【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

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83.ネタバラシしま〜す

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「さっき断崖の近くでメイルーンとステファンがやってた取引は俺が見てたぜ。真珠はメイルーンの鞄の中で、代金はその鞄の中の大量の金貨と爵位と検事の職だったよな。
それとセオドアが隠し持ってるメイルーンの犯罪の証拠と交換で、王都の一等地にある屋敷を強請ってたしな」

 ずっと『デカいの』と呼ばれていたフレッドが長文で参加した。

「申し遅れたが俺は『デカいの』じゃなく、第二騎士団団長フレッド・カーマインだ」

 フレッドが短く3回指笛を鳴らすと種明かしをするかのように、廃屋のある方向からザッザッと砂を踏み締める足音が聞こえてきた。

「な、なんだなんだ!?」

 何事が起きているのかわからず呆然としたステファン達の前に、数珠繋ぎになって猿轡をかまされた8人が座らされ、11人の戦闘要員がその後ろに並んだ。

「第一陣として島に乗り込んだ戦闘要員8名は全員捕縛が完了している。第二陣として島に上陸したメンバー11名は全て第二騎士団の精鋭達だ」



 ステファン達が乗った船が出航した後、トラブル発生と称して時間稼ぎしたルーカス達は港で待機していた戦闘要員を捕縛。フレッドが率いる第二騎士団員は捕縛した戦闘要員の服を着用して島に上陸した。

「私達が大量の酒と料理を提供してたのは単なる時間稼ぎだけど、戦闘要員に出したレモン入りの果実水には医師が処方した弱~い睡眠薬を混ぜておいたの」

「ゲームがはじまった後、本気で戦われたら怪我人とか出そうだからな」

 ドヤ顔のメリッサが腰に手を当てて説明する横で、ケニスがポケットから出した小瓶をヒラヒラさせている。

「くそっ! だからなんか身体がだるいと⋯⋯」

 第二騎士団の団員に捕縛された戦闘要員がヤケクソ気味に唾を吐いた。



 第二陣が島に到着後すぐにゲームの説明をはじめるようステファンを促し、第二騎士団員は顔を伏せて食事に夢中なふりをする。

 ゲームがはじまってからは適宜空砲を撃ち、薬で動きが鈍くなっていた戦闘要員を捕縛していく。

 その間にメイスン裁判官が騎士団員を引き連れて島の裏側で待機。

「で、第二騎士団団長の俺はステファンとメイルーンを尾行して取り引き内容を確認していたってわけだ」



「⋯⋯なんだよ、ゲームやってねえじゃん」

「なら賞品はどうなる!? 俺のもんだよな」

 ステファンの間の抜けた呟きと、商会を手に入れたと思っていたモブの叫び声を聞いたルーカスが眉間に皺を寄せた。

「俺の島でデスゲームなんぞやらせるわけねえだろ? 商会もテメエらには渡さねえって。んでも、事前にストップかけたらお前らのことだから『冗談でした~』とかって言い逃れしそうだったしなぁ」

「薬でポヤッとしてたお陰で怪我人なしだぜ~」

 全然大変そうに見えなかった⋯⋯むしろ楽しそうだったルーカスとフレッドが声をあげて笑い、騎士団員も『楽勝でした』と笑っている。



「盗品売買の現場も押さえられたし。あ、そうだ! あの真珠は模造品なのは間違いねえんだがよお、よく出来てんだろ~。商会を立ち上げたての頃騙された思い出の一品だからなぁ。いやぁ、まさか役に立つ時がくるとは思わなかったぜ」

