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第8章
第4話 毒を使う緑小鬼4
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―――前回までのあらすじ―――
毒を使う緑小鬼に襲われたパーティー「標の星」の怪我人たちの命はとりとめた。
だが、その毒を調べてくれたエルトールが、ちょっと気になることを言い出した。
―――――――――――――
-1-
「単純な話で済みそうもない、だって?」
セシリーが驚いたように声を上げた。
俺を含めた他の面子も食事の手を止めてエルトールを凝視している。
「ええ。今回のこの毒なんですが、私が調べたところ3つの材料が使われていることが分かりました。具体的に言うと、オオイヌジンチョウゲとノコギリドクカズラとカラスボラです。それぞれ単独で使う分にはそれほど強くない毒なんですが、3つを合わせることで毒の効果が跳ね上がるという特徴があります」
「そんなのがあるのか」
セシリーが呟く。
「まぁ薬物毒物の世界ではたまにあることですよ。ちなみにこの組み合わせは、身体の動きを阻害しつつ死なない程度に衰弱させる効果の毒になります。そして毒が極めて抜けにくい、治療をしなければいつまでも体に残り続けるって言うのが特徴ですね。毒が抜けにくいことは解毒ポーションの効きにも影響しますから、1本じゃ足りなかったというのも仕方ないことです。ただ問題なのが、この組み合わせでしてね……」
エルトールはそこで一度言葉を切ると、ちびりと葡萄酒を口に含んだ。
「オオイヌジンチョウゲとノコギリドクカズラとカラスボラ、これらの毒は、この3種類を合わせたときにだけ効果が強くなるんです。どれか一つでも外したら、ただの一般的な毒の混ぜ物にしかならず、解毒ポーション1本で解毒できてしまうような強さの毒にしかならないわけです」
「すると、その3種類の毒をわざわざ用意して今回の毒を作った、ということか?」
「そう考えるのが妥当ですね。ただ……緑小鬼風情がそんな知識を持ってるとはとても思えないんですよ。この3つの組み合わせって、結構専門的な組み合わせでして、これを知っている者ってのは人間でもかなり限られるんですよね。きちんと医学を修めた正規の医者とか、毒を日常的に扱う裏社会の人間とか、あとは一部の錬金術師が知っているかも、という程度なんです」
「この毒を使ってた連中の中に緑小鬼隊長らしきのがいたが、隊長程度ではそこまで頭は回らんか?」
「回らないでしょう。隊長といってもまだ人間より知能は劣りますから」
「たまたま経験則で知っていた、ということはないですか?」
フィルがエルトールに尋ねる。
「その可能性は限りなく低いですね。理由は後で説明しますけど、この3つは偶然に集まるようなものじゃないんです。知っている者が意識して集めない限り、この3つが揃うことはない、といっていいでしょう。それに緑小鬼が毒を使うという話はたまに耳にしますけど、大抵はそこらにある毒草とかを磨り潰したり、なにかを腐らせたりしたものが精々ですよ。
つまり、緑小鬼が使うにしては高度すぎる毒、という訳ですね」
「となると、毒物に造詣の深い黒幕が別にいる、と考えていいのか?」
「そうなります」
俺の確認にエルトールが頷いた。
「なんてこった、アレで終わりじゃなかったのかよ」
セシリーがそう言って天井を仰ぐ。
「すみませんがまだ話に続きがあります」
再びエルトールに注目が集まる。
「先ほど、意識して集めない限り3つの毒は揃わない、と言いましたが、揃わない理由はそれぞれの時期と産地です。オオイヌジンチョウゲはそこら中に生えている毒草なので除外しますが、問題はノコギリドクカズラとカラスボラの2つです」
「……というと?」
「ノコギリドクカズラはその実に毒があるのですが、この実ができるのは初秋の頃なんです。寒い今の時期は、実は落ちきって残ってないはずなんですよね。もう一つのカラスボラは肝に毒がある小魚で、海と川とを群れで行ったり来たりしているんですけど、この内陸のディーセン近郊まではまず上がってこない魚なんですよ」
「今の時期にこの周辺で作れる毒ではない、という事じゃな?」
「そうなります」
アルゥの言葉にエルトールが首肯する。
「……先生を疑うわけじゃないけど、その調べた結果に間違いはないの?」
