上 下
34 / 126

00.あの人達は今! 楽しんでいない人達。一部の盛り上がりに驚愕

しおりを挟む
 その数日前の聖王国。

 年末の休みで学園から帰ってきたばかりのサブリナとセシルが、ジルベルト司祭の執務室に乗り込んできた。

「やあ、2人揃って何か用かな?」

「ロクサーナはどこですの?」

「仕事って何してるの?」

 サブリナ達は最後に会った時⋯⋯学園に向けて出発する時のような穏やかさや明るさがなくなり、イライラとして狡猾そうな目付きになっている。

(よくない傾向だなぁ。学園の暮らしは合ってないのかな)

 執務机についたままのジルベルト司祭がとぼけた態度で首を傾げた。

「仕事なんて嘘なんでしょ!? ロクサーナは土いじりしかしないって、みんな知ってるんだから!」

 以前はそれなりに仲良く話していたからこそ、ロクサーナにサブリナとセシルのフォローを頼んだのだが⋯⋯。

 送られてくる記録が全てだとは思っていないが、この様子では予想以上に良くない状況だったのかもしれないとジルベルト司祭は気付いた。

(ロクサーナはあまり自分の気持ちを口にしないで、溜め込んでしまうところが今でもあるから)

「ロクサーナがどこにいてどんな任務についているか、秘密に決まってるだろう? 教会内ならいいとか家族や友達ならいいとか自己判断して、あれこれ話してしまう者はいるけど、任務に守秘義務がある事を忘れたのかな?
職務内容や本人の職能などは口外してはいけないって決まっているよね?」

 ジルベルト司祭の穏やかな表情は変わっていないのに、サブリナとセシルは何故か背筋が冷たくなってきた。

「それは⋯⋯だって、皆さんも⋯⋯」

「そうだよ! 私達だけ文句を言われるのっておかしいじゃん」

「今、他人の仕事内容をアレコレ言っているのは君達だけだからだね。ロクサーナに用があるなら、少し時間はかかるけど伝える事はできるよ?」

「い、いつ帰ってくるの? だって、休学なんでしょ!」

「ダンゼリアム王国から休学にしてくれと言われて仕方なくだけどね。学園に帰れるかどうかも、帰る必要があるかどうかも不明なのに⋯⋯不思議な話だよ」

「だって、戻ってこないと困る⋯⋯」

「その理由は?」

「⋯⋯わ、私達は友達なのに、連絡もなく国を出るなんて酷すぎますわ。挨拶をするのは人としての礼儀ですし、理由を教えてくれるのは、友達として当然だと思いますの」

「う~ん、緊急依頼だったから、仕方がなかったんだ。あれは、ロクサーナにしか頼めない案件だった、抗議するなら仕事を依頼した私や教会に対してのものと受け取らなきゃいけなくなる」

「でも、一言くらい⋯⋯こっちにだって都合があるのに」



「2人から届いた報告書は読んだ。学園からも色々と連絡が来ているんだけど、ロクサーナが学園に戻らなければならない理由はないんじゃないかな? 留学する君達2人が学園に溶け込めれば、ロクサーナの任務は完了だって2人は知っているよね。
それとも、何か問題があるのかな? それなら説明してくれれば、誰か適任者を手配できるかもしれない」

 サブリナ達があれこれ言い立てている理由は分かっている。自分達の勝手な都合でこれ以上騒ぐようであれば、対処する必要があるだろう。

(虚偽の発言で教会関係者を貶めれば、聴聞委員会を開く事もある。とても危険な綱渡りをしていると気付いてないんだろうな)



「べ、別に他の人なんていらないし⋯⋯ロクサーナが中途半端にいなくなってしまったから、怒ってるだけだもん」

「架空の窃盗騒ぎを起こして、居心地が悪くなっただけだと言うのは知ってますわ。でも、逃げ出したらますます悪評が広がってしまいます。聖王国の評判に関わってくると思われませんか?」

