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第5章
第15話 巻き込まれ警備員ディーゴ
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-1-
さて警備員の仕事も3日目、最終日がやってきた。
これが終われば日当というか報酬を貰ってはいさよならとなる。
割のいい仕事だったが、また受けたいかと言われると……うーん……ちょっと微妙だな。
俺としてはもっと体を動かす仕事の方がいい。立ちっぱなしは退屈すぎる。
フンドシパンツをはいて香油を擦り込まれ、全身をブラッシングされて扉の横に立つ。
今日はなんか客の入りが多いな、と思ったら明日は休日だったのを思い出した。
サタデーナイトフィーバーってやつですか。古いけど。ディスコじゃないけど。
冒険者なんぞやってると曜日の感覚がなくなって困るな。
ただ休日前ともなると客層がちょっと変わるのか、前2日とは違った反応をする客もちらほらいた。
前2日の時は割と警備員はスルーされていたのだが、今日の客は結構無遠慮にこちらを眺めてきたりする。
明らかに俺の方を見てひそひそ話だすグループなんかもいて、改めて俺は客寄せパンダなんだなと思ったりした。
あと、客が増えて混雑するとそれだけトラブルも起きるわけで、従業員に呼ばれて何度か出動することもあった。
といっても、女性客が尻を触られたとか、負けの込んだ客がイカサマだと因縁をつけたりとかその程度のことでブルさんと二人でにっこり笑顔で「ちょっとVIPルームに参りましょうか」と声をかければほぼ大人しくなった。
VIPルームに案内した後は専門のOHANASHI担当員がいるのでそっちに任せ、俺たちは再び扉の門番に戻る。
このくらい出番があれば退屈しなくて済むんだけどね。
客の入りも一段落し、5度目か6度目の出動をこなして戻って間もなく、また従業員が呼びに来た。
「ブルさん、ディーゴさん、すみませんがお願いできますか?」
呼びに来たのは、客に卓を案内したり飲み物をサーブしたりする、ちょっと露出の高いおねぇちゃんだ。
「なんだ?また何か揉め事か?」
ブルさんの問いに
「ええまぁ、ちょっと……」
と言葉を濁すおねぇちゃん。
なんだろな、と思いながらついていくと、剣闘士ショーをやってるリングに案内された。
はて、ここでなんか揉め事でもあったか?その割には客は落ち着いているようだけど……って、なんで皆して俺たちを見てるの?
門番がこんなところに来るのは珍しいからか?と思いつつふとリングの上を見ると、リングの中央で両手剣を携えて仁王立ちにしてる、きつめの美人と目があった。
……あ、これやばいヤツだ。
とっさに視線を外して気づかなかった風を装うが、遅かった。
「虎!よく来たね!呼んだのはあたしだよ!!」
きつめの美人がよく通る声で叫ぶ。
あーあーきーこーえーなーいー。
「虎!聞こえない振りすんじゃないよ!上がってきてあたしと勝負しな!!」
いや、だって勝負するメリットが俺には皆無なんだけど。と思っていたら、肩をブルさんにポンポンと叩かれた。
「……諦めろ。あの姐ちゃん、タリアっていうんだが戦闘中毒でな、俺もよく絡まれた」
ブルさんぇ……。
こういう場合は上司に相談だ、と支配人を探してみると、こっちはこっちで遠くから苦笑いしてやがる。
くそぅ、後で報酬上乗せ要求してやる。
仕方がないので肚をくくって、階段を踏みしめリングに上がる。
すると客から大歓声が沸いた。
リングの中央で相手のタリアと相対する。しかしすげぇカッコだな。マイクロビキニ?お胸も結構たわわだし、試合中に上下左右に暴れまくったりしねぇのか?暴れすぎてポロリとか……あ、客はそれ期待してんのか。
そう思いつつも事前に釘をさしておく。
「(小声で)事前に言っておくが、俺はここのルールは知らんしそもそもランク5になったばかりだぞ?」
