【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

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52.来たよ〜、やっと来たよ〜

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「6月になり16歳になったロクサーナ・バーラムです! ホントなら期間限定聖女もお役御免で、なんちゃんて男爵令嬢の肩書きも海の藻屑と消えているはずでしたが、来月末まで延長を強請られて頷いた、押しに弱くて哀れなロクサーナ16歳です。
ダンゼリアム王国の北の森で⋯⋯凶悪な魔物と戯れては血みどろになる毎日を、ドワーフ作でキレッキレの剣で楽しく過ごしていましたが、今日は最後の仕事⋯⋯リューズベイのシーサペントとの交流にやって来ました~。
えーっと、キルケー? メインディッシュはゆっくりと⋯⋯が信条ですからね。ぐふふふふ」

【ねえ、それやめようよ~。時々おかしな語り口になってさぁ⋯⋯誰に話してるのか分かんなくて怖いんだけど?】

「いいの、これをやると気合が入るんだもん。『よっしゃあ』って感じでさ」

【ピッピ、慣れたからもう平気~】

【僕も⋯⋯なんか笑えるし】

【モグッ、モモゥ】

【ぁ⋯⋯そ⋯⋯ぉ⋯⋯】

(あれ? ひとり増えた⋯⋯どの子だろう。島の外だと感度が悪いんだよね~)



「さあ! リューズベイでウルサさん達、動物チームに会いにいっくぞぉぉ」

 久しぶりに会うウルサは、大型の熊に似た脳筋。領主に騙されて船を壊されて、飲んだくれていたおっぱいフェチ(飲み仲間談)のおじさん。今は船主として張り切って海に出ている⋯⋯はず。

 カーニスは、ガタイのいい力持ち。メンバーの中ではお父さんみたいな立ち位置で、ウルサにコンコンと説教をかましてくれる。

 シーミアは、オネエ言葉のスレンダーな青年? 風を読むのが得意な頭脳派で、悩みは日焼けと潮風で枝毛ができる事。

 アンセルは、ちょっと吃ってしまうのが悩みの無口なお兄ちゃんタイプ。気配り上手だけど、意外にも口の前に手が出る。

 4人の名前を並べると昔の言語で⋯⋯熊と犬・猿・雉になる。どこかで聞いたお供を連れた桃太⋯⋯熊です。



 リューズベイの手前まで転移したロクサーナは、歩いて町に入り脇目もふらず港へ歩いて行った。

「この時間なら、もう船は戻ってると思うんだ」

【懐かしいね~、クラーケン以来だもん】

「クラ、クラーケン⋯⋯上位精霊⋯⋯美味しい精霊」

 目が虚になっていくロクサーナは、クラーケンがかなりのトラウマになっているらしい。

【美味しいは正義だよ~】

「だ、だよね。美味しいは正義、お金も正義⋯⋯人は悪」



 初夏の夕暮れはまだ大勢の人が行き交い、買い物帰りの客や漁を終えた人達で賑わっている。

「この匂い⋯⋯帆立とサザエ? お腹が空いてくる~」

【海老も~】

【ピッピはタイやスズキが好きよ~】

「あら、私はピッピが好きよ~」

【きゃあ~、ピッピ幸せ~】



 陽気のせいかリューズベイに着いたせいか⋯⋯妙にテンションの高いロクサーナ達が港に着いた。

「むむむ、旧ロクサーナ・コレクションのキャラベル船はどこぞ? 今では希少価値の高~い初期のキャラベル船の目を奪うほど美しいフォルム⋯⋯あっ、いたぁぁ」

【はじめから分かってたのにね~】

(ピッピがミュウみたいなコメントを⋯⋯ここはほら、情緒とか万感の思いとかさ)

【モ、モグッ?】

 前回来た時にちょこっと修理した桟橋に、ドドーンと停泊している船の上で、熊の魔獣ウルサがお猿のシーミアと掴み合いの喧嘩をしていた。

(なんで、喧嘩? 体格差ありすぎで、シーミアさんが死んじゃう⋯⋯あ、吹っ飛んだ⋯⋯⋯⋯ウルサが)

 意外な結末に驚きつつ船に近付くと、アンセルは座り込んでせっせと網を修理し、カーニスはノックダウンしたウルサに水を掛けていた。

(ウルサの扱いって⋯⋯あんな感じなんだ。ぷぷっ、なんか妙に納得できる)



