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65.束の間の休息はキノコと共に

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 翌日からメリッサ達は第一ポイントの土曜日までにできること全て終わらせておかなくてはと張り切り、今まで以上に精力的に準備をはじめた。

「ハリーが報告に来ないって分かった時点でワッツに動きが出る⋯⋯それまでに細かい事は全部終わらせとこうぜ」

 仕事を辞めてお金を借りる先もなくなり借金まみれになったステファンは少し前に愛人のアマンダに見限られていたが、当人は意外なほとあっさりと別れを受け入れていた。

「もうすぐ金持ちの高位貴族になるからアマンダなんかよりよっぽどいい女が見つかるもんな」

 折半する約束の生活費やつけ払いで購入や飲食した代金の支払いが済まない限りルーカス所有でメリッサ達の新居になっている屋敷に入れないステファンは実家に入り浸っていた。

 母親のイライザも全く同じ状況で借金まみれの文無し。

(委任状は手に入れたし~、もうこれで何の憂いもなくゲームを終わらせられるもんな)

 ほけほけと悦にいって食事や酒をイライザに強請って『金なんかない!』と癇癪を起こされたステファンの頭にほんの少し現実が舞い戻ってきた。

(少し金をなんとかしてこないとマズイよな。メリッサがあんなにケチとかマジで失敗した~)

 久しぶりに髭を剃り今までに何度も小遣いをくれていた女性を誘い出した。甘い言葉と様々な奉仕活動で今日も結構な額の援助金を手に入れて実家に戻ったステファンをイライザが大絶賛した。

「副業でこんなに稼げるなんてやっぱりステファンは頭がいいのね~」

「当然だろ? ゲームが終わったらこんなシケた家はすぐに引っ越そう。優秀な頭脳と誰にも引けを取らない容貌が揃ってる俺にはこんな家は不釣り合いだもんな」

「勿論だわ! 引っ越しの日は立派な馬車を仕立てて迎えに来させて近所の夫人達の度肝を抜いてやらなくちゃ!」

 どこまでも舞い上がるイライザの妄想を聞き流しながらふと気になったステファンが問いかけた。

「そう言えば長いこと父上に会ってないよね」

「あら、そう言えば帰って来ないわねえ⋯⋯楽でいいからどこかで借金を増やしてなければどうでもいいわ」

「まぁね~、借りれる当てはなさそうだしそのうち帰ってくるかもだね」

「それまでに引越ししておきたいわ~、だって⋯⋯」

 存在感が薄い父親は『役に立たない不用品』としてステファンとイライザの頭の中から消えていった。

(ゲーム前には移動やら宿泊代やらをメリッサからもらってこなきゃな。あとは⋯⋯)



 無人島に送ったものの確認や不足分の輸送と人の手配を済ませて郵便局に寄ったメリッサが商会に帰ると、楽しそうにチョコレートをつまんでいたルーカスが慌ててケニスから箱をもぎ取り机の引き出しに隠し込んだ。

「ミゲルんちのおじちゃんとおばちゃんの避難は終わったぜ。説明したら父親がそばにいてなんで止めなかったんだって言ってめちゃくそ怒られた。メリッサだからなって言ったら収まったけどすげえ迫力でおばちゃんに首絞められて痛いのなんのって」

「母上には避暑に行っていただいたし、使用人はエマーソン以外は休んでもらって代わりに警備会社から人を手配した。母上からケニスが間抜けだからって言って扇子でボコボコに叩かれたんだけど、メリッサだからって言ったら諦めてくれた。
すっごい痛かったし全然折れないなあって思ってたら『鉄扇に決まってるでしょ!」って鼻で笑われたよ」

「早馬を飛ばしてマーシャルに子供達の避難を頼んでおいたんだけど、他に忘れてることないよね? で、全員が『メリッサだから』で納得するのが納得できない」

 目線を逸らしたルーカスが『そりゃメリッサだからな』と言って吹き出した。

「おじさん、上手い!」

「誤魔化せてないからね! 父さんったらまた血圧が上がってるって言われたんでしょ!? チョコレートもそれ以外のおやつも全部出して」

 目を細めて手を出したメリッサの前でルーカスが引き出しに鍵をかけはじめた。

「いや~、血圧の原因は心配ばっかりかけるお転婆娘の暴走が原因だしなあ。チョコレートに罪を被せるのは可哀想だと思うぞ? 今頃冤罪反対とか呟い⋯⋯」

「じゃ、今日から晩酌なしで食事も野菜中心⋯⋯お肉とお魚は禁止で、きのこ盛り盛りにしようね」

「うわ! きのこはやめてくれぇ、あの食感がどうも苦手なんだよぉ」

「子供じゃあるまいし⋯⋯ごっくんて飲み込んじゃえば問題なし! パンにきのことピーマンとトマトを挟んだらいい感じよね~」

「メリッサ、そのラインナップ⋯⋯父ちゃんの苦手な食材を取り揃えての虐めか!? 虐めだよな!」

「引き出しから高血圧の元を吐き出さないなら人参ときゅうりも入れちゃおうかな」

 次々に出てくる苦手な食べ物に顔を引き攣らせ引き出しから出したのは⋯⋯チョコレートやクッキーの山。

「あ、この飴ちゃん私の好きなやつ~。ラッキー」

「鬼畜⋯⋯人でなし⋯⋯父ちゃんの楽しみを奪いやがって!」

「あ! ワインもブランデーも回収しちゃお⋯⋯」

「ごめんなさい! 血圧が下がるまで頑張りま~す」

 ガックリと肩を落としたルーカスを横目にそおっと立ち上がったケニスが部屋を出ようとした。

「あら、もう帰るの? ケニスの夕食には毎日カブをお願いしとくね」

 ルーカスの誘いを断れず一緒に好物のチョコレートを食べていたケニスが頭を下げた。

「ごめん、次はおじさんにちゃんと注意するから今回だけ見逃して!」



 ゲームの日が近づくたびに不安感と恐怖心が強くなっていく。この国でなんの力もないと言われている平民が最も権力のある教会とその次に力のある公爵家に闘いを挑むのだから誰に聞いても無謀だと言うだろう。

(ゲームが終わった時どんな結果になっていようと父親とケニスには手を出させない⋯⋯お願いだから死なないで)

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