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50.ほっこり幸せなひと時はドワーフと共にやってくる

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「真っ黒に日焼けして、トランザニア王国から帰って来たロクサーナ・バーラムです。
魔法をバンバン撃ちまくり~の、バッシバッシと斬りまくり~の⋯⋯血だらけで、前と後ろがわからなくなって。
素材たっぷりでガッツリ稼いで、海の幸も堪能しまくって、少しボンキュッボンが近づいたはずの私⋯⋯あと3ヶ月で16歳になるので、契約期間終了までのカウントダウンをはじめました! ガッハッハ、白金貨も増えてスローライフへ一直線!!」

 仁王立ちして、左手は腰で右手を突き上げたロクサーナ。

【ご機嫌だねぇ。そのテンション、疲れない?】

「黒いドラゴンやニーズヘッグもいたしね~。ケルベロスをペットにし損ねたのは残念だったけど」

 三つの頭を持つケルベロスの前で竪琴を奏で、蜂蜜と芥子と小麦粉で作ったクッキーを貢いだが、そっぽをむかれてやむなく討伐。

【演奏が下手だったからね、あれじゃあ眠れないよ】

【ロクサーナ、お菓子作り苦手だもんね~】

「スローライフの農場でさ、番犬にぴったりだと思ったんだけどな~」

【ケルベロスは地獄の番犬⋯⋯スローライフには似合わない】



「い、いいんだも~ん。もうすぐスタンピードの季節だよね~。ちょっとトランザニアに長居しすぎちゃったから、今から西の森に直行してサクサクっと終わらせるぞ、お~」

 3月初めの今、雪解けで増量した小川の水がサラサラと気持ちのいい音を立て、鳥が囀り兎が飛び跳ねているのが見える。

(魔物だけどね)

 日差しを浴びて木の枝が揺れ、虫達が飛び跳ねた。

(魔物だけどね)



