上 下
70 / 126

63.集まれ、ポンコツファミリー

しおりを挟む
「まず、ポンコツ王子への返答ですね。たかが弱小国の王妃よりも今の立場の方が気に入ってますから、お断りです。だって⋯⋯王妃よりも聖女筆頭の方が断然自由に生きられるし。なんの役にも立たない『王妃』の座なんて⋯⋯何それ、ゲロまずって感じですね」

 ガタガタン! ガシャン!

【裏で、暴れてるよ~。ププッ!】

「(プフッ)そ、それに、どこかの国で⋯⋯この国の王妃と私のどちらかひとりが移住すると言ったら、間違いなく私が選ばれる自信がありますしね。本当に実力のある聖女はどこの国でも垂涎の的ですから」

 ム、ムキィィィぃ⋯⋯ドタン⋯⋯バタン⋯⋯

【すご~い、国王に拳が飛んで一発KO!】

「(クッ、グフッ)となると、対価としてポンコツが差し出すものには価値がないので、そんな契約はお断りします。

レオンへの返答ですけど⋯⋯何の対価もなく私の慈悲狙い、妄想が酷すぎて危ない人の発想にしか聞こえない。
『お互いに助け合う』とか『任せる』とか。具体的にはレオンは何ができる? 何を任せられる?」

「えっと、それは⋯⋯すぐには思いつかないけど」

「一生思いつかないって断言してあげる。
だって、夢想家のレオンは都合の悪い事を忘れるのが得意で、当たり前のように相手を利用する人だから。感謝は口先だけだしね。
無償で与え続けてくれる人が欲しいなら、ママのお膝の上に戻るべき」

「王妃様より聖女の方が良いって⋯⋯そうなの?」

「聖女って治療だけなんじゃないの?」

【閉鎖的な国で暮らしてると、イメージ湧かないんだね~】

「王妃の方が凄そうだけど」

「ええ! 聖女の方がカッコよくないか?」



 疑問が飛び交うなかでロクサーナがパンパンと手を叩いた。

「さて、ここからは雛壇の陰におられる方々にも是非とも参加していただきたいと思っております。国王陛下並びに王妃殿下、王太子殿下とイライザ様⋯⋯堂々とお出ましになられませ!」

 バタバタ⋯⋯ガタン⋯⋯ガラガラガシャン

 会場中に、雛壇裏の派手な音が聞こえてきた。



「父上! 出てきてこいつを懲らしめてください! さあ!」

「陛下や王妃様の前で吠えずらかかせてやるからな!」

「ロクサーナ、今のうちに土下座したらどうですか?」

「ま、待って! ロクサーナは勘違いを⋯⋯俺が説明しますから」

(ポンコツ&愉快な仲間達+妄想野郎レオン⋯⋯相変わらず状況分かってないんだ、いいけどね~)

「陛下達が出てきたら、あんたなんてボコボコにされるんだからね! 処刑よ、処刑! アーノルドだけじゃなくて、グレイソンだってあたしの味方なんだからね!」

(ええっ! もう捕獲済み!? はっや~)



 雛壇の横のドアが開き、国王夫妻とグレイソン王太子とイライザが出てきた。

(うわあ、国王の左目の周りが腫れてる)

「さて、皆様がお揃いになられたところで、続きをはじ⋯⋯」

「なんであんたが仕切ってんのよ! アーノルド、言ってやって。アイツの話なんか誰も聞きたくないって!」



「レベッカ! 貴様は黙っておれ! 聖女だと偽り我が国を愚弄しおって⋯⋯衛兵!」

 壁際に立っていた衛兵が慌てて飛び出し⋯⋯。

「きゃあぁぁぁ! ちょっ、やめて! アーノルド、助けて⋯⋯レオン!⋯⋯ビクト⋯⋯触んなぁぁ⋯⋯誰か助⋯⋯モゴッモガッ⋯⋯」

 暴れるレベッカを拘束し、猿轡を噛ませた。

「聖女バーラムよ、これで元凶は消えた。多少の行き違いがあったようじゃが、これからも我が国の聖女とし⋯⋯」

「私、この国の聖女じゃありませんから」

「いや、しかし⋯⋯其方は婚約者候補筆頭であろう? アーノルドが不満ならグレイソンも帰ってきておるぞ?」

「「陛下!」」

 シンクロした叫び声はイライザと父親のネイトリッジ公爵だろう。初お目見えのグレイソン王太子は、王妃に似た見た目で線の細い陰湿⋯⋯気弱そうな男だった。

「えっと、初めて会うよね。王太子のグレイソンだ。これから仲良くし⋯⋯」

「しませんよ? するわけないじゃないですか」

「ぶ、無礼だぞ! 父上や兄上にそのような事を言ってただです⋯⋯」

「ぜんっぜん、問題ありませんね。さて、メンツも揃った事ですし、はじめましょう」

 くるりと振り返ったロクサーナの笑顔にパーティーの参加者達が後退りした。

 この後何があるのか想像もつかず、保護者達は近くの者と顔を見合わせ、卒業生達は目を吊り上げて睨みつけてきた。




「せっかくの記念すべき卒業パーティーが横道に逸れてしまいましたが⋯⋯ 卒業生の方々、おめでとうございます。
このようなおめでたい日に申し上げるのは非常に心苦しく思いますが、ここまできたら全て終わらせたいと思う次第です。
苦情のある方は後ほど、愚かな喜劇をはじめたポンコツ王子か、それを許し裏で観劇中だった王家にお願いしたいと思っております。

