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27.ルーナの入れ知恵

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「官僚達の不正を調べ終わる頃まで次の国王の選定をはじめる余裕はないと思われます」

「ウィリアム殿下にお願いして国王陛下と対面する機会を頂きました。国王陛下からのお許しはいただきくには一つ問題があります」

「殿下の御年齢でしょうか?」

「流石はルーナ様。レミリアス王国の法律では成人前の王子であっても後見人を立てる事で国王になることができますが、ナーガルザリア王国では認められません」

「つまりナーガルザリア王国の法律で認められない成人前の国王との取引に難色を示しておられる」

「その通りです。ナーガルザリア王国のレミリアス王家に対する不信感は当然のことだと思いますからあまり強くも言えず悩んでおります」

「殿下が18になられるまでのお立場を確実なものとせねばならないのですね」

「ウォルデン侯爵家から後見人を断られている今、レミリアス王国に信用に値する方がおられるのか分かりません。なんの実績もない私をそれだけの期間無条件で支えてくれる方がおられるとも思えないのです」

 セドリックはウォルデン侯爵家が後見してくれればと思いもするが、今まで王家が散々迷惑をかけた事を思えば自分から願うことなどできなかった。

「ウォルデン侯爵家は今、レミリアス王国に借金を取り立てている最中ですから後見人になると痛くも無い腹を探ったりそれに託けて殿下の足を引っ張る者が出てくる可能性がございます」

 長年の人質生活でレミリアス王国の貴族との面識もなく、あるのは断罪され国を傾けた国王の実子であることのみ。ただでさえ脆弱な足場しかないセドリックにそれは致命傷になる可能性もある。


「これは大変優秀な方を遣わしていただいたわたくし個人からの御礼ですが・・。殿下がご自身のお力でガッバーナ前公爵を表舞台に引き出すことができれば」

 マーカス・ガッバーナ前公爵はセドリックの祖父の代に一時期宰相を務めていたが当時の国王と口論になり、王家に三行半を叩きつけ爵位を息子に譲った後領地の外れで隠遁生活を送っている。

 稀代の頑固者として有名な彼の口癖は『わしは百姓じゃ』

 貴族社会と縁を切っただけではなく平民としか口を聞かない徹底ぶりで、息子のガッバーナ公爵でさえ門前払いを喰らう始末だと言う。

「ガッバーナ前公爵は貴族を嫌悪しておられるのに、ルーナ様は彼が一番後見人に相応しいとお考えなのですか?」

「はい。貴族よりももっと王家を嫌悪しておられる方ですね」

 王家の者を前に平然と『王家を嫌悪している』などと断言するルーナの歯に絹を着せぬ物言いに流石のアリシアが青褪めた。
 ルーナの無茶振りには慣れているつもりのアリシアだったがいつ『不敬だ!』と切り捨てられてもおかしく無い状況に足が震え握りしめた日傘がぽきりと折れてしまった。

「それほどに嫌っている王家所縁の私の話を聞いてくださるでしょうか? 私にはとても無理な話に思えます」

「ガッバーナ前公爵は領地にお住まいになっておられますの」

「・・?」

「ガッバーナ前公爵の亡くなられた奥様は帝国の侯爵家から嫁いで来られました。とても仲の良いお二人だったそうですわ」

 眉間に皺を寄せて考え込んでいたセドリックが首を傾げチラリとルーナの顔を見た。

「・・えーっと」

「帝国には大切にしておられた奥様のご兄妹が今でもいらっしゃるそうですしとても親しくされていたそうです。ガッバーナ前公爵が本当にレミリアス王国を見限っておられるならとっくの昔に帝国へ移住しておられると思われませんか?」

「あっ!」

「噂通りの方ならお話出来るようになるまでかなりの苦戦を強いられると思いますが、ガッバーナ前公爵の後ろ盾なら間違いなく怪しげな貴族に足を掬われることはないと思います」

「ありがとうございます。どのようにすれば良いか考えてみます」

「はい、わたくしでお手伝いできることがあればご連絡下さいませ。随分と長話になってしまいました。わたくしたちはこれで失礼させていただきます。
それから、大変優秀な方を遣わしていただいたお礼をお伝えいただけますでしょうか?」

「無理矢理奪い取ったと言われるかもしれませんよ」

「向こうからやって来ましたのに。時折帰りますかと尋ねますが今の所断られておりますの」

「ルーナ様の近くはきっと居心地が良いのでしょう。王弟殿下はもう諦めていると仰っておられました。末永く頼むと伝言を申しつかっております」

「まあ、マシューの帰る場所がなくなっては可哀想ですわ。わたくしにこき使われるのに嫌気がさした時はナーガルザリア王国で引き取ってあげてくださいませ」



 長年ルーナの専用執事を務めているマシューはナーガルザリア王弟殿下の長子。ナーガルザリア国王には王子がいるがマシューの王位継承順位は第4位とかなり高い。

 そんなマシューが何故ルーナの執事を務めているのか・・。




  

 当時18歳のマシュー達は半年前に学園を卒業し父の元で仕事をはじめたばかりだった。


「レミリアス王国はもうどうにもならん。陛下はレミリアスを従わせると仰られた」

 国王との打ち合わせが終わり執務室に帰って来たウィリアム殿下がクラバットを緩めながら吐き捨てた。

「まさか戦争とか仰いませんよね。いったい何があったのですか?」

 離宮に住むセドリックを弟のように可愛がっているライリーとマシューは慌てて立ち上がり、読んでいた書類を投げ捨ててソファに座るウィリアムの向かいに座って身を乗り出した。
 ライリーとマシューは双子の兄弟。兄のライリーは父親と同じ金髪碧眼で黒縁の眼鏡をかけており、マシューは母親似の銀髪と翠眼。

「レミリアスの王子の婚約者は学園にも行かず遊び呆けているらしい」

「は? ボケナス王子の婚約者は確かウォルデン侯爵家の令嬢ですよね」

「そうだ。レミリアスがどこからも侵略されず今まで放っておいてもらえたのはウォルデン侯爵家の軍事力を危険視していたからだが、こうなっては怪しいものだ」

「でも、侯爵家の発明品はかなり優秀だと聞いています」

「それだって先代の発明品だし、現在の侯爵はただの脳筋か戦バカらしい。
最低の国王の次は愚か者のグレイソン王子。せめて真面な婚約者が連れ添えば少しはマシかと思っていたが話にならん。
今度の祝賀会は不参加の予定だったが私が様子見に行くことになった」

「その結果次第では戦争がはじまると言う事ですか?」

「レミリアスの王宮には真面な奴がおらんから被害を出さずあっさりと終わるだろう。あの国には横領やら贈収賄で私腹を肥やすことに精を出す奴ばかり・・上があの国王では仕方ないのかもしれんが、国として残す意味がないというのが陛下のご決断だ。
セドリックはナーガルザリア王国の貴族と養子縁組が決まった。このままでは可哀想だからな。どこぞの伯爵の次男か三男にして将来は文官として働けば良いとの仰せだ」

「・・俺、私も同行させて下さい。いくら記憶にないと言っても祖国がなくなるのは可哀想すぎます」

「マシューの分も俺が仕事をします。頼んだぞ、マシュー」

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