「(小声で)その辺は適当に合わせてやるよ。さぁ、楽しませとくれ」
…………ヤな予感しかしねぇよ。
そしてタリアが審判に耳打ちする。審判は大きく頷くと、高らかに宣言した。
「さぁー急遽始まりますこの試合、当剣闘士会の王者タリアと相対するは現役にして歴戦の冒険者ディーゴ!初めての顔合わせゆえに相手の力量はお互い全く不明!異形の闘士に王者はどう戦うのか?また王者に異形の闘士はどう挑むのか?目が離せない試合になりそうです!!なお試合形式は王者タリアの申し出により、フルコンタクトの時間無制限デスマッチだぁ!!」
ひときわ観客の歓声が大きくなる。
っておいおい、相手は王者かよ。というか、歴戦の冒険者なんつってハードル上げんな。
しかしそう思ってもどうにもならんので気持ちを切り替え、大きく息を吸い、吐き出す。しゃーない、戦るか。
「では双方離れて…………勝負!!」
そしてゴングが鳴らされた。
先に仕掛けてきたのはタリアだった。
開始と同時に距離を詰めると、両手剣を振りかぶって切りかかってきた。
槌鉾をふるって両手剣をはじき返す。
右、左、上、と切り込んでくるのを、槌鉾でそれぞれ弾き、いなしながらこちらも前に出る。
リングの中央で切りあい打ち合いが加速する。
王者とはいえ、落ち着いて見ればまだ何とかついていける。
それに何度か武器を打ち合わせて分かったが、力はやはり俺の方が強い。
ここは稽古通り、正面からビシビシと押していくか……と思った矢先、目の前からタリアの姿が掻き消えた。
反射的に前に身を投げ出し、リングに倒れ込む。腰のあたりに風を感じたが、幸いかすってもいない。
ゴロゴロとリングを転がり、立ち上がる。
「あれを避けるか。そうでなくちゃいけないねぇ」
タリアが舌なめずりする。
うひぃ、もしかして地雷踏んだ?
「ちょいとペースを上げていくよ!」
再度タリアが仕掛けてきた。って、早っ!?
先ほどまでとは打って変わって、結構な速度で連続攻撃が襲ってくる。
打ち返したり仰け反ったりでなんとか躱しているものの、それでも避けきれなかった分が体をかすめる。
飛びのいて距離を取ろうにも、その隙すら見つからない。
ギルド支部での稽古のおかげでまだ何とかしのげているが、先ほどから細かいのをちょこちょこ貰って少し苛ついてきた。
刃引きの剣だから流血こそしないが、鋼鉄製なので痛いものは痛い。
そんな矢先、かさにかかって攻め立ててきたタリアの剣に、弾き返しがうまく決まってタリアの体制が少し流れた。
間髪入れずにタリアの腹に蹴りを叩き込む。
たまらず数歩後退するタリアだが、手ごたえが軽い。有効打にはなってないか。
すかさず追撃に移り、両手で持った槌鉾を容赦なく叩きつける。剣で防がれようが関係ない。
守りが固いなら守りごと叩き潰すまで、とさらに槌鉾に力を籠める。
さすがにタリアもわずかに顔がゆがむ。俺の馬鹿力ナメンナヨ?
と、次の瞬間、腹にいい衝撃を食らって息が詰まった。
どうやら剣の柄で腹を殴られたらしい。
「あまり調子に乗るんじゃないよっ……!」
「……それはこっちの台詞だ!」
王者か知らんが勝手に勝負に引きずり込みやがって。こっちの迷惑考えろ。いい加減頭来た。
どうせ終わった後は魔法かポーションで治されるんだ、骨の1~2本はくれてやらぁ!
とばかりに、守りを捨ててショートレンジでの乱打戦に持ち込んだ。
実際は4発喰らって1発返すくらいの殴られっぷりだが、そこは打たれ強さでカバーする。
切られても殴られてもじりじりと前に進み続け、満身創痍ながらもついにタリアをコーナーに追い詰めた。
チャンスとばかりに息を止めて数少ない対人技、ラッシュを使う。
今までとはうって変わった、力任せではない早く細かい連続攻撃にタリアが防戦一方になる。
しかし有効打が与えられない。
重い両手剣をここまで自在に操るか。
ならばペースを上げるまで!
