【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

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45.なんの役にも立ってないと今頃気付いたの!?

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「まあ、カリヨンかしら」

 カリヨンは塔状の建築物として設置される楽器で、時報を流す目的で設置されることが多い。

「まあね」

「では、オートマタとかもある?」

「オートマタ? ふん、バカバカしい。あれは魔導具士からしたら子供騙しだね」

 バカにしたように鼻を鳴らしたが、フィンリーの目は楽しそうに輝いている。

 謎かけか合言葉みたいだとレオンが感心していると、まるで心の声が聞こえたみたいにロクサーナが振り返ってニパッと笑った。

「では、タロースとかホムンクルスとか?」

「ホムンクルスは錬金術じゃないか」

「タロースなら鍛冶の神ヘーパイストスが作り出した青銅製の自動人形ですわ」

「まあ、そうだけど⋯⋯客だって?」

「結界の魔導具を探していますの」

「⋯⋯バカバカしい。魔導具は子供が思う程優秀じゃないんだよ」

 ようやく接客する気になったのかと思ったが、フィンリーは何かを警戒するように入り口をチラチラと見ながら、右手をポケットに入れた。

「この国の王城に使われてるのは有名ですのに?」

「あれはアーティファクトか聖女がなんかしてるかだろ? 帰れ帰れ」

「カリヨンではなくて、あれは警報器ではないかしら。あの音色を一度だけ聞いたことがあるの」

「さっさと帰れ! 仕事の邪魔なんだよ」

 埃だらけのカウンターから離れて一歩後ろに下がったフィンリーは、ソワソワと目を泳がせている。

(この慌てようはビンゴみたいね。後は『L』が誰かを教えて貰えば終わり)

「ある国のダンジョンの外に結界の魔導具が設置されていましたの。大量の魔物が外に出ないように」

「⋯⋯」

「ショボい魔法陣と無駄の多い回路、不具合を無理やり修正しているせいで巨大化」

「ず、ずいぶん偉そうなガキだな」

「偉そうじゃなくて⋯⋯偉いんです。それと、右手はポケットから出した方がいいですわ。そんなチンケな魔導具を使っても、私達に攻撃は効きませんもの」

 カウンターに置いたのはロクサーナが作った手のひらサイズの魔導具。

「アレは物理攻撃を跳ね返しているだけの結界もどき。でも、これは魔力と魔力を持つ物を通さない結界の魔導具。犯罪者のフィンリーさんは、どちらが優秀な魔導具だと思われるのかしら。
それとも犯罪者の弟子で共犯者だから理解できないとか?」



「な、何のことだか⋯⋯」

「証拠があればいいのかしら? 猿に木登りを教えるようなものですけど⋯⋯魔導具には作り手の特徴や個性が色濃く残りますでしょう? 手慣れた魔導具士なら改良・改変されたのがいつ頃で、何人の魔導具士が関わっているのかとか。
顕示欲が強い方だったり、特別な思い入れがある物だったりすると、自分の名を刻印しますしねえ」

 フィンリーな右腕が少し揺れ、ポケットの中の魔導具を起動させた。

「く、くそ!」

「だから無理だって言ったのに。そんなちっぽけな魔導具で僕達を眠らせるのは無理! 
さて、時間の無駄だしそろそろ本音で話そう。現物は回収して別の魔道具と取り替えてある。帝国の犬になって人為的スタンピードを起こしてたって知られたら、魔導具士として生きてけないよね」

 ロクサーナが腕を組んで、わざとらしく大きな溜息をついた。

「ア、アレは⋯⋯騙されたんだ。設置して何年も経ってから⋯⋯何度もスタンピードを起こしてから、別の目的で使われてたって知ったんだ!」

「へぇ、騙された。でもさぁ、そのあとメンテナンスをしてるんだから間違いなく犯罪者だよ。それにさあ、魔力増幅の魔導具は毎年新しく設置してるし。刻印されてるL&Fも確認済みなんだ。Fはフィンリーで、Lはアンタの師匠とかだろ?」

