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10.何故酸っぱいんだ? sideレオ
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溜息を吐くレオナルドの前でノーマンはレオナルドの淹れた紅茶の匂いを嗅いでいたが渋々手を伸ばした。
「うん、相変わらずすっげえ不味い。ここまで不味い紅茶を淹れられるのは天性の才能かもしれん。しかし、暫くこのまっずい茶が飲めないとなると何だか寂しくもあるな」
ソファに座って苦笑いを浮かべているノーマンは兄弟騎士の一人で、レオナルドが騎士修道会に所属してからずっと世話になっている先輩のひとり。二人きりの時は堅苦しい言葉遣いはいらんと言って気楽に話しかけてくれる。
「ノーマンがそういう性癖を持ってるとは知らなかった。俺が行っても役に立ちそうにはないし、アイツの側にいたら本当に休暇にもならんと思う。ここにいて書類と睨めっこしてる方がよっぽどマシな気がする」
「お前に睨まれたら書類が火を吹きそうだな。普通の暮らしをして結婚するとか子供が欲しいとか思わんのか?」
「はあ、助けた子供が悲鳴を上げた後気絶するのにももう慣れた」
いつも助け出した女性や子供に泣かれて終わるか悲鳴を上げられるのがレオナルド。最近は被災者の前では顔の下半分を隠してみたりしているが、大きな身体が醸し出す迫力は隠しようがないので余り効果がない。
レオナルドはふと遠い記憶を思い出した。
「昔、1人だけ俺の事を怖がらない子がいたな」
「お? 昔の彼女か?」
滅多に自分のことを話さないレオナルドが呟いた言葉にノーマンが食いついた。
「父上に連れて行かれた家のメイドで俺と同い年の子だった。父上の横に並んだ4人兄弟を見ても全然表情が変わらなくて、随分と教育が行き届いてるんだなって思った」
13歳のレオナルドは既に兄弟の中でも頭一つ大きく、厳つい顔と広い肩幅でかなり威圧感があった。
「父上に何度頼んでも騎士にはなれないと言われ続けるし、学園でもなかなか友達ができなくて不貞腐れてた。学園で『怖くて近くに来てほしくない』と陰口を言われてるのを聞いたばかりだったしな。
その日は父上の知り合いの貴族に無理矢理挨拶に連れかれて不機嫌丸出しだったんだが、ちっこくて俺の胸くらいの背しかないくせに平気で声をかけてきた」
父親が話している間に気晴らしにと勝手に庭に出たレオナルドは件のメイドが花壇で花の植え替えをしているところに行き当たった。
「レオナルド様ですね。何か御用がございますか?」
警戒する様子もなく和かに話しかけてきたメイドに驚いたレオナルドはポカンと口を開けてメイドを見つめた。
「この先に当家の主人がお気に入りの四阿がございます。今はマグノリアがとても綺麗な花を咲かせていて良い香りがしています。宜しければ御案内いたしましょうか?」
呆然としたまま四阿に案内され気がついた時には目の前にお茶菓子と紅茶が並べられていた。
「まだ練習中なので余り上手に淹れられないのですがどうぞお召し上がり下さい。近くにおりますので御用の際はお声をおかけくださいませ」
静かにその場を離れようとしたメイドにレオナルドは思わず声をかけた。
「あの・・私の事が怖くないのか?」
キョトンとした顔で首を傾げたメイドの態度にはレオナルドを恐れている様子はほんの僅かも見えなかった。
「・・えーっと、それだけ?」
「ああ、それだけ。その屋敷に連れて行かれたのはその時一回きりだったしな」
本当はその後少し話をした。なんの花を植え替えようとしていたのかとか学園の事とか。メイドは主人の客に対し礼儀正しく受け答えをしているだけだがレオナルドにとっては世にも珍しい体験だった。
屋敷に戻った後『俺にもいつか見かけにこだわらず話をしてくれる人が見つかるかもしれない』と思ったのは秘密の話。
自分の子供なら生まれた時から少しずつ免疫をつければいけるかと思っていた時期もあったが、今まで彼女が出来たこともない過去を思い出し修道会を辞めても結婚も子供も無理だなと達観しつつある。
「にっこり笑ったら少しはマシにならんのか?」
「以前試したらますます怖がられた。魔王だの食われるだのって言われるだけなんでな。もう笑い方も忘れた気がする」
「はっはっは、顔の作りは結構整ってるのに必要以上にデカいからな。その迫力が戦場じゃあとてつもなく役に立つんだがなぁ」
ノーマンが貶した紅茶を飲んだレオナルドは慌てて茶菓子を口に押し込んだ。
(確かに殺人級の不味さだな。渋いのは解るが何で酸っぱいんだ?)
