上 下
52 / 126

49.聖女に興味なんてありませんが、それが何か?

しおりを挟む
 時期はズレているが王家主催で、聖女が『諸魂の日』の祈りを行うという。護衛は騎士団が行うが、冒険者達は隊列に先行する⋯⋯所謂露払い。

「途中に出てきた魔獣や盗賊の討伐って事?」

「ええ、それと合わせて街道のチェックもだそうです。リューズベイにある山の魔物は大型でも凄く大人しくて、被害はほとんどないんですけど、念の為強い冒険者についてきて欲しいそうなんです」

 予想と違ってつまらなそうな依頼だと落ち込んだレオンが『聖女様には会えないんだ』と落ち込むと、受付嬢が身を乗り出した。

「リューズベイの領主館で宴が開かれるそうですから、会えるはずですわ。アーノルド王子殿下と婚約間近⋯⋯既にほぼ確定だそうですから、これからはあちこちでお会いできるとは思いますけどね」

(もう婚約間近って噂がここまで広がってるんだ。受付嬢がレオンに、聖女様との出会いを勧めるから不思議だったんだよね)

 既に予約済みなら問題ないと言うことか⋯⋯と納得したロクサーナは、別の依頼を探すことにした。

 何が起きるのか、面白そうではあるけれど⋯⋯触らぬ神に祟りなし。



 レオンにチラッと手を振ってギルドを出たロクサーナは、宿に帰ってひと休みすることに決めた。

【冬は面白そうな依頼が少ないね】

(だね。雪が溶けるまで、南の暖かい国に遊びに行こうかなぁ)

【トランザニアとか?】

 トランザニア王国は南方の島国で、通年を通して温暖な気候の国。

(あ、それいいかも。宿に帰ってジルベルト司祭に聞いてみようかな。あそこは蛇系の魔物が多いから素材&食材がとれまくりなんだよね)

 既に心はトランザニア王国に飛んでいるロクサーナの後ろから、レオンが慌てて追いかけてきた。

「ま、待って! さっきの依頼、ジルも受けるよね!」

「受けないよ? 僕は聖女様には興味ないし」

「ええ~! ならさ通信鏡持ってちゃダメかな。あれがあればいつでもジルと連絡取れるんだろ? お金払うからさ、お願い!」

「そちらは非売品となっておりまして、ゴリ押しされた場合や強奪された場合、全身こんがり丸焼けコースとなります。
荷物から服、頭髪等も全て燃やしつくすコースですので、通信鏡も燃えてなくなる仕組みとなっておりますが⋯⋯どうする?」

 売る気になったら教えて欲しいと言いながら諦めたレオンは、名残惜しげにロクサーナの手元を見つめていた。

「分かった、取り敢えず今は諦めるよ。でね、リューズベイだけど一緒に行こうよ。もしかしたらだけど、例の聖女様かもしれないんだ。違うかもしれないけど、年齢も近いから知り合いだったりするかも⋯⋯だから、お願い」

(取り敢えず今は⋯⋯だと!?)

「僕達はパーティー組んでるわけじゃないし、一緒に依頼を受けなくてもいいじゃん」

「そうなんだけどさ⋯⋯ここで別れたらジルとはもう会えない気がして。
さっきの依頼を聞いて、この町に来る夢を見たのは『あの時の聖女様』に会えるっていう意味もあったのかもしれないって気がしてきたんだ。だから、顔だけでも見てみたいんだ」

「⋯⋯見てきたらいいんじゃないかな。僕には関係ないから、たいした返事はできないけどね」

 ロクサーナは、身勝手で強引なレオンに少しずつ⋯⋯かなりイライラしはじめた。

 出会ってからのモヤモヤにここ数日のイライラが加算されて、爆発寸前な状態に近付いている。

「聖王国の聖女様だよ? なんで? 興味ないわけないよね?」

「全く興味ない。ねえ、馬車の事故って10年以上前なんだよね? その間に聖女に会いに行ったりしたの?」

「あ、いや⋯⋯えーっと⋯⋯してない。ほら、聖女様にとっては人助けなんて当たり前のことだから⋯⋯」

 居心地悪そうに足を踏み替えながら目を逸らしたレオンは、ロクサーナの指摘にモゾモゾと言い訳を口にした。

【人間らしい考え方だよな~。与えられるのは当たり前で、それを受けるのは当然の権利と勘違いしてる】



 慈愛の化身である聖女にとって怪我人や病人を救うのはごく普通の事で、彼女達にとっての使命で⋯⋯生きる意味。人を救うことが聖女の存在価値そのもの。

 これが世間一般のイメージで、レオンも⋯⋯。

 事故に遭った少年を助けたことなど⋯⋯多くの怪我人や病人を救っている聖女様なら、忘れているかも。

 家族で話す時には『いつかお礼に行こう』と言うが、聖王国の聖女に会うのは大変だと聞いているから、そこまでの手間をかける必要はない気もする。

 精々⋯⋯機会があれば会ってお礼を言おう⋯⋯程度で、わざわざ聖女に会いに行く必要はないだろうと思っていた。



「たまたま近くに聖女がいるって聞いたから、ちょっと見てみようって⋯⋯それに僕が付き合う理由なんてないよね。
第一、顔を見たら分かるの? それとも『あの時の聖女様ですか?』って聞いてみるとか? 今まで探してもいなかったくせに⋯⋯ そうだって言われたらどうするの?
すごく不愉快だから、僕には関わらないでくれるかな。これからは顔を合わせることがあっても、声をかけないでくれ」

