【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

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20.みんな元気で、私はイカ焼き。クラーケンは友達じゃないからね

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「疲れた~! 昼間は学園で動けないから森の調査には時間がかかりそうなんだよな。いっそのこと『退学だあ』とか言い出してくれないかな」

 人の手が入らない森の深部には、ロクサーナが楽しめる大型の魔物はまだまだいそう。

「小型の魔物の群れとかとも遊びたいけど、やり過ぎると調査ができにくくなるよね。聖女辞めたら冒険者になろうかなぁ」

【魔物はいいお金になるもんね~】

「ふふん、お金は大事だもんね~。何があっても大丈夫なくらいって、どのくらい貯めたらいいのかなぁ」





 それから2か月、学園生活にも慣れてきた。大きな騒ぎと言えば入学直後の試験でロクサーナが首位になり、カンニングを疑われた事くらい。

 それからは特筆する出来事もなく、ロクサーナはボッチ生活を満喫中。

「9月に入学した時は暑かったのに。11月ともなると山も綺麗に色付いたし、涼しくて過ごしやすい」

 入学当初との違いと言えば、サブリナとセシルには多くの友人が出来たこと。

 クラスに関係なく食事やお出かけを楽しんで、お茶会にも招かれたり開いたりと幅広く活動しているそう。

 ロクサーナとサブリナやセシルが一緒になるのは学科の授業くらいで、席の変更だけは友達に誘われても頑なに断っているらしい。

(別にいいのにね⋯⋯最近は2人ともプライベートが充実しすぎてるからか、ノート見せてとか宿題写させてとかばっかりだし)

【ロクサーナの友達はチェンバー?】

(先生は友達じゃなくて、給餌係?)

 専科の授業は週2回だが、研究に夢中になると食事を忘れるチェンバーの所に時々顔を出して餌⋯⋯食事を提供している。

 もちろん毎回お支払いは現金で。

 専攻のクラスではロクサーナひとりだけレベルが違いすぎて、かなり浮いてはいるが虐めや陰口がないからかなり過ごしやすい。

(実験がメインなのも嬉しいしね)



 レベッカは順調に攻略を進めていて、アーノルド王子と愉快な仲間達2人は確実にゲット。グレイソン第一王子殿下の婚約者候補イライザ・ネイトリッジの事は『お姉様』と呼んでいる。

 週末はイライザ&レベッカで王妃に呼ばれて、お茶会からのお泊まりが通常モードになりつつある。

 アーノルド王子は次期国王でもないくせに、正妃はレベッカだが側妃にサブリナとセシルを⋯⋯と言っては、レベッカの『レベッカ可哀想にゃん』の襲撃に遭う。その度に宝石商が呼ばれるので、レベッカの作戦勝ちだろう。

(正妃は国王の奥さんだし、側妃を持てるのは国王だけだと誰か教えてやれよ~)

 脳筋ビクトールはセシルとレベッカの間を揺れ動いては、レベッカの『ぷんぷんだぞ』攻撃にあって鼻の下を伸ばしている。もちろん宝石やドレスを献上して許しを得ている。

(ガチムチのデレデレ顔ほどキモいものはないって勉強したよ~)

 エセインテリ眼鏡トーマスはレベッカの目を盗んで、サブリナに花やら自作の詩集やらを運んでくる。何故か必ずレベッカにバレて『泣いちゃいそう』と斬り込まれる。その度に詩や歌付きの宝石を贈るが、宝石以外はいつもゴミ箱で発見される。

(文法とか勉強してからの方がいいよ~、意味不明だし呪術みたいだし。悪魔の召喚でもしたいのかと思ったもん)





「今度の週末は海に行こうと思うんだ~」

 ベッドでゴロゴロしていたロクサーナが突然起き上がって宣言した。

【あいつら、あのままでいいの?】

「ん? 問題なんてないけど?」

 ロクサーナの中では全てが順調に進んでいる。ポンコツ王子の引取先はできたっぽいし、攻略が順調なお陰か直接攻撃がないのも嬉しい。

 サブリナとセシルはどちらに転んでも大丈夫なくらい友達ができた。仲がどうなっているのかは不明だが、剣術が好きなセシルと脳筋ビクトールは同じ部活に所属し、インドア派のサブリナと詩作のエセ眼鏡も茶飲み友達としては最適かも(当社比)。

