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第10章
第21話 街を後にする前に8
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―――前回までのあらすじ――――
ノルマだった新物産の提案2件を済ませ、挨拶回りと旅の準備もほぼ目処が立った。
今日は最後まで残った相手に挨拶を済ませる予定だ。
――――――――――――――――
-1-
今日は3月の最終日。明日より春の大市が始まるため、対外関係はほぼ何もできなくなる。
てなわけで、残っていた場所を回っちまおう。
最初に顔を出したのは、ウチの家具一式を注文して任せている家具屋。
「こんちわ、店主のオブサードさんはいるかな?」
「ああ、いらっしゃいませディーゴ様。店主は今他出しておりますが、どのような用件でしょうか?」
店員に声を掛けたらどうも店主は今はいないらしい。まぁいなくても特に問題はないので、さくっと用件を切り出した。
「ちょいと都合ができて1年ほどこの街を離れることになってね。その挨拶と連絡に来たんだ。確か家具の残金がまだ残ってたはずだから、それもまとめて払っておこうと思ってさ」
「そうでしたか、わざわざありがとうございます。ディーゴ様の残金は……少々お待ちください」
店員が取り出した帳面をぺらぺらとめくり、あるページで手を止めた。
「えーと、ディーゴ様の残金は金貨で130枚となっておりますね」
「ん、了解。払いは大白金貨でもいいかな?」
「はい、結構です」
店員が頷いたので、財布から大白金貨を取り出して卓に並べる。
店員は慎重にそれを数えると、卓の中にしまい込んだ。
「確かに大白金貨13枚、お預かりしました。ただいま受け取りの紙を渡します」
そう言って店員が受け取りの紙に金額を書いて寄こした。ま、領収書の代わりやね。
「ありがとさん。で、家具の納入なんだけど、使用人も含めて街を離れるから、屋敷には誰もいなくなるんだ。だから納入は俺が帰ってくるまで待ってもらえんかな。戻ってきたらまた顔を出すからさ」
「分かりました。店主にはそう伝えておきます」
「で、話は変わるけど、以前こちらに教えた寄木細工はどんな感じ?」
店内を見回しながら店員に尋ねる。
店内の商品にはぽちぽちそれらしい品が置いてあって、まぁ全く商売になってないという訳ではなさそうだ。
「寄木細工はディーゴ様が出どころでしたか。今のところは小物を中心に展開していますが、珍しさもあって領外からの買い付けもありますよ」
「そうか、なら良かった。教えたはいいが全く商売にならねぇ、なんてことになってたら合わす顔がなかったが」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。今比較的出ているのは、この箱ですね」
店員がそう言うと、両手の平を並べたより少し大きいくらいの小箱を持ってきた。
「ご婦人方のアクセサリーなどを入れる小箱なんですが、寄木細工の模様を活かして鍵穴を隠してあるんですよ」
そう言って蓋の一部をスライドさせると、確かに鍵穴が現れた。なるほど、こりゃぱっと見には鍵穴がどこにあるか分からんな。
スライドする蓋の部分も隙間なく目立たないように作られているので、あらかじめ知っていなければ開け方を探してこねくり回すことになるか。
「へぇ、よく出来てるもんだ。小物入れに使うのは想定してたが、装飾を使って鍵穴を隠すというのは盲点だったわ」
ちょっと意外な活用の仕方に素直に感心する。
こっちの世界の職人さんたちって、決してレベルが低いわけじゃないんだよな。カワナガラス店もそうだけど、基本を教えさえすればすぐに理解して応用してくるから侮れない。
ただ、住んでる世界が狭いというか、新しい情報がなかなか入ってこないので、どうしても視点が固定されてしまうのが弱点なように思う。
これが日本であれば、美術館に行ったりテレビ番組やインターネットで、それこそ比較的簡単に世界中の品物を見ることができるけど、こっちの世界じゃそうはいかんしな。
「この箱でしたらお洒落な見た目ながらさりげない防犯にもなる、と、ご婦人方に人気でして」
