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00.あの人達は今! すごく忙しいみたいですね

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 リューズベイで行う『諸魂の日』に参加する貴族達は大急ぎで準備をはじめ、学園生達もその話題で持ちきりだった。

「お聞きになられました?」

「ええ、もちろんですわ。私も参加しますもの」

「私もですわ。領主館でパーティーがあるのでしょう? ドレスを大急ぎで仕立ててますの」



 サブリナとセシルももちろん参加する予定で急いでドレスを仕立て、アクセサリーを取り寄せているが⋯⋯。

「聖女の祈りってどうやるつもりなんだろ」

「それらしいポーズで祈りを捧げる⋯⋯とかじゃないかしら」

「バレたら⋯⋯私達にとばっちりなんてこないよね?」

「大丈夫じゃないかしら。奇跡を見せるのではなくて祈りなら誤魔化せるでしょう? レベッカの演技力は完璧だもの」






 正装した騎士団が護衛する聖女や王族の馬車がリューズベイの街につき、大勢の民衆が街道の周囲を埋め尽くした。王家の紋が描かれた旗を振り、花が舞い散る。

 手を振るレベッカと並んで座るアーノルド王子は満面の笑みを浮かべ、国王と王妃の乗る馬車が続く。

 ピカピカに磨き上げられた領主館に馬車が到着し、待ち構えていた領主が出迎えた。

「リューズベイへ、ようこそおいでくださいました。領民一同、聖女様と王家の方々のお越しを心よりお待ち申しておりました」

 領主館では王族と並んだ席にすわり、すでに王子の婚約者として扱われた。聖女や王族に献上された大量の品々が並べられ、領主自ら一つずつ説明をしていく。

「こちらは海の向こうの国、アースガルズから取り寄せた品で⋯⋯」

「これは北の森で取れた最大級の⋯⋯」

(ふふん、私への献上品が一番多いじゃない)

 悔しそうな顔の王妃とイライザを横目に見ながら、レベッカは満面の笑みを浮かべた。



 リューズベイでの歓待に気を良くしたレベッカは、翌日の夕闇が辺りを染める頃⋯⋯新しいローブを纏い、領主館のバルコニーで両手を広げて空を見上げた。

「わたくしは女神の愛し子にして聖女レベッカ・マックバーン! リューズベイの民に女神の祝福を!」

 カチリ⋯⋯。

 レベッカの周りが光り輝き、辺りを明るく照らしていく。幻想的な光はバルコニーの下まで溢れ、民衆の声が大きくなった。

「おお! 光がぁぁ」

 夕闇の中でキラキラと星を散りばめたような白いローブが、鮮やかに煌びやかに浮かび上がった。

「おお、聖女様ぁぁ!」

「聖女様、バンザーイ!!」


「皆の者、よく聞くがいい。神に愛されし我が国は永遠なり。第16代ダンゼリアム国王シュルツの元に、末代までの栄華を誓う」

「国王陛下、ばんざーい!」



 その後領主館では王族と聖女の歓迎パーティーが華やかに催された。

 パーティーのはじまりにアーノルド王子とレベッカがダンスを踊り、続いて高位貴族達も踊りはじめる。

「聖女様、是非こちらをお試しください」

「よろしければダンスのお相手を」

「聖女様の美しさに比べれば、光の精霊でさえ霞んで見えるでしょう」



 レベッカが意図した通りにドレスは輝き、国一番の美貌と言われていたイライザでさえ影が薄く見える。

(やっぱり私が一番ね。さっきの祈りも上手くいったし⋯⋯)

「あの⋯⋯聖女様⋯⋯」

「なんだ、貴様は! 勝手に聖女に話しかけるなど無礼であろう」

 レベッカを背に隠したアーノルド王子がレオンを睨みつけた。

「待って待って! あなたはどなた?」

 この国で見たこともないほどのイケメンにレベッカの目が輝いた。

(ええ~! この国にもこんなかっこいい人がいたの!? 護衛騎士にしてあげたロバートなんて鼻◯そじゃん)