毎年行われておりました聖王国からの魔法士派遣についてですが、重大な問題が発覚いたしました。簡単に言いますと、虚偽の申請と報告による依頼料のチョロまかしですね。
聖王国のダンゼリアム王国担当者達はすでに拘束されております。

国と王家に加え関係貴族の方々に対し、聖王国より正式に依頼料及び慰謝料の支払いを求める予定でおります。

毎年起きていた人為的スタンピードについても、原因の調査と犯人の捕縛は完了し⋯⋯」

「ま、待て待て待て! スタンピードが人為的だと!」

「はい。自国の利益のために人為的にスタンピードを起こした者達と、スタンピードが続く事で利益を得られる者達の⋯⋯合体技ですね」

「⋯⋯我が国は被害者だよな」

「いったい誰がそんな事を!?」

「この国が被害者⋯⋯それには異論がございます。もし、この国が被害者であるならばスタンピードの原因究明に乗り出していたはず。それをしなかった国や王家にはそれ相応の理由がありました⋯⋯ですよね?」

 ロクサーナがチラッと振り返ると、国王とグレイソンが目を泳がせ、青褪めた王妃の陰に隠れようとして3人で揉み合いになっている。アーノルドはすでに雛壇横の扉から逃げだそうとして、目を吊り上げたイライザに捕まっていた。

(国王達はダンゼリアム王国を帝国に売り渡し、爵位を得る約束を取り付けていたんだよね)

「余、余は何も知らん! 勝手なことを申すでない!」

「証拠はすでに揃っておりますし⋯⋯。国際法に基づき、国庫及び王家・官僚の資産等を凍結する旨の書状が本日中に、届けられることになっております。
逃亡や資産隠しの兆候が見られた場合、その場で逮捕監禁となりますのでご注意の程を」

 会場からコソコソと逃げだそうとしていた貴族がピタリと足を止めた。



(最初に気付いたのは騎士団に行った時)

 長い間訓練に使用した気配がなく手入れした痕跡もない訓練場や、だらしなく座り込んで無駄話に興じる騎士団員の着崩したヨレヨレの制服。

 最後に修理したのがいつなのか分からないほど傷んだ建物や、壊れていないのが不思議なほど古い魔導具。

 倉庫と見間違えそうな団長の部屋の棚にあった見事な装飾の剣は、鑑定すると間違いなくドワーフ作で、帝国で見た剣と同じ作者の物だった。

(団長は帝国と繋がりがあって、かなりの高級取りの可能性ありって感じかな。めちゃめちゃ臭う⋯秘密のお金が流れてるのは王家だけじゃなさそう)





(で、調査しました~。その結果⋯⋯)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ
恋愛
 公爵令嬢オデットはある日、浮気というありもしない罪で国外追放を受けた。それは王太子妃として王族に嫁いだ姉が仕組んだことで。  聖女の力で虐待を受ける弟ルイスを護っていたオデットは、やっと巡ってきたチャンスだとばかりにルイスを連れ、その日のうちに国を出ることに。しかしそれも一筋縄ではいかず敵が塞がるばかり。  その度に助けてくれるのは、侍女のティアナと、何故か浮気相手と疑われた副騎士団長のサイアス。謎にスキルの高い二人と行動を共にしながら、オデットはルイスを救うため奮闘する。 ※胸糞悪いシーンがいくつかあります。苦手な方はお気をつけください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。

ぽっちゃりおっさん
恋愛
 公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。  しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。  屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。  【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。  差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。  そこでサラが取った決断は?

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

妾の子と蔑まれていた公爵令嬢は、聖女の才能を持つ存在でした。今更態度を改められても、許すことはできません。

木山楽斗
恋愛
私の名前は、ナルネア・クーテイン。エルビネア王国に暮らす公爵令嬢である。 といっても、私を公爵令嬢といっていいのかどうかはわからない。なぜなら、私は現当主と浮気相手との間にできた子供であるからだ。 公爵家の人々は、私のことを妾の子と言って罵倒してくる。その辛い言葉にも、いつしかなれるようになっていた。 屋敷の屋根裏部屋に閉じ込められながら、私は窮屈な生活を続けていた。このまま、公爵家の人々に蔑まれながら生きていくしかないと諦めていたのだ。 ある日、家に第三王子であるフリムド様が訪ねて来た。 そこで起こった出来事をきっかけに、私は自身に聖女の才能があることを知るのだった。 その才能を見込まれて、フリムド様は私を気にかけるようになっていた。私が、聖女になることを期待してくれるようになったのである。 そんな私に対して、公爵家の人々は態度を少し変えていた。 どうやら、私が聖女の才能があるから、媚を売ってきているようだ。 しかし、今更そんなことをされてもいい気分にはならない。今までの罵倒を許すことなどできないのである。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

【4話完結】聖女に陥れられ婚約破棄・国外追放となりましたので出て行きます~そして私はほくそ笑む

リオール
恋愛
言いがかりともとれる事で王太子から婚約破棄・国外追放を言い渡された公爵令嬢。 悔しさを胸に立ち去ろうとした令嬢に聖女が言葉をかけるのだった。 そのとんでもない発言に、ショックを受ける公爵令嬢。 果たして最後にほくそ笑むのは誰なのか── ※全4話

処理中です...