「確かにそうかもな。いや参考になったわ。どうもありがとな」
「いえ、このくらいでしたらなんてことは」
「じゃあ、俺はこれで失礼するけど、くれぐれもオブサードさんによろしくな」
「かしこまりました。道中、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
そう言って頭を下げる店員に手を振りながら、まずは1件目の家具屋を後にした。
-2-
さて最後はミットン診療所だ。
ここも外せない挨拶先の一つだからな。
「ちゃーっす」
「やぁディーゴさん」
今日の受付はエルトールか。待合室に患者がいないのは好都合だな。
「アルゥから聞きましたよ。お勤めご苦労様でした」
「ありがとな。で、今日はその続きだ」
「……またアモルが何かやらかしましたか?」
エルトールが呆れたように呟いた。
「いやそうじゃなくてな、お勤めの続きだ。領主が1年ほど領外に出てほとぼり冷まして来いってさ。それを言いに来た。
まぁ先日の誘拐騒ぎでやりすぎたってんで、名目上は1年間の追放になるんだけどな」
「そうだったんですか。ディーゴさんもついに前科1犯ですね」
「やめてくれその言い方」
にやにやしながらのたまうエルトールに思わずツッコむ。
「でもまぁ、冒険者手帳に賞罰を書く欄はないですし、前科がついても大して影響はないんじゃないですか?」
「そりゃそうだが、今まで品行方正にやってきた身としては、ちょっと後ろめたさがないでもない」
「事情が事情なんですし、そこまで気にしなくてもいいと思いますけどね。見方によっては勲章みたいなものですよ」
「あー、まぁ、そういう見方ができんこともないか」
エルトールのフォローに少しだけ気が楽になった。
「ところで、1年間の追放となると、屋敷の皆さんはどうなります?」
「他所に行ってろという追放だけで、身分も資産もそのままだから、引き続きうちの使用人だな。もっとも、ここには残していけんけどな」
「確かにそうですね。ちなみに3人とも武術の心得は全くないんですよね?」
「ウィルだけは若干あると思うが、後の2人は皆無だな。もっとも、3人とも知り合いの村に預けることになるが」
「セルリ村ですか?」
「いや、その前に世話になってたところだ。ディーセンからだと7日くらい離れてるし、そこの村とのつながりを知ってるのもごく少数だ。
まずアモルの連中はたどり着けめぇよ」
「そうですか、なら安心ですね」
「さすがに扶養家族3人連れて1年間の旅暮らしはできんしな」
「ですよねー」
俺の苦笑いにエルトールが頷いて見せる。
「話は変わりますが、1年の不在となると盗賊ギルドはどうします?」
「一応連絡しといてくれ。いなくなるからツナギはいらないってな。戻ったらまた連絡入れる」
「わかりました」
「それと領主の所で聞いたんだがな、どうも他所の領から間者狩りの応援を呼ぶらしい。それなりに声をかけていい返事をもらったそうだ。
これからちょっと騒がしくなるかもな」
「そうでしたか。じゃあそれも併せて伝えておきましょう」
エルトールが頷いた。
「参考までに聞きますけど、どこか目的地とかは決まっているんですか?」
「いや、特には決めていないが、できればハルバまで足を延ばしたいと思ってる」
「ハルバですか……結構遠いですね」
エルトールが頭の中で地図を浮かべながら答える。
「ハルバまで足を延ばすのでしたら、時間に余裕があればで結構ですので世界樹の街に寄り道してほしいんですよね」
「どこだそこ」
「帝国領内を東西に貫く横断皇路は知ってますよね?その真ん中あたりに大きな交易都市のトレヴって街があるんです。
そこから南に向かって7日ほど街道を行くとアシュブレイユって街に着きます。そこが世界樹の街です」
「往復で2週間以上の寄り道か……世界樹の街っつーと、その街の近くに世界樹ってのがあるのか?」
「いえ、世界樹に行くにはその街からでもまだ遠いんですが、なにせ世界樹ってのは大森林の奥にあって、アシュブレイユより近くに人間の街がないんです。
大森林の中にエルフの里はありますけど、基本的に人間は入れませんし、そもそも世界樹は樹竜の棲み処なんで好んで世界樹に近づく人なんていませんよ。
