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37.ムニエルVSアクアパッツァ

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 モグモグのふわふわと動くお腹の上でウルウルが気持ち良さそうに寝ている。その横で寝ているルルとミイはこんな時も手を繋いだまま。

 カイロスとクロノスが食事の後どこかに消えたのは、酒盛りの続きを狙ってのことのような気がする。

(カイロスとクロノスは人嫌い⋯⋯ドワーフは人じゃないから?)



 来月から西の森に行く予定だが、レオンがいなければ転移を繰り返して調査できる。

「多分、南の森と同じパターンだと思うから、ひとりなら割と早くに見つけられる」

【レオン、気に入ってるんじゃないの?】

「普通に冒険者するなら、たまには人と一緒にやるのも良いかな⋯⋯とは思うけど。それ以上は無理」

 長く一緒にいれば気持ちが変わってくる事もある。慣れだったりちょっとしたきっかけだったりで、ある日突然態度が変わるかもしれない。サブリナやセシルのように⋯⋯。

 ロクサーナは人の機微には敏感だが、相手が何故そうなるのか、何が原因なのかが分からない。聞く勇気がなくて『関わらなければ大丈夫』だと思ってしまう。

 ロクサーナが上位魔法や転移が使えると知ったら、レオンも変わるかもしれない。

(今でも結構⋯⋯アレが普通なのかもしれないけど、当たり前のように強請られるのは、利用されてるみたいで好きじゃない)

 異空間収納の中には大量の白金貨や珍しい素材に魔導具、各種上級ポーションやほとんど手に入らない薬草⋯⋯。

 それを知ったら、欲を出すかも⋯⋯。便利だと利用したがるか、狡いと言って妬むのか。

「なるかならないかは、蓋を開けてみないと分からないって知ってるよ。知ってるけどさぁ、つい『なんだかなぁ』って思っちゃう」

【で、蓋を開けないから、ますます分からないんだよね】

「疲れるし、色々裏を考えちゃうし⋯⋯ やっぱ、人って苦手だわ~。ミュウ達がいれば十分って感じだね」

【話を誤魔化してるだろ】

【ロクサーナ、誤魔化しちゃダメだよ~】



【結界のこと、ドワーフを疑ってたの?】

「アーティファクトか魔導具だとしか思えないから、作成にドワーフが関わってないのは分かってる」

【確認してたのに?】


『一番の問題は結界で⋯⋯解除した後、どのくらいの猶予があるのか分かれば⋯⋯。』


「もしかしたら、救出の為に調べてるかもしれないって思って。表情を見れば知っているか知らないか分かるし、隠そうとした時も分かるでしょ? 魔導具士の情報を知ってるどうかを知りたかったんだ」

