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61.めちゃめちゃ危険な状態
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その後、泣いて駄々をこねるリリアナを放置して後ろ手に縛ったハリーだけを牢からだし階段に向かうとサリナが声を張り上げた。
「ちょっと待ちなさいよ! そいつを牢から出すならアタシ達も出してよ。ベッドは硬いし他に何にもないこんな場所なんてもう我慢できない、せめて普通の部屋に案内してよ!」
ガンガンと柵を叩いたサリナは『やだ!』と叫び慌てて手を引っ込めて折れた爪を調べはじめた。
「こんなとこにいるのは嫌! ケニス、アタシの部屋かケニスの部屋に連れてって⋯⋯ハリー兄さんを連れてくならアタシも一緒に行く、行きたい!」
柵に顔を押し込むようにして声を荒げていたリリアナの牢から室内ばきが飛んできた。
「もうひとつ準備した場所があるにはあるけど。ここが嫌だとするとそっちに移る? あまりお勧めはしないけど」
ルーカスがお仕置きの意味をたっぷりと込めた特別な収容先を思い出したメリッサは少し顔を引き攣らせた。
(あれは流石に⋯⋯父さんの『ざまぁ』はマジで半端ないから)
「アンタがそんなに嫌そうに言うって事はここよりマシなんだね! そっちに連れてってちょうだい、どんなとこか知らなくてもここより絶対マシに違いないからね!」
逃げ回っていてもそれなりの宿屋に泊まることの方が多かったサリナは今いる地下牢以上に劣悪な場所はないはずだと考えていた。
逃げ回る間橋の下や壊れて放置された小屋を転々としたこともあるヒューゴは絶対ここの方がマシだと思い黙っていた。
「どうしてもって言うなら移動しても良いけど⋯⋯倉庫に並んだ猛獣の檻だけどほんとに移動するの? 檻と檻の間は木箱で塀を作ってあるからプライバシーは守れるけど、臭いが強烈なのよね~。閉園したサーカスで使ってた猛獣の檻だから水を流したけど動物臭と糞尿が染み付いてて、ちょっと目が痛くなる感じ。場所の確認に行った私は30分持たなかったからこっちにしてもらえて良かったねって思ってたんだけどなぁ」
「え?」「はあ?」
「⋯⋯(やっぱりな)」
「ここにいるメンバーは外に一歩でも出たり居場所がバレると数人の危険な人物が探し回ってる奴ばかりだから⋯⋯保護してほしいなら選択肢はこの地下牢コースか猛獣の檻コースしか残っていない。捕まりたいならメイルーン司教コースか司教の仲間の貴族コースの2種類がある。
あともう1種類司法に出頭して自白コースもあるからどれでも好きなのを選んでくれて構わない。但しどれもやり直しは利かない可能性が高いから帰って来るまでに考えておいてくれ」
「アタシは悪いことしてないから誰も捕まえになんて来ないよね?」
「リリアナさんの場合は今のところは病院が連れ戻したくて探してるし、もう少ししたらハリーさんを脅してた貴族が探しはじめるはずだからその2択ね」
「なんでアタシを探すの!?」
「病院も貴族も元を辿ると同じ人物に行き当たるんだけど、リリアナさんを人質にしておけばハリーさんを自分の思い通りにできるからよ」
サリナは既に諦めてベッドに座り込んでいたが、絶句して黙り込んだリリアナもその場で床に座り込んだ。
「もしかして兄さんが悪いことしてたのってアタシが人質になってたから?」
「悪いのは企んだ奴とやらかした奴。それ以外は被害者ね⋯⋯私達の知ってる範囲で言うならハリーさんは被害者トップ3の中に入ってるわ」
「悪いがハリーの傷の手当てを先にしたいから話はここまでにしてくれ」
ケニスの言葉に一番驚いたのはハリーだった。
「どうしてそれを⋯⋯」
「歩き方とか座る時の身体の動きを見てれば普通に分かるだろ? かなり酷くやられてそうだな」
「いえ、それほどでもありませんから」
「兄さん、怪我してるの!?」
慌てたリリアナが柵に顔を押し付けた。
俯いたハリーと共に2階に上がり執務室に入って中から鍵を閉めた。
「先に怪我の手当てをしてから話をしたいんだが構わないか?」
「はい、お手数をおかけします」
「メリッサ、エマーソンに声をかけて怪我の手当てをしたいと伝えてくれないかな。この時間なら銀器を磨いてるはずだからすぐに見つかると思うんだ。それと終わったら声をかけるから絶対に外へ出るなよ」
