
返事を待たずに生徒会室に入ったウルリカの姿を呆然と見ていたルークが呟いた。
「なっ、怖いだろ?」
「えっと、きちっとした話し方をされる方だなと思うくらいで、今まで一度も怖いと思った事はありませんけど?」
「マジか? 慣れ⋯⋯かなぁ」
生徒会室に入ると何故かアリエノールの隣にリチャード王子がいた。
「来ちゃったのよ。全く困ったお兄様でしょう?」
あからさまにホッとした様子のルークを見たリチャードがケラケラと笑った。
「俺が来たのを喜んでくれた奴もいるみたいだぞ?」
「はいはい。突然お食事を増やすのは大変なのよ」
セアラ達の後ろからやってきたのはウルリカが食事の追加を頼みに行っていたのだろう。
「ルークにはこれから色々手伝ってもらわないといけないから激励に来たんだ。情報のすり合わせも必要だしな」
「牽制はすり合わせる必要がございません」
定番になりつつあるウルリカの指摘にアリエノールがクスクスと笑いはじめた。
生徒会室の続き部屋に行くと広いテーブルが片付けられて既にクロスが敷かれている。
「予備の部屋だったのだけど変更したの。ここで食事することが多いのに真面なテーブルもないんですもの」
「俺の時なんて執務机の隅に置いて食べてたんだぞ」
歴代の生徒会長は男子生徒ばかりだったそうでアリエノールが初の女子生徒会長に就任した。目の前の食事用のテーブルや新しいソファとコーヒーテーブルを持ち込み、カーペットも一新したらしい。
「気持ちの良い空間は仕事の効率を高めますの。美味しいお茶とお食事も同じですわね」
運び込まれた5人分の料理はワンプレートに並べられた温野菜とチキン。バターとジャムが添えられた温かいパンとスープ。白地に鮮やかな青で模様が描かれた皿は⋯⋯。
「マイセンのブルー・オニオン?」
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