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25.悲しい事実
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アイヴィが井戸で包帯やタオルを洗濯していた時、砦の入り口辺りが騒がしくなった。
(二日前に偵察隊が出発したのよね)
アイヴィは簡単に洗濯物を纏めて、広場を覗いてみた。
「道を開けろ!」
血だらけで戸板に乗せられた兵士や、肩を貸してもらってようやく歩いている兵士達が続々と医療用テントに向かって歩いていた。
洗濯物を抱えたアイヴィはテントの裏から入り、リチャードの元に急いだ。
「アイヴィ、ニワトコ油を持って来て沸騰させてくれ」
「何に使うの?」
「銃創を焼くんだ」
アイヴィはリチャードの耳元で、
「駄目よ、やるなら卵白とバラの香油とテレピン油を使って。その方が炎症が最低限に抑えられるの。
お願い、私を信じて」
リチャードは頷き、
「バラの香油とテレピン油なら薬品庫にあるから持って来てくれ。おい、誰か卵を貰って来てくれ」
兵士の一人が走り出した。
全員の治療を終えた頃には、夕闇が辺りを染めはじめていた。
「吃驚したよ。あんな方法があったなんて」
「つい最近発見されたの。ニワトコ油がなくて試したら成功したって。
村の猟師が怪我をした時試したんだけど、術後の経過が良かったから」
「ずっとここで仕事に追われてたから知らなかった。
アイヴィのお陰でダイアン達は泣き叫ばずに済んだよ」
翌日からもいつもと同じく朝から患者の手当てをし、その合間に薬の調合や洗濯と座る暇もなく働いていた。
「アイヴィ、少し休憩するといい。
いつ何が起きるかわからないから、休める時に休んでおかないと身体がもたないからね」
偵察隊が待ち伏せにあったことから、上層部は連日作戦会議を行なっており兵士たちには束の間の平安が訪れていた。
今は午前の強化訓練中なので、広場から指揮官の大きな掛け声や兵士の走り出す音が聞こえてくる。
「明後日、教会から司教達がやって来て暫く滞在するそうだ。
奴らがいる間は部屋に隠れていてくれるかな。
アイヴィには申し訳ないが、ここに士官の妻と非戦闘従事者以外の女性がいるのは不味いんだ」
「非戦闘従事者って何?」
「・・娼婦だ」
「そうか、分かったわ。出来る限り部屋で大人しくしてるわ」
「なるべく早く帰ってくれる事を祈るよ。
あいつら何もかも食べ尽くして行くから」
ダイアンがベッドから少し体を起こしてアイヴィに話しかけて来た。
「明後日、司教達が来るんだろ?」
「そうみたい」
「なら急がないとな」
ダイアンの顔つきは暗く、司教達の来訪を喜んでいるのではないらしい。
「司教様が来られると何かあるの?」
「近々大きな戦いがあるって事だ。死ぬ前に神の教えを聞いて懺悔しとけって事なんだ」
(二日前に偵察隊が出発したのよね)
アイヴィは簡単に洗濯物を纏めて、広場を覗いてみた。
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血だらけで戸板に乗せられた兵士や、肩を貸してもらってようやく歩いている兵士達が続々と医療用テントに向かって歩いていた。
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「何に使うの?」
「銃創を焼くんだ」
アイヴィはリチャードの耳元で、
「駄目よ、やるなら卵白とバラの香油とテレピン油を使って。その方が炎症が最低限に抑えられるの。
お願い、私を信じて」
リチャードは頷き、
「バラの香油とテレピン油なら薬品庫にあるから持って来てくれ。おい、誰か卵を貰って来てくれ」
兵士の一人が走り出した。
全員の治療を終えた頃には、夕闇が辺りを染めはじめていた。
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アイヴィのお陰でダイアン達は泣き叫ばずに済んだよ」
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「アイヴィ、少し休憩するといい。
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今は午前の強化訓練中なので、広場から指揮官の大きな掛け声や兵士の走り出す音が聞こえてくる。
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「近々大きな戦いがあるって事だ。死ぬ前に神の教えを聞いて懺悔しとけって事なんだ」
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