【完結】売られた喧嘩は買わせていただきます。修道院長VS平民の戦い。騎士と王子に助けられました

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1.苦渋の決断

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「何故だ、何故治らんのだ!」

 イデウラル国王は聖水の入った盃を見つめながら拳で机を何度も叩いた。
 盃の中の聖水が溢れ国王のコートの裾を濡らしたが誰も側に近付けないでいた。

「やり直しだ。聖水に問題があったのだ。塩と水を持て!」

 聖水を作る為の材料が並べられた。

  ・ひとつまみの塩
  ・水を注いだ盃
  ・5センチ四方の白い紙

 塩を指差し、定められた文言を呟く国王の目は血走り、額には玉の汗が浮かんでいる。
 儀式が終わるとすぐ、新しい聖水を自ら持ち国王は王女の寝室へ急いだ。


 ジュリア王女は顎の下が腫れ、熱と汗で髪が張り付いている。
 浅い息をしながら潤んだ目で国王を見上げるジュリア王女の額から髪を剥がし、
「余は多くのるいれき結核の一種患者をこのロイヤル・タッチで直してきたのだ。
必ず・・何としてでも其方を助ける。
心配するでないぞ」


 代々の国王が行ってきたロイヤル・タッチとは、病気に苦しむ患者の患部に触れて十字を切り、コインを入れた聖水で手を洗うもの。

 この手法で多くの患者を直してきたにもかかわらず、何度秘技を重ねてもジュリア王女の病状は良くならないばかりか悪化の一途を辿っていた。


(余も宮廷医師団も駄目だった。
別の方法・・修道士に頼むしかないのか)


 王家と教会は長年対立関係にある。教会や修道会に助力を頼むことは両者の均衡を崩す危険をはらんでおり、避けるべきなのだが。

 国王は自分の非力さに苦渋の決断をせねばならなかった。



「それで私共に王女殿下の病を癒やせと?
良いでしょう。元々ロイヤル・タッチなどと言うまやかしなど我々は信じておりませんからな。
これからは陛下も御心を入れ替えて、我らの言葉に耳を傾けてくださるようになられますなぁ」

 剃髪した修道士が被るピレウス帽とクレリカル・ガウン修道士の着るガウンで正装したサピエンチア修道院長は、太鼓腹を抱えてほくそ笑んだ。


 王家の使者が帰った後、
「マルタ騎士修道会のカリタス修道士を呼べ。
あの者に王宮までの護衛をさせよう。
王家の使者は良い時に来たものだ。歴戦の騎士カリタスが護衛ならば、道中不測の事態に陥る事もなかろう」


 菜園で鍬を振るっていたカリタス修道士は急ぎ自室に戻り、剣の手入れを行い少ない手荷物を纏めはじめた。


 修道院長の世話役の修道士が尋ねた。

「サピエンチア修道院長、王女の病を治した後はどうなされるのですか?」

「そうよのぉ、陛下が何よりも大切にしている王女をお助けするのだ。褒美は思いのままよの」

 二人は顔を見合わせニヤリと笑い合った。



 サピエンチア修道士は必要と思われる薬草や聖水を準備し、カリタス修道士が先導する豪奢な馬車で王宮へと出立した。

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