まだ大丈夫だろうとケニスもメリッサも思っているが誰かが気付いて辺りを彷徨いていてもおかしくないくらいの時間は経っている。
メイルーンが異変に気付いたとしたらサリナの両親と子供達が消えた辺りからだろうが、事件を調べている者がいるところまでは考えついていないとメリッサ達は予想している。
(ステファンの手紙ですぐに動き出したくらいだから本格的に御者探しをはじめてるのは間違いないだろう)
メイルーンの目は過去の事件をネタに脅しをかけているステファンに向いているはずだが、その網にメリッサが引っかかりミゲルと言う名の元婚約者がいたと知る可能性がゼロとは言えない。
週末ハリーが報告に行かなければワッツが異変に気付く可能性が高く、ハリーが戻ってくるかどうか様子見をせずにワッツが行動したらリリアナが病院から消えていた事もすぐにバレる。
ワッツの狙いがハリーでもメイルーンへの威嚇や保険でセオドアを確保していたとしてもミゲルの事件と繋げる可能性は低い。今までのところ不審な人物は見かけていないところから考えるとメリッサ達の行動に気付く可能性は低いが、セオドアの捕縛が厳しくなるのは間違いない。
(時間の猶予がありそうで全然無さそうなんだよな)
メリッサ達に今まで時間の猶予があったのはメイルーンとワッツが共闘していない事とステファンをバカにして関わりを持っていなかったから。それにプラスして被害者のミゲルは平民で教会や貴族に楯突こうとするような身内や知り合いがいるなど想像もしていないからだろう。
メイルーンやワッツがミゲルの過去を調べようとすれば簡単にメリッサやケニスの名前は出てくる。そして、ミゲルの過去に出てきたメリッサがステファンの妻と同一人物だと知られた時点であっという間に教会と公爵家に囲まれるのは間違いない。
(おじさんとメリッサはめちゃめちゃヤバい状況だって分かってるのか不安になる程呑気そうにしてるからなあ)
「分かったわ、ついでに何か食べる物がないか聞いてみるわね。夕食を食べ損ねてたの忘れてたからお腹空いちゃった」
「そう言えば俺もめちゃくちゃ腹が減ってる」
苦笑いしたケニスに手を振って部屋を出たメリッサは1階の予備室にいるはずのエマーソンを探しに行った。
「ちょっと待ちなさいよ! そいつを牢から出すならアタシ達も出してよ。ベッドは硬いし他に何にもないこんな場所なんてもう我慢できない、せめて普通の部屋に案内してよ!」
ガンガンと柵を叩いたサリナは『やだ!』と叫び慌てて手を引っ込めて折れた爪を調べはじめた。
「こんなとこにいるのは嫌! ケニス、アタシの部屋かケニスの部屋に連れてって⋯⋯ハリー兄さんを連れてくならアタシも一緒に行く、行きたい!」
柵に顔を押し込むようにして声を荒げていたリリアナの牢から室内ばきが飛んできた。
「もうひとつ準備した場所があるにはあるけど。ここが嫌だとするとそっちに移る? あまりお勧めはしないけど」
ルーカスがお仕置きの意味をたっぷりと込めた特別な収容先を思い出したメリッサは少し顔を引き攣らせた。
(あれは流石に⋯⋯父さんの『ざまぁ』はマジで半端ないから)
「アンタがそんなに嫌そうに言うって事はここよりマシなんだね! そっちに連れてってちょうだい、どんなとこか知らなくてもここより絶対マシに違いないからね!」
逃げ回っていてもそれなりの宿屋に泊まることの方が多かったサリナは今いる地下牢以上に劣悪な場所はないはずだと考えていた。
逃げ回る間橋の下や壊れて放置された小屋を転々としたこともあるヒューゴは絶対ここの方がマシだと思い黙っていた。
「どうしてもって言うなら移動しても良いけど⋯⋯倉庫に並んだ猛獣の檻だけどほんとに移動するの? 檻と檻の間は木箱で塀を作ってあるからプライバシーは守れるけど、臭いが強烈なのよね~。閉園したサーカスで使ってた猛獣の檻だから水を流したけど動物臭と糞尿が染み付いてて、ちょっと目が痛くなる感じ。場所の確認に行った私は30分持たなかったからこっちにしてもらえて良かったねって思ってたんだけどなぁ」
「え?」「はあ?」
「⋯⋯(やっぱりな)」
