上 下
21 / 126

21.ロクサーナ、キルケーへの愛を語る

しおりを挟む
「じゃあさ、じゃあさ、キルケーもいたり?」

【繋がってる次元の先だけどね】

「よっしゃあぁぁ! キルケーに会えるぅぅ」

【ええ! 会いたいの? アイツ性格悪いのに。危なすぎだよ?】

「次元が違うだけならノープロブレム! 会いたい会いたい! 猛烈に会いたい! だって、薬草学と薬学についての膨大な知識だよ。元々はすごい神だったんでしょ⋯⋯んで、精霊になったんだよね。
冥府に赴いて霊を呼び寄せて予言を得るって、闇魔法の死霊術とは違うのか知りたいの。
変身術のプロだし、キメラ作るって魔法なのか錬金術なのか⋯⋯もう、わけわかんないもん。
薬と杖で人を動物にするしキメラも作るし。動物から人間に戻せる塗り薬の作り方もついでに知りたい。
キルケーは アコニツムトリカブトマスターなんでしょ? あれ上手く使いこなせなくてさ。
キュケオーン向精神的な醸造酒の作り方も教えて欲しい! 試したんだけど全然だったんだもん。水と大麦とペニーロイヤルミントで作るとか、ワインと粉チーズを材料とするとかって記録があるんだけど、作れないのよ~。
そんなので向精神的な効果だの幻覚見れるだの、ぜーったい無理。何が足りないのかぜんっぜんわかんない」

【⋯⋯会いたいのだけは分かった、うん】




「取り敢えずイカ焼きと海老食べてから、船を探そうか⋯⋯セイレーン&カリュブディス&スキュラ&キルケーじゃ、船だしてもらえないかなぁ」

【うん、それに追加でクラーケンね。これが今回のメインだから】

「うん、分かってる。踊り食い⋯⋯巨鯨くらいの大きさのクラーケンを踊り食いしたがる子猫のミュウの希望。頑張るよ」

 ロクサーナの頭の中をよぎったのは、足⋯⋯本当は腕⋯⋯の先っちょに、小さな点かシミみたいになっているミュウの姿。

(小さすぎて食いつかれても痛くも痒くもない⋯⋯歯が立つんだろうか)




【あそこの屋台だよぉ、ピカピカのおじさんのが美味しいってみんなが言ってたの~】

「あっ! ピッピ、元気だった?」

【うん、超元気なのぉ。でもねぇ、ちょうど500年目だったから忙しくて~】

「ん? よく分かんないけど、元気ならいいか】

【ピッピはおじさん好き】

【違うも~ん! 長年焼き続けたからぁ自慢のテクニックとかぁ、工夫を重ね続けた技が光るのぉ】

【頭も光るおじさん】

「おじさん! イカ焼き3枚ちょうだい」

「ちっこいのに3枚も食えるのか? うちのイカはでけえぞぉ。俺の持ち物みてえにな⋯⋯がっはっは」

「(ギャグがガンツしてる)大丈夫、友達と食べるから」

「そうか、ちょっと待ってな。焼きたての一番いいやつを作ってやるからな」

 焦げたタレの匂いが白い煙と共に立ち上がり食欲をそそる。

「ほれ、銀貨1枚と銅貨5枚な。熱いから気をつけろよ」

「ありがとう!」

 お金を払って人目につかなそうな木陰を探して座り込んだ。

「ハフハフ⋯⋯美味し~い。ピッピ情報に感謝だね」

【光る、ピカピカ光る⋯⋯ハムハム⋯⋯眩しすぎて目が痛い】

「ミュウの事は気にしないでいいからね。ストレスでちょびっと壊れかけててさ」

【燃やしちゃう? 復活したらピッピみたく新品同様になるよぉ?】

「いや⋯⋯あれ? 新品にはなんないんだ」

【完全燃焼したらぁ、新品になるかもぉ⋯⋯あ、消し炭じゃ無理だねぇ】

【復活しないじゃんか】

【ミュウはぁ燃え残っちゃうから平気なのぉ~。ふふっ】

 右の小さな翼をピッと上げて苦笑いした(当社予測)ピッピがミュウの尻尾に追い払われた。

(良き良き、この子達といる時が一番ホッとするね。はぁ、私もやっぱり疲れてたのかもな~)

