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28.用足し場の恨みは深い
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砦を出発してから既に四日経っている。
初日の用足し場事件から日に数回檻から出されたが、縄で手を括られているのは変わらず用を足すときも見張りがついている。
しかも毎回カリタス修道士がついてくる。
(知らない人の近くでするのは嫌だけど、知ってる人はもっと嫌だわ)
その日の夕方、漸く目的地に着いたらしい。
石造りの堅牢な建物は正面入り口の横に二つの塔が立っている。尖塔を見上げると大天使ミカエル像が立っているのが見えた。
アイヴィは檻から出された後建物の中に連行され、入り口から延々と歩かされた。
部屋に入ると、皮張りの豪華なソファにサピエンチア修道院長が踏ん反り返って座っていた。
「久しぶりですなあ、アイヴィ殿。随分とお疲れのようだ。
しかも珍しいブレスレットを付けておられる」
修道院長のにやけた笑い顔にムカついたアイヴィは小さく膝を曲げ、
「お久しぶりです。二度とお会いせずに済むことを祈っておりましたのに、とても残念ですわ」
にっこり笑ったアイヴィを見た修道院長は、顔を真っ赤にして怒り出した。
「減らず口を叩きおって、今に泣き叫んでわしの足元にひれ伏せさせてやるわい!」
「随分と大きな声を出されて、如何なされましたかな。サピエンチア修道院長殿」
「これはミューリア司教殿、この度はお手数をおかけしましたな」
「とんでもありません。魔女を放置しておくことは出来ませんからな」
「あら、あなた方はグルだったの?」
「魔女というのは実に哀れな生き物ですな。我々の事は朋友とでも言うべきもの。
そのような下賤な言葉を使うものではない。
サピエンチア修道院長殿、さっさと異端審問済ませてしまえば如何ですかな?」
「まあお待ち下され、この者に慈悲を与えてやろうと思うておるのでな。
哀れなアイヴィよ、お前にチャンスをやろうではないか。
お前がそこにひれ伏し非礼を詫び、シスターとなって我らに従うならば全ての罪を許してやるがどうじゃ?」
「なぜそんなことをしなければなりませんの?」
「お前は魔女の力でわしの功績を奪い取り、愚弄したのを忘れたか!」
アイヴィは肩をすくめ、
「残念ながら、私の記憶とは随分な齟齬があるようですわ。
謝罪する必要をほんの僅かも感じませんもの」
「貴様! わしが優しくしていると思うて図に乗りおって、そんなに魔女裁判にかけられたいか!」
「思うわけないでしょう? あんなインチキの三文芝居、楽しみになんて出来るわけないわ。
それともインチキじゃないと修道院長さま自らが証明してくれるのかしら?」
「おのれ、好き勝手にいいおって。最も重い拷問にかけてやるから覚悟しろ」
「そんなことして良いんですか? 修道院長殿は私の医学知識が欲しいのでしょう? 薬学の知識も。
あなたが治せなかった王女殿下の“るいれき” を直せるほどの知識が。
私に何かあれば知識の全ては消えてなくなるの。
そして修道院長殿は今まで通りのボンクラのままね」
初日の用足し場事件から日に数回檻から出されたが、縄で手を括られているのは変わらず用を足すときも見張りがついている。
しかも毎回カリタス修道士がついてくる。
(知らない人の近くでするのは嫌だけど、知ってる人はもっと嫌だわ)
その日の夕方、漸く目的地に着いたらしい。
石造りの堅牢な建物は正面入り口の横に二つの塔が立っている。尖塔を見上げると大天使ミカエル像が立っているのが見えた。
アイヴィは檻から出された後建物の中に連行され、入り口から延々と歩かされた。
部屋に入ると、皮張りの豪華なソファにサピエンチア修道院長が踏ん反り返って座っていた。
「久しぶりですなあ、アイヴィ殿。随分とお疲れのようだ。
しかも珍しいブレスレットを付けておられる」
修道院長のにやけた笑い顔にムカついたアイヴィは小さく膝を曲げ、
「お久しぶりです。二度とお会いせずに済むことを祈っておりましたのに、とても残念ですわ」
にっこり笑ったアイヴィを見た修道院長は、顔を真っ赤にして怒り出した。
「減らず口を叩きおって、今に泣き叫んでわしの足元にひれ伏せさせてやるわい!」
「随分と大きな声を出されて、如何なされましたかな。サピエンチア修道院長殿」
「これはミューリア司教殿、この度はお手数をおかけしましたな」
「とんでもありません。魔女を放置しておくことは出来ませんからな」
「あら、あなた方はグルだったの?」
「魔女というのは実に哀れな生き物ですな。我々の事は朋友とでも言うべきもの。
そのような下賤な言葉を使うものではない。
サピエンチア修道院長殿、さっさと異端審問済ませてしまえば如何ですかな?」
「まあお待ち下され、この者に慈悲を与えてやろうと思うておるのでな。
哀れなアイヴィよ、お前にチャンスをやろうではないか。
お前がそこにひれ伏し非礼を詫び、シスターとなって我らに従うならば全ての罪を許してやるがどうじゃ?」
「なぜそんなことをしなければなりませんの?」
「お前は魔女の力でわしの功績を奪い取り、愚弄したのを忘れたか!」
アイヴィは肩をすくめ、
「残念ながら、私の記憶とは随分な齟齬があるようですわ。
謝罪する必要をほんの僅かも感じませんもの」
「貴様! わしが優しくしていると思うて図に乗りおって、そんなに魔女裁判にかけられたいか!」
「思うわけないでしょう? あんなインチキの三文芝居、楽しみになんて出来るわけないわ。
それともインチキじゃないと修道院長さま自らが証明してくれるのかしら?」
「おのれ、好き勝手にいいおって。最も重い拷問にかけてやるから覚悟しろ」
「そんなことして良いんですか? 修道院長殿は私の医学知識が欲しいのでしょう? 薬学の知識も。
あなたが治せなかった王女殿下の“るいれき” を直せるほどの知識が。
私に何かあれば知識の全ては消えてなくなるの。
そして修道院長殿は今まで通りのボンクラのままね」
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