それに大森林の中だって魔物がいるんですから」
「なるほど。で、そこに何か目当ての物があるのか?」
「ええ。大森林はこの辺りと植生がかなり違うそうなんで、珍しい薬草類が安く売っていたら買ってきていただけないかな、と。樹竜がいるとはいえ、森の浅い部分はまだ人間が出入りできますから」
そういう理由か。でもエルトールにゃ悪いが、そのために2週間を費やすのもな……世界樹が見れるというなら行ってもよかったが、優先順位はかなり低いか。
そんな俺の顔色を読んだか、エルトールが言葉を続ける。
「あと、私もまた聞きなんですが、大森林でだけ採れる『竜樹』ってものがありまして、これを盾のベースに使うとすごくいいらしいんです。
樹人材を上回る強度があるとか」
……そうきたか。
それを聞いちゃあちょっと行ってみようかという気にはなるな。
「まぁ、時間に余裕があるなら寄り道してみるわ。ただあまり期待はすんなよ?」
「ええ、それで結構です」
エルトールが満足そうに頷いた。
「じゃあ、申し送りは以上かな」
言うべきことはいったので話を切り上げにかかる。
「出発はいつになります?」
「6日の朝にこの街を出るつもりだ」
「そうですか。なら兄さんとアルゥにも伝えておきます。当日見送りには行けないと思いますが、道中お気をつけて」
エルトールにそう言われて診療所を後にした。
さて、これで挨拶回りはすべて終えた。
後は自分の荷物をまとめて、出発に備えるだけだな。まぁこれは1日もあれば終わるんだが。
明日から始まる大市の品ぞろえがちと気になるが、旅の前に荷物を増やすわけにもいかんのが心苦しいところだ。
ちなみにその夜、ふらりとアルゥが姿を見せたと思ったら、ウェルシュからの伝言を残していった。
くれぐれも、くれぐれも迷宮産の酒を土産に頼む、だってさ。
…………ったく、あの呑み助はよー。
医者としては完璧超人な癖に酒に関してはこれだからな。アルゥもため息ついてたぜ。
アルゥわざわざありがとな、旅先で猫が好きそうなものがあったら土産に買ってくるわ。
―――あとがき――――
長々と引っ張りましたが、これで第10章は終わりです。
次回更新はいつも通り、来週月曜になります。
―――――――――――
ノルマだった新物産の提案2件を済ませ、挨拶回りと旅の準備もほぼ目処が立った。
今日は最後まで残った相手に挨拶を済ませる予定だ。
――――――――――――――――
-1-
今日は3月の最終日。明日より春の大市が始まるため、対外関係はほぼ何もできなくなる。
てなわけで、残っていた場所を回っちまおう。
最初に顔を出したのは、ウチの家具一式を注文して任せている家具屋。
「こんちわ、店主のオブサードさんはいるかな?」
「ああ、いらっしゃいませディーゴ様。店主は今他出しておりますが、どのような用件でしょうか?」
店員に声を掛けたらどうも店主は今はいないらしい。まぁいなくても特に問題はないので、さくっと用件を切り出した。
「ちょいと都合ができて1年ほどこの街を離れることになってね。その挨拶と連絡に来たんだ。確か家具の残金がまだ残ってたはずだから、それもまとめて払っておこうと思ってさ」
「そうでしたか、わざわざありがとうございます。ディーゴ様の残金は……少々お待ちください」
店員が取り出した帳面をぺらぺらとめくり、あるページで手を止めた。
「えーと、ディーゴ様の残金は金貨で130枚となっておりますね」
「ん、了解。払いは大白金貨でもいいかな?」
「はい、結構です」
店員が頷いたので、財布から大白金貨を取り出して卓に並べる。
店員は慎重にそれを数えると、卓の中にしまい込んだ。
「確かに大白金貨13枚、お預かりしました。ただいま受け取りの紙を渡します」
そう言って店員が受け取りの紙に金額を書いて寄こした。ま、領収書の代わりやね。
「ありがとさん。で、家具の納入なんだけど、使用人も含めて街を離れるから、屋敷には誰もいなくなるんだ。だから納入は俺が帰ってくるまで待ってもらえんかな。戻ってきたらまた顔を出すからさ」
「分かりました。店主にはそう伝えておきます」
「で、話は変わるけど、以前こちらに教えた寄木細工はどんな感じ?」
店内を見回しながら店員に尋ねる。