「これ、何かのイジメに使えそうな味だな。次の作戦で敵に飲ませてみるか」
「いい自白剤になりそうだな。あとは野営中の罰ゲームとか」
散々な言われように気分がドーンと落ち込んだレオナルドは頭をガシガシと掻きソファにもたれ溜め息を吐いた。
「多分、父は俺に見張りをして欲しいんだと思う。以前アイツは王都のタウンハウスにメナジェリーを作るって言って象を輸入しようとしたんで」
「象!? んで、可愛い末っ子は今度は何をやり出したんだ?」
「・・幼児学校をはじめるとか」
飲みかけた紅茶に咽せたノーマンがゲホゲホと咳き込んだ。ノーマンが持っていたカップをレオナルドが急いで受け取った途端『ガシャ』っと音を立ててカップが壊れた。慌てていて力加減を間違ったレオナルドは本日何回目になるかわからない溜め息をこぼした。
「あー、その。すまん。新しいカップを買ってやるからな」
「いえ、ムカつくんで末っ子に買わせてやります。フルセットで超高いやつを」
そんなのを買わせたら益々使いにくくなってレオナルド自身の首を絞めるんじゃないかと内心思ったが、それで気が晴れるなら良いかとノーマンはコメントを差し控える事にした。
(しかしアイツはなんだって幼児学校なんて考え出したんだ? ナニーと家庭教師がいてその後は学校で勉強するんで十分じゃないか。それに俺に手伝えるわけがない)
レオナルドは慣れた手つきで壊れた陶器を拾い集めた。
(仕方ない。弟の面倒を見にいくか)
「うん、相変わらずすっげえ不味い。ここまで不味い紅茶を淹れられるのは天性の才能かもしれん。しかし、暫くこのまっずい茶が飲めないとなると何だか寂しくもあるな」
ソファに座って苦笑いを浮かべているノーマンは兄弟騎士の一人で、レオナルドが騎士修道会に所属してからずっと世話になっている先輩のひとり。二人きりの時は堅苦しい言葉遣いはいらんと言って気楽に話しかけてくれる。
「ノーマンがそういう性癖を持ってるとは知らなかった。俺が行っても役に立ちそうにはないし、アイツの側にいたら本当に休暇にもならんと思う。ここにいて書類と睨めっこしてる方がよっぽどマシな気がする」
「お前に睨まれたら書類が火を吹きそうだな。普通の暮らしをして結婚するとか子供が欲しいとか思わんのか?」
「はあ、助けた子供が悲鳴を上げた後気絶するのにももう慣れた」
いつも助け出した女性や子供に泣かれて終わるか悲鳴を上げられるのがレオナルド。最近は被災者の前では顔の下半分を隠してみたりしているが、大きな身体が醸し出す迫力は隠しようがないので余り効果がない。
レオナルドはふと遠い記憶を思い出した。
「昔、1人だけ俺の事を怖がらない子がいたな」
「お? 昔の彼女か?」
滅多に自分のことを話さないレオナルドが呟いた言葉にノーマンが食いついた。
「父上に連れて行かれた家のメイドで俺と同い年の子だった。父上の横に並んだ4人兄弟を見ても全然表情が変わらなくて、随分と教育が行き届いてるんだなって思った」
13歳のレオナルドは既に兄弟の中でも頭一つ大きく、厳つい顔と広い肩幅でかなり威圧感があった。
「父上に何度頼んでも騎士にはなれないと言われ続けるし、学園でもなかなか友達ができなくて不貞腐れてた。学園で『怖くて近くに来てほしくない』と陰口を言われてるのを聞いたばかりだったしな。
その日は父上の知り合いの貴族に無理矢理挨拶に連れかれて不機嫌丸出しだったんだが、ちっこくて俺の胸くらいの背しかないくせに平気で声をかけてきた」
父親が話している間に気晴らしにと勝手に庭に出たレオナルドは件のメイドが花壇で花の植え替えをしているところに行き当たった。
