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4.子供だからって舐めてるよね

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 衛兵が立つ両開きの重い扉が開き、赤い絨毯が玉座まで真っ直ぐに敷かれている。

 高い天井には大小のシャンデリアがキラキラと輝き、ピカピカに磨かれた大理石の床に影を落としている。

 壁を背に一列に並んでいるのは大臣や貴族だろう、それぞれが意匠を凝らした流行のジュストコールを身につけている。

 袖口が折り返された丈の長いコートとウエストコート、膝丈のブリーチズ。袖口にはレースをあしらい、凝った結び方のクラバットには大粒の宝石が輝き、精密な模様の刺繍は創意工夫に溢れている。

 当然ながら、玉座の国王は彼等以上の豪華さ。大量の宝石で飾られたマントだけでなく、先の尖った靴にも宝石がキラキラと輝いていた。

(魔法士の派遣費用が払えない国なのに随分と豪奢な。よく見ると建物の内装も新しいし、絨毯やカーテンもかなり新しそう。
ジルベルト司祭やアリエス様から聞いてた話と随分違ってる。な~んか、違和感バリバリ)

「楽にするがよい。国王のシュルツ・ダンゼリアムだ。隣におるは王妃のエスメラルダとアーノルド第二王子。遠い聖王国からよく来てくれた」

「勇猛なる獅子ダンゼリアム国王陛下にご挨拶申し上げます。
聖王国より参りましたロクサーナ・バーラムと申します。左からサブリナ・セルバン、セシル・ファーラム、レベッカ・マックバーン。いずれも教会に所属しております。
ダンゼリアム王国の王立学園へ、留学生として迎え入れていただきました事、心よりお礼申し上げます」

「ふむ、其方達は15歳の若さで治癒魔法が使えると言うことか? 普段アリエス達と交流しておったので、どうも頼りなげに見えてしまうのじゃが」

 国王の不安は当然だろう。ロクサーナ達の年齢はアリエス達の半分に近く、経験年数で言えば格段の差がある。

「それぞれ得意属性は異なりますが、それなりに」

 4人の中で治癒魔法が使える順番で言えば、ロクサーナ、セシル、サブリナ、レベッカの順になる。

(嘘は言ってない! うん、大丈夫。レベッカがいる以上使えると言い切る事は出来ないけど、嘘は言ってない。サブリナとレベッカは水属性)

 水属性を持つ魔法士には中級魔法で、傷口の効果がある『ヒールミスト』がある。

 どの魔法でもそうだが魔力操作や魔法の練度によって効果は大きく変わる。

 ジルベルト司祭のせいで、国王の質問に肯定も否定もできないと言う、非常に危険な立場に追いやられたロクサーナ。

「どの国も年々魔法士が減っていると言うのに、さすが聖王国ねえ。これから学園に入る子供が既に魔法士として名乗りを上げることができるなんて⋯⋯一つの国がその力を抱え込むなんて、随分と傲慢じゃないかしら」

 エスメラルダ王妃の声には明らかな苛立ちが浮かんでいる。

(聖王国だって問題抱えてるんだよ~、みんな知らないから、勝手なこと言うけどさ)

「聖王国では魔法士や聖女を自国のみに抱え込むことなく、依頼を受けた国に派遣しております。国の方針は私どもには分かりかねますが⋯⋯災害への救援など、できる限り迅速に対応するよう努めております」

「このような幼い子供達には国の思惑など理解できまい。いずれは、聖王国から魔法士が自発的に移住するやも知れん」

(それはないんじゃないかなあ。聖王国より給与がいいのは帝国くらいだけど、待遇は奴隷並みだって言うし)



「陛下、発言のご許可をいただきたく」

「ヒッコリー内務大臣か、申してみよ」

「魔法士の取り扱いについて一つお願いがございます。平日は学園があるとしても、週末は魔法士として活動すると聞いております。スケジュールは立てておりますが、4人の能力の確認時間を早急にいただきたいと存じます」

「そうよの、ぶらぶらさせていては勿体ない。それなりに⋯⋯より有効に働いてもらわねばな」

 ピシピシピシッとロクサーナの仮面に大量の罅が入り、眉間の皺が見えそうになる。

(ヤバいヤバいヤバい! 能面、無表情キープ⋯⋯)

「恐れながら申し上げます。仕事につきましては、聖王国を通していただくよう申しつかっております。私達は聖王国の教会に所属しておりますので、上司の許可なく仕事を受ける事は禁じられております」

「なんと! 我が国に世話になっておきながら協力はしたくないだと!?」

「我が国の金で遊び呆けるつもりか!」

「たかが魔法士、しかも役に立つかどうかも分からん子供のくせに!」

 歓迎ムードはどこかへ消え失せ、あちこちから非難の声が上がりはじめた。

(こう言うのってよくあるんだよね~。腹立つけど。ついでにこれもやっておけとか、これもできるだろうとかって無料の奉仕活動を押し付けてくるやつ。子供だと思って舐めてるよね)

「融通が利かぬのは子供の特権やもしれぬが⋯⋯」

 国王がロクサーナを睨みつけているが、所詮人の子の魔力がのっていないただの威圧。ロクサーナには蚊に刺されほどの衝撃もない。

「後からわけのわからぬ難癖をつけられても国の体面に関わりますし、私の方で聖王国に確認をとりましょう。許可が下り次第仕事をしていただきます。よろしいですね!」

 学費も寮費も、その他にかかる費用も全て聖王国持ちだと聞いているロクサーナのテンションは、最低ラインを突破してもまだ下がり続けている。

(なんか聞いてた話と違いすぎて⋯⋯このまま帰ろうかなぁって思うんだけど)

 チラッと横を見るとセアラとサブリナも同じことを考えているように見えた。

(レベッカはよく分かんないけど、『帰りたい人だけ帰る』で良いんじゃないかな。これ、絶対揉め事が起きるよね)



「王太子のグレイソンは他国へ遊学に行っておるが、第二王子のアーノルドは其方達と共に学園に通うことが決まっておる」

「アーノルドです。同級生となるので楽しみにしてるよ」

 顔付きも体型も国王によく似たアーノルド第二王子は、ダークブロンドと濃茶の瞳。肩幅が広くがっしりとした体型は剣士タイプだろう。

「寮暮らしは大変だと思うから、困ったことがあればいつでも声をかけていいからね。私の側近候補にも会っておけば良いかも。明日の朝連絡を入れてあげるから、楽しみにしていて」

「お心遣い痛み入ります」



 ようやく終わるかと期待したが、4人の得意魔法やこれまでの実績を聞きたがる人に囲まれて、延々と説明させられる事態になった。

 彼等が特に聞きたがったのは⋯⋯。

「上位魔法が使える魔法士がどれくらいいるのかな?」

「神級魔法を使える魔法士はいるのかい?」

「移住した魔法士はいるんだろう?」

「帝国とは特別な契約をしてるんじゃないか?」

「聖王国には精霊や妖精がいるのかい?」

「精霊でも妖精でも構わないから、分けてくれないか?」

「加護をもらう方法を教えてくれ」




 

 ダラダラと無駄に時間をかけた謁見が終わった時には、セシルとサブリナは青褪め、ロクサーナはブチギレそうになっていた。

 レベッカ? 楽しそうにしてました、はい。

(もう嫌ぁぁぁ~!!)

【プチってする? エリアはどこまでにする?】

(⋯⋯それもなんか嫌だから。取り敢えず寮に行って、ジルベルト司祭をネチネチ虐めて遊ぼう! よし!)

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