【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との

文字の大きさ
42 / 49

42.女の本性は女にしか分からない

しおりを挟む
「そんなつもりじゃないんだけど⋯⋯」

「じゃあ、どんなつもりなんですか?」

 今までに覚えがないほどノアがしつこいが、デレクもサラもノアの味方のようでライラには逃げ場がなかった。


「調査? 研究ってほどではないんだけど、情報収集かな」

「だーかーらー、なんの?」

 3人がテーブルに身を乗り出してきた。

「砂糖」

「「「⋯⋯は?」」」

「砂糖の作り方とかを調べてるの」


「なんで⋯⋯とお聞きしてもよろしいですか?」

「駄目です、恥ずかしいので話せません」



「メスカル残ってるけど?」

「あんな強いお酒なんて飲めませんよ」


「弓⋯⋯狩りに行きましょう」

「うーん、書き物のし過ぎでちょっと」


「生クリームに砂糖を加えてホイップしたシャンティイ・クリームにバニラの香り付け。
シュー・ア・ラ・クレームの中身にしますか? タルトに添えますか?」

「ゔ~、タ、タルトでお願いします。はあ~、砂糖の原料とか生産・製造方法とかを調べてるの」

「何故ですか? シュー・ア・ラ・クレームも付けますか!?」

「タルトだけで十分ですけど⋯⋯うー、その。心配かけて、あの⋯⋯本当にごめんなさい。役に立つかどうかわからないし、今後どうするかとかまだ何も決めてないから話さなかっただけだから」



「つまり、お嬢様は砂糖が作りたいと思われてるのですか?」

「そうね⋯⋯そうとも言えるかも。えーっと、お父様達がやってた事で奴隷売買ってあったでしょう?」

「はい、そうか。砂糖プランテーションをやりたいと思われたのですね?」


「島が手に入ったから、どうかなって思ったの」

「「「⋯⋯はあ?」」」

 本日2回目の合唱でノア達3人が立ち上がった。



『将来自由になれたらライラなら何がしたい?』

『ん? どう言う事?』

『私は馬の調教とかをしたいんだ』

『ふふっ、それ⋯⋯彼の願いでしょ?』

『まあね、その横で私は引退馬の世話とかしたいなあって。ライラは?』

『そうねえ、もしそれが叶うなら⋯⋯島が欲しいわ』

『⋯⋯ん? 島って』

『そこで奴隷を使わない砂糖プランテーションを経営して、奴隷を使ってる経営者にドヤ顔するの』

『奴隷なんて使わなくたって経営できるって言ってやりたいんだね』

『そう、百聞は一見にしかずだもの』


 奴隷制に反対を唱えても小さな声はどこにも届かないかもしれないが、奴隷を使わず経営できたら考えを改める人が出てくるかもしれない。

『ライラらしいね。転んでもただじゃ起きない』

『こう言う想像するのも楽しいわね」

『だろ? じゃあ、その島に放牧場も作れば私達も⋯⋯』

『それならきっと⋯⋯』



 プリンストン一族として断罪されるはずの二人には叶わないと分かっている言葉遊びだったが、幸か不幸かライラだけ残ってしまった。

「すっかり忘れてたんだけど、将来やりたいなって言ってたの。そうしたら⋯⋯」

「ハーヴィー様ですね」

「笑っちゃうでしょう? ハーヴィーもお祖父様から遺産を贈られていてそれを資産運用していたはずなのに、亡くなった後ほとんど残っていなかったの。それを使って島を買ってたからだったなんて」

 ターンブリー侯爵が怒っていたのでライラはよく覚えていた。投資に失敗した穴を埋めようとしてハーヴィーに詰め寄り、亡くなった後はあらゆる場所を探したが見つからないと喚いていた。

(狡いよね、先手を打ってばかりで⋯⋯ありがとうの声も聞こえないとこに行ってから知らせるんだもの)


「そこに移住されるおつもりですか?」

「考え中なの。砂糖の原材料がサトウキビだって知ったばかりだし、こんな経営者で会社として成り立つのか試算も必要だし」



「お手伝いさせていただけませんか?」

「私も!」

「面白そうじゃん、退屈せずに済みそう」

 漸く話しを聞けた安心感からなのか目を輝かせる3人が声を上げた。

「じゃあ、ここにいる間だけよろしくお願いします」

 島に行く時は一人で行くと決めている。現地がどんな状態なのか全く分からず、水場さえないかもしれない。間違いなく今より生活レベルは落ち過酷な生活になるその場所に彼等の将来はない。



