【完結】婚約者候補の筈と言われても、ただの家庭教師ですから。追いかけ回さないで

との

文字の大きさ
上 下
31 / 35

31.狼の皮

しおりを挟む
(気合よ、アメリア。大丈夫、たかがドレス・・されどドレス・・・・はぁ)


「お嬢様、またそれですかい? 今日はルンブラントはないですけえ、壁紙見つめるですか?」

「レンブラントよ、あの時見てたのは」

「んで、朝までそうしとらっしゃるおつもりで?」


「・・よし! 今日を乗り切れば大丈夫」

 アメリアは勇気を振るい応接室へと向かう。

「まったく、気の弱いお嬢様だねえ」

「そんなこと思うのはロージーだけよ」

「最近そうでもない気がしますで?
被ってる皮に綻びが出とられます」

「被るのは猫、皮を被るのは・・狼よ」

「ならお嬢様は皮をひっくり返して被っとりなさる」

 ロージーがケラケラと笑い、アメリアは眉間に皺を寄せた。

 後ろを振り返りロージーを指を差して、
「私は羊じゃないから、火で炙って食べられたりしないわ。多分ね」


「ひゅ~、こいつは凄い。アレクシス趣味良いな」
「食べる?」

「予想通りだ。普段の服装がストイックなだけに、堪らないね」


 慌てて振り返ると、三兄弟が応接室から顔を覗かせていた。


「応接室のドアを開けっ放しなんて信じられないわ」

「閉まってたんだけど声が聞こえたから、アメリアが臆病風に吹かれる前に救出しようかと」


「これはアレクシス様、お気遣い頂き誠に恐縮でございます」


「「ほんとだ」」

「だろ?」

 アメリアは胡散臭いものを見るような目で、
「何がでございましょうか?」


「アメリアは緊張すると家庭教師に戻る」

「もっ、戻るも何も私は家庭教師でございます!」

「アメリア、そんなに肩に力を入れてると肩こりで眠れなくなるぞ」


 アメリアは大きく深呼吸し、特大の笑みを浮かべた。

「では皆様十分に余興は楽しまれたようですので、そろそ「アメリア、怖い」」

「ジョシュア、そんな!」

 イライジャとアレクシスが大爆笑した。



 今日はサリバン公爵の夜会。

 歴史ある広大な屋敷は赤と緑のクリスマス風の飾り付けがされており、入り口の両サイドにはキューピッドの像が飾られていた。

 アメリアは背筋をピンと伸ばし、アレクシスの腕にかけた指が強張っている。


 アレクシスが耳元で囁いた。

「ヤドリギがあったらキスして良い?」

「・・なっ、何を。ばっ・・馬鹿な事を言わないで」


「顔が真っ青だったからね、色が戻ってきて安心した。戻りすぎかもだけど」


 アレクシスがニヤリと笑う。


「そろそろ寂しくなったのでしょう?
今日こそどなたかに決められると宜しいかと」

「もうアメリアに決めてるし」

「もう十分ですわ。これ以上お戯れを仰るのでしたら私は「ごめん、緊張を解せたらいいなと思ったけど、やり過ぎた」」


 ドアが開かれ一歩中に入ると、和やかに談笑していた人達が段々と静まり返っていった。

 アメリアは顔が引き攣らないよう必死で頬に力を込めて、会釈しながら参加者達の横を通り過ぎていく。

「大丈夫かい?」

「勿論ですわ、不躾な態度の方など気にする必要はございませんもの」

「漸く狼の皮被れたみたいだね」

「・・」


 後ろから来ていたジョシュアが、
「あっヤドリギ」


 アメリアは盛大につまずいた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

従姉と結婚するとおっしゃるけれど、彼女にも婚約者はいるんですよ? まあ、いいですけど。

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィオレッタはとある理由で、侯爵令息のフランツと婚約した。 しかし、そのフランツは従姉である子爵令嬢アメリアの事ばかり優遇し優先する。 アメリアもまたフランツがまるで自分の婚約者のように振る舞っていた。 目的のために婚約だったので、特別ヴィオレッタは気にしていなかったが、アメリアにも婚約者がいるので、そちらに睨まれないために窘めると、それから関係が悪化。 フランツは、アメリアとの関係について口をだすヴィオレッタを疎ましく思い、アメリアは気に食わない婚約者の事を口に出すヴィオレッタを嫌い、ことあるごとにフランツとの関係にマウントをとって来る。 そんな二人に辟易としながら過ごした一年後、そこで二人は盛大にやらかしてくれた。

婚約破棄されたので初恋の人と添い遂げます!!~有難う! もう国を守らないけど頑張ってね!!~

琴葉悠
恋愛
  これは「国守り」と呼ばれる、特殊な存在がいる世界。  国守りは聖人数百人に匹敵する加護を持ち、結界で国を守り。  その近くに来た侵略しようとする億の敵をたった一人で打ち倒すことができる神からの愛を受けた存在。  これはそんな国守りの女性のブリュンヒルデが、王子から婚約破棄され、最愛の初恋の相手と幸せになる話──  国が一つ滅びるお話。

婚約破棄され聖女も辞めさせられたので、好きにさせていただきます。

松石 愛弓
恋愛
国を守る聖女で王太子殿下の婚約者であるエミル・ファーナは、ある日突然、婚約破棄と国外追放を言い渡される。 全身全霊をかけて国の平和を祈り続けてきましたが、そういうことなら仕方ないですね。休日も無く、責任重すぎて大変でしたし、王太子殿下は思いやりの無い方ですし、王宮には何の未練もございません。これからは自由にさせていただきます♪

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

処理中です...