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62.ショーン・アントリム
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ジョシュアがリフォームした絢爛豪華なタウンハウスに初めて足を踏み入れたショーン・アントリムは呆然として口をぽかんと開けたまま立ち止まった。
「何だこれは・・わしの個人資産が激減したと思ったらこんな・・」
ショーンを出迎えたのはレオとマーカスとギル。それぞれの横には妻や婚約者が並んでいる。
「父上、応接室に参りましょう。私も初めて見たのですがウイリアム&メアリー様式でとても素晴らしい部屋でした」
「マーカスも初めて見たのか」
「はい、それ以外の部屋も案内してもらいましたがそれぞれ意匠を凝らした素晴らしい出来でした」
「しかし、貴族がこれ程華美な屋敷を作るなど・・社交界で笑い物になってしまう」
キョロキョロと周りを見回しながら歩くショーンは「はぁ」とか「まさか、この絵は!」などと呟いている。
応接室でソファに腰を据えメイドが準備した紅茶をチラリと睨んだショーンはマーカスを問いただした。
「ジョシュアの姿が見えんが、この紅茶は真面なんだろうな」
「これには何も入っていません。安心して召し上がって下さい」
先日の下剤の恐怖から匂いを嗅いで少しだけ口をつけたショーンはさっさとカップをテーブルに戻した。
「父上、私の婚約者のソフィーを紹介させていただきます。ソフィー、前侯爵のショーン・アントリム。俺の父上だ」
「お初に御目文字いたします。ソフィーと申します」
両手を前で揃え優雅に挨拶をしたソフィーを見たショーンは首を傾げた。
「は? いつから騎士修道会は妻帯できるようになったんだ?」
「騎士修道会には辞める旨、既に手紙は送ってあり許可は下りています」
「何だと!? レオナルド、もう一度言ってみろ!!」
「騎士修道会は辞めます。総長の許可をいただきました」
「わが侯爵家の家訓を忘れたか!! お前は聖職者にならねばならんのだ。騎士修道会で我慢してやったわしの気持ちを踏み躙るつもりか!!」
「家訓に囚われて生きていくのはやめます。人並み程度の信仰心はあるつもりですが聖職者になれるほどの強い思いがあるわけでもないのにこのまま騎士修道会に所属しているのは間違っています」
「なんと言うことだ! お前がそんな戯言を言うなど・・そこにいる平民のせいなのか?」
「ほんの少しでもソフィーを貶める発言をしたら相手が誰であろうとただではおきません」
久しぶりにレオの凶悪な威圧が部屋中の者達を震撼させた。マーカスが気絶しかけたアイリーンの肩を抱きしめ、ギルが震えるリディアを支えた。
ソフィーがレオの腕をそっと抑えるとレオは苦笑いしてアイリーンとリディアに頭を下げた。
「おっ、落ち着け! ワシはただレオナルドに冷静になってもらいたいだけで他意はない」
青褪め冷や汗をハンカチで拭いながらショーンが慌てたように言い訳をした。
「それを聞いて安心しました。親殺しになるかと・・」
レオのごく小さな呟きにショーンが震え上がった。
「マーカスもギルバートも家訓に従ってそれぞれの職務を全うしておる。レオナルドだけが勝手なことをするなど許されるわけが無かろう」
「お言葉ですが私は長男として生まれ父上の後を継ぎ領主になったのは当然と思っております。家訓とは何の関係もありません」
マーカスは幼い頃から領地経営について学び結婚後侯爵となってからは以前にも増して領地と領民の為に研鑽を重ねている。
「その通りだ。マーカスは良き領主として侯爵家を盛り立てておる」
「私も昔から騎士になるのが夢でした。その為幼い頃より剣の修行を続けて参りました。騎士団に所属したのは家訓ではなく己の望みです。ただ、父上の横槍で第三騎士団には入れませんでしたが」
「うむ、それは致し方あるまい。ギルバートは本来侯爵家令息として第一騎士団に所属するべきところを我儘で移動したのだ。流石のわしでも息子が平民に紛れて戦うことを許すわけにはいかん」
「私は元々聖職者ではなく騎士になりたいと願っていました。家訓の為にと騎士修道会に所属しましたが私は別の道を進みたいと心から願っています。