「だから言ったじゃねえか! このクソ脳筋野郎が!」

「すまん、でもよお⋯⋯」

「でもじゃねえんだよ! 明日からどうすんだ!? また飲んだくれてねえちゃんのケツでも追っかけ回すのかよ!」

 のっそりと立ち上がった雉のアンセルがシーミアの肩を叩いて宥め、ウルサを助け起こし、嘴でつつ⋯⋯頭突きをかました。

「あがっ!」

「落ち着け! 喧嘩してもどうにもなんねえ⋯⋯こいつがバカなのは昔だからじゃねえか」

 何気にディスりながらウルサにゲシゲシと蹴りを入れる犬のカーニス。



「やっほ~、その熊さん⋯⋯回復する?」

 桟橋に立ってウルサを指差したロクサーナをカーニス達が見上げた。

「「「ロ、ロクサーナァァ!」」」

 桟橋に飛び上がったシーミアに抱きつかれ、息が止まったロクサーナが背中を必死でタップ。

「よ、良かった~。生きてたのね、本物よね、全部パーツは揃ってるのね⋯⋯縮んだ? 前よりちっこくなったのかしら⋯⋯ああもう、心配してたのよぉぉ」

「元気⋯⋯今死にかけたけどね。んで、縮んでなーい! 1センチ大きくなったはず。んで、何があったの?」

 プンプンするロクサーナの頭を撫でまくっていたシーミアが、事の次第を話してくれた。



 シーサーペント襲撃の季節が近付き、観光客を受け入れる準備をする者や避難準備をしはじめる者がではじめた。

『仕入れを増やして⋯⋯』

『聖女様パワーで宿が予約で満杯だと』

『今年の領主は超張り切ってるからよお』

『なら、また船が壊されそうだな⋯⋯先に逃げとくか』

 売り上げに期待する者と船ごと避難しようとする者に分かれて、町中が異様な雰囲気に包まれ⋯⋯。



「そしたら、あのバカがさあ『領主に直談判してくるって言い出したのよ~。止めてもぜんっぜん聞かなくてさぁ。で、返り討ちにあっちゃったってわけ」

 聖王国の魔法士にはシーサーペントを討伐してもらうべきだと言い出したウルサ。

『追い払うんじゃなくて、討伐するべきだって誰かが言うべきだったんだ!』

『それをアンタが言ったって、あのデブが聞くわけないじゃん』

『あんなちっこいロクサーナひとりに任せて、のほほんと待っているのは間違ってる。俺達の船と生活は俺達の手でなんとかするべきなんだ。
ただ、あんなでけえ海獣には太刀打ちできねえからよお⋯⋯』


「でね、ホントに領主に言いに行っちゃったの~。脳みそはかっる~いくせに、無駄に行動力があるからさあ。
おっさんになっても猪突猛進で⋯⋯ホント困っちゃうわ」

 はあ~と溜息をついたシーミアは、儚げな姫君のようで超絶色っぽい。なんならロクサーナが膝をついて、花束を差し出しそうになるくらい。

(さっきの男らしい啖呵と右ストレートが嘘みたい。カッコよかった~)

「聖女様が来てから前よりもっと、もおーっと調子に乗ってるデブ領主が漁師の話なんて聞くわけないっつうの。
いい年してさ、それくらい分かってくれなきゃ困っちゃうわ~」





 目を覚まして、のそのそと座り込んだウルサは後頭部から血を流し、全員の注目を浴びている事に気付いているのかいないのか⋯⋯正座して頭を船底にぶち当てた。

「すまん⋯⋯全部俺のせいだ。なんとかするから、少しだけ待っててくれ」

 土下座したままのウルサが沈黙に耐えられなくなり、チラチラと周りを見回し⋯⋯。

「チビのロクサーナじゃねえかぁぁ! 生きてたんだぁぁ、よっしゃあ」

「どんだけ生存を危ぶまれてたの? それよりも⋯⋯わざわざ『チビ』をつける必要ある!?」

 ウルサの傷を回復しようとして、伸ばしていた人差し指から強烈な水流が飛び出した。

 ザバーン⋯⋯ブクブク⋯⋯。




「⋯⋯塩水って傷に悪いんだっけ? ねえねえ、ウルサさんが言ってた『なんとかする』ってなんの事?」

「あ~、ロクサーナは気にしなくっていいのよお。大人はね、自分のケツは自分で拭かなきゃいけないの」

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