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(ⅩⅤ)電車、そして段差
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早良淵駅ホーム、
「何で子供料金が存在するんでしょうね?」
簡単に考えれば、体が小さい分電車内の座席のスペースを埋めないという点か。
「お前らが経営者側だったら、どういう理由で子供料金を作る?」
とりあえず明里と理美の意見を聞いてみる。
「子供がお小遣いでも電車を利用できれば、電車内が子供で溢れて明るい車内にできます。」
「子供の料金を安くすれば、子供料金で不正に乗車しようとする悪い大人たちをあぶり出せるわ。」
お前らにはもう訊かない。
電車がホームに向かって走ってきた。耳を劈くような轟音と共に。魔王でも輸送してるんですかって言ってみたくなる状況である。
「赤城さん、乗りますよ。隙間と段差あるので気を付けてくださいね。」
「俺は老人か。こんなもので躓くものか。」
「きゃっ!?」
俺と明里は無事に乗車したが、理美はそうでもなかったようだ。ものの見事に段差で転けていた。
「殺し屋ってのも案外庶民的じゃねえか。」
「うるさいわね、偶然よ。人生でたった一度の転倒がここだったってだけ。」
神崎理美よ、それを俗にフラグと呼ぶんだ。気を付けろ、連続攻撃がくるぞ。
「きゃっ!?」
電車が発車すると同時に慣性が理美の足下を掬う。どこにも捕まっていなかった理美は大きくよろけたが、なんとか耐えた。
「今のはノーカウントよ。」
顔を少し赤らめながら取り繕う。世の中にはこれも男を落とす計算の範疇である女子もいるらしいが、理美はただのドジっ娘であるようだ。
「せっかく席が空いてるんだから座りましょうよ。」
明里が指差す方の席はほとんど空席で、満員電車とは正反対の光景だった。もちろん始発ではない。ただ田舎よりの町であるだけだ。
俺が車内で立ち尽くしていなければ、理美が恥ずかしい思いをすることも無かっただろうが、俺は初の乗車であるためさっきの出来事は必然だったということになる。
「電車の座席ってこんなにフカフカだったのか。気持ちいい……」
席に座った瞬間、家のソファーに似た柔らかな感触が尻を包み込む。噂に聞く、電車で寝過ごすという事象が今なら理解できる。
「そんなにフカフカじゃないと思いますけど。どちらかと言えば座り心地悪いですよ。」
「お前の家のソファー、どんだけ性能良いんだよ。」
「部室のソファーでさえもこれよりフカフカですよ。」
電車の座席がフカフカでないことを激推ししてくる明里。俺が感動したのは異常だったのか? 俺の感動を返せっ!
「蓮、寝ちゃったりしないでよ。今から指名手配犯をとっ捕まえに行くんだから。」
「俺は大丈夫だ。それよりお前らも寝るなよ。そういうことを言うやつは大体寝るんだ。」
一時間後、
視界が細くなってるのが分かる。ゆっくり目を開けると目の前には誰もいない向かいの座席がある。横をみると明里と理美が気持ち良さそうに寝ている。
「あっ、やっちまった。」
案の定寝過ごした。その一言がこの場を表してくれる。
「明里、理美、起きろ。」
声をかけても起きる気配がない。女子高生の体を触るのは幾分憚れるが、仕方がないので大きく体を揺さぶった。
「蓮、ここ今何駅?」
理美が顔色を変えて飛び起きた。明里は何か悟りを開いたかのように無言で起きた。
「目的の駅の一個先だ。名前は知らん。」
「惜しかったわね。」
「惜しいとかじゃねえよ。アウトだよ。」
「とりあえず、次の駅で降りましょうよ。」
寝ぼけ気味の明里もしっかり頭は回っているようだ。
ホームに降り、時刻表を確認する。逆向きの電車が次に来るのは3時間後と記されている。
「おいおい、これだと昼ご飯に間に合わないぞ。」
「ここから走って行けば時間に余裕ができるわ。」
「よし、そうしよう。」
そうと決まれば俺たちはすぐに行動に出た。改札を出てすぐにランニング。目指すは凶悪犯罪者の隠れ家。すでに場所は特定済みであるため、理美の案内を頼りに走りつづけた。
「このペースなら、お腹が空く前までに警察に突き出せますよ。」
「出会って20分で警察署まで連れて行くぞ。」
そう意気込んでまた走り続けた。今ならメロスの気持ちになれそうだ。待っていろセリヌンティウス!