店内の商品にはぽちぽちそれらしい品が置いてあって、まぁ全く商売になってないという訳ではなさそうだ。
「寄木細工はディーゴ様が出どころでしたか。今のところは小物を中心に展開していますが、珍しさもあって領外からの買い付けもありますよ」
「そうか、なら良かった。教えたはいいが全く商売にならねぇ、なんてことになってたら合わす顔がなかったが」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。今比較的出ているのは、この箱ですね」
店員がそう言うと、両手の平を並べたより少し大きいくらいの小箱を持ってきた。
「ご婦人方のアクセサリーなどを入れる小箱なんですが、寄木細工の模様を活かして鍵穴を隠してあるんですよ」
そう言って蓋の一部をスライドさせると、確かに鍵穴が現れた。なるほど、こりゃぱっと見には鍵穴がどこにあるか分からんな。
スライドする蓋の部分も隙間なく目立たないように作られているので、あらかじめ知っていなければ開け方を探してこねくり回すことになるか。
「へぇ、よく出来てるもんだ。小物入れに使うのは想定してたが、装飾を使って鍵穴を隠すというのは盲点だったわ」
ちょっと意外な活用の仕方に素直に感心する。
こっちの世界の職人さんたちって、決してレベルが低いわけじゃないんだよな。カワナガラス店もそうだけど、基本を教えさえすればすぐに理解して応用してくるから侮れない。
ただ、住んでる世界が狭いというか、新しい情報がなかなか入ってこないので、どうしても視点が固定されてしまうのが弱点なように思う。
これが日本であれば、美術館に行ったりテレビ番組やインターネットで、それこそ比較的簡単に世界中の品物を見ることができるけど、こっちの世界じゃそうはいかんしな。
「この箱でしたらお洒落な見た目ながらさりげない防犯にもなる、と、ご婦人方に人気でして」
「確かにそうかもな。いや参考になったわ。どうもありがとな」
「いえ、このくらいでしたらなんてことは」
「じゃあ、俺はこれで失礼するけど、くれぐれもオブサードさんによろしくな」
「かしこまりました。道中、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
そう言って頭を下げる店員に手を振りながら、まずは1件目の家具屋を後にした。
-2-
さて最後はミットン診療所だ。
ここも外せない挨拶先の一つだからな。
「ちゃーっす」
「やぁディーゴさん」
今日の受付はエルトールか。待合室に患者がいないのは好都合だな。
「アルゥから聞きましたよ。お勤めご苦労様でした」
「ありがとな。で、今日はその続きだ」
「……またアモルが何かやらかしましたか?」
エルトールが呆れたように呟いた。
「いやそうじゃなくてな、お勤めの続きだ。領主が1年ほど領外に出てほとぼり冷まして来いってさ。それを言いに来た。
まぁ先日の誘拐騒ぎでやりすぎたってんで、名目上は1年間の追放になるんだけどな」
「そうだったんですか。ディーゴさんもついに前科1犯ですね」
「やめてくれその言い方」
にやにやしながらのたまうエルトールに思わずツッコむ。
「でもまぁ、冒険者手帳に賞罰を書く欄はないですし、前科がついても大して影響はないんじゃないですか?」
「そりゃそうだが、今まで品行方正にやってきた身としては、ちょっと後ろめたさがないでもない」
「事情が事情なんですし、そこまで気にしなくてもいいと思いますけどね。見方によっては勲章みたいなものですよ」
「あー、まぁ、そういう見方ができんこともないか」
エルトールのフォローに少しだけ気が楽になった。
「ところで、1年間の追放となると、屋敷の皆さんはどうなります?」
「他所に行ってろという追放だけで、身分も資産もそのままだから、引き続きうちの使用人だな。もっとも、ここには残していけんけどな」
「確かにそうですね。ちなみに3人とも武術の心得は全くないんですよね?」
「ウィルだけは若干あると思うが、後の2人は皆無だな。もっとも、3人とも知り合いの村に預けることになるが」
「セルリ村ですか?」
「いや、その前に世話になってたところだ。ディーセンからだと7日くらい離れてるし、そこの村とのつながりを知ってるのもごく少数だ。