更に早く槌鉾を打ち込み続けると、徐々にタリアの守りが崩れてきた。
下からの振り上げでタリアの剣を上に弾き上げると、がら空きになった胴体に渾身の片手突き!
を見舞ったはずだったが、次の瞬間、背中から肩口に強烈な一撃を食らって意識が途絶えた。
-2-
目が覚めて目に入ったのは、知らない天井だった。
「あー……」
先ほどのことが思い出される。いいところまで行ったような気はするんだが、逆転負けしたんだっけか。
「お、目が覚めたか」
声がした方を見てみると、神官衣に身を包んだ男性が椅子に座ってこっちを見ていた。
「ここは……医務室か?」
「そうだ。お前さん、ディーゴだったな。試合でタリアに負けてここに担ぎ込まれたんだ」
「そうか」
そう言ってベッドから体を起こす。あちこち殴られていた上に、肩口に強烈なのを貰った割には痛みはない。
「傷は魔法で治しておいた。肩の骨が折れ……砕けてたんだが、痛みはあるか?」
腕をぐるぐる回して調子を確認する。うむ、どこにも痛むところはないな。
「いや、痛みは全くない。大丈夫そうだ」
「そうか、なら良かった。しかしお前さんタフだな。傷を全部治すのに常人の倍くらい魔法を使ったぞ」
「そりゃ済まなかった。なにせ体のつくりが違うからな」
「確かにそうかもしれん。おっと、目が覚めたら支配人室に来てくれって言伝があったんだ」
「分かった。じゃあ行ってみる。どうもお世話さん」
「ああ」
男に礼を言って支配人室に向かう。……まぁ話の予想はつくけどな。精々報酬を吹っかけてやるとするか。
コンコン
「ディーゴ、来ました」
「おお、入ってくれ」
扉をノックして名乗ると、中から支配人のトバイが答えた。
「失礼します」
扉を開けて中に入ると、トバイが立って待っていた。
「先ほどは済まなかったな」
トバイが軽く頭を下げる。
「ホントですよ。見世物になるつもりはありましたが、試合をするとまでは聞いてませんぜ。しかも王者となんて」
「いや、それは悪いと思っている。ただタリアのやつは言い出すと聞かなくてな……」
「で?当の本人は?」
「満足したらしくてすっきりした顔で帰って行ったぞ。……いやそんな顔するな。あとでよく言って聞かせるから」
「と言ってもあの姐さんはたぶん聞く耳持たんでしょうよ」
「…………まぁそのあれだ。お陰で試合は盛り上がった。ランク5という割にはやるじゃないか」
「でも負けましたがね」
「そりゃそうだ。見せる試合とはいえ、ウチの娘たちは誰も相応の技量は持ってるからな。その中の王者だ。そこらの騎士や戦士よりずっと強いぞ」
「それはもう身をもって実感しましたよ。で、これからの予定は?」
「ああ、カジノももうすぐ店じまいだ。報酬を渡すから、帰ってゆっくり休んでくれ。3日間ご苦労だった」
「はぁ」
「で、報酬の方だが、金貨3枚の約束だったが、試合が盛り上がったのと迷惑料込みで10枚出そう」
まじか。倍くらい吹っ掛けようと思ってたら3倍かよ。太っ腹だな。
「揉め事の時の手際も悪くないし、今後もまた依頼を出させてもらうことになるだろう。その時はよろしく頼むぞ。あと、前に渡した符丁は返さなくていい。客としてきても歓迎しよう」
「そうですか。ありがとうございます」
そう言って報酬を受け取る。
「じゃ、どうもお世話になりました」
「おう」
軽く頭を下げて支配人室を後にする。さて、帰りにブルさんに挨拶して帰りますかね。
ディーゴが出て行ったのを見届けたトバイが、扉を見ながら呟く。
「次の依頼にはなんか気のない返事をしてたが……あんな面白いの逃がしてたまるか。ブルのやつと組ませりゃいい看板の一つになる。逃がさんようにちょいと手を打っとくか」
さて警備員の仕事も3日目、最終日がやってきた。
