【完結】婚約者候補の筈と言われても、ただの家庭教師ですから。追いかけ回さないで

との

文字の大きさ
上 下
11 / 35

11.美しい花

しおりを挟む
 あれから五ヶ月、朝晩少し肌寒い季節になってきた。

 庭には、白やピンクのダイヤモンドリリーが咲き誇り、黄色いウインターコスモスが小さな花をつけている。


 アレクシスは夜更かしが少しばかり減ったせいでイライジャから、

「暇なら手伝え」

と言われ、領民の相談役や領地の見回りをやらされている。


 弟が仕事を手伝うようになったのが嬉しいイライジャは、以前に比べ格段に穏やかになった。
 最近はノックの後、返事を待ってからドアを開けるようになったし。


(この様子なら二人とも、春まで待たなくても良い縁談に恵まれそう)


 自分が婚約者候補だと言うことはすっかり忘れているアメリアは、成長した子供を見る母のような気持ちになっている。


 公爵家に来たばかりの頃には種を植えたばかりだったクリスマスローズも、緑の葉と茎を伸ばし来年の開花時期に向けてスクスクと成長している。


「毒がある」

「学名ヘレボルス、毒があるのに聖母マリアに捧げられたと言う不思議な花ですね」


 五ヶ月間の特訓の間に、ジョシュアは単語より少しばかり長い文章を喋るようになった。

「トリカブト・ジギタリス・イヌサフラン・ダチュラ・ナルキッソス。この辺りは毒性のある花ばかりですね」

「・・昔飲まされたから」

「それで毒の研究を?」

 ジョシュアが目を見開き、
「知ってた?」

「一箇所に集まっているので、そうかな? と思っておりました」

「怖い?」

 アメリアは首を振る。
「いいえ、怖いのは毒ではなくてそれを悪用しようとする人ですわ」


「・・アレクシスは、騙されて後悔してる」

「騙されてジョシュアに毒を渡したとか?」

「そう」

「家族を利用するなんて最低!」


 下を向いて黙々と花の手入れをしているジョシュアを見ながら、この兄弟の歪な関係の原因が漸く分かった気がした。


 毒を飲まされ引き篭ったジョシュア。騙されたとは言え、弟を傷つけた事でより傷ついているアレクシス。
 見た目と違い優しいイライジャは、二人の庇護者だろう。


 あの優しかったスコット公爵夫妻が、息子たちの為に何もしなかったとは考えられない。

 公爵夫妻が社交界に殆ど顔を出さないことは有名だから、ジョシュアが引き篭もりアレクシスがご乱行を続けている間、領主館でイライジャと共に二人を見守っていたのかも。


(では、私の立ち位置は?)


 アメリアは、自分はただの家庭教師で良いのだろうかと悩み始めた。


 花壇の手入れを終えて、二人揃って館に戻った。


 屋敷に入った途端執事が急足でやって来た。
「旦那様と奥様がもう直ぐお戻りです。ラヴェンナの城門から知らせが参りました」


 ジョシュアが無言で駆け出し、部屋に逃げ込んだ。

(巣穴に逃げ込む小動物みたいだわ。結構可愛い)


 アメリアが、走り去るジョシュアの後ろ姿を眺めていると、
「お嬢様が、なんか失礼な事考えとらっしゃる」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*) 表紙絵は猫絵師さんより(⁠。⁠・⁠ω⁠・⁠。⁠)⁠ノ⁠♡

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

【完結】己の行動を振り返った悪役令嬢、猛省したのでやり直します!

みなと
恋愛
「思い出した…」 稀代の悪女と呼ばれた公爵家令嬢。 だが、彼女は思い出してしまった。前世の己の行いの数々を。 そして、殺されてしまったことも。 「そうはなりたくないわね。まずは王太子殿下との婚約解消からいたしましょうか」 冷静に前世を思い返して、己の悪行に頭を抱えてしまうナディスであったが、とりあえず出来ることから一つずつ前世と行動を変えようと決意。 その結果はいかに?! ※小説家になろうでも公開中

処理中です...