上 下
4 / 21

4.待ち焦がれたお茶会

しおりを挟む
 ここ暫く続いている好天に恵まれ、カートレット家の庭は初夏の花々で溢れかえっていた。

 玄関から庭へ続く道には、古代ギリシャの羊飼い達が枝の髄の部分をくりぬいて笛を作っていたと言うライラックが紫色・薄紫色・ピンク色・白色などの一重や八重の花を今を盛りにと咲き乱れさせている。


 今日は庭の東側、家族がバラ園と呼んでいる場所にテーブルを準備した。

 一番手前には前年に接ぎ木して1年間養成した木立ち性のピンクのブッシュ・ローズが咲きほころび、甘い香りを漂わせている。
 少し離れた場所に見える半つる性のシュラブローズは白と黄色、その向こうにはつるバラの赤いクライミング・ローズが見えている。


 三人とも約束の時間よりも早く到着した。申し訳なさそうな顔をしたシエナが、
「礼儀知らずでごめんなさいね。話が聞きたくて待ちきれなくって・・」

 くすくすと笑うリリアーナは、
「もう準備出来てたから大丈夫。私が逆の立場だったらもっと早く着いてるかも、だから気にしないで」



 リリアーナが丸いテーブルの隣の席をシエナに勧めると、マチルダとミリアも席についた。

 テーブルにお茶や様々なお菓子を並べてメイドが下がって行くと直ぐに、気の早いマチルダが話を切り出した。

「で?」

「えーっと、何から話したら良いのか沢山ありすぎて昨日から悩んでるの」

「みんな聞きたいことが沢山あるから順番に一つずつ聞くのはどう?」

 ミリアの提案にみんなが頷くと、
「ではミリア・シエナ、私の順で聞くのはどうかしら? 今回の事って一番の被害者はリリアーナで、その次はミリアでしょう? シエナはルーカスの幼馴染だし」

 四人は顔を見合わせて頷いた。

「ありがとうマチルダ。じゃあ私からの質問ね。リリアーナはこのままで良いの? この間ルーカスがあの子を引き取ってくれたら嬉しいなんて言ったけど、そしたらリリアーナは婚約破棄になっちゃうでしょう? 私すごく勝手な事を言ったって反省してるの。ごめんなさい」

「心配してくれてありがとう。ルーカスと婚約破棄するのはもう決めてるの。お父様やお母様の許可も頂いてるし。
決まってないのはどういうやり方をするかだけなの」

「あの様子だとルーカス達はまだ知らないのよね」

「ええ、ルーカス有責で婚約破棄する為に準備してるからもう少し時間がかかると思うわ」

 三人はリリアーナの事を心配していたようで「良かった」と口々に言いながら漸くお菓子に手を出しはじめた。


 暫く和やかな時間が過ぎた後マチルダが本題に切り込んできた。

「あの噂って本当なの? ほら、ルーカスが次期侯爵になるって」

 リリアーナはチラッとシエナに目をやった後おもむろに口を開いた。

「長男のエリオット様がね侯爵家を継がないって仰ってるの。それでルーカスは次男の自分が継げるって張り切ってるんだけど、まだ何もはっきり決まったわけじゃないのに」

「三男のアーロン様はすごく優秀よね。ルーカスの成績は下から数えた方が早いし、あの子もだけど」

 姉御肌のマチルダはリリアーナやミリアを傷つけたジェシカの事が許せないようで、極力名前を呼ばないようにしている。
 リリアーナはシエナの様子を伺いながら次の言葉を口にした。

「エリオット様は・・修道士になると仰って、ドントジー侯爵夫妻が大反対してる」


 身を乗り出すようにして話を聞くマチルダやミリアと違い、シエナは持っていた紅茶のカップを取り落とし真っ青になって固まってしまった。

「「シエナ大丈夫?」」

「・・どっどうしよう。わた、私のせいだわ」

 リリアーナは震えているシエナの手を握り優しく話しかけた。
「シエナ、良かったら私達に話してみない?」

 しんと静まりかえったお茶会の席には、それまで以上に薔薇の芳香が漂ってきたように感じられた。


 シエナは震える手でリリアーナの手を握り返し、優しく覗き込むリリアーナに小声で聞き返した。



「リリアーナ、もしかして・・知ってた?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

卒業記念パーティーに参加していた伯爵家の嫡男です。

剣伎 竜星
恋愛
「私、ルカス・アバロンはソフィア・アルビオン公爵令嬢との婚約を破棄するとともに、このカレン・バーバリアス男爵令嬢を新たな婚約者とすることをここに宣言する!」 本日はアバロン王立学園の卒業式で、式はつつがなく終了し、今は式後の記念パーティーが開催されていた。しかし、突然、学園で評判の悪いルカス第一王子とその取り巻き、そして男爵令嬢が乱入。第一王子が前述の婚約破棄宣言を行った。 ※投稿リハビリ作品です。 ※R15は保険です。 ※本編は前編中編後編の3部構成予定で、後編は後日談です。

さようならお姉様、辺境伯サマはいただきます

夜桜
恋愛
 令嬢アリスとアイリスは双子の姉妹。  アリスは辺境伯エルヴィスと婚約を結んでいた。けれど、姉であるアイリスが仕組み、婚約を破棄させる。エルヴィスをモノにしたアイリスは、妹のアリスを氷の大地に捨てた。死んだと思われたアリスだったが……。

(完結)私は一切悪くないけど、婚約破棄を受け入れます。もうあなたとは一緒に歩んでいけないと分かりましたから。

しまうま弁当
恋愛
ルーテシアは婚約者のゼスタから突然婚約破棄を突きつけられたのでした。 さらにオーランド男爵家令嬢のリアナが現れてゼスタと婚約するとルーテシアに宣言するのでした。 しかもゼスタはルーテシアが困っている人達を助けたからという理由で婚約破棄したとルーテシアに言い放ちました。 あまりにふざけた理由で婚約破棄されたルーテシアはゼスタの考えにはついていけないと考えて、そのまま婚約破棄を受け入れたのでした。 そしてルーテシアは実家の伯爵家に戻るために水上バスの停留所へと向かうのでした。 ルーテシアは幼馴染のロベルトとそこで再会するのでした。

美しい貴族の令嬢である婚約者を捨てた愚かな王子の末路は……。

四季
恋愛
美しい貴族の令嬢である婚約者を捨てた愚かな王子の末路は……とんでもないものでした。

目を覚ました気弱な彼女は腹黒令嬢になり復讐する

音爽(ネソウ)
恋愛
家族と婚約者に虐げられてきた伯爵令嬢ジーン・ベンスは日々のストレスが重なり、高熱を出して寝込んだ。彼女は悪夢にうなされ続けた、夢の中でまで冷遇される理不尽さに激怒する。そして、目覚めた時彼女は気弱な自分を払拭して復讐に燃えるのだった。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

わがまま妹、自爆する

四季
恋愛
資産を有する家に長女として生まれたニナは、五つ年下の妹レーナが生まれてからというもの、ずっと明らかな差別を受けてきた。父親はレーナにばかり手をかけ可愛がり、ニナにはほとんど見向きもしない。それでも、いつかは元に戻るかもしれないと信じて、ニナは慎ましく生き続けてきた。 そんなある日のこと、レーナに婚約の話が舞い込んできたのだが……?

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

処理中です...