「ここにいるメンバーは外に一歩でも出たり居場所がバレると数人の危険な人物が探し回ってる奴ばかりだから⋯⋯保護してほしいなら選択肢はこの地下牢コースか猛獣の檻コースしか残っていない。捕まりたいならメイルーン司教コースか司教の仲間の貴族コースの2種類がある。
あともう1種類司法に出頭して自白コースもあるからどれでも好きなのを選んでくれて構わない。但しどれもやり直しは利かない可能性が高いから帰って来るまでに考えておいてくれ」
「アタシは悪いことしてないから誰も捕まえになんて来ないよね?」
「リリアナさんの場合は今のところは病院が連れ戻したくて探してるし、もう少ししたらハリーさんを脅してた貴族が探しはじめるはずだからその2択ね」
「なんでアタシを探すの!?」
「病院も貴族も元を辿ると同じ人物に行き当たるんだけど、リリアナさんを人質にしておけばハリーさんを自分の思い通りにできるからよ」
サリナは既に諦めてベッドに座り込んでいたが、絶句して黙り込んだリリアナもその場で床に座り込んだ。
「もしかして兄さんが悪いことしてたのってアタシが人質になってたから?」
「悪いのは企んだ奴とやらかした奴。それ以外は被害者ね⋯⋯私達の知ってる範囲で言うならハリーさんは被害者トップ3の中に入ってるわ」
「悪いがハリーの傷の手当てを先にしたいから話はここまでにしてくれ」
ケニスの言葉に一番驚いたのはハリーだった。
「どうしてそれを⋯⋯」
「歩き方とか座る時の身体の動きを見てれば普通に分かるだろ? かなり酷くやられてそうだな」
「いえ、それほどでもありませんから」
「兄さん、怪我してるの!?」
慌てたリリアナが柵に顔を押し付けた。
俯いたハリーと共に2階に上がり執務室に入って中から鍵を閉めた。
「先に怪我の手当てをしてから話をしたいんだが構わないか?」
「はい、お手数をおかけします」
「メリッサ、エマーソンに声をかけて怪我の手当てをしたいと伝えてくれないかな。この時間なら銀器を磨いてるはずだからすぐに見つかると思うんだ。それと終わったら声をかけるから絶対に外へ出るなよ」
まだ大丈夫だろうとケニスもメリッサも思っているが誰かが気付いて辺りを彷徨いていてもおかしくないくらいの時間は経っている。
メイルーンが異変に気付いたとしたらサリナの両親と子供達が消えた辺りからだろうが、事件を調べている者がいるところまでは考えついていないとメリッサ達は予想している。
(ステファンの手紙ですぐに動き出したくらいだから本格的に御者探しをはじめてるのは間違いないだろう)
メイルーンの目は過去の事件をネタに脅しをかけているステファンに向いているはずだが、その網にメリッサが引っかかりミゲルと言う名の元婚約者がいたと知る可能性がゼロとは言えない。
週末ハリーが報告に行かなければワッツが異変に気付く可能性が高く、ハリーが戻ってくるかどうか様子見をせずにワッツが行動したらリリアナが病院から消えていた事もすぐにバレる。
ワッツの狙いがハリーでもメイルーンへの威嚇や保険でセオドアを確保していたとしてもミゲルの事件と繋げる可能性は低い。今までのところ不審な人物は見かけていないところから考えるとメリッサ達の行動に気付く可能性は低いが、セオドアの捕縛が厳しくなるのは間違いない。
(時間の猶予がありそうで全然無さそうなんだよな)
メリッサ達に今まで時間の猶予があったのはメイルーンとワッツが共闘していない事とステファンをバカにして関わりを持っていなかったから。それにプラスして被害者のミゲルは平民で教会や貴族に楯突こうとするような身内や知り合いがいるなど想像もしていないからだろう。
メイルーンやワッツがミゲルの過去を調べようとすれば簡単にメリッサやケニスの名前は出てくる。そして、ミゲルの過去に出てきたメリッサがステファンの妻と同一人物だと知られた時点であっという間に教会と公爵家に囲まれるのは間違いない。
(おじさんとメリッサはめちゃめちゃヤバい状況だって分かってるのか不安になる程呑気そうにしてるからなあ)
「分かったわ、ついでに何か食べる物がないか聞いてみるわね。夕食を食べ損ねてたの忘れてたからお腹空いちゃった」
「そう言えば俺もめちゃくちゃ腹が減ってる」
苦笑いしたケニスに手を振って部屋を出たメリッサは1階の予備室にいるはずのエマーソンを探しに行った。
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