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107.なんてこった! またクソ野郎が繁殖です

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「バリケードの撤去ですか⋯⋯ようやく話を聞く気になったようで安心いたしました。まあ、いくら駄々をこねても提示した以上の給料は出しませんし⋯⋯以前も申し上げた通り、船だけ売っていただくのでも構いませんよ?
当商会は王家御用達ですから、言い値でお支払いして差し上げますしねえ。その程度の端金など、ウチとしては全く問題ないのです。
ああ、その時もシーミアさんは当商会で雇って差し上げますから、ご安心ください。商会長と話したのですがね、シーミアさんが接客するなら給与とは別に、使用人付きの屋敷を差し上げましょうと思っておるのですよ」

「キモッ!」

 思わずロクサーナが呟いた一言が商会員の耳に届いたらしい。

「ムムッ、子供の戯言でも許されません! どこの子が知りませんが、どうせそこらの漁師の娘でしょう。礼儀知らずにも程がある!」

 ロクサーナが着ている服が、平民の男達の服装とよく似て見えたのかもしれないが⋯⋯長袖で丈の短いチュニックとズボンは、どちらも魔糸から生地を錬金し最大の付与を掛けたもの。女の子らしさを醸し出している、腰に巻いた刺繍入りの飾り帯の刺繍には、ピッピに貰ったフェニックスの羽を練り込んである。

 編み上げ式の皮のロングブーツはワイバーンの皮を使った特注品で、腰に下げているのはドワーフ作でアダマントを使った短剣。

 見る人が見れば絶句する、お値段知らずのラインナップ。

(偉そうな商会員は、見る目がなさそうですけど~)

「さっさと消えなさい! 5秒待って差し上げます。その間にいなくなれば良し、それ以上私の目の前に居座るなら、海に叩き落としてやります。
5、4、3、2⋯⋯良いのですか? 本当に海に落としますからね? 1、ゼロォォ!」

 大袈裟な仕草で指を折りながらカウントダウンしていた商会員が、ステッキを振り上げて詠唱をはじめた。

《水の精霊よ、その身を刃に変え我が敵を切り裂け》

 ニヤリと笑った商会員が杖を振り下ろし《ウォーター・カッター!!》と唱えたが⋯⋯。


 シーン⋯⋯


「な、なんでだ!? ちゃんと詠唱したし、魔法の発動も感じたのに」

 ロクサーナに魔法をキャンセルされたのさえ気付かない商会員が、もう一度ステッキを振り下ろした。

「くそぉ! なんでだぁ、今まで一度も失敗したことなかったのにぃぃ」

「ルイス~⋯⋯今のって水魔法?」

「ああ、初級の水魔法だね。成功すれば円盤状の水で物体を寸断するんだ。練度が高ければ敵を追尾させることもできるから、初級の中でも威力の高い魔法だよ」

「じゃあ、そこの狐目のおっさん商会員! 私は先に魔法で攻撃されたってことで良いですよね。失敗したからノーカンとか言いますか?」

「はあ? 何を言ってるんだ! お前ら、あの生意気な小娘を海に叩き落としてしまえぇぇ」

 一番近くにいたゴツゴツの男が飛び出し、ロクサーナの襟首を掴みかけた。

「よっしゃあ! 今度は間違いなく攻撃されたって事で良いですよね~! えっ、まさか、躱したからダメとか言わないでよ。掠ったもん、指の横がほんのちょっぴり掠ったから、攻撃ありでいいよね~。
シーミアさん達は手を出しちゃダメだよ、後で因縁つけられたら面倒だからね!
さてさて、痛い思いが嫌な人は避けてね~」

 ふっふふーんと楽しそうにステップを踏んだロクサーナが、狭い桟橋で回し蹴りを放った。


  ぶへぇ⋯⋯ザバーン


 それをきっかけにジルベルトが参戦し、向かってきた男達を次々と海へ落としていった。

「弱すぎじゃん! もしかして、護衛じゃなくてただの『賑やかし』だった?」



 青褪めた商会員と、後ろの方で様子を伺いながら小さくなっていた護衛が数名残ったところで⋯⋯。

「さっきは初級水魔法だったんだよね~。それってこんな感じ?」

 ロクサーナがパチンと指を鳴らすと、海に落とされた男達が海水ごと舞い上がり、商会員の前にボトボトと落ちてくる。

「うげぇ!」

「あがっ!」



「それじゃあ、風魔法との複合だよ。彼がやろうとしたウォーター・カッターって言うのはね⋯⋯」

 ジルベルトが商会員を指差すと、円盤状の水が現れて商会員達の周りをクルクルと回りはじめた。

「で、練度を上げればこうやって、追いかけっこもできる」

 ギリギリまで近付いた水の刃から逃げ回る商会員や護衛達。

「ぎゃあー!」

 パシュッと音を立てて水の刃が地面に落ちた。

「こんな感じかあ⋯⋯おーい、狐目~、覚えたあ? 魔法レッスンだから、お代はちゃーんと払えよ~」

(やっぱり金取るんだ⋯⋯流石ちび、相変わらずの銭ゲバだな)



「ウルサ~、何か話があったんだっけ?」

 船縁から楽しそうにショーを見ていたウルサが桟橋に飛び降りた。


 ミシッ、ベキベキ⋯⋯


「おう、俺達はお前の所属しているマーベラス商会の遊覧船とやらに興味はねえ。んで、船も売らねえしな。これが最後通告だ、二度と俺たちの前に顔を出すな。聞こえたらさっさと帰りやがれ!」

「あたしもマーベラス商会で働くつもりはないの。だって、ホントにキモいんだもん」

 ドヤ顔で言い切ったシーミアとロクサーナが、フィストバンプして笑い合った。



「グッ、くそ! ホントのホントに良いんですかねえ。アンセルさんの奥さんとか子供とか、ここにはおられませんけどお? 
実はですね~、今頃ウチの手の者がアンセルさんちにお邪魔してるんですよね~。奥さん美人でしたし、お子さんも将来楽しみですしねぇ⋯⋯ウルサさん達がどーしてもウチと契約したくないってんなら、ウチが関係してるお店で奥さんにお仕事していただきましょうかねえ。
今まで交渉にかかった手間賃を含めて、奥さんの身体で払ってもらって、終わりにしますか?」

「それがマーベラス商会としての最終決定か?」

「はい、もちろんです。初期のキャラベル船で遊覧する計画は、すでに王の許可もいただいてますからねえ、マーベラス商会としては失敗するわけにはいかないんですよ。
商会長から『どんなことをしてでもサインをもらってこい』と厳命を受けてますから」

「やれるもんならやってみろよ。お前らのやりそうな事が分からんとか、ありえねえし? それよりもだ、マーベラス商会の商会長の指示で『理由もなく仲間の嫁さんを娼館に沈める』とまで言いきって、商会が潰れなきゃ良いがな」

「は! たかが漁師のくせに! お前の言葉なんて誰も聞きゃしません。そんな脅しが通用するわけな⋯⋯」


『⋯⋯ウルサさん達がどーしてもウチと契約したくないってんなら、ウチが関係してるお店で奥さんにお仕事していただきましょうかねえ。
今まで交渉にかかった手間賃を含めて、奥さんの身体で払ってもらって終わりって事にしますか?』

「は? なんだ今のは!」

「商会員のくせに記録する魔導具を知らないんですか? うっそお、やっぱり商人ギルドが斜陽だってのはホントなのかも!
さっきの話は映像込みで記録しといたんで、マーベラス商会潰れますね~」

 爽やかな笑顔込みでサムズアップしたロクサーナが、公国の王宮がある方向を指差した。

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