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26.勝者ヒューゴ

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 以前置かれていたのは白大理石のテーブルで、白の地色にグレーと暖色オレンジのスジが入った特注品だった。
 高級感溢れるテーブルの難点は傷や酸に弱いこと。

 今置かれている光沢のある御影石のテーブルは、銀色に輝く星屑が散りばめられた黒の御影石で出来ている。
 美しさもさることながら固く傷に強いのが特徴。



「以前使っておりました白大理石のテーブルをとても気に入っておりましたが、ある方が扇子で傷をつけられてしまい使えなくなってしまいまして。
それでこの御影石を輸入した訳ですが。
故意に傷をつけられるのであれば弁償して頂かなくてはなりません。
このテーブルの価格をお知らせしておいた方が宜しいですか?」


「成り上がり者は何でも金金金。本当に下品極まりない」


「ですが自分で稼いだ金ですから。
人の金を当てにして豪遊・散財する節操なしで厚顔無恥な貴族のような浅はかな行いはしておりません。
傍若無人を付け加えても良さそうだ」


「な!」


「扇子は革職人・金箔師・金細工師・手袋職人、その他にも地紙を加工する為の職人や木工細工師などが集まり作成する芸術品です。
今お持ちの扇子・・代金はどなたが払われたのですか?
是非ともお聞かせ下さい」


 腕を組みイライザを睨みつけるヒューゴ。

 真っ赤な顔で脂汗を垂らしながら目を泳がせるイライザ。

「そっそんな些末さまつなことなど、わたくしが知る必要はないわ。
家政を取り仕切るのは執事の役目、その為に高い給金を払っているのですから」


 顔色が赤から青に変わったイライザはますますダラダラと汗を流しており、後ろからメイドがハンカチを渡そうとしたが扇子でピシリとはたき落とした。
 握り締めていた扇子は既におかしな形に曲がっている。


(すげ、鉄をひん曲げた。それに、あの汗・・ソファは張り替えが必要だな。廃棄処分か?)



「ほう、その給金を払っているのはどなたかな?」

「むっ息子のリチャードに決まっているでしょう」


「帰って確認されるべきですな。お見送りは致しませんので。
無理矢理押し入ってこられたくらいだ。
帰り道はご存知でしょう」


 立ち上がりヒューゴを睨みつけた後、どすどすと音を立てて帰って行くイライザ。
 背中とお尻の辺りがじっとりと・・。


 最後まで何も言わなかったローマンはやっぱり何も言わず出ていった。


(そう言やぁ「ひっ!」は喋ったうちに入るのか?)



 ヒューゴが首を傾げていると、イライザが出て行ったドアと反対側のドアが開きルーシーが入って来た。


「ありがとう、それとお疲れ様です。
それにしても想像通り? いつも通りの凄さだわ。
父さんは彼女に負けてないからもっと凄いけど」

「手加減したぞ? この後の裁判でかたを付けるつもりだからな。陪審員の前の方がダメージ大きそうだろ」


 凄みを増したヒューゴの笑い顔に、私ももっと強くならなくちゃ! と気合を入れるルーシーだった。


 戻ってきたグレイソンに、

「ソファを処分するように言っといてくれ。あいつの汗が染み込んだソファなんか使い物にならんだろう。
いや、今回の件が終わるまでは取っとくか。面倒だが奴らが来た時にはそれを使うとしよう」


(このソファ、もの凄く重いんです。しかもどこに置いとくんですか?)



「私出かけてくるわ。アンゲルス商会から連絡が来てるの。
それとお昼はアリスへのお礼を兼ねて外で食べてくるから。
帰る前にアーロンの所にも寄ってくる」

「おう、俺も少し働いてくるか。うちの奴らのケツを叩いてくる。
気を付けろよ」



 アンゲルス商会はガードナー商会から北へ馬車で十五分。王都のメインストリートの貴族街に近い場所に店を構えている。

 綺麗に磨かれたガラスは強力な魔法防御がかけられ、手銃の攻撃にも耐えられる。

 ショーウィンドウに飾られているのは全て精巧に作られたレプリカ。

 二重扉は常時施錠されており、店員が来客を確認した後に解錠される。



 良質な大理石を使ったエスタコウォールの壁には数点の絵画とタペストリーが展示され、ショーケースの中には貴金属やアクセサリーが並べられている。

 その他にはロココ調のソファが置かれているのみの広々とした空間に仕上がっている。

 奥には商談用の豪奢な応接室が二部屋が準備されている。


(開店当初はやり過ぎかと思ったけど、結構役に立ってるのよね)


 開店した当初から数回、被害はなかったものの強盗の襲撃を受けていた。


「ルーシー様、至急ご相談したい事が」

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