【ピッピも、プンプンになった。チリチリにしちゃおうよ!】

「ごめん! 確かにジルの言う通りで、普段はあんまり考えてなかったかも。感謝はしてるけど、聖女様って忙しそうだしって。この依頼が終わったら、また一緒に討伐依頼を受けてくれるかな」

「⋯⋯やめとく。僕はひとりの方がいい」




 宿に戻って通信鏡を握りしめたロクサーナはジルベルト司祭に繋いだ。

「って事で、スタンピードの方はあらかた目処がついたし⋯⋯少し暇があるからトランザニアに行ってくる」

「大変だったね。レオンがそんな子だったなんて残念だよ」

 一緒に討伐をしているうちに、良い友達ができれば⋯⋯と思っていたジルベルト司祭。

(やっぱりロクサーナの能力を考えると難しいのかな)

「帝国の様子はこっちでも調べておくよ。で、ロクサーナ⋯⋯な~んで先に言わなかったのかな~。すっごぉぉぉく、すっごぉぉぉく危険だったわよね! ドワーフの救出とか城の潜入とか、なんで先に言ってくれなかったのよ! 心臓が止まるかと思ったじゃないのぉぉ」

「ごめ~ん。勢いがついたって感じでさ。止められるかなあって思ったから⋯⋯つい?」

「ついじゃないから! もう⋯⋯ホントに⋯⋯ロクサーナが怪我したら泣くわよ!」

「う、うん」

「ホントのホントに泣くんだから!」

「心配かけてごめんね」



 今日のジルベルト司祭のオネエ言葉はいつにも増して激しい。通信鏡の向こうで目を吊り上げて髪を掻きむしっていたかと思うと、机に突っ伏してのの字を書いている。

「ホントはさ、今回の任務はひとりで行かせたくなかったんだ。ロクサーナは目を離すとすぐに無茶するから」

「うん」

「⋯⋯はぁ⋯⋯無事で良かった。二度と無茶しないでくれ。僕の心臓が持たなくなりそうだから」

「うん⋯⋯多分」

「た⋯⋯多分じゃなーい! 絶対しないと約束しなさい。いいわね!」

「むぅ⋯⋯」

「ロクサーナの生命はあんただけのものじゃない。これ以上あたしを泣かしたら、どうなるか分かってるんでしょうね⋯⋯執務室に監禁して書類三昧にしてやるから!」

「ぁ⋯⋯あぅぅ⋯⋯それは無理」

「トランザニアでストレス発散してらっしゃい。その後はお利口にするのよ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」 カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。 それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。 でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。 そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。 ※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。 ※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。 ※追放側のマルセナsideもよろしくです。

聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ
恋愛
 公爵令嬢オデットはある日、浮気というありもしない罪で国外追放を受けた。それは王太子妃として王族に嫁いだ姉が仕組んだことで。  聖女の力で虐待を受ける弟ルイスを護っていたオデットは、やっと巡ってきたチャンスだとばかりにルイスを連れ、その日のうちに国を出ることに。しかしそれも一筋縄ではいかず敵が塞がるばかり。  その度に助けてくれるのは、侍女のティアナと、何故か浮気相手と疑われた副騎士団長のサイアス。謎にスキルの高い二人と行動を共にしながら、オデットはルイスを救うため奮闘する。 ※胸糞悪いシーンがいくつかあります。苦手な方はお気をつけください。

選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!

凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。  紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】 婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。 王命で結婚した相手には、愛する人がいた。 お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。 ──私は選ばれない。 って思っていたら。 「改めてきみに求婚するよ」 そう言ってきたのは騎士団長。 きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ? でもしばらくは白い結婚? ……分かりました、白い結婚、上等です! 【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!  ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】 ※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。 ※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。 ※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。 よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。 ※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。 ※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)

【完結】家族から虐げられていた私、実は世界で唯一精霊を操れる治癒精霊術師でした〜王都で癒しの聖女と呼ばれ、聖騎士団長様に溺愛されています〜

津ヶ谷
恋愛
「アリーセ、お前を男爵家から勘当する!」  理不尽に厳しい家系に生まれたアリーセは常に虐げられて来た。 身内からの暴力や暴言は絶えることが無かった。  そして16歳の誕生日にアリーセは男爵家を勘当された。 アリーセは思った。 「これでようやく好きな様に生きられる!」  アリーセには特別な力があった。 癒しの力が人より強かったのだ。  そして、聖騎士ダイス・エステールと出会い、なぜか溺愛されて行く。 ずっと勉強してきた医学の知識と治癒力で、世界の医療技術を革命的に進歩させる。  これは虐げられてきた令嬢が医学と治癒魔法で人々を救い、幸せになる物語。

恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜

百門一新
恋愛
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

処理中です...