4年間騎士修道会で勤めて聖職者にはなれないと分かりました」
「ならん、絶対にやめてはならん。この家訓は侯爵家に代々受け継がれてきたもの。わしの代でそれを破るなど・・」
「父上の代は既に終わっております。何年も前に私が当主になりました。私の代で家訓を終わらせます」
「なっ!」
「俺は次の任期から第三騎士団に配置換えになります」
「はっ?」
第三騎士団の団長が今期いっぱいで退任することが決まり、その後釜としてギルが第三騎士団の団長に就任することになった。
(ラッキーではあるが陛下が暗躍しておられるような気がするのが怖い。何を狙っておられるのか・・)
バーンとテーブルを叩いたショーンが真っ赤な顔で立ち上がった。
「ふっ巫山戯るな!! 勝手なことばかり言いおって! 3人とも廃嫡し・・」
ショーンが怒鳴っている途中で応接室の扉が開きジョシュアが入って来た。
「なっ、ジョシュア・・何という格好をしておるのじゃ」
「似合う? アントリム侯爵家末っ子ジョシュア改めジョージアナはぁ家訓により聖職者になりますぅ。
廃嫡するなら4人全員が侯爵家を・・お父様を見限るわよ。どうしても家訓を守りたいならアタシが尼僧になってあ・げ・る」
ドアから入ってきたジョシュアが着ていたのは黒いローブとウィンプル。ロザリオを首にかけて聖書を手に持っている。
「バカなことを! お前は男だろうが!」
「家訓さえ守れれば子供の事なんてどーだっていいんでしょお。お父様が昔レオ兄様を脅したの知ってるのよ」
「な・・なんだと?」
ショーンの顔が青を通り越して白くなり口をはくはくとさせている。レオはショーンの言葉をジョシュアが知っていたことに驚き思わず立ち上がった。
「お前、何で知ってるんだ!?」
「どうしても騎士になりたいって頭を下げ続けてたレオ兄様に、『そんなにわしの指示が聞けんと言うならジョシュアを教会に送る。去勢して送れば戻ってくる気にはなるまい』って言ったわよね。それでレオ兄様は騎士になるのを諦めてお父様の言う通りに宗教学の勉強をはじめた。
陰に隠れて聞いてたのよ。だからドレスを着ることにしたの。お父様への嫌味にね」
「ジョシュアの趣味じゃなかったんだ・・知らなかった」
「何だこれは・・わしの個人資産が激減したと思ったらこんな・・」
ショーンを出迎えたのはレオとマーカスとギル。それぞれの横には妻や婚約者が並んでいる。
「父上、応接室に参りましょう。私も初めて見たのですがウイリアム&メアリー様式でとても素晴らしい部屋でした」
「マーカスも初めて見たのか」
「はい、それ以外の部屋も案内してもらいましたがそれぞれ意匠を凝らした素晴らしい出来でした」
「しかし、貴族がこれ程華美な屋敷を作るなど・・社交界で笑い物になってしまう」
キョロキョロと周りを見回しながら歩くショーンは「はぁ」とか「まさか、この絵は!」などと呟いている。
応接室でソファに腰を据えメイドが準備した紅茶をチラリと睨んだショーンはマーカスを問いただした。
「ジョシュアの姿が見えんが、この紅茶は真面なんだろうな」
「これには何も入っていません。安心して召し上がって下さい」
先日の下剤の恐怖から匂いを嗅いで少しだけ口をつけたショーンはさっさとカップをテーブルに戻した。
「父上、私の婚約者のソフィーを紹介させていただきます。ソフィー、前侯爵のショーン・アントリム。俺の父上だ」
「お初に御目文字いたします。ソフィーと申します」
両手を前で揃え優雅に挨拶をしたソフィーを見たショーンは首を傾げた。
「は? いつから騎士修道会は妻帯できるようになったんだ?」
「騎士修道会には辞める旨、既に手紙は送ってあり許可は下りています」
「何だと!? レオナルド、もう一度言ってみろ!!」
「騎士修道会は辞めます。総長の許可をいただきました」
「わが侯爵家の家訓を忘れたか!! お前は聖職者にならねばならんのだ。騎士修道会で我慢してやったわしの気持ちを踏み躙るつもりか!!」
「家訓に囚われて生きていくのはやめます。人並み程度の信仰心はあるつもりですが聖職者になれるほどの強い思いがあるわけでもないのにこのまま騎士修道会に所属しているのは間違っています」
