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第8章

第14話 毒を使う緑小鬼14

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―――前回までのあらすじ―――
襲撃を退け、今後の行動が冒険者ギルドや行政の上層部に移ったことでひとまず一段落はついた。
しかし、一段落がついたらついたでまたやることは発生する。……事後報告だ。
―――――――――――――

-1-
 翌日はちょっと早めに起きて、会員制カジノのトバイ氏の所に顔を出した。
「おうディーゴか。昨日の結果でも聞きに来たのか?」
 機嫌の良さそうなトバイ氏に頷いて見せる。
「まぁそんなところです。大丈夫だろうとは思ってますが、一応念のために」
「そうか。俺が聞いた報告だと15人に襲われたが、怪我もなく全員返り討ちにしたそうだ。手応えがねぇ、ってタリアが怒ってたな」
 ……だろうな。俺が相手にした連中も雑魚だったし、タリアとかには物足りなかろうよ。
 襲撃者を全員叩きのめしてタリアが吼えてる姿を想像して、思わず苦笑が漏れた。
「そういやお前が行ったところはどうだったんだ?」
「俺の行ったところも問題なく。腕利きは水飴製造所の方に行ったみたいですよ。あそこは26人に襲われたそうですから。まぁそっちも被害はなかったそうですが」
「そうなのか。結構、規模がでけぇな。お偉いさん方はなんか言ってなかったか?」
「冒険者ギルドの副長としか話してませんが、彼の予想だと、何らかの報復はしても戦争にはならないだろう、って。ただ、当分アモル王国への旅は控えるように言われました」
「だろうな。まぁ戦争にならないなら御の字だ」
 トバイ氏はそう言って一人頷くと話題を変えてきた。
「で、話は変わるが次のお前の試合な、来月の16日にやることにした。相手はラチャナだ」
「分かりました。その日は空けとくようにします」
 ラチャナ……確か大興行の時のジュディスの相手だったか。杖というかクォータースタッフが得物だったな。
 一撃の威力は軽そうだが、広い間合いと素早くて変幻自在の攻撃をしてくる相手、と見たほうがいいかな。あとでブルさんに聞きに行こう。

 トバイ氏の所を辞した後は、そのまま剣闘士の寮へと足を向ける。
 門の所から顔を見せると、外で稽古中の一人が気付いて皆に伝わり、全員がやってきた。
「トバイ氏から話は聞いたけど、昨日はご苦労さん。教官とブルさんもお疲れさんでした」
「おう。その様子だとディーゴの方も問題なかったようだな」
 教官のベネデッタが一同を代表して答えた。
「ええ、俺の方も襲われましたが問題なく。ただ、手応えなさすぎでしたかね?」
「まったくだ。非正規部隊っていうからちっとは骨のあるのを期待してたのに、ごろつき相手じゃ準備運動にもなりゃしねぇ」
 タリアが憮然とした顔で呟く。
「それは済まんかった。相手の内訳が読めなかったんでな、まさかほとんどごろつきだけで襲ってくるとは思わなかったんだ」
「他の店はどうだったんだ?」
「詳しくは聞いてないが、他の店も似たよな感じだったと思う。人数の多い少ないはあったけどな。一番多かったのは水飴製造所で、26人が襲ってきたと言ってた。
 そこは手練れの襲撃が予想されたんで騎士団と3級冒険者で固めてたそうだが、狙撃の2人には逃げられたそうだ」
「そうだったのか。ちっ、どうせならそっちに行けばよかったな」
「無茶言わんでくれ。事前に人数とか内訳が分かっていたら頼んだかもしれんけど、そこまで詳しい情報は掴んでなかったんだから」
 タリアのボヤキに苦笑して返す。
「今日来た用件はそれか?」
「ああ。怪我人とか出てねぇかと見に来たんだが、取り越し苦労だったみたいだな」
「ごろつき相手に不覚をとるような鍛え方はしてないよ。そんなのがいたら1週間特訓フルコースだ」
 教官がそういったことで一同から笑いが漏れた。
「で、今日はどうする?稽古でもしてくかい?」
「いや、この後行くところがあるんで、悪いけどこれで失礼します」
「なんだ、ホントに顔を見に来ただけか。しかしディーゴはいつも予定が詰まってるな」
「冒険者と内政官と剣闘士の3つの肩書ぶら下げてりゃ、予定も詰まりますわ。それに今回はここ含めてあっちこっちを巻き込んでますからね、様子見とお礼を言って回るだけでも大変なんですよ」
「そうか、なら引き留めはしないよ」
 教官の言葉に、一同に挨拶すると剣闘士の寮を離れた。
 ……そういやラチャナのことを聞けなかったな。当人がいるのに目の前で尋ねるわけにもいかんし。
 まぁぶっつけ本番で行くか。

