【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との

文字の大きさ
上 下
74 / 126

66.間抜けな兄ちゃんはいないからね

しおりを挟む
「子供じゃないし! ちょっとクロケルを見つけたか⋯⋯あ、いやぁ、なんだっけな~」

「ク、クロケルですってぇぇぇ!」

「クロケルって良い子なんだよ? すっごく良い子、うん。うちの子達とも仲が良くてさ、こないだピッピがいたずらした時は⋯⋯ちょっと山が揺れたりしたけど、『いいよ』って許してくれたしね⋯⋯泣いてたけど」

(流石に『卵産んでたの~』はヤバかった⋯⋯優しい子達でほんと助かったよね~)



「な、なに⋯⋯どう言う事なの!? えっと、ピッピって⋯⋯ぺぺ、ペットでも飼ったのかしら?」

 手を握りしめてワナワナと震えていたジルベルト司祭の目が泳ぎ、ソワソワと落ち着かなげな態度で、着ているローブの裾を直しはじめた。

「⋯⋯見えてるくせに⋯⋯見えてないふりとかセコい。大人ってや~ねえ。ああ、汚い大人ってすぐ嘘つくからなあ」

 つ~んとそっぽを向いていたロクサーナがチラ見しながら口を尖らせた。

 ジルベルト司祭がミュウ達の動きに反応する時があると気付いたのは、3年以上前になる。

 ミュウが突然テーブルの上に飛び乗った時には仰け反っていたし、ピッピが暖炉の中から飛び出してきた時は、目と顎が落ちそうになっていた。

 ウルウルが飛ぶのを優しげな目で追いかけていたので、ジルベルト司祭には見た目重視のショタコン疑惑がかけられている。

(畑でモグモグに挨拶していたのは見られていないつもりのようだけど、仁王立ちして睨みつけていたクロノスの前で小さく頭を下げた後に、目が合ったのを忘れたとは言わせないからね!)

「そそ、それは⋯⋯」

「ええい! 素直に吐けぇぇ! 見えてたよね?」

「はぃ、見えてました。いつもじゃなくて時々ですけど、黙っててごめ⋯⋯はっ! てか、誤魔化されるとこだったじゃない! クロケルってなに! そっちを先に話すわよ!」

「チッ!(思い出したか)えーっと、クロケルはぁ、クロケル? 友達になったばかりの子って感じですね」

「だ、ダメよ! クロケルって悪魔じゃないの、いくらなんでも危険だわ」

「いや、うちの子達は水竜。ドラゴンだから全然問題なしの超絶大人しい子達よ? 絶賛子育て⋯⋯卵あっため中だから」



 島の山頂に住んでいるドラゴンのところにロクサーナ達が遊びに行くと必ず『川の本流を流れる水の音』が聞こえる。

『ドラちゃんは水竜っぽいね~。だから、この辺りの海って穏やかなのかな?』

【水を操ることに長け、水の流れを支配することで荒れた海を静める⋯⋯機能付き】

【ピッピ、温泉作ってもらう~】

『温泉!? じゃあ、ハプスシード公国まで行かなくても良くなるじゃん。ドラゴン達、最高!』

【芸術に造詣が深いから、話が面白かったな】

【幾何学や数学に長けていたぞ、教養豊かなのもいい】

『ええ! みんなとっくに仲良しさんだったの? が~ん、ちょっとショック』

【ローブ作りで忙しそうだったから】

【ローブ作りに夢中になってたから】

『ううっ⋯⋯よっし、仲間にい~れ~て! って言ってみる。が、頑張る』





「でもね『元浴槽公爵』って言ったら泣くから気を付けてね」

「つまり、ロクサーナの島に住んでたドラゴンが水竜のツガイだったと。悪魔じゃない⋯⋯はあ、心臓が潰れそう」

 ソファの背にぐったりともたれたジルベルト司祭が、顔を覆って溜め息をついた。

「ほんと、ロクサーナって目が離せないわ」



 因みに、銀の髪と金色の猫のような目を持ち、黒衣の天使の姿をとると言われているクロケルは元は堕天した悪魔。

「悪魔になっちゃったクロケルの方は、決して溶けることのない氷の剣を持ってるんだよね~。で、その剣で傷つけられると必ず凍傷になって腐り落ちるんだけど⋯⋯1本もらってきてって頼んだの。テヘッ」

