【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

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103.お祝いするなら、是非ともアレが食べたい

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 冬が終わり春が近づいた頃、山からゴン太が降りてきた。

【う、産まれる~! ピシッて⋯⋯卵がピシッて言ったよお。ど、ど、どうしたらいいの?】

 だったらそばを離れるな! と言いたいのを我慢して、山に転移したロクサーナ一行を迎えてくれたのは、既に母の顔をしたドラ美。

【会いにきてくれたの? 多分だけど、あと2回くらいピシッて言ったら会えると思うわよ~】

 卵とドラ美を遠巻きにして座り込んだ一行は、奇跡の瞬間を見逃すまいと息を顰めてその時を待った。


 ピシッ!


 ソワソワとドラ美の周りを彷徨いていたゴン太がピョンと飛び上がった。

【ま、また音がしたぁぁ! ど、ど、どうしよう!】

 どうもしない⋯⋯待つだけだよ?



 寿命の長いドラゴンの卵が孵化するのは数百年ぶりらしく、空には様々な色のドラゴンが集まって奇跡の瞬間を待っている。


 ピシッ!


【ピッ! ピィ】


【う、うおぉぉ、産まれたぁぁ! 僕とドラ美ちゃんのぉぉ、子供だぞぉぉ】

 興奮しすぎたゴン太が火を吹きドラ美が慌てて卵を庇うと、空で様子を窺っていたドラゴン達も一斉に咆哮を上げた。

 銀色に輝く真っ白な産まれたてのドラゴンは、頭に乗った殻をプルプルと振り落として、トテトテとミュウの前にやって来た。

 キョトンと首を傾げる姿も可愛い。

【ピィッ⋯⋯兄ちゃ?】

 色で判断⋯⋯。

【姉ちゃ?】

 同じ羽持ちのピッピに飛びついた。

【ド、ドラ美ちゃん⋯⋯僕達の子供って天才かも。産まれて直ぐに話しはじめた。エグッエグッ⋯⋯ドラ美ちゃん⋯⋯ありがとう。僕、めちゃめちゃ幸せ。
ドラゴンの頂点に君臨するの間違いなしだから、英才教育する? 先生は誰がいい? 僕、バカだから教えてあげらんないよお!】

 想像以上の親バカが爆誕した。

【周りにいるのが神と精霊で、ロクサーナちゃんやジルベルト君も人間離れしてるし。みんなの魔力や神気で一気に成長しちゃったみたいね。
ドワーフの子供達もそこから覗いてくれてるわ】

 振り返ると木の影からいくつもの顔が覗いている。

【近くにいらっしゃいな、うちの子の友達になってくれると嬉しいの】

 ドラゴンベビーは一斉に駆けよったドワーフの子供達の中でも怯える事なく、元気に羽を広げて挨拶をはじめた。

【ピィッ⋯⋯あちょぶ?】

【ドラ美ちゃん、この子のお名前は?】

【まだ決めてないの、どうする?】

 ゴン太に話を振ったが、嬉し泣きが忙しすぎて話が聞こえてないらしい。

【少し落ち着いてから決める事にするわ。それまでは⋯⋯『ベビー』って呼ぶ事にするわね】

【ベビちゃんよろしく~、俺らはドワーフじゃけん飛べんけど、いっぱい遊ぼうな】

【ゴン太パパに乗せてもらえば、一緒に飛べるけんね】

【お祝いじゃ言うて騒ぎよったけん、母ちゃん達に知らせてくる!】

「じゃあ、私も盛大に食材を提供しに行こう!」

 ドワーフの子供達と一緒になって、ロクサーナが山を駆け降りた。



 誕生を祝う島の呑気な様子とは違い⋯⋯。

 鼓膜が破れそうなドラゴン達の咆哮と火・水・氷・雷⋯⋯ありとあらゆるブレスは世界各国で騒ぎになった。

『世界の終わりか!?』

『ドラゴンの襲撃がはじまる合図かも』

 お騒がせなドラゴンベビー爆誕の裏話。




「ドラゴンのお祝いにドラゴンの肉は出せない⋯⋯うーん、目玉になる食材がなぁ」

【レヴィアタン、殺っちゃう?】

 レヴィアタンは、巨大なクジラのような姿をして悠々と海を泳ぐ。心臓は石のように硬く、腹は陶器の破片を並べたように凸凹としており、背中には盾の列のような鱗が密に並び、口には恐ろしい歯が生えている。