アニタが恐る恐る訊ねる。
「残念ながら、自信はあるんですよ」
「エルは薬や毒に関しては私より詳しいんだ。まず間違いはない、と思っていい」
「となると、いつどこであの毒が作られたかが気になるわね……先生、その辺りの予想はつくかしら」
「作られた時期の特定はできませんが、地域なら大まかな予想はつきますよ」
「それはどこ?」
「東に国境を接する、アモル王国です。あの国のさらに東には海があって、海にそそぐ川には毎年夏ごろにカラスボラの群れが遡上します」
「それもまた時期が違うな」
「ただまぁ、ノコギリドクカズラの実もカラスボラも、保存用に乾燥させたりしても毒性は変わりませんし。
順当に考えるなら、夏に獲ったカラスボラを加工なり保存しておいて、初秋にノコギリドクカズラの実とオオイヌジンチョウゲを集めてその場で作った、というのが妥当でしょうね。無論、ノコギリドクカズラの実も保存しておいて、まったく別の時期に作った可能性もありますけど」
「それでもやっぱり保存は必要なのよね」
「そうですね」
エルトールが頷いて言葉を切った。どうやら解説は一旦済んだらしい。
皆が揃って今までの話を思い返す。ちょっと情報量が多すぎて一度にまとめきれんな。一度紙に書き出すか、と思ったところでウェルシュが口を開いた。
「つまりざっくりまとめると、手間暇かけて作った毒を、アモル王国からわざわざ国境を超えてこの国に運び込み、緑小鬼どもに使わせた黒幕がいる、という事でいいんだな?」
頭の回転速いな、ウェルシュ。
「そうなります。でもまぁ、産地の特定できる材料を使うあたり、どこか抜けてますけどね」
「あるいは黒幕の存在を隠す気がないのか、か」
「その黒幕の正体に、なんか予想は立てられそうか?」
期待はしてないが、気になったのでエルトールに尋ねてみる。
「それについてはなんとも。毒だけでは情報が少なすぎます」
「そうか、まぁ仕方ないな。もう一度行ってじっくり調べるか。俺たちの依頼も済んでねぇし」
そう言って軽くため息をつく。
「あたしたちはどうすればいい?」
セシリーら4人がこっちを見る。
「まずは緑小鬼は倒したが黒幕がいそうだ、とギルドに報告した方がいいな。その時に毒のことも併せて報告すれば説得力を持たせられる。あと俺たちが別口の依頼で先行して調査に向かってることも一緒に伝えといてくれ。依頼の成否や報告後の行動についてはギルドが判断して指示するだろうから、それに従ってくれ。追加の調査団が派遣される可能性もあるしな。
もし万が一、ギルドから何の指示もされないようだったら、セグメト村に来て調査を手伝ってくれると助かる。俺たちはそこを拠点に調査を行うつもりだ」
「わかった。セグメト村だな」
4人がそれぞれに頷いた。
「んじゃ、残りのメシを片付けるぞ。中断させて悪かったな」
俺の一言を合図に、止まっていた夕食が再開された。
-2-
翌日、俺たちは再びセグメト村へと向かっていた。
ちなみにセシリー達4人は診療所に泊まり、翌朝ギルドに緑小鬼が使っていた毒の武器をもって報告に行くと言っていた。
俺達は昨日のうちに屋敷に戻ったので一晩入院したセシリーとアニタが全快したかは知らないが、まぁ大丈夫だろう。
ユニの荷物を減らし、俺が多く持つように振り分けたので旅は中々の速さで進み、次の日の昼過ぎには目指すセグメト村に到着した。
村人の何人かが以前訪れた俺のことを覚えていたらしく、今は畑を見て回っているという村長の所に案内してもらった。
「こんにちは村長さん」
村人に礼を言って帰ってもらうと、村長に声をかけた。
「おやあなたは……確か、ディーゴさんでしたかな?」
どうやら村長もぼんやりながら覚えていてくれたようだ。
「ええ、以前こちらに荷物を届けたことのある、ディーセンの冒険者のディーゴです。こちらは仲間のユニと、使い魔のヴァルツです。緑小鬼の依頼の件で伺いました」
「おお、あの依頼、ディーゴさんが引き受けてくださったのですか」
そう言って村長が安堵の表情を浮かべる。
ま、初対面の見知らぬ相手が来るよりは警戒しないで済むし、俺とヴァルツは見てくれがごついからね。
「はい。それで、詳しい話を聞かせていただこうかと」
「わかりました。では一度私どもの家に参りましょう」
そのまま先導されて、村長の家に行く。
そこで話を聞いたところによると、
1、緑小鬼は3匹の群れが2回、4匹と魔狼1匹の群れが1回、村の近くで見かけられた。