「なんと言うことだ! お前がそんな戯言を言うなど・・そこにいる平民のせいなのか?」
「ほんの少しでもソフィーを貶める発言をしたら相手が誰であろうとただではおきません」
久しぶりにレオの凶悪な威圧が部屋中の者達を震撼させた。マーカスが気絶しかけたアイリーンの肩を抱きしめ、ギルが震えるリディアを支えた。
ソフィーがレオの腕をそっと抑えるとレオは苦笑いしてアイリーンとリディアに頭を下げた。
「おっ、落ち着け! ワシはただレオナルドに冷静になってもらいたいだけで他意はない」
青褪め冷や汗をハンカチで拭いながらショーンが慌てたように言い訳をした。
「それを聞いて安心しました。親殺しになるかと・・」
レオのごく小さな呟きにショーンが震え上がった。
「マーカスもギルバートも家訓に従ってそれぞれの職務を全うしておる。レオナルドだけが勝手なことをするなど許されるわけが無かろう」
「お言葉ですが私は長男として生まれ父上の後を継ぎ領主になったのは当然と思っております。家訓とは何の関係もありません」
マーカスは幼い頃から領地経営について学び結婚後侯爵となってからは以前にも増して領地と領民の為に研鑽を重ねている。
「その通りだ。マーカスは良き領主として侯爵家を盛り立てておる」
「私も昔から騎士になるのが夢でした。その為幼い頃より剣の修行を続けて参りました。騎士団に所属したのは家訓ではなく己の望みです。ただ、父上の横槍で第三騎士団には入れませんでしたが」
「うむ、それは致し方あるまい。ギルバートは本来侯爵家令息として第一騎士団に所属するべきところを我儘で移動したのだ。流石のわしでも息子が平民に紛れて戦うことを許すわけにはいかん」
「私は元々聖職者ではなく騎士になりたいと願っていました。家訓の為にと騎士修道会に所属しましたが私は別の道を進みたいと心から願っています。
4年間騎士修道会で勤めて聖職者にはなれないと分かりました」
「ならん、絶対にやめてはならん。この家訓は侯爵家に代々受け継がれてきたもの。わしの代でそれを破るなど・・」
「父上の代は既に終わっております。何年も前に私が当主になりました。私の代で家訓を終わらせます」
「なっ!」
「俺は次の任期から第三騎士団に配置換えになります」
「はっ?」
第三騎士団の団長が今期いっぱいで退任することが決まり、その後釜としてギルが第三騎士団の団長に就任することになった。
(ラッキーではあるが陛下が暗躍しておられるような気がするのが怖い。何を狙っておられるのか・・)
バーンとテーブルを叩いたショーンが真っ赤な顔で立ち上がった。
「ふっ巫山戯るな!! 勝手なことばかり言いおって! 3人とも廃嫡し・・」
ショーンが怒鳴っている途中で応接室の扉が開きジョシュアが入って来た。
「なっ、ジョシュア・・何という格好をしておるのじゃ」
「似合う? アントリム侯爵家末っ子ジョシュア改めジョージアナはぁ家訓により聖職者になりますぅ。
廃嫡するなら4人全員が侯爵家を・・お父様を見限るわよ。どうしても家訓を守りたいならアタシが尼僧になってあ・げ・る」
ドアから入ってきたジョシュアが着ていたのは黒いローブとウィンプル。ロザリオを首にかけて聖書を手に持っている。
「バカなことを! お前は男だろうが!」
「家訓さえ守れれば子供の事なんてどーだっていいんでしょお。お父様が昔レオ兄様を脅したの知ってるのよ」
「な・・なんだと?」
ショーンの顔が青を通り越して白くなり口をはくはくとさせている。レオはショーンの言葉をジョシュアが知っていたことに驚き思わず立ち上がった。
「お前、何で知ってるんだ!?」
「どうしても騎士になりたいって頭を下げ続けてたレオ兄様に、『そんなにわしの指示が聞けんと言うならジョシュアを教会に送る。去勢して送れば戻ってくる気にはなるまい』って言ったわよね。それでレオ兄様は騎士になるのを諦めてお父様の言う通りに宗教学の勉強をはじめた。
陰に隠れて聞いてたのよ。だからドレスを着ることにしたの。お父様への嫌味にね」
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