「防御力が高いのと口から出す炎だよね⋯⋯レヴィアタンの肉は神が用意した最高級品だって聞くし、食べてみたいかも」




 そんな気軽な気持ちで海を飛ぶ事に決めたロクサーナの影には、ジルベルトが潜り込むことになった。因みに、練習以外で影に潜むのは初めての経験。

(転移だけじゃなくて飛行魔法も腕を上げよう。陰に潜んでいると話に参加できなさそうだし)

 風属性を持つジルベルトも飛行魔法が使えなくはないが、大海原を飛び続けられるほどの練度にはなっていない。

『魔力の消費にもなるから、現地までは影に潜って行った方がいいと思う。ルイスの《チェイン》ならレヴィアタンの動きを止められるはずだもん』

 ロクサーナに褒められたのか乗せられたのか⋯⋯ジルベルト改めルイスは、かなりご機嫌で影に潜っていった。

【⋯⋯(チョロい、チョロすぎる)】

【惚れた方が負けって言うからなぁ】

【男が尻に敷かれてる方が上手くいくって言うし】

【ん? これから空を飛ぶんだよ~、ロクサーナのお尻~、何を敷くの~?】



「元聖職者がシャドウ使いに進化って面白すぎない? 闇属性を悪魔と関連付けるのって、知識のない人だけだから関係なんだけどね」

【闇属性だって、カッコいいもん】

【闇属性だって、最高だもん】

 闇属性持ちは魔の使いで、光属性持ちは回復しかできない⋯⋯と言う輩に心を傷つけられてきたルルとミイは、透き通った羽をパタパタと動かしながら仲良くサムズアップしている。

「うん、どの属性も最高だよ。比べたり批判したりするする奴らがおかしい」

 回復魔法で多額の寄付を集め私腹を肥やしていた教会にとって、光の反対に位置する闇を貶めるのは営業方法としては最適だった。

 闇属性持ちは教会が広めたイメージに影響されて闇属性を持っている事を隠し、元々産まれにくい闇属性の力を知る者が減っていく。

「無知な権力者や魔法を知らない人達が、調べもせずその噂を鵜呑みにして闇属性持ちを迫害する。ホント馬鹿らしいし勿体無いよね~」

 爽やかな海風の中長閑な笑い声が響き渡った。

「あ! レヴィアタン発見、真上まで行こう」

 深海の底をゆっくりと移動するレヴィアタンの真上に転移すると、ジルベルトが影から飛び出した。

「んじゃ、時間もないし作戦通りでサクッとやっちゃおう! 1発目⋯⋯せえのぉ、どおりゃあぁぁ」

 ロクサーナの相変わらずの掛け声で氷の槍が海に降り注ぐ。ロクサーナ一人の力では流石に深海に届くまでに溶けるからと、今回は特別にミュウの力も借りている。

「すっげぇぇ! レヴィアタンが浮いてきたぁ! めちゃめちゃ怒ってるじゃん、たっのし~い」

 ロクサーナが大きな魔法を使うのは数ヶ月ぶり⋯⋯寝ていた間をカウントするなら10ヶ月ぶりくらい。ユースティティの無茶振りで増えまくった天井知らずの魔力に、ミュウの力を合わせた槍はレヴィアタンの背中に幾つもの小さな傷を作っていた。

「あれを受けてかすり傷とか、怪物並みじゃん」

「怪物だからね」

 冷静なツッコミをするジルベルトは《チェイン》の詠唱済みで、すでに杖を構えている。ジルベルトの光魔法が作り出す鎖は、他属性の作る上級魔法の盾を貫く程の威力で、持続時間は魔力の残量次第。

【シャドウは粘着、チェインは執着⋯⋯やられてる奴ロクサーナが気にしてないから良いのか?】

【調教済みだからな】

 と言うのがミュウ達全員の総意になりはじめている。

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