「架空の話⋯⋯手紙では分からない部分があってね、詳しく教えてくれないかな? それが本当に架空の話なら、ロクサーナにはそれなりの罰則が与えられる案件だからね。
報告に虚偽の内容があった場合も、同様の措置が取られる」

「だーかーらー、何かがなくなったって騒いだけど、嘘だったって。ロクサーナってアーノルド王子殿下や側近に嫌われてるから、悲劇のヒロインになりたがったんですって。
大体、ロクサーナが盗まれるようなものなんて持ってるわけないじゃん。アイテムバック以外にめぼしいものなんてなかったもん」



(期末試験の結果が惨敗だったセシルと、課題が間に合わなかったサブリナ。レベッカはその両方⋯⋯学園から連絡が来てるんだよね~。補習代わりの宿題と提出できていない課題、新学期がはじまるまでにできるのかなあ?)



★★ ★★

 教会の談話室にナディア・オニールが駆け込んできた。

「アリエス、大変よ!」

 のんびりお茶をしていたアリエス・ジェファーソンとオレリア・ブームが顔を上げた。

「相変わらず騒がしいわねぇ。そんなに大声出さないで!」

「サブリナとセシルがダンゼリアム王国から帰ってきてるって、さっき神官たちが話してたの!」

「マジ!? 今どこにいるって?」

「すごい勢いで、ジルベルト司祭の執務室に乗り込んでったらしいの」

「執務室を出たところを捕まえるのよ。2人を懐柔できればなんとかなるかもしれないんだから」

「うちも行く!」

「侯爵はお金を積めばレベッカはなんとでもなるって司教様が仰ってたんだから、サブリナ達2人をこっちに引き入れるのよ! そうすれば、ロクサーナが何を言ってもどうにでもなるわ」

 ロクサーナ達が王国に留学した件をジルベルト司祭に問い詰めたが、のらりくらりと躱され、全く情報が入らなかったガーラント司教はレベッカの父、マックバーン侯爵に連絡をとった。

 ガーラント司教達の不正を嗅ぎ取った侯爵は⋯⋯。

『ほっほう、なんだかお困りのようですなあ。レベッカはあちらの王子殿下と非常に親しくしておりますから、上手く話をまとめることもできる⋯⋯やる気になる理由さえあればですがなあ』



★★ ★★

 ガーラント司教やアリエス達だけでなく、魔法士達の報告書も全て調査を終えたジルベルト司祭は、ロクサーナから届いた資料を併せ持ち枢機卿の元にやってきた。

『ふむ⋯⋯ダンゼリアム王国とガーラント司教とアリエス達、魔法士もか⋯⋯聖王国も舐められたものだね。
聴聞委員会を開き、ガーラント以下全ての者に処罰を与えねばならん』

『今回の件ですが⋯⋯小国と司教達の横領と言うにしては、妙なことが多すぎます。
現在、スタンピードと海獣の件をバーラムが調査しておりますので、その報告を待ってからが良いと思われます』