「⋯⋯はあぁぁ!? あ、悪魔におねだりさせたの!?」

「元は同じ⋯⋯ほら、人間同士とか精霊仲間みたいなもんだからさ。ダメ元で頼んでみたら『昔の知り合いだから、頼んでみる』って。で、それを錬金しちゃったの」

 鑑定すると、腐り落ちるのは『呪い』のせいだった。そこは遠慮したいので、呪いを解呪し粉砕して錬金素材にしてしまった。

「やっぱり元天使の武器ってすごいんだよ。微妙な調整とかしやすいし、何度錬金し直しても劣化しないんだもん⋯⋯もう1本もらっとけばって後悔した。あ、もう頼まないけどね。
パパのクロケルは泣き虫ゴン太君で、ママのクロケルはおっとりのドラ美ちゃん」



「精霊達以外にも友達ができて良かった? のよね⋯⋯多分」

「精霊達と時の神とドワーフとアラクネとドラゴン⋯⋯中々大所帯になってきたよね!」

「⋯⋯ねえ、途中に違和感バリバリのセリフがあったんだけど。時の神ってなに?」

「カイロスは時の神で空間魔法、クロノスは時の神で時間魔法。だから、異空間収納と転移が使えるんだけど、人間嫌いなんだって」

 いずれキルケーに会いに行く時は、フェイと一緒にカイロスが手伝ってくれるらしい。

(みんなに大感謝、何かお礼できればいいんだけどね)





「ド、ドワーフの引越しは無事に済んだのね」

 どうやら、カイロスとクロノスの話は聞かなかったことに決めたらしい。

「うん、緊急避難みたいな感じだけど、うちの山にも鉱石があるって言ってたから、多分大丈夫かな。北の森に鉱石を掘りに行きたい時は転移門を開くしね」

 帝国からの危険が解消されるまでの一時避難先として『島に来ませんか?』と声をかけると予想以上の反響で、その日のうちに荷造りがはじまった。

『長いこと寒いとこに住んどったけん、暖かい島は楽しみじゃのう』

『いっぱいご飯作ったげるけん、おっきゅう大きくなりんちゃいよ』

『アブサンの地元じゃろ? 買ってきといてくれんね』

『島じゃったら泳げる?』

『しょっぱいゆうんは、ほんまなん?』

 大きな荷物は異空間収納で運び、ドワーフ達は手荷物を抱えて恐る恐る転移門に入って行った。

『おろろろ⋯⋯』

『ウグッ⋯⋯』

 初転移後の儀式を乗り越えたドワーフ達には、好きな場所に自由に家を建ててもらうと決め、ロクサーナは足りない資材の調達だけ手伝う事になった。

 森の中から毎日トンカンと音が聞こえてきた。美味しそうな匂いと子供達の元気な声。

 気の早いドワーフが鉱石を掘りに行こうとして、奥さんから怒鳴りつけられたり、酔っ払って池に飛び込んでみんなに叱られていたり。

 静かだった島に笑い声が響くのがなんとなく面映い感じがして、ソワソワと落ち着かなくなる。

(池はあるけど、子供達が安全に海で遊ぶ方法を考えようかな⋯⋯崖の一部を壊して⋯⋯)



「うん、楽しんでくれてる」

 話し込んでいるうちに、外はすっかり暗くなってしまった。

「わあ、ごめん! 仕事する時間がなくなっちゃったね」

「大丈夫だよ、今日の仕事はあとひとつだけって決めてたからね」

 ジルベルト司祭が執務机から持ってきた書類は、『契約完了』の手続きの為のもの。

「結構あるから、サインするの頑張って。まずは⋯⋯」

 内容を精査してサインをしていくごとに、ロクサーナの肩から力が抜けていくような気がする。

 バーラム男爵家が勝手に養子縁組していたのも、正式に無効になった。

(聖女でも、なんちゃって男爵令嬢でもなくなった⋯⋯押し付けられた肩書きはいらない)






「さて、これで書類は全てだ。そこで、ロクサーナに俺から質問」

しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの
恋愛
 婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。  婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。  100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。  追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?

身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。 ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。 さらっとハッピーエンド。 ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

婚約破棄に全力感謝

あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び! 婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。 実はルーナは世界最強の魔導師で!? ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る! 「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」 ※色々な人達の目線から話は進んでいきます。 ※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」 「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」  公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。  理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。  王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!  頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。 ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2021/08/16  「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過 ※2021/01/30  完結 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう

婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。

ぽっちゃりおっさん
恋愛
 公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。  しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。  屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。  【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。  差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。  そこでサラが取った決断は?

処理中です...