 パッと顔を上げたフィンリーが肩を落とした。

「ルイス師匠は8年前に亡くなられたんだ。捕まえるなら俺を⋯⋯頼む、師匠の名前は出さないでくれ」

「じゃあ、スラムにいるマシューは誰?」

「師匠の兄のマシュー。奴のせいで師匠は殺されたんだ」



 3歳違いの兄弟マシューとルイスは共に魔導具士になった。切磋琢磨していた兄弟は次第に有名になっていったが、天才肌の弟が帝王に気に入られてからはお決まりのパターンに⋯⋯。

 国で一番の魔導具士と騒がれるルイスが作った結界の魔導具を、マシューは自作の魔導具だと偽り帝王に献上した。

『ふむ、先ずはどこかで試してみるとするか。魔力増幅の魔導具と合わせれば⋯⋯』



「テイムした魔物に大量の魔力を与え続けるのは、ダンジョンに魔物が発生する原理の解明。結界は被害を出さない為⋯⋯って聞いてたんだ。
まさか、人為的にスタンピードを起こすなんて」

 ルイスとフィンリーは劣化した魔導具の修理の為に呼び出され、マシューが持ち出した魔導具の行方を知った。

 修理を拒否したルイスが目の前で拘束され、フィンリーが修理を続けた。

「それなのに、師匠はとっくに亡くなられてたんだ。知ってたら俺は⋯⋯その後も続けてきたのは脅されてたからとか、師匠の魔導具を残したかったとか⋯⋯クソだよな」



「王城の結界について知りたいんだ。どこに何個仕掛けられているのか、解除された後の再起動までの時間とか」

 魔導具は合計8個、結界が張り直されるまでに2時間かかる。

「予備は4個あるが、動作の不具合が出たらすぐに呼び出されて、城で待機させられる」

(2時間で再起動されたらちょっと厳しいけど、予備もまとめて壊しておけばいけるな)

「私の用事が済むまで私達のことを誰にも話さなかったら、刻印入りのルイスの作った魔導具を渡す。どうかな?」

 異空間から取り出した魔導具をフィンリーに見せて取引を持ちかけると、大きく目を見開いたフィンリーが何度も頷いた。

「じゃあ、契約ね。違反した場合、魔導具の破壊とルイス師匠の魔導具が起こした被害を近隣諸国に公表するから。師匠の名誉が大切なら頑張って」



 フィンリーの店から宿に転移したロクサーナとレオンは、まったりとお茶をしていた。

「さっきの話の様子からすると、この次は城に乗り込むの?」

「⋯⋯やっぱりスコーンは2日目に限るね~。クロテッドクリームとジャム、もう最高!」

 バターよりあっさりとして生クリームより濃厚なクロテッドクリームは、ロクサーナのお気に入りのひとつ。

(最初の甘い味はジルベルト司祭がくれた飴ちゃんだったよね。あの時は驚きすぎて目が落ちそうになったけど、この組み合わせがあれば食事なしでも⋯⋯)

「ロクサーナァ! お~い、戻ってこ~い」

「後方支援担当のレオン君はここで待機。従ってぇ、何も知る必要はないのじゃ。買い物するなり受付嬢とデートするなり、フリータイムだね」

 ロクサーナがこの宿を選んだのは出入りが自由で、今回のように『出かけたのに部屋に居る』現象が起きても問題ないから。

「だからさ、お持ち帰りしたければしてもいいよ。あ、シーツとか怪しい残骸は片付けておいてね~。換気もよろ~」

 帰ってきたらクリーンと浄化するけどと言いながら、今後の予定を考える。

(思ったより簡単に魔導具士が見つかったからなぁ。建国記念の騒ぎに紛れてやっちゃうかな)



「俺、今のところ全然役に立ってないけど、城に潜入するならできる事があると思うんだ。てか、何の為に城に行くの?」

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