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11.安心と密談
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「陛下・・」
まだ青白い顔のジュリア王女がベッドから起きあがろうとした。
陛下はそれを押し留め、
「無理をするでない、横になっておれ。気分はどうじゃ?」
「先程頂いたお薬が美味しかったので、とても気分がスッキリしています」
ジュリア王女がにこやかに微笑むと陛下は、
「そうか、余は美味しい薬湯なぞ飲んだことがないがな?」
「少し体力が回復してきたから、蜂蜜を入れてくれたそうですわ。今度ミルクティーを作ってくれるそうです」
「そうか、それは楽しみだな。其方の顔を見れて安心した。早く良くなるのだぞ」
「はい、ご心配をおかけしました」
「ライオネルが隣国から帰って来るまでに、もう少し元気になると良いのだがな。
其方が病気だと知れば、あやつは公務を放り出して騒ぎかねん」
陛下と王女は目を見合わせて笑い合っている。
「さて、余はもう行かねば。いつまでもここにいては宰相達が騒ぎ始めようて」
「また会いに来て下さいます?」
「勿論だとも、毎日でもな」
「お疲れになられたらアイヴィに薬湯を作ってもらうと宜しくてよ」
「其方は余程アイヴィを信頼しておるのだな」
「アイヴィは私の女神様ですもの。
あの頃、あまりにも辛くて神のお召しを待ち望んでおりましたの」
陛下が息をのみ絶句した。
「アイヴィはきっと神様からの贈り物ですわ。そしてお父様からの」
「・・ジュリア、辛い思いをさせてすまなかった。それでもまだ父と呼んでくれるのか」
「勿論ですわ。私にとっては尊敬できる陛下で大好きなお父様ですもの。
でもお願いですからあの太っちょは・・」
「分かっておる。修道院長は早々に帰らせよう」
「良かった。これでもうドアがノックされる度にビクビクしなくてすみますわ」
陛下はジュリア王女の頭を撫で、名残惜しそうに席を立った。
「アイヴィ、礼を申す。これからも王女を頼んだ」
アイヴィは頭を下げ、陛下は執務に戻って行った。
カリタス修道士はその光景を、部屋の隅で黙って見つめていた。
その日の夜、カリタス修道士はサピエンチア修道院長から呼び出しを受けた。
「お呼びでしょうか」
「おお、ブラザー。其方に頼みがあるのだ、もっと近くに」
カリタス修道士が修道院長の側によると、修道院長は声を顰めて話し始めた。
「これは修道院全体の威信につながる大切な話じゃ。
我らは今、魔女に名誉を汚されそうになっておる」
「魔女ですか?」
「そうじゃ、賢明なるブラザーならば既に気づいておろう。あの醜悪極まりない魔女の存在を神がお許しにはなられん事をな。
あやつを正しき場所に送らねばならん。
わしが言っている意味は分かるな」
「・・はい」
「流石は誉高いマルタ騎士修道会の修道士。この聖水を魔女の飲み物にこっそりと入れるのじゃ」
「聖水でございますか?」
「わしが作った貴重な聖水じゃ。あの者が人ならばなんの問題もないが、魔女であれば大いなる神の力を発揮するであろう。
くれぐれも魔女に悟られぬようにな」
カリタス修道士は、手のひらに収まる程度の小さな小瓶を受け取り部屋を辞した。
まだ青白い顔のジュリア王女がベッドから起きあがろうとした。
陛下はそれを押し留め、
「無理をするでない、横になっておれ。気分はどうじゃ?」
「先程頂いたお薬が美味しかったので、とても気分がスッキリしています」
ジュリア王女がにこやかに微笑むと陛下は、
「そうか、余は美味しい薬湯なぞ飲んだことがないがな?」
「少し体力が回復してきたから、蜂蜜を入れてくれたそうですわ。今度ミルクティーを作ってくれるそうです」
「そうか、それは楽しみだな。其方の顔を見れて安心した。早く良くなるのだぞ」
「はい、ご心配をおかけしました」
「ライオネルが隣国から帰って来るまでに、もう少し元気になると良いのだがな。
其方が病気だと知れば、あやつは公務を放り出して騒ぎかねん」
陛下と王女は目を見合わせて笑い合っている。
「さて、余はもう行かねば。いつまでもここにいては宰相達が騒ぎ始めようて」
「また会いに来て下さいます?」
「勿論だとも、毎日でもな」
「お疲れになられたらアイヴィに薬湯を作ってもらうと宜しくてよ」
「其方は余程アイヴィを信頼しておるのだな」
「アイヴィは私の女神様ですもの。
あの頃、あまりにも辛くて神のお召しを待ち望んでおりましたの」
陛下が息をのみ絶句した。
「アイヴィはきっと神様からの贈り物ですわ。そしてお父様からの」
「・・ジュリア、辛い思いをさせてすまなかった。それでもまだ父と呼んでくれるのか」
「勿論ですわ。私にとっては尊敬できる陛下で大好きなお父様ですもの。
でもお願いですからあの太っちょは・・」
「分かっておる。修道院長は早々に帰らせよう」
「良かった。これでもうドアがノックされる度にビクビクしなくてすみますわ」
陛下はジュリア王女の頭を撫で、名残惜しそうに席を立った。
「アイヴィ、礼を申す。これからも王女を頼んだ」
アイヴィは頭を下げ、陛下は執務に戻って行った。
カリタス修道士はその光景を、部屋の隅で黙って見つめていた。
その日の夜、カリタス修道士はサピエンチア修道院長から呼び出しを受けた。
「お呼びでしょうか」
「おお、ブラザー。其方に頼みがあるのだ、もっと近くに」
カリタス修道士が修道院長の側によると、修道院長は声を顰めて話し始めた。
「これは修道院全体の威信につながる大切な話じゃ。
我らは今、魔女に名誉を汚されそうになっておる」
「魔女ですか?」
「そうじゃ、賢明なるブラザーならば既に気づいておろう。あの醜悪極まりない魔女の存在を神がお許しにはなられん事をな。
あやつを正しき場所に送らねばならん。
わしが言っている意味は分かるな」
「・・はい」
「流石は誉高いマルタ騎士修道会の修道士。この聖水を魔女の飲み物にこっそりと入れるのじゃ」
「聖水でございますか?」
「わしが作った貴重な聖水じゃ。あの者が人ならばなんの問題もないが、魔女であれば大いなる神の力を発揮するであろう。
くれぐれも魔女に悟られぬようにな」
カリタス修道士は、手のひらに収まる程度の小さな小瓶を受け取り部屋を辞した。
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