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16.レース編み

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「私はそろそろ帰らせていただこうかと思っていますの。
勿論、これ以降は何か頂きたいとか考えておりません。
公爵家の皆様にはとても良くしていただいて感謝の気持ちでいっぱいです」


 ソフィーが悲しそうな顔になり、
「それでも帰っちゃうの?」

「ここにおりましても、お役に立てる事はもう無いのではないかと思いますので」

「3人とも駄目だったかしら?」

「あの、ご存知ないかもしれませんが、私は傷物なんです。
しかも歳も・・行き遅れで、デビュタントさえしておりませんの。
公爵家の方には私などより相応しい方が幾らでもいらっしゃいますし」

「でも、婚約に同意してくれたでしょう?」


 アメリアは正直に頭を下げた。

「申し訳ありませんでした。お金に釣られて一年間限定のお仕事を頂いたつもりでお受けしました」

「やっぱりね、そんな気はしてたの。
それでもあなたにお願いしたかったのよね。
ここに帰ってきた時、結婚する気はないんだってあなたの服装を見て確信したの」


 アメリアが申し訳なさに頭を上げられずにいると、
「ロージー、ここでアメリアを見張っていてくれるかしら。
どこにも出さないで。連絡したら応接室に連れてきてくれるかしら?」

「畏まりました」

「ロージー、できれば私の前でもあの素敵な方言聞かせて欲しいわ。
じゃあ、ちょっと行ってくるわね」


 ソフィーが早足で部屋を出て行った。


「お嬢様、ほんに帰られるですか?」

「その方がいいと思うの。ここにいても私に出来ることはなさそうだし。
何もしないでお給料を頂くのは間違ってると思うの」

「その後、どうなさるんで?」

「キャンベル公爵夫人にお願いすれば紹介状を頂けると思うから、家庭教師の仕事を探すつもり」

「3人とも気に入らねえすか?」


「そんな風に考えたことないもの。
さっき言ったように、この歳で社交界にデビューもしていない行き遅れなのよ。
弟や妹達にもまだお金がかかるし、お父様だってまだ苦労してらっしゃるし」

「言い訳するんはかっこ悪いです」

「・・だって本当に無理だもの。

この仕事を引き受ける時、家庭教師として契約すれば良かったって反省してるわ。
私が間違ってたの」


「お嬢様は臆病風に吹かれとるです」


 持ってきたレース編みを一つづつたたみ直し籠に収めていく。
 この館に来るまでの馬車の中とここについてからで、かなりの数になっている。

 アメリアは何年も前から、いつか余裕ができたら小さな部屋でも借りて、レース編みで生計を立てるつもりでいる。


 ノックの音が響き、使用人が声をかけて来たのでアメリアは応接室に向かった。


 応接室にはスコット公爵と3人の息子達が勢揃いしていた。



「アメリアがね、おうちに帰られるそうなの。
みんなからも挨拶したいだろうと思って声をかけたのよ」

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