【完結】売られた喧嘩は買わせていただきます。修道院長VS平民の戦い。騎士と王子に助けられました

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26.司教達

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 お昼前にラッパの音が鳴り響き、兵士達が広場に整列した。

 アイヴィは薄暗い部屋の中で司教の朗々とした演説を聞いていたが、じっとしていることができず部屋の中を掃除して回っていた。


 30分程度の話が終わると司教達と幹部達は司令室に行き、兵士達は昼食の時間になったようだ。


 兵士の一人がテントまで食事を運んでくれた。

「手間をかけさせてごめんなさいね」

「とんでもないです。アイヴィ殿が来てくれて、俺達は本当に助かっているんですから」


 司教達がいる間は戦闘訓練の時間が短縮された。

 司教達は全てのテントを周り兵士達に祝福を与え、希望者は別室で懺悔を行なっている。


(次に誰か来たらもっと薬草を持って来てもらおうかしら)

 部屋に閉じこもっているアイヴィは、時間のある間に少しでも沢山の薬を作っておこうと心に決めた。



 司祭達が帰る前日、アイヴィが隠れているテントの入り口を開けた者がいた。

「やはり噂は本当でしたな」

 そこには三人の司教が立っていて、その後ろにはカリタス修道士が静かに控えていた。

「何のことでしょうか?」

「砦内に不浄の者が潜んでいると言う噂です。
こちらに出て来てもらえますかな?」

 司教達は丁寧な口調だが、不快な者を見るように眉間に皺を寄せている。

 アイヴィは背筋を伸ばし堂々とテントを出て、司教達の後をついて行った。


 周りの兵士達がざわつき、テントから飛び出してくる者や走り出す者がいた。

 ローランが前に出て来て声をかけようとしたので、アイヴィは小さく首を振ってにっこりと笑いかけた。



「アイヴィ!」

 兵士の誰かが呼びに行ったらしく、リチャードが走ってやって来た。

「お待ち下さい司教様。
私は従軍医師のリチャードと申します。
その女性は私の助手をしてくれているのです。どうかお目溢しを」

 司教達はリチャードをチラリと一瞥したが、返答を返す事なくまた歩き始めた。



「随分と兵士達に人気があるようですな。魔女の幻術の威力がこれ程とは、それとも名のある魔女なのか」


「幻術など使わなくても、兵士の方々と信頼関係を結ぶ事はできます」

「ほう、どのようにして?」


 司教達の後ろでカリタス修道士が小さく首を振っているが、アイヴィはそれを完全に無視している。

「私はここで医師の助手をしています。怪我を癒してくれる人に信頼感を持つのは、人として当然のことではないでしょうか」


「シスターでもない貴方が医療行為の手助けを?」
「何と罰当たりな」
「兵士達を愚弄する行為ですな」


「医学や薬学は魔術でも何でもありません。
司教様ならばご存知の筈です」


「この魔女は我々を愚者だと嘲っておるのか」

「早々に引っ立てて異端審問会にて正そうではないか」

「聖別した縄にて拘束し、二度と魔術が使えぬようにせねば」


 アイヴィは縄で拘束されたまま牢に閉じ込められた。

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