「人が住んでいるのか住めるのかもまだわかってないから」

「だったら一度行ってみないと⋯⋯凄え、本物のサバイバルっすか? 一度やってみたかったんすよね」

 この中ではデレクが一番張り切っていて今にも準備に駆け出しそう。


「私もご一緒しますね。ズ、ズボンとか履いたほうがいいんですかね」

 サラが何故か顔を赤くして喜んでいる。


「先ずは地図と現地までの移動手段の確保ですね。船の手配もありますから⋯⋯ハーヴィー様ならその辺抜かりはないと思いますが、停泊できる場所があるのか早急に調べます」

 やはりノアが一番現実的だった。


「非常食はやっぱりビスキュイよね」

 ライラのギャグに喜んだのはサラだけだった。



 出発は2週間後と決めそれぞれが準備をはじめた。ノアとデレクが地図や現地情報を集め、彼等の指示に合わせてサラが荷物の準備をはじめた。
 ライラは現地近くで運営されている銀行に口座を開いたり小切手を準備したり、国外に出る為の通行証の申請など連日の王都行き⋯⋯その合間に資料を読み込んでいるライラは疲れはてていた。



 そして今日は何故か王宮に呼び出されている。

(プリンストンだった時でさえ、王宮なんて来たことなかったんだけど)

 久しぶりにドレスを着たがコルセットの窮屈さを今更思い出してこっそりと溜息をついた。

 歴史上の人物の彫像が両側の壁に点在する廊下を従者について歩き、突き当たりの扉の前で立ち止まった。槍を持った衛兵が並び立つ両開きの扉に嫌な予感がする。

 チラリとライラを見た衛兵が頷いて扉を大きく開けた。目線を下げたまま部屋の中央まで進み両手をお腹のところで揃えて頭を下げた。
 輝いて見えるほど磨かれた床に写っているのは天井のシャンデリアだろうか。美しいクリスタルで飾られたいくつもの豪華なシャンデリアが並んでいると聞いたことがある。

 ほんの少し顔を上げそっと盗み見ると正面には雛壇があり金箔を使った豪奢な椅子が置かれ、その後ろには精巧な刺繍が見事な緞帳が下がっている。

 ドアが開いた気配がした後、緊張したライラの耳に衣擦れの音が聞こえた。



「面を上げよ。ライラ・プリンストン」

 平民らしく頭を下げていたライラはよく響く低音で指示する声にゆっくりと前を向いた。

 玉座に座る国王と王妃。その後ろに立っている無表情の侍従長と侍女長と、一段下がった場所に立つ苛立たしげな顔をした男は宰相だろうか。

 ライラが予想していたよりも広い部屋には彼等以外に⋯⋯衛兵さえいない事に驚いた。



「よく参った。何やら忙しくしておるようじゃな」

(その情報、一体どこから⋯⋯)

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

あなたの幸せを、心からお祈りしています【宮廷音楽家の娘の逆転劇】

たくわん
恋愛
「平民の娘ごときが、騎士の妻になれると思ったのか」 宮廷音楽家の娘リディアは、愛を誓い合った騎士エドゥアルトから、一方的に婚約破棄を告げられる。理由は「身分違い」。彼が選んだのは、爵位と持参金を持つ貴族令嬢だった。 傷ついた心を抱えながらも、リディアは決意する。 「音楽の道で、誰にも見下されない存在になってみせる」 革新的な合奏曲の創作、宮廷初の「音楽会」の開催、そして若き隣国王子との出会い——。 才能と努力だけを武器に、リディアは宮廷音楽界の頂点へと駆け上がっていく。 一方、妻の浪費と実家の圧力に苦しむエドゥアルトは、次第に転落の道を辿り始める。そして彼は気づくのだ。自分が何を失ったのかを。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@女性向け・児童文学・絵本
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。

猫屋敷 むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。 ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。 しかし、一年前。同じ場所での結婚式では―― 見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。 「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」 確かに愛のない政略結婚だったけれど。 ――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。 「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」 仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。 シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕! ――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。 ※「小説家になろう」にも掲載。(異世界恋愛33位) ※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

処理中です...