これが終われば日当というか報酬を貰ってはいさよならとなる。
割のいい仕事だったが、また受けたいかと言われると……うーん……ちょっと微妙だな。
俺としてはもっと体を動かす仕事の方がいい。立ちっぱなしは退屈すぎる。
フンドシパンツをはいて香油を擦り込まれ、全身をブラッシングされて扉の横に立つ。
今日はなんか客の入りが多いな、と思ったら明日は休日だったのを思い出した。
サタデーナイトフィーバーってやつですか。古いけど。ディスコじゃないけど。
冒険者なんぞやってると曜日の感覚がなくなって困るな。
ただ休日前ともなると客層がちょっと変わるのか、前2日とは違った反応をする客もちらほらいた。
前2日の時は割と警備員はスルーされていたのだが、今日の客は結構無遠慮にこちらを眺めてきたりする。
明らかに俺の方を見てひそひそ話だすグループなんかもいて、改めて俺は客寄せパンダなんだなと思ったりした。
あと、客が増えて混雑するとそれだけトラブルも起きるわけで、従業員に呼ばれて何度か出動することもあった。
といっても、女性客が尻を触られたとか、負けの込んだ客がイカサマだと因縁をつけたりとかその程度のことでブルさんと二人でにっこり笑顔で「ちょっとVIPルームに参りましょうか」と声をかければほぼ大人しくなった。
VIPルームに案内した後は専門のOHANASHI担当員がいるのでそっちに任せ、俺たちは再び扉の門番に戻る。
このくらい出番があれば退屈しなくて済むんだけどね。
客の入りも一段落し、5度目か6度目の出動をこなして戻って間もなく、また従業員が呼びに来た。
「ブルさん、ディーゴさん、すみませんがお願いできますか?」
呼びに来たのは、客に卓を案内したり飲み物をサーブしたりする、ちょっと露出の高いおねぇちゃんだ。
「なんだ?また何か揉め事か?」
ブルさんの問いに
「ええまぁ、ちょっと……」
と言葉を濁すおねぇちゃん。
なんだろな、と思いながらついていくと、剣闘士ショーをやってるリングに案内された。
はて、ここでなんか揉め事でもあったか?その割には客は落ち着いているようだけど……って、なんで皆して俺たちを見てるの?
門番がこんなところに来るのは珍しいからか?と思いつつふとリングの上を見ると、リングの中央で両手剣を携えて仁王立ちにしてる、きつめの美人と目があった。
……あ、これやばいヤツだ。
とっさに視線を外して気づかなかった風を装うが、遅かった。
「虎!よく来たね!呼んだのはあたしだよ!!」
きつめの美人がよく通る声で叫ぶ。
あーあーきーこーえーなーいー。
「虎!聞こえない振りすんじゃないよ!上がってきてあたしと勝負しな!!」
いや、だって勝負するメリットが俺には皆無なんだけど。と思っていたら、肩をブルさんにポンポンと叩かれた。
「……諦めろ。あの姐ちゃん、タリアっていうんだが戦闘中毒でな、俺もよく絡まれた」
ブルさんぇ……。
こういう場合は上司に相談だ、と支配人を探してみると、こっちはこっちで遠くから苦笑いしてやがる。
くそぅ、後で報酬上乗せ要求してやる。
仕方がないので肚をくくって、階段を踏みしめリングに上がる。
すると客から大歓声が沸いた。
リングの中央で相手のタリアと相対する。しかしすげぇカッコだな。マイクロビキニ?お胸も結構たわわだし、試合中に上下左右に暴れまくったりしねぇのか?暴れすぎてポロリとか……あ、客はそれ期待してんのか。
そう思いつつも事前に釘をさしておく。
「(小声で)事前に言っておくが、俺はここのルールは知らんしそもそもランク5になったばかりだぞ?」
「(小声で)その辺は適当に合わせてやるよ。さぁ、楽しませとくれ」
…………ヤな予感しかしねぇよ。