2、緑小鬼の隊長らしき大きな個体は見かけられていない。
3、この村では被害は出ていないが、隣の村では家畜が2回襲われている。
4、群れが見かけられたのは村の北と東北東。
5、最近で緑小鬼の討伐依頼を出したのは今回で3回目。前2回はそれぞれ別の冒険者が来て5匹と7匹を倒して戻っていった。証拠の耳は村長が確認済。
といった感じだった。
……ふむ、この間倒したのと数が合わんな。あの時は隊長が1匹、雑魚が5匹、魔狼が3匹の構成だったし。
やはりアレで終わりでした、というわけにはいかんか。
村長の話が終わったのを確認して、今度はこちらが持っている情報を村長に話して聞かせた。
1、3日前にこの村から少し離れたところで緑小鬼の群れを倒している。
2、倒した群れの中に隊長格がいた。
3、倒した緑小鬼は解毒ポーション1本では消し切れない、強い毒を使っていた。
4、毒を調べた結果、毒に造詣の深い黒幕がいるらしいことが判明した。
5、自分たち以外にもう一組の冒険者たちが、別の村の依頼で動いている。
6、これらのことはその冒険者たちがギルドに報告している。
以上のことを話すと、村長は深刻な顔をして考え込んだ。
「……そうなると、まだ他にも緑小鬼やその上の黒幕が残っている、ということですか」
「そうなりますね。まぁご心配なく。ここまで掴んでいるのに緑小鬼だけ倒してハイサヨナラ、ということはしませんから。最低でも黒幕の正体を突き止めて、出来るなら倒してしまいたいと考えてます。黒幕が強すぎる場合はギルドに応援を頼むことになるでしょうけど」
「そうですか、ありがとうございます」
幾分表情を和らげた村長が頭を下げた。
「黒幕がいるのも問題ですが、今回は緑小鬼の使う毒がとにかく厄介です。今回の件が片付くまで、絶対に森に入ったり近づいたりしないように村の人たちに言って徹底させてもらえませんか?あと、緑小鬼を見かけても決して手は出さず逃げに徹してほしい、と」
「わかりました。村の者たちに徹底させます」
「お願いします。じゃあ、俺たちはこれから森で調査を始めますんで」
話し合いを終え、村長にそう言い残した俺たちは、揃って村の東北の森に足を踏み入れた。
村長の話と毒の解析結果から、こちらの方角が怪しいと当たりをつけて。
毒を使う緑小鬼に襲われたパーティー「標の星」の怪我人たちの命はとりとめた。
だが、その毒を調べてくれたエルトールが、ちょっと気になることを言い出した。
―――――――――――――
-1-
「単純な話で済みそうもない、だって?」
セシリーが驚いたように声を上げた。
俺を含めた他の面子も食事の手を止めてエルトールを凝視している。
「ええ。今回のこの毒なんですが、私が調べたところ3つの材料が使われていることが分かりました。具体的に言うと、オオイヌジンチョウゲとノコギリドクカズラとカラスボラです。それぞれ単独で使う分にはそれほど強くない毒なんですが、3つを合わせることで毒の効果が跳ね上がるという特徴があります」
「そんなのがあるのか」
セシリーが呟く。
「まぁ薬物毒物の世界ではたまにあることですよ。ちなみにこの組み合わせは、身体の動きを阻害しつつ死なない程度に衰弱させる効果の毒になります。そして毒が極めて抜けにくい、治療をしなければいつまでも体に残り続けるって言うのが特徴ですね。毒が抜けにくいことは解毒ポーションの効きにも影響しますから、1本じゃ足りなかったというのも仕方ないことです。ただ問題なのが、この組み合わせでしてね……」
エルトールはそこで一度言葉を切ると、ちびりと葡萄酒を口に含んだ。
「オオイヌジンチョウゲとノコギリドクカズラとカラスボラ、これらの毒は、この3種類を合わせたときにだけ効果が強くなるんです。どれか一つでも外したら、ただの一般的な毒の混ぜ物にしかならず、解毒ポーション1本で解毒できてしまうような強さの毒にしかならないわけです」
「すると、その3種類の毒をわざわざ用意して今回の毒を作った、ということか?」
「そう考えるのが妥当ですね。ただ……緑小鬼風情がそんな知識を持ってるとはとても思えないんですよ。この3つの組み合わせって、結構専門的な組み合わせでして、これを知っている者ってのは人間でもかなり限られるんですよね。きちんと医学を修めた正規の医者とか、毒を日常的に扱う裏社会の人間とか、あとは一部の錬金術師が知っているかも、という程度なんです」
