幸せの意味

すぅぱぁかっぷ

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幸せの意味


好きなものはいっぱいある。
ケーキ、ぬいぐるみ、ゲームとか友達とか、好きな人の笑顔とか、大切な人との楽しい思い出とか。あ、空が晴れてる日の気持ちがいい温度とかお昼寝もだいすき!
でもね、嫌いなものもやっぱりあるんだよね。普段は良いもの探しを頑張ってるけど、やっぱり嫌なものもある。一番嫌なもの、いや嫌なものに一番なんか無いけどね。だって全部嫌だし嫌いだし、無ければいいと思う。
虫は嫌いだし、痛いこととかだれかが傷つくのも大嫌い。

ここまで読んでぼくは次の本を手に取った。

不思議なことに好きなことと嫌いなことのリストのどっちにも載ってるものもある。
例えば、

「言葉」。

言葉は人を傷つけることもできれば、慰めることも喜ばせることもできる。リストを書くにしても言葉がいるし、誰かに何かを伝えるためにも言葉が必要で、友情や絆は言葉があって出来るのに言葉があって壊れやすい。
真反対に感じてすごく近い気もする。不思議。

なんでこんなにも苦しく感じるのか、それは言葉によって傷ついているから。どうして今笑えてるのか、それはだれかが言葉によって慰めてくれているから。

「表情」

もおんなじ気がする。だれかが笑えば幸福に感じる。だれかが泣けば寂しかったり同情したり。だれかが見下すように人を見れば怒りを感じるし、馬鹿にしたように笑えば悲しくなる。

なんでふとこんな思考に行き着いたのかと僕は思った。こんなの考えたって虚しいだけだ。そもそも「好き」や「嫌い」と感じるものだってなそんなのそういうふうに人間が呼んでいるだけで、動物からしたらまず根本的なところからちがうのかも、、

「(たんたたーんたたーん)閉館時間15分前になりました。図書館をご利用中のお客様方はお忘れ物無いようお気をつけてください。本日は市立図書館をご利用していただき誠にありがとうございます。」

閉館放送だ。ぼくは開いていた辞書を閉じた。机の右側に積み上げていた本を戻して、静かに図書館を後にした。静かにの反対にぼくの頭の中は全然そんなことはなかった。
事の始まりはまず昨日読んだ小説だった。その小説はぼくが今まで読んだどの本よりも面白かった。昨日の夜だけで3周は読んだ。ミステリーものでまだ作品を一つも読んだことがなかった作者だった。ぼくはめちゃくちゃ本を読むし、本が好きだ。ミステリーも歴史ものもサスペンスもとにかく全部。そしてぼくは謎解きも好きだ。ミステリーものでもぼくの小説経験から大体最後まで読まずとも解けてしまう。なのに昨日読んだやつは本当に最後まで自力で解けなかった。ぼくは自分が負けたことを認めたくなかったけど、負けを認めるしかなかった。それぐらいすごかった。もう言葉では表せないほど。そう「言葉」。これだよこれ。それと、「表情」については昨日の夜から忘れられないものとなってしまっていた。小説の内容は2人の主人公の片方の恋人が死に、主人公たちが彼女の死の真相を探すというものでその死んだ女の人がそれはとても魅力的なキャラクターだった。真相に迫るに連れて彼女の過去や人柄も浮かび上がってくる形の文作で、彼女は素敵だと思った。良い人とは言えないのかもしれないが、人間の本質的な優しさと思いやりを兼ね備えていた。おまけに頭も悪くないし、他人が困っていれば助けてくれるヒーローみたいな性格だった。そして読んでいてこのキャラクターは作者にとても愛されていると思った。一つ一つの描写が的確に再現され、それにてとても現実的だった。ぼくからしても理想的なキャラクターだった。
そしてここからが本題の冒頭にあった辞書でわざわざ開いた「表情」。このキャラクターは「表情」という仮面を使いこなしていた。悲しい時ほど笑っていたし、苦しいほど平気な顔をしていた。恋人、愛する人の前でも仮面を外すことはなかった。これが彼女の死の原因の一つでもあった。大切のひとにも気づいて貰えないほど、自分でも思っていなかったほど外れなくなっていた仮面。彼女の死は自殺によるものだったけど、これは最後に彼女が残していった「我儘」(作品の中ではこう書かれていた)だった。愛するひとに本当の自分を探して欲しい、知って欲しい。この結末にぼくは涙したぐらいだった。涙脆いわけではないぼくも泣かずにいられなかった。涙と混じって混乱もしていた。彼女は素敵だった、だけどなぜここまでしなくてはいけなかったのかが不思議で、悔しくて堪らなかった。それがあって少ない休日を市立図書館で過ごしていた。

ぼくは家に帰ると作者の名前をインターネットで検索した。作者のTwitterが出てきてぼくは即フォローした。ツイート歴を遡ってみて、一度でもいいから会ってみたいと思った。この人はどういうひとなのだろう。どんな思いであの作品を書いたのか。
そんな思いを胸に日曜日が終わった。

朝目覚ましで起きると共に1週間が始まった。ぼくは学校へ行く準備をしながら今日の予定を確認していた。ぼくはこの頃TwitterやYouTubeなどでオリジナル曲やカバー作品を投稿していて、一ヶ月前に載せたオリジナル曲がバズった。「ひとりぼっち」というタイトルで、同じ年代の人がすごく共感する、感動した!などとコメントを寄せてくれた。YouTubeではすでに100万回も再生されていて、登録者数が一ヶ月で1万人を超えていた。僕自身も驚いていて、頭が追いついていない時にある事務所からスカウトがきて、受けたのがつい先週の話だった。学校で騒ぎになってほしくもないので元々ぼくが音楽をしているひと、まあ2人しか知らない。たまにぼくのインターネットで使っている名前をクラスの中の人が言っていたり、ぼくの歌を歌っていたりする。嬉しいけど普段ぼくを根暗、運動音痴などといじってくるので複雑な気持ちだ。友達もいるしいじめられてるわけでも無いけど、たしかにあまり喋らないし付き合いも悪い自覚があるので申し訳無いと思う。1人ぐらいで食費やら生活費やらを稼ぐためにバイトもしてるし、仕方ないんだけど。
いつも通り授業が終わり次第学友と別れるが、放課後の普段のバイトではなく事務所へと向かう。事務所といっても事務所が借りているレッスン用教室と撮影スタジオなどをぼくが一緒くたにして事務所と呼んでいるだけの場所で、本物の事務所に行ったのは一回だけだ。
ぼくはレッスン室の扉を開ける。ボイストレーニングコーチの桜山さんが出迎えてくれた。2時間半のレッスンが終わるとカスカスの声で帰宅路に着いた。前回のレッスンもカスカスな声になってしまったけど、桜山さんは最初はそんなもん、帰ったらレモン生姜湯を鼻から入れて口から出すようにと言われた。これがすごい痛いんだよなぁ。次の日には治ったけど!「はぁ...」とため息をついた。
そういえば周りのひとが笑ってる時って本当に嬉しいとか楽しいとかって気持ちで笑ってるかなんて分かんないよなぁと思った。まあさっき桜山さんがニコニコしてた時は愛想笑いだって分かってるけど。話てる時に面白い話だったら笑うし、プールの滑り台で遊んでても笑うよなぁとか思いながら近くのコンビニで晩ご飯になりそうなものを買って本物の事務所の横を通りかかった時、事務所の隣の建物から女性が飛び出してきて、あまりにも急すぎて避けることも出来ず衝突してしまった。


続く
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