21 / 97
20.久しぶりにクズ登場
しおりを挟む
数日ぶりに屋敷に戻って来たメリッサは執務室に篭って執事から報告を受けていた。
「そう、絵画を⋯⋯それでどうしたの?」
「はい、この屋敷の家具や美術品は全て資産として記載されているのでルーカス様の許可なく持ち出すと罪に問われる可能性があると申し上げましたところ諦められたようです」
「ありがとう、ライルのお陰でステファンにこれ以上罪を重ねさせずに済んだわ」
執事のライルは小さく笑みを浮かべ右手を胸に当てた。
「恐れ入ります」
この屋敷の使用人は執事以外は全て別棟に寝泊まりしているか通いでやってくる者ばかりだが、昼前の今は忙しそうに洗濯や掃除をするメイド達や昼食を作っている料理人達がいる。
ノックされた気配もなく執務室のドアが開いて壁にぶち当たり大きな音を立てた。
「おい、夫の俺様を放置したまま何をやってるんだ!?」
目を吊り上げて怒鳴るステファンからはほのかに酒の匂いが漂っていた。
(まだ午前中なのに?)
メリッサがチラリと見上げたライルは小さく肩をすくめ冷めた目でステファンに背を向けた。
「ステファン、お仕事はどうしたの?」
「は、久しぶりに帰っていたと思ったら仕事? あんなバカバカしい事やってらんねぇから辞めてやった」
大袈裟なそぶりで両手を広げ肩を竦めたステファンは少しよろめいて壁にもたれかかった。
「次の仕事がはじまるまで生活の面倒を見るのは妻の仕事だよなあ?」
(あー、そうきたかあ)
「いいえ、生活費は別って約束だもの。請求書への支払いもなるべく早くしてもらわなくちゃね⋯⋯今少し困ったことになっていて⋯⋯⋯⋯そうだわ、ステファンに少し相談に乗ってもらおうかしら? もし顧問弁護士になるなら予行演習のようなものにもなるし、生活費ではなくて相談料なら払ってもいいし。
そろそろ料理も出来上がる頃だから、ワインを飲みながら聞いてもらえるかしら?」
「あ? いいぜ~、その代わり相談料はたんまり払って貰うがな~」
「勿論よ、専門家の知識なら有料ですもの」
メリッサとステファンが食堂に移動すると直ぐに料理が並べられ、ライルがワインを持って来た。
「へぇ、ケチ臭え平民の割にいいワインじゃねぇか」
(思ったより酔っ払ってるみたい。これなら⋯⋯)
「相談料の一部だと思って好きなだけ飲んでもらえたら嬉しいわ」
ライルがグラスに注いだワインを一気飲みしたステファンはボトルをもぎ取って自分のグラスになみなみと注ぎ、ライルを手で追い払った。
「邪魔なんだよ、ちまちま注いでめんどくせえ」
食堂のドアを開けたままライルが退席したのを横目に見たメリッサは俯いて笑いを堪えた。
(夫婦(偽)だからってことかな、ここで聞いてますっていう合図かも)
「んで~、何があったんだ」
バカにしたようにヘラヘラと笑うステファンの前でメリッサは小さな溜息をついた。
「この間この屋敷に泥棒が入ったらしくて⋯⋯お客様から預かってた物がなくなったの」
「へぇ~、その割にここには誰もきてねえみたいだよなぁ」
ワイングラスに伸ばした手を止めたステファンが目を細めてメリッサの様子を窺った。
「お客様が公にしたくないって⋯⋯でも、何があったのか皆目見当がつかなくてどうやって探せばいいのか」
「⋯⋯ふーん、なんか後ろ暗いことでもあって騒げねぇってことだよな。なら、ほっときゃいいじゃん」
安心したように満面の笑みを浮かべたステファンがグラスのワインを一気に飲み干した。
(ステファンって酔うと言葉遣いが破落戸みたいになるんだよね、分かりやすくていいわぁ)
「そうはいかないわ、凄く高価な品なんだもの」
「なら商会の金で弁償したらいんじゃね? あ、それで商会が潰れても俺に手助けしろとか言うなよな⋯⋯あー、待てよ。そうなる前に『賭け』を終わらせねえとなぁ。あの島でやるって言っちまったし、準備やらなんかで結構金がいるんだ。その金は先に貰っとかねえとな」
ワインを注ごうとしてボトルに伸ばしたステファンの手が宙を切ったのを見たメリッサは、代わりにボトルを持ってグラスにたっぷりとワインを注いだ。
ごくごくとステファンの喉が鳴るのを確認したメリッサが意を決して話を振った。
「そうね、約束は守らなくちゃ⋯⋯途中でなし崩しに終わったら前の馬車の件みたいになっちゃうものね」
「ああ、二度とあんなのはごめんだぜ。期待してたのに結果がわかんねえとかマジふざけんなだよなぁ」
「どんなイタズラだったの? ステファンが考えたなら結構知恵を使ったんでしょ?」
「は! 俺様ならあんなヘマなんかしねえよ。アレはなぁ、お偉~いメイルーン様のミスだな」
「なんか面白そう⋯⋯どんな方法だったの?」
「⋯⋯ダメダメ! これだけは言えねー」
「もし仮に犯罪だったとしても、夫婦なら証言能力がないって知ってるでしょ?」
「⋯⋯えーっと、そうだっけ?」
「未来の弁護士様なのにねぇ⋯⋯」
「そう、絵画を⋯⋯それでどうしたの?」
「はい、この屋敷の家具や美術品は全て資産として記載されているのでルーカス様の許可なく持ち出すと罪に問われる可能性があると申し上げましたところ諦められたようです」
「ありがとう、ライルのお陰でステファンにこれ以上罪を重ねさせずに済んだわ」
執事のライルは小さく笑みを浮かべ右手を胸に当てた。
「恐れ入ります」
この屋敷の使用人は執事以外は全て別棟に寝泊まりしているか通いでやってくる者ばかりだが、昼前の今は忙しそうに洗濯や掃除をするメイド達や昼食を作っている料理人達がいる。
ノックされた気配もなく執務室のドアが開いて壁にぶち当たり大きな音を立てた。
「おい、夫の俺様を放置したまま何をやってるんだ!?」
目を吊り上げて怒鳴るステファンからはほのかに酒の匂いが漂っていた。
(まだ午前中なのに?)