【疲れるの、当然だよぉ~。ロクサーナは人嫌いだもんね~】




 イカ焼きを堪能して港を散策。

「なるべく丈夫そうな船がいいよね。んで、クラーケンごとき平気じゃあ! とか言ってくれそうな強者」

【いないと思うよぉ】

【僕もそう思う。踊り食いは諦めないけど】



「キャラック船は操縦に人がたくさんいるし大きすぎてダメ。小回り重視のキャラベル船が良いんだよなぁ。キャラベル船なら沿岸の浅瀬や河川での活動が迅速で、風を自在につかむし操舵性が極めて優れてる」

 港に停泊している船の中からいくつか候補を選んで交渉してみた。

「え? 無理無理。船は俺達の仕事道具なんだから、嬢ちゃんの遊びにゃ使えねえよ。全く親は何考えてんだか」

「おままごとがしてえなら、通りの向こうにおもちゃの船が売ってる。そいつを池に浮かべりゃいい」

「邪魔だ邪魔だ! 忙しいからどっか行けよ、怪我しても知らねえからな」

「う~ん、この身長が⋯⋯成長期後ならなんとかなったのかも。どうしようかなあ」

 超絶小柄なロクサーナは10歳くらいの子供に見えているらしく、話を聞いてくれそうな気配もない。

【15歳でも無理かも】

 クラーケンが今回の目標だが、最終的には毎年暴れるという海獣の調査が狙いなので、船⋯⋯船頭だけはどうしても必要になる。

「空を飛んでったら町中大騒ぎになるしなぁ。って事は、夜の闇に紛れて⋯⋯いやいや、朝と夜とじゃ条件が変わりすぎる。う~ん、そうだ!」

 突然立ち上がったロクサーナがイカ焼きの屋台に向かって走り出した。



「おじさ~ん」

「お? さっきの嬢ちゃんじゃねえか」

「ねえ、ここの海って毎年海獣が出るんだよね」

「ああ、出るぜ~。こ~んなでっかい口の魔獣が海からどっば~んってな」

「でっかいの?」

「おう、めちゃめちゃでけえぞお。すんごいデカいひれを器用に動かして、くねくね動いてきやがるんだ。鱗がキラキラしてよお、海水をどばーんと吐き出しやがるんだ。

ひれ⋯⋯ なんだ、シーサーペントじゃん)

 シーサーペントは、たてがみのような毛が生え、上下に身をくねらせて泳ぐ。幅の広いひれと鱗に覆われた体躯、攻撃は大量の潮を吹くなどの水属性のものばかり。

「んじゃ港とか船とか、屋台も壊れちゃって大変だね~」

「いや、大したこたぁねえよ。船も屋台も移動しとくし、港がちょこっと壊れるくれえだから、夏の風物詩ってやつだな。聖王国の魔法士ってのが来て追い払ってくれるしな」

「やっつけないの? 魔法でババーンとかしてさ」

「さあ、魔物と魔法士のバトルを観にきた観光客が金を落としてくれるから、倒されたら困る奴がいるのかもな」

 ジルベルト司祭が見せてくれた報告書によると、夕方海が荒れて翌日の午前中に騒ぎになると言う。素早い動きで船を沈め港に向かい潮を吐く。毎回、討伐ではなく追い払っただけ。

 まるで『もう直ぐ騒ぎますからね~、乞うご期待!』みたいな礼儀正しい海獣。

(へえ~、聖王国を舐めてんなぁ。客寄せのイベントに無料で魔法士を呼んでるんだ~。ほお~。国王に呪いかけてやろっかなぁ。鼻毛が伸び続けるとか、便秘になってオナラが出続けるとか)

「そっかぁ、魔物が暴れたら船が壊れて大変かなぁって思ったんだ~」

「まあ、何人かはいるけどな。船は高えから壊れたからってホイホイは買えねえ、漁師やめておかに上がるしかねえんだよなぁ」

 キラーんとロクサーナの目が光った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ
恋愛
 公爵令嬢オデットはある日、浮気というありもしない罪で国外追放を受けた。それは王太子妃として王族に嫁いだ姉が仕組んだことで。  聖女の力で虐待を受ける弟ルイスを護っていたオデットは、やっと巡ってきたチャンスだとばかりにルイスを連れ、その日のうちに国を出ることに。しかしそれも一筋縄ではいかず敵が塞がるばかり。  その度に助けてくれるのは、侍女のティアナと、何故か浮気相手と疑われた副騎士団長のサイアス。謎にスキルの高い二人と行動を共にしながら、オデットはルイスを救うため奮闘する。 ※胸糞悪いシーンがいくつかあります。苦手な方はお気をつけください。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。

ぽっちゃりおっさん
恋愛
 公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。  しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。  屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。  【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。  差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。  そこでサラが取った決断は?

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

処理中です...