「魔物の気配が凄いって事は、そろそろだね」

 少し高度を下げたロクサーナの索敵に引っかかったのは、崖の下にできた洞穴のような⋯⋯南の森で見つけたダンジョンより大きめのもの。

「ほっほう、こっちは飛行系や虫系と土属性の魔物が多いんだね」

 吸血蝙蝠やハニービー、ジャイアントアントやワームにアラクネ。

「よし、結界をやり直しちゃおう」

 ダンジョンの上に設置されていた魔導具を回収して、チロチロと出てきたハニービー達をパパッと燃やして、ロクサーナの結界魔法を展開、これで準備は完了。

 南の森のダンジョンの外に設置した魔導具も外して結界魔法を張り、宿に戻ったロクサーナは魔導具の分解をはじめた。



「基本の作りは南の森にあったのと同じだけど、こっちの方が後に作ったのかもね」

 魔法陣や回路の無駄が減っていて、外装も新しい。

「結構軽量化されてる。あ、ここを変えたらもっと発動が⋯⋯」

 時間を忘れて魔導具と遊んでいたロクサーナが、慌てて魔導具を復元した。

「時間が経ちすぎて元に戻せなくなるとこだった。さあ、お腹すいたから何か食べようかな」

 大量の料理を並べてミュウ達がパクパクする、いつもと変わらない長閑な食事風景にほっこりしたロクサーナの通信鏡がブルブルと震えた。



「久しぶりじゃのう」

「あ、村長さん。ご無沙汰です~」

「剣を受け取りにこんけん、気になって連絡したんよ。そろそろ帰って来とるか思うたけんねぇ」

 トランザニア王国で『ヒャッハー』していた時に、一度連絡をもらっていた事をすっかり忘れていたロクサーナは通信鏡に向かって平謝り。

「まあ、それだけ元気じゃゆうことよのう。んで、取りに来るんか?」

「はい、明日の午前中に行きますね」

「ええのができたけん、楽しみにしんさいよ」

 ガハハと豪快に笑った村長のブランドンが通信を切った。

 武器庫だけでなく盛大に城も壊しておいたせいか、今のところ帝国からの接触はない。

 ドワーフは騒ぎに紛れて逃げたと思われているのか、脅しのネタがなくなった帝国としては『武器を作れ』と言えずにいるのかもしれない。

「まあ、いずれ言い出しそうだから要注意だけどね。あ、ポーション作っていこうかな」

 ドワーフへの手土産にトランザニア特産の酒を買って来たが、それに合わせてポーションも渡すことに決めた。

「いい薬草を大量にゲットしたから、上級ポーションも楽々で~。まだ水が冷たいから、軟膏も作ろうかな。アカギレって痛いもんねえ」



 ドワーフの村で大歓声からの大歓迎を受けて、オロオロと尻込みするロクサーナの手に花束が渡された。

「ねえちゃん、ありがとう」

「どど、どういたして⋯⋯いたちまちて」

 聖女という肩書きを持っていても、直接感謝されたことがほとんどないロクサーナは、花束を抱えたまま呆然と立ち尽くした。

「仕事しただけだし⋯⋯報酬ももらうし⋯⋯感謝されるのは⋯⋯は、恥ずかしい」

 仕事をはじめた頃⋯⋯年齢以上に小柄な体格のロクサーナが単独で請け負うせいか、仕事相手と揉める事が多かった。

『こんな子供を寄越して! 馬鹿にしてるのか』

『嬢ちゃんならこれもやってくれるよな~』

『大人の言う事は聞かんとなあ』

 それ以来、交渉も後処理もジルベルト司祭が担当しているので、『ありがとうと言っていたよ』と聞くことは多いが、直接言われるのには慣れていない。

(恥ずかしいけど⋯⋯なんか、嬉しいもんだね)

【仕事をはじめたのは10歳だけど、見た目は6歳くらい? だったもんね】

【ちっこくて、可愛かったもんね~】

【モグッ】

 

「こいつは付与に適したダマスカス鋼で、錆び難く強靭じゃけえの。剣とダガーを一本ずつじゃ」

「ミスリルは軽いけん、ロクサーナに最適じゃ思うで。魔法の付与に適しとる剣じゃ」

「これはヒヒイロカネじゃ。金より軽うてダイアモンドより硬い。錆びる事が無いし付与もしやすい、一番のオススメじゃけん、剣とダガーを作ったんよ」

「でっかい魔物やらの時は、アダマントがええに決まっとる。めちゃめちゃ硬い最高の金属じゃけえ、折れん剣になったけんね」



 ずらりと並んだ剣とダガーをひとつずつ手に取って構えてみた。しっくりと手に馴染み重さも完璧。艶やかに輝く刃はどれも美しい細工が施してあり、まるで芸術品のよう。

「芯にも細工をしとるけえ、見た目よりも丈夫になっとるで。ロクサーナはちこまいけん、剣はあんまり太うできんけんのう」

「つこうてみて不具合があったらすぐに持って来んさい。いつでも直すけん」



 その後は盛大な酒盛りに突入し、ロクサーナがお土産に持ってきたアブサンは大人気。

「くぅぅぅ! こりゃ堪らんわい」

 薄く緑色を帯び、水を加えると白濁するアブサンのアルコール度数は半端なく高い。

「こっりゃあ、生のままが最高じゃのう」

(マジか~、ドワーフって凄い。僕は匂いだけで腰が抜けそうなのに)

 ふらふらと踊り出す者や歌い出す者⋯⋯。帝国から助け出された者達は、ロクサーナの横で泣いている。

「あん時は、ホンマにありがとうのう」

「もうダメじゃ思うて、諦めとったんよ」

「あの⋯⋯成功して、良かったでふ」



 真夜中を過ぎても続く酒盛りで、ドワーフ達は益々勢いづいていった。

「この間の部屋に布団を準備したけえ、寝たらええよ。こん奴らは朝までこのままじゃけんね」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて⋯⋯お休みなさい」

「ああ、ホンマにありがとうね。ロクサーナちゃんはうちらの女神様じゃけん」

「ほうよね、なんかあったらいつでも言うてね。あたしらでできる事なら、なんでもするけんね」



 布団に潜り込み目を瞑ると、ドワーフ達の楽しげな笑い声が聞こえてくる。

【頑張った甲斐があったね~】

(うん)

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