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第11章

第12話 遺跡調査2

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 旅を始めて3日目、予定通りに俺たちは目的地の遺跡に到着した。
「ここが調査対象の遺跡ですか」
「うむ。魔術師ギルドで受けた報告によるとそのようだ」
 俺の呟きにアーケオル氏が頷いて返す。
「もっと荒れてるものかと思ってたけど、結構残ってるもんですね」
 目の前に立ち並ぶ建物を見て、感想を口にする。
 遺跡というからには屋根は落ち壁も半分崩れかけた建物を想像していたのだが、目の前にある建物は金属製と思われる屋根も石造りの壁もしっかりと残っており、少し手を加えれば住むことができそうな状態を残していた。
 なるほど、こりゃ魔物や野盗が棲みついたり、軍事拠点として候補に挙がるのも頷ける。
 というか、俺らがセルリ村で住んでた家より立派で頑丈そうなんだけど。
「うむ。古代王国期の建物は魔法で補強されていることがほとんどでな、当時の姿を残しているものも結構多いのだよ。
 どうやらここは、なかなかに腕の立つ魔法使いが派遣されたようだな」
「これで何百年?と残っているわけですよね?実物を見てもちょっと信じられないんですが」
「古代王国期なら最低でも1400年は経過しているだろうな。王国が滅んだのはその辺りだ」
「最低でも1400年ですか……」
 目の前にあるのは普通に民家のようだが、築1400年の民家なんて日本でもあるのか疑問だぞ。
 地方の元豪農の屋敷でも数百年が限度だろう。
「さ、今夜の寝床を決めてしまおう。すまないが2~3軒調べてきてもらえないか?」
「遺跡に寝泊まりするんですか?」
「目の前に使えそうな建物があるんだ、使わない手はなかろう。何か変かね?」
 調査対象で寝泊まりとか、日本じゃ考えられんのだが。これも研究姿勢の違いってやつなのか?
 まぁそんなことをここで言っても仕方がないし、依頼人の意向なので素直に従うことにする。
「わかりました。手前の方からちょっと調べてみます」
 アーケオル氏に頷いて返すと、とりあえず一番近くにある建物から調べてみることにした。

 まずは建物の周りをぐるりと回ってみる。
 外から見た感じでは1階建てで、2部屋か3部屋くらいの作りか。セルリ村で住んでた俺の家よりいくらか大きい。
 壁は石造りというか、おそらく魔法で建てたのだろう。継ぎ目のない1枚岩で作られていた。
 俺が土魔法で壁を直すとこんな感じになる。もっとも、俺の魔法だともう少し仕上がりが荒いが。
 南と東には窓があり、ガラスではない透明な樹脂?のようなものがはまっている。
 窓から家の中を覗いてみたが、特に生き物の気配はなさそうだ。
 玄関に回り、質素な木製の扉に手をかける。
 鍵はかかっておらず、扉は素直に開いた。
 すかさずヴァルツがするりと中に入り込む。
 一拍遅れて俺たちが続く。

 入った先は大きな部屋だった。
 南と東に窓があるので部屋の中は割と明るい。
 床は固めた土だが、部屋の一部が板敷になっている。作業場なのかもしれない。
 他に目につくものといえば、折り畳み式のテーブルと簡素な造りの椅子が4脚。
 それ以外には、皮を剥がれた丸太が2本、床に突き刺さる形で立っており、目線より下の位置に錆び釘が何本も打ち付けてあった。
 これはこちらの世界に来て分かったものだが、この丸太はいわゆる箪笥の代わりだ。
 釘に衣類などを引っかけて使用するもので、現在でも安宿などでよく見られる。
 他を見回せば、北側には衝立のような壁があり、西側には扉代わりに大きな革を吊り下げた出入り口が2か所ある。
 衝立の向こうを覗くと、車輪のついた火鉢のようなものが転がっている。他には水瓶と思しき大きな壺が2つ。
 流しのようなテーブルがあるところを見ると、台所か。
 大部屋から続く2部屋の内、1つは寝室と思われる。ダブルベッドなみに大きな木製のベッドが2つ、半ば朽ちかけつつ置いてあった。
 もう一つの部屋は倉庫だろう。錆びきった鉄製の刃物(農具)らしき塊や木製の何かの残骸が散らばっていた。

 特に危険なものはない、と判断した俺たちは、続いて2軒目3軒目の探索に取り掛かる。
 どちらの家も1軒目と似たような造りで、家具の残骸があるくらいの特に危険のない結果だった。
 3軒目の家の調査が終わったところで、一度アーケオル氏たちの所に戻る。
「あれとあれとあそこの3軒を見ましたが、特に危険はなさそうですね。入り込んでいる生き物もいませんでした」
「そうか。では3軒とも使わせてもらうとしよう。皆は荷物を中に。1軒はディーゴ君たちが使うといい」
 俺の報告に頷いたアーケオル氏が指示を出す。
「わかりました。じゃあ私たちは荷物を置いたら他の建物も確認しちまいますね」
「本格的な調査は明日からだから、別に急がなくても構わないが?」
「なに、扉を開け閉めして中に生き物がいないか見るだけですよ」
「そうか。そういう事なら頼もう。私どもは荷物を入れたら食事の用意に取り掛かる。建物を見回るついでに井戸がないか探してみてくれないか?」
「了解です。じゃ、行ってきます」
 アーケオル氏一行をその場に残し、再び遺跡の中を見て回る。
 今回は建物の中には入らず、扉を2~3度強めに開け閉めするだけなので時間はかからない。
 数軒の建物でネズミっぽい気配がしたが、まぁ放っておいても問題はないので無視した。
 手分けして回ったので、小一時間程度ですべての建物を確認し終えた。
 ついでに探していた井戸だが、遺跡の外れに1つ、遺跡の中に2つ見つかった。
 ただし遺跡の外れの井戸は枯れており、遺跡の中2つのうち1つは水量がほとんどなく水質もきれいとは言えず、残りの1つだけは井戸攫いをして掃除をすればなんとか使えるか、という状況だった。
 戻ってアーケオル氏に報告すると、氏は頷いて答えた。
「ふむ、井戸が1つでも使えそうなのは朗報だ。一応、水の用意はしてあるし水精鋼の武器も持参しているが、それだけでは十分とは言えんのでね」
「というと、明日は井戸攫いですかね」
「うむ。だが調査にも早く取り掛かりたい」
「なら私とユニが井戸攫いをして、イツキとヴァルツを護衛に着けましょう。できればそちらからも一人二人出していただけると」
「それならば若手のエイベンとロイドをつけよう。調査はとりあえず3人で始めることにする」
「分かりました。では明日はそのように」