「着いた、ここよ。」
ようやく到着したようだ。そこにあったのは普通の古民家。平凡な老夫婦でも住んでいそうな場所である。
「突撃しますか?」
「いや普通に入ればいいだろ。」
「え?」
そう言って俺はインターホンを押した。音が鳴り終えた後、一拍置いて住民が応答した。
「はい、どちら様でしょうか?」
「すみません、謙猷高校三年の赤城蓮と申します。田中太郎さんのお宅で間違いないでしょうか?」
高校生と聞けば警戒心は少しでも薄れるだろう。
「ちょっと、何してるのよ。さっさと連れていけばいいでしょ。」
ボリュームを最大限に抑えた声で疑問をぶつけてくる。
「いいから任せとけ。抵抗されたら面倒だろ。」
俺もできる限り小さめの声で答えた。
「ああそうだが、小僧が何のようだ?」
「宅急便のバイトをやっていまして、お届け物を持って来ました。」
「自己紹介する宅急便なんているかよ、これはご丁寧にどうも。」
呆れた口調でそう言い放って通話が切れた。こちらに歩いてくる足音が家の中から伝わってくる。
「はいはい、ご苦労だね。ありがとさん。」
自分が指名手配されてるのは知っているだろうに、無警戒にも姿を現した。田中太郎が出てきた瞬間、顎に強烈なパンチを浴びせた。
「KO必至だな、これは。」
完璧に入ったパンチは脳振盪を引き起こさせた。その場で意識を失った相手は崩れるようにその場に倒れ込んだ。
「じゃあ、警察署に行くわよ。」
「よく考えたら警察署遠いわ。」
「じゃあ交番でいいじゃないですか?」
俺は田中太郎を背中に乗せ、最寄りの交番まで走ることにした。
「そういえば子供料金の話だけど、あれネットで質問してみたら答えが返ってきたわよ。」
「そんなのいつの間にやってたんだよ。」
「それで、どうだったんですか?」
「簡単に言うとね、将来の利益のためらしいの。」
「将来の利益?」
「そう。小さい子供が一人で電車に乗ることはないでしょ? 保護者が子供を連れて行くにしても高かったら別の手段を使うかもしれない。それで子供料金を安くしたら、子供が電車に乗る機械が増えて電車に慣れることができる。そしてその子供が大人になったときに電車を利用する可能性が高くなって、結果的に得をするそうよ。」
「走りながらだと話が全然頭に入ってこないんだが。」
「またいつか説明するわよ。」
そして交番まで走りつづける。
「何で子供料金が存在するんでしょうね?」
簡単に考えれば、体が小さい分電車内の座席のスペースを埋めないという点か。
「お前らが経営者側だったら、どういう理由で子供料金を作る?」
とりあえず明里と理美の意見を聞いてみる。
「子供がお小遣いでも電車を利用できれば、電車内が子供で溢れて明るい車内にできます。」
「子供の料金を安くすれば、子供料金で不正に乗車しようとする悪い大人たちをあぶり出せるわ。」
お前らにはもう訊かない。
電車がホームに向かって走ってきた。耳を劈くような轟音と共に。魔王でも輸送してるんですかって言ってみたくなる状況である。
「赤城さん、乗りますよ。隙間と段差あるので気を付けてくださいね。」
「俺は老人か。こんなもので躓くものか。」
「きゃっ!?」
俺と明里は無事に乗車したが、理美はそうでもなかったようだ。ものの見事に段差で転けていた。
「殺し屋ってのも案外庶民的じゃねえか。」
「うるさいわね、偶然よ。人生でたった一度の転倒がここだったってだけ。」
神崎理美よ、それを俗にフラグと呼ぶんだ。気を付けろ、連続攻撃がくるぞ。
「きゃっ!?」
電車が発車すると同時に慣性が理美の足下を掬う。どこにも捕まっていなかった理美は大きくよろけたが、なんとか耐えた。
「今のはノーカウントよ。」
顔を少し赤らめながら取り繕う。世の中にはこれも男を落とす計算の範疇である女子もいるらしいが、理美はただのドジっ娘であるようだ。
「せっかく席が空いてるんだから座りましょうよ。」
明里が指差す方の席はほとんど空席で、満員電車とは正反対の光景だった。もちろん始発ではない。ただ田舎よりの町であるだけだ。
俺が車内で立ち尽くしていなければ、理美が恥ずかしい思いをすることも無かっただろうが、俺は初の乗車であるためさっきの出来事は必然だったということになる。
「電車の座席ってこんなにフカフカだったのか。気持ちいい……」
席に座った瞬間、家のソファーに似た柔らかな感触が尻を包み込む。噂に聞く、電車で寝過ごすという事象が今なら理解できる。
「そんなにフカフカじゃないと思いますけど。どちらかと言えば座り心地悪いですよ。」
「お前の家のソファー、どんだけ性能良いんだよ。」
「部室のソファーでさえもこれよりフカフカですよ。」
電車の座席がフカフカでないことを激推ししてくる明里。俺が感動したのは異常だったのか? 俺の感動を返せっ!