「お初にお目にかかります。キングスレイ王国のカートレット侯爵家嫡男レオンと申します。この国には一介の冒険者として参っております」

「まあ! 侯爵家の方が冒険者なんかをしてるの?」

「はい、見聞を広めたいと愚行いたしまして、各地を回っている次第です」

「そうなのね、それは凄く素敵な事だわ! ねえ、少し向こうでお話ししませんか? キングスレイ王国の事を聞きたいの。アーノルド、いいでしょ?」

 ブツブツと文句を言っていたが、チャンス到来だと気付いた令嬢が、アーノルドに声をかけた。

「アーノルド王子殿下、ぜひわたくしと踊っていただけませんかしら?」

「え、あぁ、いいとも」

 渋々離れて行くアーノルドを無視して、レベッカはレオンの腕に手を絡ませた。

「ここは少し人が多すぎて⋯⋯テラスに行きましょう。レオンとはゆっくりお話ししたいわ」



 少し肌寒い風が吹き身を寄せて来たレベッカの肩に、レオンは脱いだ上着を着せ掛けた。

「海風は身体に悪いと言います。大切な御身ですから」

(うわ~、顔だけじゃなくて行動までイケメン⋯⋯侯爵家嫡男だっけ。この顔ならアーノルドよりよっぽど王子らしいじゃん。
う~ん、でもでも侯爵夫人より王妃の方が⋯⋯ううっ、残念! 結婚はしてあげられないけど、護衛愛人にはしてあげるわ! うん、キープしてあげるからね)



 そっとレオンの胸に手を置いて見上げたレベッカの目が輝いている。

「もしかして⋯⋯リューズベイに来るように神託がおりたのは、レオンに会うためだったのかも。そんな気がするのは私だけ?」

「俺⋯⋯私も同じことを考えていました⋯⋯あの⋯⋯11年前に、馬車の事故で怪我をした少年をお救いになられた事はありませんか?」

「馬車の事故?」

「その少年は聖王国の聖女様に命を救われたのです」

(なにそれ⋯⋯めちゃめちゃ美談っぽい⋯⋯どっかの聖女の話? 聞いたことないけど)

「その少年ってレオンの事?」

「⋯⋯はい、覚えておられませんか?」

「あ、もちろん⋯⋯もちろん覚えてます。元気になって良かったです!」

(なんかよく分かんないけど⋯⋯これって使えそうじゃん。生命を助けられたイケメンと助けた聖女なんて⋯⋯物語のヒロインだよ! こんな魚臭い田舎町でロマンスなんて⋯⋯私ってばホントに女神の愛し子ってやつかも~)

「ずっとお礼を言えなくて⋯⋯お会いできて光栄です。あの時はありがとうございました」

「聖女だもん、当然のことをしただけだからね」

 レオンの大きな手がレベッカの手を優しく握りしめた。

「やっぱり⋯⋯これが運命だった」

(ふふふっ! 何をやっても上手くいくって感じ。聖女になって崇められて、今度は生命を救ってもらったって言ってイケメンが⋯⋯女神の愛し子、確定だよ!)

「これからもずっとずーっと、仲良くしてくれたら嬉しいな」

「も、もちろんです。ぜひ」



 こうして、すっかり騙されたレオンは王都へ帰った後もレベッカと会い、食事や買い物に行くようになった。

「でね、聖女だからスタンピードの時とかリューズベイの魔物の時とか、じっとしてるわけにいかないんだよね。学園の勉強もあるし、聖女って大変なの~。
スタンピードとか魔物なんてなくなっちゃえば楽なんだけどね~」

 スタンピードなら起きる前にダンジョンの魔物を討伐してしまえばいい。と、レオンが考えはじめるのにそれほど時間はかからなかった。

 全ては『聖女様』の御身を守る為に。



 ロクサーナとの契約魔法でスタンピードの原因については話せないが、契約の穴を抜ければ話せる部分がないわけではない。

「詳しくは話せないんだけど⋯⋯スタンピードの事は俺に任せてくれないか? レベッカの為に俺がなんとかしてみせるから(ジルが置いた結界の魔導具の場所は分かってるし、魔物の種類も⋯⋯何人か連れて行けばダンジョンを攻略できるはず)」

「ホント? さすがレオン! 相談して良かった~。スタンピードの場に立ち会えって陛下に言われて悩んでたんだ~。聖女をそんな危険なとこに連れてくなんて信じらんないでしょ!? レオン、だーいすき」

「もし、もし俺がスタンピードを終わらせたら、王子ではなく俺を選んで欲しい」

「うん、レオンならあたしのこと守ってくれるもんね。ねえ、だから⋯⋯今日もいつもの部屋で⋯⋯いっぱい愛して」

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