そしてタリアが審判に耳打ちする。審判は大きく頷くと、高らかに宣言した。
「さぁー急遽始まりますこの試合、当剣闘士会の王者タリアと相対するは現役にして歴戦の冒険者ディーゴ!初めての顔合わせゆえに相手の力量はお互い全く不明!異形の闘士に王者はどう戦うのか?また王者に異形の闘士はどう挑むのか?目が離せない試合になりそうです!!なお試合形式は王者タリアの申し出により、フルコンタクトの時間無制限デスマッチだぁ!!」
ひときわ観客の歓声が大きくなる。
っておいおい、相手は王者かよ。というか、歴戦の冒険者なんつってハードル上げんな。
しかしそう思ってもどうにもならんので気持ちを切り替え、大きく息を吸い、吐き出す。しゃーない、戦るか。
「では双方離れて…………勝負!!」
そしてゴングが鳴らされた。
先に仕掛けてきたのはタリアだった。
開始と同時に距離を詰めると、両手剣を振りかぶって切りかかってきた。
槌鉾をふるって両手剣をはじき返す。
右、左、上、と切り込んでくるのを、槌鉾でそれぞれ弾き、いなしながらこちらも前に出る。
リングの中央で切りあい打ち合いが加速する。
王者とはいえ、落ち着いて見ればまだ何とかついていける。
それに何度か武器を打ち合わせて分かったが、力はやはり俺の方が強い。
ここは稽古通り、正面からビシビシと押していくか……と思った矢先、目の前からタリアの姿が掻き消えた。
反射的に前に身を投げ出し、リングに倒れ込む。腰のあたりに風を感じたが、幸いかすってもいない。
ゴロゴロとリングを転がり、立ち上がる。
「あれを避けるか。そうでなくちゃいけないねぇ」
タリアが舌なめずりする。
うひぃ、もしかして地雷踏んだ?
「ちょいとペースを上げていくよ!」
再度タリアが仕掛けてきた。って、早っ!?
先ほどまでとは打って変わって、結構な速度で連続攻撃が襲ってくる。
打ち返したり仰け反ったりでなんとか躱しているものの、それでも避けきれなかった分が体をかすめる。
飛びのいて距離を取ろうにも、その隙すら見つからない。
ギルド支部での稽古のおかげでまだ何とかしのげているが、先ほどから細かいのをちょこちょこ貰って少し苛ついてきた。
刃引きの剣だから流血こそしないが、鋼鉄製なので痛いものは痛い。
そんな矢先、かさにかかって攻め立ててきたタリアの剣に、弾き返しがうまく決まってタリアの体制が少し流れた。
間髪入れずにタリアの腹に蹴りを叩き込む。
たまらず数歩後退するタリアだが、手ごたえが軽い。有効打にはなってないか。
すかさず追撃に移り、両手で持った槌鉾を容赦なく叩きつける。剣で防がれようが関係ない。
守りが固いなら守りごと叩き潰すまで、とさらに槌鉾に力を籠める。
さすがにタリアもわずかに顔がゆがむ。俺の馬鹿力ナメンナヨ?
と、次の瞬間、腹にいい衝撃を食らって息が詰まった。
どうやら剣の柄で腹を殴られたらしい。
「あまり調子に乗るんじゃないよっ……!」
「……それはこっちの台詞だ!」
王者か知らんが勝手に勝負に引きずり込みやがって。こっちの迷惑考えろ。いい加減頭来た。
どうせ終わった後は魔法かポーションで治されるんだ、骨の1~2本はくれてやらぁ!
とばかりに、守りを捨ててショートレンジでの乱打戦に持ち込んだ。
実際は4発喰らって1発返すくらいの殴られっぷりだが、そこは打たれ強さでカバーする。
切られても殴られてもじりじりと前に進み続け、満身創痍ながらもついにタリアをコーナーに追い詰めた。
チャンスとばかりに息を止めて数少ない対人技、ラッシュを使う。
今までとはうって変わった、力任せではない早く細かい連続攻撃にタリアが防戦一方になる。
しかし有効打が与えられない。
重い両手剣をここまで自在に操るか。
ならばペースを上げるまで!