『そうだな、それなら言い訳はできまいし⋯⋯大元から断つことが出来る。バーラムなら確実に結果を出してくれると期待している』

『はい、実力も信頼も⋯⋯今の教会でバーラム以上の者はおりません』

『⋯⋯教会初の期間限定聖女か。できることならずっと在籍して欲しかったがな』

『致し方ございません、バーラムの過ごした5年間はあまりにも⋯⋯惨すぎました』

『バーラムを無理やり引き止めようとすれば、聖王国など簡単に崩壊させるであろうな』

『実力と言う意味では可能でしょう』

『で? お前達の仲は相変わらずか?』

『は? え、な、仲と言いますと⋯⋯上司と部下ですから、その⋯⋯』

「はっは! 今はまだそうであったな』




 教会に引き取られた5歳の時ロクサーナの鑑定が行われたが、水晶は何の反応もしなかった。日を改めて何回か鑑定したが反応がなく、ロクサーナは『能力なし』と判定された。

『今はそうかもしれんが、先日の奇跡は間違いない。10歳になれば何らかの能力が現れるかもしれん』

 枢機卿の判断で、とある司祭預かりとなったが⋯⋯。

『力もないガキの世話だとぉ? クソ忙しいのに⋯⋯やってられるかよ!』

 担当になった司祭はロクサーナを倉庫に放り込み、適当な嘘を並べて下働きをさせつつ給料を懐に入れていた。

 ロクサーナの担当だった司祭と使用人達は財産を没収され魔法を封じられた後、教会を破門されたのだが⋯⋯。

 聖王国で教会から破門された者は、職につくことも部屋を借りる事もできない。商店や食堂などの利用もできず、他国へ逃げなければ生きていく事は不可能になる。

 アリエス達もまた、彼等と同じ道を辿る日は近い。






【はあ? その程度で終わらせるなんて温い、温すぎる! コイツらに相応しい罰は、俺達、神と精霊の基準でやってやるぜ】


【ジワジワって低温で炭にして~再生して~】

【土に埋めるモグ、じわりじわりとミミズやモグラの餌にするモグ】

【僕もやりたい! みんなで最高のざまぁを考える『ざまぁ検討委員会』設立だあ!】

【1番エグいのを考えついた奴の願いを一個叶えようぜ】

【じゃ、じゃあ⋯⋯1日ロクサーナ独占権】

【僕も⋯⋯独占権⋯⋯欲しい】

【ピッピは~、ロクサーナとジルちゃんの~ラブラブ覗き権!】



【⋯⋯】

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ
恋愛
 公爵令嬢オデットはある日、浮気というありもしない罪で国外追放を受けた。それは王太子妃として王族に嫁いだ姉が仕組んだことで。  聖女の力で虐待を受ける弟ルイスを護っていたオデットは、やっと巡ってきたチャンスだとばかりにルイスを連れ、その日のうちに国を出ることに。しかしそれも一筋縄ではいかず敵が塞がるばかり。  その度に助けてくれるのは、侍女のティアナと、何故か浮気相手と疑われた副騎士団長のサイアス。謎にスキルの高い二人と行動を共にしながら、オデットはルイスを救うため奮闘する。 ※胸糞悪いシーンがいくつかあります。苦手な方はお気をつけください。

追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」 カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。 それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。 でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。 そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。 ※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。 ※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。 ※追放側のマルセナsideもよろしくです。

選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!

凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。  紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】 婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。 王命で結婚した相手には、愛する人がいた。 お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。 ──私は選ばれない。 って思っていたら。 「改めてきみに求婚するよ」 そう言ってきたのは騎士団長。 きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ? でもしばらくは白い結婚? ……分かりました、白い結婚、上等です! 【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!  ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】 ※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。 ※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。 ※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。 よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。 ※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。 ※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)

【完結】家族から虐げられていた私、実は世界で唯一精霊を操れる治癒精霊術師でした〜王都で癒しの聖女と呼ばれ、聖騎士団長様に溺愛されています〜

津ヶ谷
恋愛
「アリーセ、お前を男爵家から勘当する!」  理不尽に厳しい家系に生まれたアリーセは常に虐げられて来た。 身内からの暴力や暴言は絶えることが無かった。  そして16歳の誕生日にアリーセは男爵家を勘当された。 アリーセは思った。 「これでようやく好きな様に生きられる!」  アリーセには特別な力があった。 癒しの力が人より強かったのだ。  そして、聖騎士ダイス・エステールと出会い、なぜか溺愛されて行く。 ずっと勉強してきた医学の知識と治癒力で、世界の医療技術を革命的に進歩させる。  これは虐げられてきた令嬢が医学と治癒魔法で人々を救い、幸せになる物語。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

処理中です...