 心底楽しそうに笑うルーカスの暴露に、目を吊り上げたメイルーンが身を乗り出して叫びはじめた。

「では本当に模造品なのか!? ステファン、貴様私を騙したのか!? 取引はなしだ、金を返せ!」

「し、知らねえ! メリッサに騙されたんだ。俺が友達を騙すわけないだろ? 文句はあの女に言ってくれ。俺は悪くないからな、騙したメリッサが悪いんだ!」

 友達だと連呼するステファンがメリッサを睨みつける。

「本物だなんて一言も言ってないのに騙したとか言わないでもらえます? 商売人は信用が第一ですからね。持ち主が公にしたがってない逸品だとかしか言ってないもの」

「お買い上げありがとうございます。またのお越しは待ってねえがな。てか、模造品だろうがなんだろうが取引は完了してる。盗品だと知ってたならメイルーンには罪状追加だし?
んで、この金はこの島でのお前らのバカンス代に充当するにしても⋯⋯不足分はちゃんと取り立てるからな」

 今回のゲームにかかった費用はしっかり回収する予定だと笑ったルーカスを『悪徳商人か!』と思ったのはメリッサだけではなかった。

(その間、我々は島の端で時間を持て余していたけどな~)

 メイソンの心の声が聞こえたのかルーカスがチラリと横目で見て中指を立てた。

 不測の事態に備えて騎士団の面々と待機していたメイソンは『超つまらん、不完全燃焼だ』とルーカスに向けてサムズダウンした。



 いざという時の為に断崖下の洞窟で待機、じりじりとしながら突入の合図を待っていたメイソン達が、これ程ルーカス達の行動を自由にさせたのはメリッサ達への負い目のようなもの。

 事故として何年も前に処理されていたミゲルの事件から、ここにいるメンバー全員の犯罪を暴き出した。しかも、捕縛可能な状態までの証拠や証人確保の全てのお膳立てをしたのがメリッサ達だったから。

 教会や信者達の起こす非道に腹を立てつつも、煮え湯ばかり飲まされていたメイソンは、当初ルーカスが送りつけてくる犯罪の証拠を見て腹を立てていた。

(俺にどうしろって言うんだ! どうせ横槍が入って揉み消されるのがオチなのに)

 新聞社を利用して大衆に知らしめる作戦を聞いた時、メイソンの頭に初めて成功と言う文字がちらついた。

(これなら揉み消されず裁判に持ち込めるかもしれん! 多分二度とこんなチャンスはこない)



 ルーカスの『少しばかり仕返しさせろよ』と言う言葉に頷いてしまうほど、メイソンは期待に胸を膨らませた。

(ルーカスの大勝負、俺も負けてなんかいられない)

 第二騎士団団長と密談を重ね、団員達には詳細を知らせずに『軍事訓練の一環』として部隊を動かすことに成功した。



「随分と手が込んでるね。そんなに手をかけて捕まえた俺達が無罪放免された後は、必ずお礼をしに行かなくては。最適なメンバーをピックアップしておくから、身辺には注意しておくことをお勧めするよ」

 第二騎士団に囲まれても『狂信者を送り込む』と平然とした顔で言うメイルーンは、拘束されていることなど意にも介していないと言わんばかりの態度で宣う。

「この期に及んでも教会とパパ頼りなのは予想通りだが、それが通用するかどうか楽しみにしようじゃないか」

 大人しく後ろに控えていたロジャー・マルティン枢機卿に『ですよね』とリチャード・メイソンが話しかけた。

「そうだね~、新聞を読んだサマネス枢機卿は今何をしてるかな~。慌てふためいて事態の収集を図ろうとしているのか、メイルーンを切り捨てて自己保身に走っているのか、どちらにしろすっごく楽しみだよね」

「まさか本物のロジャー・マルティンがこんなところにいるわけがない! 仮に⋯⋯仮に本物がいたとしてもだ! 父上には大きな派閥もあるし国王や議会も父上の言いなりだ! 枢機卿一人が騒いでもどうにもならん。身元の怪しい貴様なんか父上にかかれば⋯⋯その前に身分詐称で貴様を断罪してやる」

「え~、それは無理なんじゃないかな?」

 ロジャーがにこやかに笑い従者のエリオットが任命証を広げると、メイルーンの顔が大きく引き攣った。

「まさか本物の!?」

「ええっ! ロジャーったらそんな大事な物を持ってきてたの!?」

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