「蓮、寝ちゃったりしないでよ。今から指名手配犯をとっ捕まえに行くんだから。」
「俺は大丈夫だ。それよりお前らも寝るなよ。そういうことを言うやつは大体寝るんだ。」
一時間後、
視界が細くなってるのが分かる。ゆっくり目を開けると目の前には誰もいない向かいの座席がある。横をみると明里と理美が気持ち良さそうに寝ている。
「あっ、やっちまった。」
案の定寝過ごした。その一言がこの場を表してくれる。
「明里、理美、起きろ。」
声をかけても起きる気配がない。女子高生の体を触るのは幾分憚れるが、仕方がないので大きく体を揺さぶった。
「蓮、ここ今何駅?」
理美が顔色を変えて飛び起きた。明里は何か悟りを開いたかのように無言で起きた。
「目的の駅の一個先だ。名前は知らん。」
「惜しかったわね。」
「惜しいとかじゃねえよ。アウトだよ。」
「とりあえず、次の駅で降りましょうよ。」
寝ぼけ気味の明里もしっかり頭は回っているようだ。
ホームに降り、時刻表を確認する。逆向きの電車が次に来るのは3時間後と記されている。
「おいおい、これだと昼ご飯に間に合わないぞ。」
「ここから走って行けば時間に余裕ができるわ。」
「よし、そうしよう。」
そうと決まれば俺たちはすぐに行動に出た。改札を出てすぐにランニング。目指すは凶悪犯罪者の隠れ家。すでに場所は特定済みであるため、理美の案内を頼りに走りつづけた。
「このペースなら、お腹が空く前までに警察に突き出せますよ。」
「出会って20分で警察署まで連れて行くぞ。」
そう意気込んでまた走り続けた。今ならメロスの気持ちになれそうだ。待っていろセリヌンティウス!
「着いた、ここよ。」
ようやく到着したようだ。そこにあったのは普通の古民家。平凡な老夫婦でも住んでいそうな場所である。
「突撃しますか?」
「いや普通に入ればいいだろ。」
「え?」
そう言って俺はインターホンを押した。音が鳴り終えた後、一拍置いて住民が応答した。
「はい、どちら様でしょうか?」
「すみません、謙猷高校三年の赤城蓮と申します。田中太郎さんのお宅で間違いないでしょうか?」
高校生と聞けば警戒心は少しでも薄れるだろう。
「ちょっと、何してるのよ。さっさと連れていけばいいでしょ。」
ボリュームを最大限に抑えた声で疑問をぶつけてくる。
「いいから任せとけ。抵抗されたら面倒だろ。」
俺もできる限り小さめの声で答えた。
「ああそうだが、小僧が何のようだ?」
「宅急便のバイトをやっていまして、お届け物を持って来ました。」
「自己紹介する宅急便なんているかよ、これはご丁寧にどうも。」
呆れた口調でそう言い放って通話が切れた。こちらに歩いてくる足音が家の中から伝わってくる。
「はいはい、ご苦労だね。ありがとさん。」
自分が指名手配されてるのは知っているだろうに、無警戒にも姿を現した。田中太郎が出てきた瞬間、顎に強烈なパンチを浴びせた。
「KO必至だな、これは。」
完璧に入ったパンチは脳振盪を引き起こさせた。その場で意識を失った相手は崩れるようにその場に倒れ込んだ。
「じゃあ、警察署に行くわよ。」
「よく考えたら警察署遠いわ。」
「じゃあ交番でいいじゃないですか?」
俺は田中太郎を背中に乗せ、最寄りの交番まで走ることにした。
「そういえば子供料金の話だけど、あれネットで質問してみたら答えが返ってきたわよ。」
「そんなのいつの間にやってたんだよ。」
「それで、どうだったんですか?」
「簡単に言うとね、将来の利益のためらしいの。」
「将来の利益?」
「そう。小さい子供が一人で電車に乗ることはないでしょ? 保護者が子供を連れて行くにしても高かったら別の手段を使うかもしれない。それで子供料金を安くしたら、子供が電車に乗る機械が増えて電車に慣れることができる。そしてその子供が大人になったときに電車を利用する可能性が高くなって、結果的に得をするそうよ。」
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