 本来の目的、魔物出現の調査も少しずつ進んでいるし、通年通りならスタンピードは来年の春。

【問題ありありじゃん! 毎日陰口たたいて仲間はずれにしてさ⋯⋯この間なんて水かけられたよね!】

「あ~、あったねぇ。別に、あの程度ならほっとけばいいよ。だってさ、桶半分くらいの量だよ。もうちょっと新しい魔導具使えば、全身にジャバ~って出来るのに。
燃やされたらチリチリを直すのに時間魔法を使わなきゃだから、色々問題が出そうだけど」

 教科書や私物がなくなるのは所有者指定をしているので、すぐに戻ってくる。壊された物くらいなら修復魔法でオッケー。

「うん、特に問題なしだね!」

【そう言う問題なの?】

「うん、そういう問題だよ。やるならとことんやれって思うけどね~。剣で斬りかかるとか、階段から突き落と⋯⋯されかけたね。あはは⋯⋯。
昔の事を考えたら、楽勝だもん。あれもこれもミュウ達のお陰だね。感謝してます!
で、海行く? リューズベイ。
ピッピ情報で、イカ・タコ・海老・蟹だって。イカ焼きにタコの天ぷらでしょ。んで海老は生でもなんでも美味しいし、蟹は先ずはそのままでその後茹でて~」

【僕はクラーケンの踊り食いで】

「クラーケンかぁ、あれってタコなのかイカなのか⋯⋯どっちだと思う?」

【イカだね。ダイオウイカの魔物だもん】

「イカかぁ、なら炭火で焼いてタレかな」

【だから踊り食いだってば。よし! 行こう】




 やって来ました、イカとタコ⋯⋯違った、リューズベイの港町。海老と蟹が歌って踊るリューズベイ。

 この町の港に停泊しているのは大小様々な漁船。大きな帆船が停泊できるほどの水深がないために、艀船はしけぶねが荷物や人を沖まで運んでいた。

 海の向こうに小島が散在し、その向こうに大きな大陸がある。

 交易品が艀船から降ろされて人足達が馬車に積み込む姿や、荷受け票を持って事務所に駆け込む忙しそうな男性の姿が見えた。

 澄み渡る空を見上げると気持ちよさそうに飛ぶ海鳥が羽を広げ、穏やかに寄せては返す波の音が心を穏やかにしてくれる。

「海獣いなさそう」

【クラーケン呼ぼうよ】

「友達か」

 1階が店舗で2階が住居になっている建物が整然と並び、公園の周りには屋台が並んでいる。食べ物や飲み物だけでなく、貝殻を使ったアクセサリーや流木を使った工芸品に目が惹きつけられる。

「羽根を付けた派手な帽子が結構あるね。あっちのアクセサリーは骨?」

【海鳥の羽根もあるね。骨は人骨じゃない】

「はっ! 羽根&骨と言えば⋯⋯まさかのセイレーンとか?」

 セイレーンは上半身が人間の女性で下半身は鳥の姿。岩礁から美しい歌声で航行中の人を惑わし、遭難や難破に遭わせる。歌声に魅惑された挙句セイレーンに喰い殺された船人たちの骨が島に山をなしている。

【あの高い山のある島の向こう側だね】

「ええっ! あの島ってアイアイエー島だったりするの!?」

【次元が繋がっちゃったんだね~、珍しい現象だなぁ】

「だったらだったら、両親は神様のくせに大喰らいすぎて怪物になったアホなカリュブディスと、精霊だったのに上半身が女で、下半身が魚になっちゃった間抜けなスキュラもいたりなんて言わないよね」

【カリュブディスのせいで渦潮が出来ててあの辺りは船が通れない。スキュラは可哀想な子なんだよ。キルケーに逆恨みされて怪物にされたんだもん】

「⋯⋯いるんだ。戦ってみたいかも」

【戦闘狂、血みどろ聖女】



「じゃあさ、じゃあさキルケーもいたり?」

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