更に早く槌鉾を打ち込み続けると、徐々にタリアの守りが崩れてきた。
下からの振り上げでタリアの剣を上に弾き上げると、がら空きになった胴体に渾身の片手突き!
を見舞ったはずだったが、次の瞬間、背中から肩口に強烈な一撃を食らって意識が途絶えた。
-2-
目が覚めて目に入ったのは、知らない天井だった。
「あー……」
先ほどのことが思い出される。いいところまで行ったような気はするんだが、逆転負けしたんだっけか。
「お、目が覚めたか」
声がした方を見てみると、神官衣に身を包んだ男性が椅子に座ってこっちを見ていた。
「ここは……医務室か?」
「そうだ。お前さん、ディーゴだったな。試合でタリアに負けてここに担ぎ込まれたんだ」
「そうか」
そう言ってベッドから体を起こす。あちこち殴られていた上に、肩口に強烈なのを貰った割には痛みはない。
「傷は魔法で治しておいた。肩の骨が折れ……砕けてたんだが、痛みはあるか?」
腕をぐるぐる回して調子を確認する。うむ、どこにも痛むところはないな。
「いや、痛みは全くない。大丈夫そうだ」
「そうか、なら良かった。しかしお前さんタフだな。傷を全部治すのに常人の倍くらい魔法を使ったぞ」
「そりゃ済まなかった。なにせ体のつくりが違うからな」
「確かにそうかもしれん。おっと、目が覚めたら支配人室に来てくれって言伝があったんだ」
「分かった。じゃあ行ってみる。どうもお世話さん」
「ああ」
男に礼を言って支配人室に向かう。……まぁ話の予想はつくけどな。精々報酬を吹っかけてやるとするか。
コンコン
「ディーゴ、来ました」
「おお、入ってくれ」
扉をノックして名乗ると、中から支配人のトバイが答えた。
「失礼します」
扉を開けて中に入ると、トバイが立って待っていた。
「先ほどは済まなかったな」
トバイが軽く頭を下げる。
「ホントですよ。見世物になるつもりはありましたが、試合をするとまでは聞いてませんぜ。しかも王者となんて」
「いや、それは悪いと思っている。ただタリアのやつは言い出すと聞かなくてな……」
「で?当の本人は?」
「満足したらしくてすっきりした顔で帰って行ったぞ。……いやそんな顔するな。あとでよく言って聞かせるから」
「と言ってもあの姐さんはたぶん聞く耳持たんでしょうよ」
「…………まぁそのあれだ。お陰で試合は盛り上がった。ランク5という割にはやるじゃないか」
「でも負けましたがね」
「そりゃそうだ。見せる試合とはいえ、ウチの娘たちは誰も相応の技量は持ってるからな。その中の王者だ。そこらの騎士や戦士よりずっと強いぞ」
「それはもう身をもって実感しましたよ。で、これからの予定は?」
「ああ、カジノももうすぐ店じまいだ。報酬を渡すから、帰ってゆっくり休んでくれ。3日間ご苦労だった」
「はぁ」
「で、報酬の方だが、金貨3枚の約束だったが、試合が盛り上がったのと迷惑料込みで10枚出そう」
まじか。倍くらい吹っ掛けようと思ってたら3倍かよ。太っ腹だな。
「揉め事の時の手際も悪くないし、今後もまた依頼を出させてもらうことになるだろう。その時はよろしく頼むぞ。あと、前に渡した符丁は返さなくていい。客としてきても歓迎しよう」
「そうですか。ありがとうございます」
そう言って報酬を受け取る。
「じゃ、どうもお世話になりました」
「おう」
軽く頭を下げて支配人室を後にする。さて、帰りにブルさんに挨拶して帰りますかね。
ディーゴが出て行ったのを見届けたトバイが、扉を見ながら呟く。
「次の依頼にはなんか気のない返事をしてたが……あんな面白いの逃がしてたまるか。ブルのやつと組ませりゃいい看板の一つになる。逃がさんようにちょいと手を打っとくか」
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喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
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