 情報を隠そうとするドワーフがいたら、帝国の犬の可能性が高い。

 ロクサーナは依頼を受ける前も受けた後も、誰も信用しないと決めている。特に今回のような場合は、情報漏れが一番恐ろしい。

 情報に過不足があるのは当たり前で、その都度方向転換できるように余裕を持って動けば良いが、人はさまざまな理由で裏切り行動を変える。

 利益・保身・妬み⋯⋯それが分からないロクサーナは細かく条件を決めて仕事を受けるし、そこに書かれていないものは自分の準備不足だったと責任を被る覚悟で仕事を受ける。

【だからひとりが好きなんだよね~】

「取り敢えず寝よっか。もう遅いしね」





「依頼料を教えてくれるかの。あんたの欲しい武器を作るけん、それ込みで払う。成功しても失敗しても依頼料は変わらん⋯⋯それで受けてくれるか?」

 覚悟を決めた村長は一晩中飲んでいたらしく、とてつもなく酒臭い。

「今回の依頼は成功報酬で武器は6本。材料は任せます。希望は大型の魔物に使える強度で、付与しやすい剣。両刃4本とダガーを2本」

「生命ひとつにつき一本か。いいだろう、最高のを準備するけん。あいつらのことどうか頼む」

 村長とドワーフ達が深々と頭を下げた。



「付与したいならダマスカス鋼がええかもしれんで。錆び難く強靭じゃけ、剣にはよう合う。ちっと珍しい性質を持っとるけん、一本はダガーにしたらええかもしれん」

「ミスリルは軽いし魔法の付与に適しとるで」

「ヒヒイロカネが一番ええに決まっとる。金より軽うてダイアモンドより硬い。錆びる事が無いし付与もしやすい」

「アダマントはどうね。めちゃめちゃ硬いし神話の時代から使われとる最高の金属じゃ」

【クロノスがパピーのアレを切り取った『アダマスの鎌』だね】

「ペルセウスがメドゥーサの首を刎ねた『アダマスの剣』だよ」

 クロノスが肩を落として後ろを向くと、カイロスが慰めるように肩を叩いた。



 普段使っている剣を何本かドワーフに見せて、好みの長さや重さを確認した後は、全て丸投げにしたロクサーナは、ドワーフの村を出発した。

「たった一泊なのに凄く疲れた。帝国の帰りに公国の温泉寄ってく? 月末なら『スクレイ』なんだけどまだ少し早いよね」

 スクレイは季節限定・漁獲限定・明確な品質基準の天然プレミアムなタイセイヨウ真だらで、すっきりとした味わいの白身の魚。

【ムニエル!】

【ピッピは、アクアパッツアがいいの~】

【僕もアクアパッツアが良いなあ】

【モグッ】

 男の子はムニエル派で女の子はアクアパッツア派のよう。

「今だと何が良いかなあ⋯⋯取り敢えず行ってみようか」

【お~!(モグゥ)】




「お帰り~、なんかツルッツルのピカピカになってない?」

 公国でたっぷりと心と体を癒したロクサーナは、ギルドの食堂でレオンと昼食中。

「ふっふっふ! 天然温泉の薬効は凄いのだよ。日帰りのつもりが思わず一泊しちゃったもん。美肌効果に疲労回復効果、冷え性の緩和だからね。お湯に入りまくってきたもんね~」

「良いなぁ、俺なんてよれっよれのへろっへろだから、慰めて欲しいなあ」

 レオンはこの週末、ひとりで山に入ってユニコーン探しをしていたそう。

「ユニコーンって⋯⋯レオン、女の子だっけ? しかも未使用の」

「未使用言うな! 旅の商人がユニコーンを見たって言って、調査依頼が出てたんだ。見つかんなかったけど」

「流石にユニコーンは見たことないなあ。ユニコーンってあったかいとこにしかいないはずだよね」

「だろ? ここの森になんて絶対いないって言ったんだけど、その商人が『角が欲しい』ってさ」

「ユニコーンの角は水の浄化や毒の中和だよね。万病薬とか⋯⋯ううっ、気になる~。あれこれ落ち着いたら、探しに行くのもありかなあ」

 ライオンの尾、牡ヤギの顎鬚、二つに割れた蹄。額の中央に螺旋状の筋の入った一本の長く鋭く尖ったまっすぐな角をそびえ立たせた、紺色の目をした白いウマの姿をしている。

「心清らかな乙女なら背中に乗れるから、試してみたら?」

「あー、無理。僕は心まで魔物の血でどろっどろだもん。て言うか、一度だけなら誰でも載せる女好きじゃん。未使用限定の我儘ボーイだけど」

「ジルならいけると思うんだけどな~。ユニコーンに乗って、草原を駆け抜けるジルとか見てみたかったな」

「乗るならスレイプニルでしょ。空を駆け巡り『ヒャッハー』って」

「あ、それ最高! 乗ってみたーい。で、明日から依頼受ける?」

 レオンが期待で目をキラッキラに輝かせた。この様子だと一緒に受ける依頼の目星をつけているのかも。

「あ~、今日はしばらく忙しいから、依頼は受けないって伝えにきたんだった」

「ええ! マジで!? 何、どんな用事? 俺も手伝いたい! お願い!!」

「今回は無理」

 今回の依頼は帝国に喧嘩を売るようなものなので、レオンに限らず人を巻き込むのは危険すぎる。

 まだ計画を練ってはいないが、帝国の王宮は隠蔽で行けるとこまで行って、後はゴリ押し⋯⋯そう言う危険なパターンになりかねない案件なのは間違いない。

 しかも、結界を張り直されてしまうまでの時間制限という縛りまである。

(ヒリヒリしすぎて⋯⋯)



 次回、帝国に殴り込みか?

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