 遺跡の安全が確認され、明日の大まかな方針が決まれば、夕食の準備が始まる。
 とはいえ、メニューはシンプルなものだ。
 干し野菜と塩漬け肉のスープに、日持ちのする固焼きパン、それにチーズとピクルスと茹でジャガイモが少し。
 まぁ保存食よりは多少マシか、と言ったレベルだ。
 水は樽で持ってきたものの他に、アーケオル氏が水精鋼のナイフで水を生み出していたが、かなり便利だな水精鋼の武器って。
 大振りのナイフ1振りで、1日に2~30リットルくらいの水が生み出せるらしい。
 水精鋼をふんだんに使った長剣ならばもっと作れるそうだが、予算の関係でこれが限界だった、とアーケオル氏が笑って見せた。
 ……ふむ、水精鋼の鉱石は持ってきているんだし、この旅の途中で作るのもアリだな。ハルバあたりで作るのが狙い目か。

 建物の外の空き地で、皆で車座になって食事をしながら話題に上るのは遺跡のことだ。
 俺としても古代王国の文明に興味はある。
 現在流通している魔法の武具や魔道具は、かなりの割合が発掘品という事なので、古代王国が魔法に長けた文明だったというのはなんとなく分かる。
 だが、当時の人間がどんな文化でどんな生活をしていたのかまでは全く分からないのが今の俺だ。
 というわけで、いい機会なので色々と質問しながら話を聞いてみることにした。
 本格的に語りだすとキリがないということで、ほんのさわりだけ聞いた話をまとめると以下のようになる。

1、古代王国は1400年くらい前までこの大陸に存在していた巨大国家である。
2、高度な魔法やそれを用いた技術により、かつては繁栄を極めていた。
3、支配域はこの大陸全土に及ぶが、全てを掌握していたわけではなく、未開・未着手の地域も多かった。
4、王を頂点とする身分制の封建社会だったらしい。
5、王を筆頭に、貴族、騎士、職人、商人、農・漁・林系の1次産業民といった順序で階級分けされていた。
6、1次産業民は「収穫民」と呼ばれ、身分制度の中では最下層に近かった。
7、文明や生活のレベルは(都市部に限れば)現代よりも結構高度だった。
8、都市部から離れるほど村落の生活レベルは落ちていく傾向がある。
9、古代王国が滅亡した原因は諸説あって未だに原因不明。

 ……なるほど、聞いた限りでは確かにロマンを掻き立てられる内容ではある。
 今は失われた高度な文明なんざ、好きな人ならそれだけでドンブリメシお代わりモノだし、歴史に興味がなくても一獲千金という夢もある。
 ただ、今の話によれば、お宝が欲しければ都市部と思われる遺跡をあさったほうが良さそうだ。

 古代王国そのものについての話が一段落したので、今度はこの遺跡についての見解を聞いてみた。
 うん、ざっと見た感じなんだけど、どーもこの遺跡、違和感というかちぐはぐさを感じるんだよね。
 建屋に比べて、中の家具というか設備が貧相というかまぁ時代相応な感じ?
 例えるなら……耐震構造万全で断熱効果も完璧、太陽光発電設備もついているような家に住んでいながら、寝床は藁の山で、拾ってきた薪や乾燥させた家畜の糞で煮炊きしてます、みたいな。
 その辺りの疑問をぶつけてみると、明快な答えが返ってきた。

 農民漁民といったいわゆる「収穫民」と言われる人たちは、収穫物を税として納める代わりに住居「だけ」は国が用意してくれる制度があったそうだ。
 村長のような代表者が納税先の街の役所に申し出れば、魔法使いが派遣されてペペっと建ててくれたらしい。
 ただ面倒を見るのは住居だけで、中の家具とか設備までは関知しないそうだ。
 そして収穫民というのは得てして魔法に長けていないことがほとんどだそうで(それゆえに魔法重視の古代王国では立場が低い)、千年以上も残り続ける家具など作れなかっただろう、
 というのが今の歴史家の間での通説らしい。
 なるほど、だから家だけ立派というか、ひときわ頑丈なのね。
 家は普通に残っているのに、中の家具類だけが風化してるのが不思議だったのよ。
 これだけ頑丈な家を建てる魔法があるなら、家具類も普通に残ってて当然と思っていたので。
 家具類は自力制作や独自調達じゃ、まぁ仕方ないっちゃ仕方ないか。

 その辺りまで聞き終えたところで夜もだいぶ更けていたため、話を切り上げて各自就寝となった。
 交代で警戒用の不寝番を立てるか悩んだが、まぁ頑丈な家の中だしざっと見回った感じ危害を加えてきそうな魔物の気配もなかったので、必要あるまいと皆で寝ることにした。
 さて、明日は井戸攫いだな。
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