「この毒を使ってた連中の中に緑小鬼隊長らしきのがいたが、隊長程度ではそこまで頭は回らんか?」
「回らないでしょう。隊長といってもまだ人間より知能は劣りますから」
「たまたま経験則で知っていた、ということはないですか?」
フィルがエルトールに尋ねる。
「その可能性は限りなく低いですね。理由は後で説明しますけど、この3つは偶然に集まるようなものじゃないんです。知っている者が意識して集めない限り、この3つが揃うことはない、といっていいでしょう。それに緑小鬼が毒を使うという話はたまに耳にしますけど、大抵はそこらにある毒草とかを磨り潰したり、なにかを腐らせたりしたものが精々ですよ。
つまり、緑小鬼が使うにしては高度すぎる毒、という訳ですね」
「となると、毒物に造詣の深い黒幕が別にいる、と考えていいのか?」
「そうなります」
俺の確認にエルトールが頷いた。
「なんてこった、アレで終わりじゃなかったのかよ」
セシリーがそう言って天井を仰ぐ。
「すみませんがまだ話に続きがあります」
再びエルトールに注目が集まる。
「先ほど、意識して集めない限り3つの毒は揃わない、と言いましたが、揃わない理由はそれぞれの時期と産地です。オオイヌジンチョウゲはそこら中に生えている毒草なので除外しますが、問題はノコギリドクカズラとカラスボラの2つです」
「……というと?」
「ノコギリドクカズラはその実に毒があるのですが、この実ができるのは初秋の頃なんです。寒い今の時期は、実は落ちきって残ってないはずなんですよね。もう一つのカラスボラは肝に毒がある小魚で、海と川とを群れで行ったり来たりしているんですけど、この内陸のディーセン近郊まではまず上がってこない魚なんですよ」
「今の時期にこの周辺で作れる毒ではない、という事じゃな?」
「そうなります」
アルゥの言葉にエルトールが首肯する。
「……先生を疑うわけじゃないけど、その調べた結果に間違いはないの?」
アニタが恐る恐る訊ねる。
「残念ながら、自信はあるんですよ」
「エルは薬や毒に関しては私より詳しいんだ。まず間違いはない、と思っていい」
「となると、いつどこであの毒が作られたかが気になるわね……先生、その辺りの予想はつくかしら」
「作られた時期の特定はできませんが、地域なら大まかな予想はつきますよ」
「それはどこ?」
「東に国境を接する、アモル王国です。あの国のさらに東には海があって、海にそそぐ川には毎年夏ごろにカラスボラの群れが遡上します」
「それもまた時期が違うな」
「ただまぁ、ノコギリドクカズラの実もカラスボラも、保存用に乾燥させたりしても毒性は変わりませんし。
順当に考えるなら、夏に獲ったカラスボラを加工なり保存しておいて、初秋にノコギリドクカズラの実とオオイヌジンチョウゲを集めてその場で作った、というのが妥当でしょうね。無論、ノコギリドクカズラの実も保存しておいて、まったく別の時期に作った可能性もありますけど」
「それでもやっぱり保存は必要なのよね」
「そうですね」
エルトールが頷いて言葉を切った。どうやら解説は一旦済んだらしい。
皆が揃って今までの話を思い返す。ちょっと情報量が多すぎて一度にまとめきれんな。一度紙に書き出すか、と思ったところでウェルシュが口を開いた。
「つまりざっくりまとめると、手間暇かけて作った毒を、アモル王国からわざわざ国境を超えてこの国に運び込み、緑小鬼どもに使わせた黒幕がいる、という事でいいんだな?」
頭の回転速いな、ウェルシュ。
「そうなります。でもまぁ、産地の特定できる材料を使うあたり、どこか抜けてますけどね」
「あるいは黒幕の存在を隠す気がないのか、か」
「その黒幕の正体に、なんか予想は立てられそうか?」
期待はしてないが、気になったのでエルトールに尋ねてみる。
「それについてはなんとも。毒だけでは情報が少なすぎます」
「そうか、まぁ仕方ないな。もう一度行ってじっくり調べるか。俺たちの依頼も済んでねぇし」
そう言って軽くため息をつく。
「あたしたちはどうすればいい?」
セシリーら4人がこっちを見る。
「まずは緑小鬼は倒したが黒幕がいそうだ、とギルドに報告した方がいいな。その時に毒のことも併せて報告すれば説得力を持たせられる。あと俺たちが別口の依頼で先行して調査に向かってることも一緒に伝えといてくれ。依頼の成否や報告後の行動についてはギルドが判断して指示するだろうから、それに従ってくれ。追加の調査団が派遣される可能性もあるしな。
