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少しずつ…

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「根暗」

「どっか行って」


私は大人しく、目立たない性格で、
中学に入ると、それが悪目立ちした。


それに対して私は、
「根暗の何が悪いの?」
と言ってしまい。


そうすると、今まで一緒に居て、
守ってくれていた友達は離れて行った…。


最初は根暗と言われ、
悪口を目の前で言われ、今では
その言葉すら言われなくなり、
無視される毎日、
聞こえないようで聞こえる悪口。



やめてよ…やめてよ…。
言い返したいけど、言い返せない…。
どうしたらいいのか分からない。





中学1年の秋、私は不登校になった…。



親も最初は、一生懸命に学校に行かせようとしたが、
「頭、痛いから…」
そうして、私は学校に行くことを拒否した。


病院に連れて行かれたけど、
検査は当然、異常なし。


親も、呆れたのか私を無理に
学校に行かせようとしなくなった。


あ、私、もう親にも見捨てられたわ…。


両親は共働きで、
孤独な日々、勉強もたまにするが、
中学は小学校の時と、明らかに勉強のペースが違う。


きっと1ヶ月も休んでるから
今さら追いつけないだろう…。


あぁ…私に生きる資格なんてないや…。


死のうかな…生きてても私クズだし…。


遺書を書こうと、机の引き出しから紙を取りだし、
ボールペンでこう書いた。


『お父さん、お母さんへ
今まで迷惑いっぱいかけてごめんなさい。
そして、ありがとうございました。
私は先に死にます。』


よし…。
もう、思い残すことはない。
私は、書き終わった遺書を
リビングの机の上に置き、
ベランダに行って下を見おろす。


アパートの6階だから即死だよね…?


下手に死に損なって痛いのは嫌だな…。


上半身をさくから乗りだし、
片足を浮かべて見るが、
もう片方の足がすくむ…。


冬ももうすぐで、ひんやりとした風すらも怖い…。
怖い、怖い、怖い…。
心臓がバクバクする…。
やっぱ、やめよう。


両足をつけ、さくから離れる。


私、学校に行く勇気すらないのに、
死ぬ勇気すらない…。


私…出来損ないだ…。


だめだ…ごめんなさい、ごめんなさい。
神様、お願いだから出来損ないの私を、
このまま突然死させて…。


そう祈っても死ぬはずもなく、
私は泣きながら、リビングの机に置いた遺書を取り、
自分の部屋の机の引き出しの中に入れた。


なんにも出来ない、死ねない。


布団にもぐり、このまま泣いて死んでしまいたい。
ご飯も水分も摂らなかったら、死ねるかな?


私は、死ぬ方法を考えた。
死ぬ方法を考える事しか、頭になかった。





飲まないのはさすがに、喉がカラカラで
耐えられない。
食欲もないし、そのまま食べないでいようと考えた。
だから、お母さんの作ってくれた
ご飯も手をつけなかった。




さすがに2日間、ご飯を食べなかったら、
親も、
「ご飯、お願いだから少しでも食べて」
と、言うようになった…。


やめてよ、私、死にたいのに…。




食事しなくなって、3日目、
お父さんとお母さんは仕事を休んだ。
私を病院に連れて行くために。


そして私は2人に
精神病院に連れて行かれた…。


「入院するかね?」


と、病院の先生から勧められて、
私は、お父さんとお母さんの顔をみた。
そして私に、


真理まりはどうしたい?」


と、聞いてきた。
2人の顔も、先生の顔も
真剣すぎて言葉が詰まった…。


どうしよう…入院したら死ねないじゃん…。
どうしたらいいか分からない。


「私に聞かないで…」


と、言って、私は苦しくて泣いた…。


それを見たお母さんは、


「入院はやめておきます」


と、ハッキリ言った。
先生も、

「本当にそれでいいですか?」

と、聞き返す。


「仕事休んで、私がしっかり傍にいます!」

「お母さん…?」

「じゃあ、精神安定剤だけ出しておきますね」


と、院内の薬局で薬を貰い、病院を後にした。




どうしよう、私のせいで
お母さんは仕事を休むんだ…。
車に乗り、


「お父さん、お母さん…
迷惑かけてごめんなさい…」


そう言うと、2人は笑う。
何がおかしいの?


「真理、真理は何も心配するなって!
俺が働いてるから、安心しろ」


運転しながら、お父さんは元気よく言う。
お母さんも、


「親子水入らず、女2人で楽しむわよ!」


と、明るく答えてくれた。

あれ?
2人ってこんなに優しかったけ?


「真理、どっか行きたいところないか?」

「え?…」

「そうだ!真理!
動物飼わない?」


お母さんはウキウキしていた。


「え…でもアパートだから飼えないんじゃ?」

「小動物よ、小動物~!
小鳥とかハムちゃんとか!
飼いたくない?」


昔、ハムスターか小鳥を飼いたいって言って、
「お世話できなかったらいけないから」
と、却下された事があった。


でも今、勧められてるなら
このチャンス逃したくない!