-2-
 次に回ったのが石巨人亭。
 ここでオヤジさんに結果報告をして、ちょっと良さげな葡萄酒数本と、いつもの焼酒と蜂蜜酒を1本ずつ買い入れた。
 その後商店街を巡って、セグメト村の村長が欲しがってた品々を買い集める。木こり用斧2丁と砥石3つと鍋5個に、水飴だったな。
 ついでに布も反物で3つ4つ買っとくか。
 最後に天の教会の施療院に立ち寄り、エランド司祭に言伝を頼んで屋敷に戻った。
 そこでユニを呼んで一つ頼みごとをする。
「まぁ今回の件はこれでひとまず俺たちの手を離れた。ついてはそれの報告にエランド司祭のところに行くから、持っていく酒のつまみに腕ふるってくれ」
「わかりました。でもあの、私も同席した方がいいんでしょうか?」
「んー……いや、ユニはついてこないほうがいいだろう」
 ユニの問いに、少し悩んで答える。
「エランド司祭の方は8割がた問題ないと思うが、若いほうは頭が固そうだったろ?俺としてはそれがちょっと心配でな」
「そうですか」
「会ったときはユニは人間の姿だったからな。俺としても無闇に正体をばらすつもりはないんだが、ユニが淫魔だとバレるなり話すなりした時に『オノレたばかったな』となるとひたすら面倒くさい。ああいう手合いは頭に血が上ると、上司の制止も効かなくなることが割とある」
 俺の口調が可笑しかったのか、ユニがくすりと笑う。
「エランド司祭だけだったら、ユニも連れていったほうがいいんだが、まぁほぼ確実にセットで若いのもついてくると思うんだよな」
「わかりました。メニューはどうしますか?」
「普通の肉と野菜を半々で頼む。お前さんをここに置いておく理由の一つにするし、相手は教会の関係者だ。珍しい材料を使ったごてごてに凝ったものじゃなくて、ありふれたものをシンプルに旨く作った方が良さそうな気がする」
「そうですね。私もその方が喜ばれるような気がします」
「そういうわけだ、ちょっと難しいけどよろしく頼む」
「いえ、その方が私も腕の振るいがいがあります。じゃあこれから始めますね」
 ユニがにこりと笑って戻っていくのを見送ると、机の引き出しから煙草セットを取り出して火をつけた。

-3-
 日も暮れた頃、買い入れた酒とユニが作ってくれた料理を無限袋に入れて、天の教会の施療院を訪れた。
 受け付けで訪いを告げると、少し時間があってエランドとクランヴェルの2人が顔を見せた。
 エランドのほうは笑顔だが、クランヴェルはまだ表情が硬い。
「おお、ディーゴ殿。顔を見せに来たということは、一段落がついたという事かな?」
「ええ、完全に、という訳じゃないのですが、とりあえず私の手は離れたのでそれまでの報告をと伺いました」
「そうかそうか。わざわざご苦労だったな。では教会の方の私たちの部屋に行こうかな」
 そう言って先導を始めたエランドを呼びとめた。
「あー、済みませんがちょっと待ってもらえますか?コレ、一式持ってきたんで、ちょっと広いところの方がいいんですよね」
 そう言って無限袋からちらりと葡萄酒の瓶をのぞかせる。
「飲むくらいなら客室でも飲めると思うが?」
「いや、ついでに料理も何品か持ってきたんで、それなりに店が広げられるところでないと狭いな、と」
 ユニが頑張っちゃってくれちゃってねぇ、ちょとした宴会程度の量があるのよ。
 するとエランドがますます表情を崩した。一方、クランヴェルは渋い顔をしている。
「おう、それは気を遣わせてすまなかったな。では教会の食堂の方が良かろう」
 エランドがいそいそと歩き出し、俺がその後に続く。クランヴェルは俺を見張るような形で最後尾についた。

「うむ、この辺りで良かろう」
 天の教会の奥の、一般の信者が立ち入らない生活スペースの一角にある食堂につくと、隅の方を借りて持ってきたユニの料理を広げた。
 野菜料理と肉料理が4品ずつあるので、広いテーブルが結構埋まる。
「ほうほう、これは大量だな。初めて見る料理もあるが、どれも旨そうだ」
「一応教会ということで、肉料理と野菜料理の両方を用意してもらいました。食べられないものとかありましたか?」
「いや、特にそのあたりの制限はないな。人によっては肉を避ける者もいるが、私は肉も魚も好きだ。クランヴェルも特に好き嫌いはない」
「そうですか。なら安心です」
「では早速始めたいが、その前にひと仕事しようかな」
 席につこうとすると、エランドが言って何かの魔法を使った。
 すると一同のテーブルを囲むように半透明の膜が現れた。
「簡易的な人払いの結界だよ。内側の声を外に漏らさず、外からは認識されにくいようになっておる」
 エランドは俺にそう説明すると、茶目っ気のある笑顔を浮かべた。
「質素倹約を良しとする教会の食堂で、こんな旨そうな料理を大量に並べて私らだけで飲むわけにもいくまい」
 ……納得。教会のメシって病院食と同じで味薄そうだもんなぁ。日々の食事も修行の一環、とか言って。
 いや、もちろんそれを否定する気は毛頭ない。作り手と食卓に乗った命に感謝をささげるのは忘れちゃならんことだし、薄味の料理は健康にもいい。
 でもそれが毎日休みなく延々と繰り返される、続けられるってのはどうもね。
 たまには「肉ガッツリ!塩分ドバドバ!アブラギトギト!糖分コテコテ!!」とかで内臓にちょっと負荷かけたいよね。
 息抜きという意味もあるけど、変化をつけるという意味で。

 っと、話がそれたので元に戻す。
 エランドが結界を張り終えると、それぞれが席についた。エランドの隣にクランヴェル、エランドの正面に俺、その隣に姿を見せたイツキが腰を下ろした。
 全員が席についたのを見てそれぞれが食前の祈りをささげると、一応主催者である俺が口火を切った。
「では、今回のアモル王国からの手出しについて、報告をさせてもらいます。この料理は一緒にいた娘のユニが作ってくれたもんです。味の方は安心できると思いますので、気楽につまみながら聞いてください」
 その言葉に、エランドが鷹揚に頷いた。
 そして佇まいを直すと、俺のことをじっと見据えて口を開いた。
「では報告を聞く前に初めに確認しておきたいのだが……ディーゴ殿、そなた、いわゆる『悪魔』という種族だな?それと、共にいた娘も」



 いきなり爆弾落とされました。
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