もし万が一、ギルドから何の指示もされないようだったら、セグメト村に来て調査を手伝ってくれると助かる。俺たちはそこを拠点に調査を行うつもりだ」
「わかった。セグメト村だな」
4人がそれぞれに頷いた。
「んじゃ、残りのメシを片付けるぞ。中断させて悪かったな」
俺の一言を合図に、止まっていた夕食が再開された。
-2-
翌日、俺たちは再びセグメト村へと向かっていた。
ちなみにセシリー達4人は診療所に泊まり、翌朝ギルドに緑小鬼が使っていた毒の武器をもって報告に行くと言っていた。
俺達は昨日のうちに屋敷に戻ったので一晩入院したセシリーとアニタが全快したかは知らないが、まぁ大丈夫だろう。
ユニの荷物を減らし、俺が多く持つように振り分けたので旅は中々の速さで進み、次の日の昼過ぎには目指すセグメト村に到着した。
村人の何人かが以前訪れた俺のことを覚えていたらしく、今は畑を見て回っているという村長の所に案内してもらった。
「こんにちは村長さん」
村人に礼を言って帰ってもらうと、村長に声をかけた。
「おやあなたは……確か、ディーゴさんでしたかな?」
どうやら村長もぼんやりながら覚えていてくれたようだ。
「ええ、以前こちらに荷物を届けたことのある、ディーセンの冒険者のディーゴです。こちらは仲間のユニと、使い魔のヴァルツです。緑小鬼の依頼の件で伺いました」
「おお、あの依頼、ディーゴさんが引き受けてくださったのですか」
そう言って村長が安堵の表情を浮かべる。
ま、初対面の見知らぬ相手が来るよりは警戒しないで済むし、俺とヴァルツは見てくれがごついからね。
「はい。それで、詳しい話を聞かせていただこうかと」
「わかりました。では一度私どもの家に参りましょう」
そのまま先導されて、村長の家に行く。
そこで話を聞いたところによると、
1、緑小鬼は3匹の群れが2回、4匹と魔狼1匹の群れが1回、村の近くで見かけられた。
2、緑小鬼の隊長らしき大きな個体は見かけられていない。
3、この村では被害は出ていないが、隣の村では家畜が2回襲われている。
4、群れが見かけられたのは村の北と東北東。
5、最近で緑小鬼の討伐依頼を出したのは今回で3回目。前2回はそれぞれ別の冒険者が来て5匹と7匹を倒して戻っていった。証拠の耳は村長が確認済。
といった感じだった。
……ふむ、この間倒したのと数が合わんな。あの時は隊長が1匹、雑魚が5匹、魔狼が3匹の構成だったし。
やはりアレで終わりでした、というわけにはいかんか。
村長の話が終わったのを確認して、今度はこちらが持っている情報を村長に話して聞かせた。
1、3日前にこの村から少し離れたところで緑小鬼の群れを倒している。
2、倒した群れの中に隊長格がいた。
3、倒した緑小鬼は解毒ポーション1本では消し切れない、強い毒を使っていた。
4、毒を調べた結果、毒に造詣の深い黒幕がいるらしいことが判明した。
5、自分たち以外にもう一組の冒険者たちが、別の村の依頼で動いている。
6、これらのことはその冒険者たちがギルドに報告している。
以上のことを話すと、村長は深刻な顔をして考え込んだ。
「……そうなると、まだ他にも緑小鬼やその上の黒幕が残っている、ということですか」
「そうなりますね。まぁご心配なく。ここまで掴んでいるのに緑小鬼だけ倒してハイサヨナラ、ということはしませんから。最低でも黒幕の正体を突き止めて、出来るなら倒してしまいたいと考えてます。黒幕が強すぎる場合はギルドに応援を頼むことになるでしょうけど」
「そうですか、ありがとうございます」
幾分表情を和らげた村長が頭を下げた。
「黒幕がいるのも問題ですが、今回は緑小鬼の使う毒がとにかく厄介です。今回の件が片付くまで、絶対に森に入ったり近づいたりしないように村の人たちに言って徹底させてもらえませんか?あと、緑小鬼を見かけても決して手は出さず逃げに徹してほしい、と」
「わかりました。村の者たちに徹底させます」
「お願いします。じゃあ、俺たちはこれから森で調査を始めますんで」
話し合いを終え、村長にそう言い残した俺たちは、揃って村の東北の森に足を踏み入れた。
村長の話と毒の解析結果から、こちらの方角が怪しいと当たりをつけて。
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