「レオナルド様ですね。何か御用がございますか?」
警戒する様子もなく和かに話しかけてきたメイドに驚いたレオナルドはポカンと口を開けてメイドを見つめた。
「この先に当家の主人がお気に入りの四阿がございます。今はマグノリアがとても綺麗な花を咲かせていて良い香りがしています。宜しければ御案内いたしましょうか?」
呆然としたまま四阿に案内され気がついた時には目の前にお茶菓子と紅茶が並べられていた。
「まだ練習中なので余り上手に淹れられないのですがどうぞお召し上がり下さい。近くにおりますので御用の際はお声をおかけくださいませ」
静かにその場を離れようとしたメイドにレオナルドは思わず声をかけた。
「あの・・私の事が怖くないのか?」
キョトンとした顔で首を傾げたメイドの態度にはレオナルドを恐れている様子はほんの僅かも見えなかった。
「・・えーっと、それだけ?」
「ああ、それだけ。その屋敷に連れて行かれたのはその時一回きりだったしな」
本当はその後少し話をした。なんの花を植え替えようとしていたのかとか学園の事とか。メイドは主人の客に対し礼儀正しく受け答えをしているだけだがレオナルドにとっては世にも珍しい体験だった。
屋敷に戻った後『俺にもいつか見かけにこだわらず話をしてくれる人が見つかるかもしれない』と思ったのは秘密の話。
自分の子供なら生まれた時から少しずつ免疫をつければいけるかと思っていた時期もあったが、今まで彼女が出来たこともない過去を思い出し修道会を辞めても結婚も子供も無理だなと達観しつつある。
「にっこり笑ったら少しはマシにならんのか?」
「以前試したらますます怖がられた。魔王だの食われるだのって言われるだけなんでな。もう笑い方も忘れた気がする」
「はっはっは、顔の作りは結構整ってるのに必要以上にデカいからな。その迫力が戦場じゃあとてつもなく役に立つんだがなぁ」
ノーマンが貶した紅茶を飲んだレオナルドは慌てて茶菓子を口に押し込んだ。
(確かに殺人級の不味さだな。渋いのは解るが何で酸っぱいんだ?)
「これ、何かのイジメに使えそうな味だな。次の作戦で敵に飲ませてみるか」
「いい自白剤になりそうだな。あとは野営中の罰ゲームとか」
散々な言われように気分がドーンと落ち込んだレオナルドは頭をガシガシと掻きソファにもたれ溜め息を吐いた。
「多分、父は俺に見張りをして欲しいんだと思う。以前アイツは王都のタウンハウスにメナジェリーを作るって言って象を輸入しようとしたんで」
「象!? んで、可愛い末っ子は今度は何をやり出したんだ?」
「・・幼児学校をはじめるとか」
飲みかけた紅茶に咽せたノーマンがゲホゲホと咳き込んだ。ノーマンが持っていたカップをレオナルドが急いで受け取った途端『ガシャ』っと音を立ててカップが壊れた。慌てていて力加減を間違ったレオナルドは本日何回目になるかわからない溜め息をこぼした。
「あー、その。すまん。新しいカップを買ってやるからな」
「いえ、ムカつくんで末っ子に買わせてやります。フルセットで超高いやつを」
そんなのを買わせたら益々使いにくくなってレオナルド自身の首を絞めるんじゃないかと内心思ったが、それで気が晴れるなら良いかとノーマンはコメントを差し控える事にした。
(しかしアイツはなんだって幼児学校なんて考え出したんだ? ナニーと家庭教師がいてその後は学校で勉強するんで十分じゃないか。それに俺に手伝えるわけがない)
レオナルドは慣れた手つきで壊れた陶器を拾い集めた。
(仕方ない。弟の面倒を見にいくか)
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