まずアモルの連中はたどり着けめぇよ」
「そうですか、なら安心ですね」
「さすがに扶養家族3人連れて1年間の旅暮らしはできんしな」
「ですよねー」
俺の苦笑いにエルトールが頷いて見せる。
「話は変わりますが、1年の不在となると盗賊ギルドはどうします?」
「一応連絡しといてくれ。いなくなるからツナギはいらないってな。戻ったらまた連絡入れる」
「わかりました」
「それと領主の所で聞いたんだがな、どうも他所の領から間者狩りの応援を呼ぶらしい。それなりに声をかけていい返事をもらったそうだ。
これからちょっと騒がしくなるかもな」
「そうでしたか。じゃあそれも併せて伝えておきましょう」
エルトールが頷いた。
「参考までに聞きますけど、どこか目的地とかは決まっているんですか?」
「いや、特には決めていないが、できればハルバまで足を延ばしたいと思ってる」
「ハルバですか……結構遠いですね」
エルトールが頭の中で地図を浮かべながら答える。
「ハルバまで足を延ばすのでしたら、時間に余裕があればで結構ですので世界樹の街に寄り道してほしいんですよね」
「どこだそこ」
「帝国領内を東西に貫く横断皇路は知ってますよね?その真ん中あたりに大きな交易都市のトレヴって街があるんです。
そこから南に向かって7日ほど街道を行くとアシュブレイユって街に着きます。そこが世界樹の街です」
「往復で2週間以上の寄り道か……世界樹の街っつーと、その街の近くに世界樹ってのがあるのか?」
「いえ、世界樹に行くにはその街からでもまだ遠いんですが、なにせ世界樹ってのは大森林の奥にあって、アシュブレイユより近くに人間の街がないんです。
大森林の中にエルフの里はありますけど、基本的に人間は入れませんし、そもそも世界樹は樹竜の棲み処なんで好んで世界樹に近づく人なんていませんよ。
それに大森林の中だって魔物がいるんですから」
「なるほど。で、そこに何か目当ての物があるのか?」
「ええ。大森林はこの辺りと植生がかなり違うそうなんで、珍しい薬草類が安く売っていたら買ってきていただけないかな、と。樹竜がいるとはいえ、森の浅い部分はまだ人間が出入りできますから」
そういう理由か。でもエルトールにゃ悪いが、そのために2週間を費やすのもな……世界樹が見れるというなら行ってもよかったが、優先順位はかなり低いか。
そんな俺の顔色を読んだか、エルトールが言葉を続ける。
「あと、私もまた聞きなんですが、大森林でだけ採れる『竜樹』ってものがありまして、これを盾のベースに使うとすごくいいらしいんです。
樹人材を上回る強度があるとか」
……そうきたか。
それを聞いちゃあちょっと行ってみようかという気にはなるな。
「まぁ、時間に余裕があるなら寄り道してみるわ。ただあまり期待はすんなよ?」
「ええ、それで結構です」
エルトールが満足そうに頷いた。
「じゃあ、申し送りは以上かな」
言うべきことはいったので話を切り上げにかかる。
「出発はいつになります?」
「6日の朝にこの街を出るつもりだ」
「そうですか。なら兄さんとアルゥにも伝えておきます。当日見送りには行けないと思いますが、道中お気をつけて」
エルトールにそう言われて診療所を後にした。
さて、これで挨拶回りはすべて終えた。
後は自分の荷物をまとめて、出発に備えるだけだな。まぁこれは1日もあれば終わるんだが。
明日から始まる大市の品ぞろえがちと気になるが、旅の前に荷物を増やすわけにもいかんのが心苦しいところだ。
ちなみにその夜、ふらりとアルゥが姿を見せたと思ったら、ウェルシュからの伝言を残していった。
くれぐれも、くれぐれも迷宮産の酒を土産に頼む、だってさ。
…………ったく、あの呑み助はよー。
医者としては完璧超人な癖に酒に関してはこれだからな。アルゥもため息ついてたぜ。
アルゥわざわざありがとな、旅先で猫が好きそうなものがあったら土産に買ってくるわ。
―――あとがき――――
長々と引っ張りましたが、これで第10章は終わりです。
次回更新はいつも通り、来週月曜になります。
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