「飼いたい!」

「じゃ、ペットショップ行くか!」





ペットショップの小動物コーナーに行くと、
小さくて可愛い生き物ばっかりだ…。
どうしよう…小鳥やハムスターがいいと
来たのに、ウサギもいいな…。


「真理、どの子がいい?」

「迷う…どうしよう…」

「お父さんはウサギもいいと思うんだ~」


お父さんも同じ事を思ったのか…。


そんなお父さんに、お母さんは言う。

「たしかに可愛いけど、お父さん
仕事に行ってるんだから
お世話できないじゃない!」

「夕飯ぐらいはあげるよ~」

「今、聞いてるのはお父さんじゃなくて、
真理だからね?」

「はーい」


お父さんもお母さんも楽しそう…。
私の目の前のゲージの手前に、
1番小さな耳の垂れた
かわいいウサギがいた。


まだ赤ちゃんだろう。
いいな…。


「お母さん、ウサギがいい…」

「お母さん、聞いた?
真理もウサギがいいって!」

「真理、いいの?
お父さんに合わせなくていいのよ?」

「手前の茶色の耳の垂れた
1番小さな子がいい!」

「よし!その子にしよう!」


その子は『ホーランド·ロップ』と言って、
定員さんにエサのあげ方などを聞き、
必要な物を買って家に帰った。





家に帰り、その子を撫でると、
ふわふわ、もこもこしていて、
あったかくて、触り心地が最高だった…。


そして、なんと言っても、
かわいい…。


「真理、名前何にする?」

「あ、本当だ!
どうしよ…」

「ホーランド·ロップだろ?
ホーちゃんは?」

「お父さん、それ安直すぎ!」


どうしよう…茶色だからチョコ…も安直だし、
うーん…。
そうだ!


「女の子だから、『ショコラ』は?」

「いいわね!ショコラにしましょう!」

「よーし!
今日からショコラも、俺らの家族だぞー」


そう言ってお父さんが近づくと、ショコラは
ぴょこぴょこと逃げる…。


「お父さん、びっくりさせちゃダメよー。
逃げちゃったじゃない」

「俺、泣いちゃう!」


お父さんとお母さんの
会話が面白くて笑った。
なんか久しぶりにこんなに笑ったな…。


これもショコラのおかげかも。


ショコラは鼻をヒクヒクさせて、
私の部屋をぴょこぴょこと探索している。


おめめはパチクリしてて、
小さくて、ぬいぐるみみたいでかわいい…。


「さ、そろそろショコラをゲージに入れて
晩ご飯にしましょ!」


お母さんはそう言うとキッチンに
向かった。


いつの間にか、ゲージにはお父さんが
エサとお水の設置をしてくれていた。


「ショコラ、エサを用意したぞ~。
俺だぞ~、俺に懐くんだぞ~」


「ショコラ、いい子で待っててねー」


そう言って、ショコラを撫でて、ゲージを
きちんと閉めた。





晩ご飯を食べながら、お母さんは私に、


「真理、学校に今すぐ行こうって
今は、無理に考えなくていいから。
行きたくなるまで、私が傍にいるからね」


と、微笑みながら言って、
お母さんは私の頭を撫でてくれた。


「お母さん、なんで?
なんで仕事休んで、私の傍に居ようと思ったの?」

「ん?なんでって、だって私は真理の
お母さんだからよ」

「俺も居るからなー!」

そう言ってお父さんはガッツポーズをとる。
え、なんでこんな私なんかのために?
頑張らなくちゃ、期待に答えなくちゃ!


「私…学校行けるように、全力で頑張るね…」

「なーに言ってんの。
今は頑張ろうって、焦らなくていいから。
少しずつ…少しずつでいいの。
真理なら大丈夫…」

「でも…」

「真理、お父さんは思うんだ。
人間の赤ちゃんとか動物もそうだけど、
習い事でもなんでも、急には成長しないんだよ。
ゆっくり、ゆっくり確実にまずは生きよーや」


お父さんはそう言って、
大声で笑う。





晩ご飯を食べ、食器の後片付けを
お母さんとして、
ショコラのいる自分の部屋に戻る。


「ショコラ…」


ショコラをゲージから出して、
優しく撫でた。
まだまだ、ショコラは赤ちゃんだ。


私の心もまだまだ未熟者。


「一緒に成長しようね」


ショコラは座っている
私の顔を覗き込むように、
鼻をヒクヒクさせて、
前足をそろえ、床から離し
後ろ足だけで立っている。


かわいいなぁ…。


少しずつ、少しずつ、
でも確実に、強い心になりたい!


そう思えたよ。
ショコラ、ありがとう。


そうして、私は机の中にある遺書を
取り出し、破いた。


ショコラがいるからね。
今はこれ、いらない!
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