メリッサがチラリと見上げたライルは小さく肩をすくめ冷めた目でステファンに背を向けた。
「ステファン、お仕事はどうしたの?」
「は、久しぶりに帰っていたと思ったら仕事? あんなバカバカしい事やってらんねぇから辞めてやった」
大袈裟なそぶりで両手を広げ肩を竦めたステファンは少しよろめいて壁にもたれかかった。
「次の仕事がはじまるまで生活の面倒を見るのは妻の仕事だよなあ?」
(あー、そうきたかあ)
「いいえ、生活費は別って約束だもの。請求書への支払いもなるべく早くしてもらわなくちゃね⋯⋯今少し困ったことになっていて⋯⋯⋯⋯そうだわ、ステファンに少し相談に乗ってもらおうかしら? もし顧問弁護士になるなら予行演習のようなものにもなるし、生活費ではなくて相談料なら払ってもいいし。
そろそろ料理も出来上がる頃だから、ワインを飲みながら聞いてもらえるかしら?」
「あ? いいぜ~、その代わり相談料はたんまり払って貰うがな~」
「勿論よ、専門家の知識なら有料ですもの」
メリッサとステファンが食堂に移動すると直ぐに料理が並べられ、ライルがワインを持って来た。
「へぇ、ケチ臭え平民の割にいいワインじゃねぇか」
(思ったより酔っ払ってるみたい。これなら⋯⋯)
「相談料の一部だと思って好きなだけ飲んでもらえたら嬉しいわ」
ライルがグラスに注いだワインを一気飲みしたステファンはボトルをもぎ取って自分のグラスになみなみと注ぎ、ライルを手で追い払った。
「邪魔なんだよ、ちまちま注いでめんどくせえ」
食堂のドアを開けたままライルが退席したのを横目に見たメリッサは俯いて笑いを堪えた。
(夫婦(偽)だからってことかな、ここで聞いてますっていう合図かも)
「んで~、何があったんだ」
バカにしたようにヘラヘラと笑うステファンの前でメリッサは小さな溜息をついた。
「この間この屋敷に泥棒が入ったらしくて⋯⋯お客様から預かってた物がなくなったの」
「へぇ~、その割にここには誰もきてねえみたいだよなぁ」
ワイングラスに伸ばした手を止めたステファンが目を細めてメリッサの様子を窺った。
「お客様が公にしたくないって⋯⋯でも、何があったのか皆目見当がつかなくてどうやって探せばいいのか」
「⋯⋯ふーん、なんか後ろ暗いことでもあって騒げねぇってことだよな。なら、ほっときゃいいじゃん」
安心したように満面の笑みを浮かべたステファンがグラスのワインを一気に飲み干した。
(ステファンって酔うと言葉遣いが破落戸みたいになるんだよね、分かりやすくていいわぁ)
「そうはいかないわ、凄く高価な品なんだもの」
「なら商会の金で弁償したらいんじゃね? あ、それで商会が潰れても俺に手助けしろとか言うなよな⋯⋯あー、待てよ。そうなる前に『賭け』を終わらせねえとなぁ。あの島でやるって言っちまったし、準備やらなんかで結構金がいるんだ。その金は先に貰っとかねえとな」
ワインを注ごうとしてボトルに伸ばしたステファンの手が宙を切ったのを見たメリッサは、代わりにボトルを持ってグラスにたっぷりとワインを注いだ。
ごくごくとステファンの喉が鳴るのを確認したメリッサが意を決して話を振った。
「そうね、約束は守らなくちゃ⋯⋯途中でなし崩しに終わったら前の馬車の件みたいになっちゃうものね」
「ああ、二度とあんなのはごめんだぜ。期待してたのに結果がわかんねえとかマジふざけんなだよなぁ」
「どんなイタズラだったの? ステファンが考えたなら結構知恵を使ったんでしょ?」
「は! 俺様ならあんなヘマなんかしねえよ。アレはなぁ、お偉~いメイルーン様のミスだな」
「なんか面白そう⋯⋯どんな方法だったの?」
「⋯⋯ダメダメ! これだけは言えねー」
「もし仮に犯罪だったとしても、夫婦なら証言能力がないって知ってるでしょ?」
「⋯⋯えーっと、そうだっけ?」
「未来の弁護士様なのにねぇ⋯⋯」
1
お気に入りに追加
631
あなたにおすすめの小説

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる