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第4章
第1話 ランク昇格と武術稽古
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*****まえがき*****
明けましておめでとうございます。
令和2年、1回目の更新です。
**************
-1-
「お疲れさん。これで10回目の依頼達成だな」
公園の掃除を丸1日こなしてきて、差し出した冒険者手帳を受け取った熊の亭主が、手帳をひらひらさせながら笑った。
「これでやっとランク6か」
「冒険者になってから何日だ?」
亭主に言われて、指折り数えて思い出す。
「大体2週間くらいかな」
「早いやつは5~6日でランク6に上がるんだがなぁ」
「すまんね、兼業冒険者で。それに、依頼の掛け持ちで急かされるような真似はしたくねーんだ」
「……というと、この2週間の間にまた何か作ったのか?」
「俺の後見をやってくれてるガラス屋の大旦那に相談されてね、ちょっとネタを出してやっただけさ。今はまだ守秘義務があるから詳細はぼかさせてもらうが、来月か再来月にでも天の教会に行くと面白いものが見られるかもな」
「ほう、来月か再来月ね。ずいぶん間があるな」
「ちと大掛かりなんだ。こればかりは職人さんの頑張りに期待するしかねぇな」
「そうか、じゃあ楽しみに待つことにしよう。それと、こいつが新しい冒険者手帳だ。名前と住所と特技と備考を書いてくれ」
「あいよ……って、手帳の表紙の文字の色が違うな。それと少し厚くなってないか?」
受け取った冒険者手帳を見て訊ねる。
「ランク7から黄→青→赤→白→銅→銀→金の順で色が変わってくんだ。ランクを上げるのに必要な依頼達成数は7のときと同じく10回だが、小遣い稼ぎにランク上昇にカウントされない街中での依頼を受ける奴も多くてな」
「なるほど」
そんなもんかと頷きながら、ランク7の手帳に書いた時と同じように自分の所を記入する。
「書き終わったらよこしてくれ」
「あいよ」
亭主は新しい手帳を受け取ると、古い手帳と見比べる。
「ふむ、新しい特技はなし、か。ま、そうだろうな。住所も備考も変更はなし、と」
「それとこの紙2枚にも同じように書いてくれ。ウチとギルド支部の更新用の書類だ」
「あいよ」
紙2枚にも記入して差し出す。
「よし、これでお前さんも今からランク6だ。何か質問はあるか?」
「そうだな……武術の稽古をしたいんだが、どこに行けばいい?」
「それなら支部の方に行くと教官がいる。銀貨5枚も払えば稽古をつけてくれるぞ」
「意外と安いな」
「引退した元冒険者がやってるからな」
「事前に予約とかは?」
「特に必要ない。結構暇してるみたいだからみっちり見てもらえるぞ」
「有難いんだか有り難くないんだか」
「いつ行くんだ?」
「明日にでも顔出そうかと思ってる」
「そうか、まぁ精々頑張れよ」
-2-
翌日、冒険者ギルドの支部に出向く。
街はずれだからウチからだと結構遠いんだよな。
乗合馬車を捕まえて1時間半ほどで到着した。装備関係は無限袋の中だ。依頼でもないのに完全装備で出歩くこともあるまいと思ったからだ。
「ここが冒険者ギルド(の支部)か」
意外と大きな石造りの建物の前で呟く。
中に入ると、石巨人亭の比にならない喧騒が出迎えた。
ぐるっと見回し、8つあるカウンターのうち「その他」と書かれているところに並ぶ。
いや、他は「依頼発注」と「依頼受注」と「買取」とそれぞれ書いてあるんでね。
俺の前には2人並んでいたが、すんなり話がまとまったようですぐに順番が来た。
「いらっしゃいませ、当支部は初めてですね?ご用件を承ります」
赤髪の美人に、普段荒くれ者を相手にしてるとは思えない、丁寧な口調で用件を聞かれた。
「こういう者なんだけど、教官に武術の稽古を頼みたい」
そういって冒険者手帳を差し出す。
「拝見します……冒険者のディーゴ様ですね」
備考欄を読んだか、受付の美人はちょっと眉を上げたがすぐに表情を戻して冒険者手帳を返してきた。
「教官による武術の稽古は半日で銀貨5枚になりますか、構いませんか?」
「ああ、構わんよ」
そういって銀貨5枚を支払う。
「ありがとうございます。それでしたら奥の稽古場へどうぞ。片頬に傷のあるオブレットという男性が教官になります」
「分かった、ありがとう」
受付の美人に礼を言って、稽古場へと向かう。
稽古場は、サッカーコート1面ほどの広さだろうか、平たく言えば野天の広場だった。
稽古はあまり人気がないらしく、新米らしい剣士が1人素振りをしているのと、魔法使いらしいのが2人、的に向けて魔法を撃っているだけだった。
剣士のそばで素振りを見ているのが多分教官のオブレット氏だろう。そうあたりをつけて近寄って行った。
「稽古中失礼、貴方がオブレットさんですか?」
頬傷の男性は素振りを中断させるとこちらに向き直った。
「確かに俺がオブレットだが、お前さんは?」
「ディーゴと申します。稽古をつけてもらいに来ました」
「そうか。だが装備はどうした?」
「持ってきてます」
「じゃあ着替えてこい。マスカル、素振り再開だ」
「はい!」
マスカルと呼ばれた青年?少年?が素振りを開始するのを見て、帯金鎧と戦槌という完全装備に着替えた。
「着替えました」
「おう……って、新品じゃねぇか。冒険者手帳見せてみな」
「はい、どうぞ」
「青字……つーとランク6か。依頼は……受けてねぇな。なり立てか」
「昨日ランク6に上がったばかりです」
「ふむ、特技が土魔法と樹魔法、精霊憑きの名誉市民?なんで名誉市民が冒険者なんぞやってんだ?」
「年金だけじゃ食っていけないからです。それに色々出費も多いんですよ」
「ふぅん、そんなもんか」
オブレットは頷くと、冒険者手帳を返してきた。
「よし、じゃあ見てやる。魔法でも何でも使っていい。本気でかかってこい」
マスカルから距離をとると、オブレットはそう手招きした。
木剣の平服相手に完全装備の魔法アリじゃ気が引けるが……まぁ大丈夫だろうと小手調べの鋭葉の舞の魔法を発動させる。
空中に生み出された剃刀状の落ち葉が、ざぁああっとオブレットを襲う。
それと同時に駆け出し、戦槌の一振りを叩き込もうと振りかぶったところでオブレットの姿が見えない。
反射的に横に身を投げ出すより早く、いきなり後頭部に一撃を食らった。
「本気を出せと言ったはずだが?」
次こそはと、泥沼と束縛の葛でオブレットの足を止め、渾身の一撃を叩き込む。
しかし軽くいなされる。
2度3度4度と戦槌をたたきつけるが、躱されいなされまるで当たる気配がない。
更に振り回す速度を上げて……ペースに乗ったところで突きを放つ。
次の瞬間、オブレットの木剣が戦槌に絡みつき、巻き上げられた。
ってまじかー、これすらあっさり避けられるのか。
一瞬無手となったが、腰の剣鉈を抜いて再度攻撃に出る。今度は振り回すだけでなく、通常攻撃に突きを交えて早く細かく攻め立てたが、全く通用せずに今度は手首をしたたかに打ち据えられた。
ならばと爪と足で格闘戦を挑むが、素人の喧嘩殺法が通じるわけもなく、あっという間に投げ倒されて喉に木剣を突き付けられた。
「うーん……」
ひと試合が終わり、総評を受ける段になってオブレットが顎をつまんで考え込んだ。
「お前……ほんとにずぶの素人だったんだな」
ぐふっ
「力と速度はまぁ及第点だ。魔法との連携もまぁまぁだし、武器をなくした時の反応も新人にしてはできたほうだ。だが、肝心の武器の使い方がまるでなっちゃいねぇ。
振りも遅いし軌道もブレすぎ。あとな、振りかぶったときに変な間を入れるのはやめろ。それは癖か?
体さばきも足運びもまるっきり素人のそれだ。
魔物相手なら何とかなったかも知れねぇが、ちょっと腕の立つ人間だったらコテンパンに負けてたな」
ソウカモシレマセン
「だがまぁ、身体能力が高い分、伸びしろはでかそうだ。お前にその気があるなら、みっちり鍛えてやる」
「よろしくお願いします」
その後は、素振りと打ち込みと立ち合いを交えてみっちり稽古を行った。
いや、長時間の肉体労働はセルリ村で経験済だが、武術修行はさらにその上を行くのね。……あたりまえか。
素振りも打ち込みも、全力を出し続けることがこれほど辛いとは思わんかった。
「お前みたいなタイプは下手な小細工などせずに真正面から力で押していけ!」
「一発でも当てれば終わるようにガンガンプレッシャーをかけていけ!」
「腕力と体力を前面に出して一振り一振りを全力で振りぬけ!」
といった感じで、ガシガシ指導を受けながら、時には木剣を体で受けながら稽古にいそしむ。
2時間ほどで筋肉が悲鳴を上げ始めるが、歯を食いしばって得物をふるう。
・
・
・
たった4時間でガタガタだよ……。
「……ちょっと質問。いつもこんなことやってんの?」
休憩時間に息も絶え絶えに地面に寝転がりながら、同じく隣で休んでいるマスカルという剣士に聞いてみた。
「ええ、そうですよ」
「でも回数を重ねると慣れてきますよ。僕もそうでしたし。あ、僕5級冒険者のマスカルって言います」
「ディーゴだ。俺は昨日6級になったばかりの駆け出しだ、よろしく」
「え、ディーゴさんてまだ6級なんですか?」
「2週間前に冒険者になったばかりだからな。あと、ディーゴで構わんよ」
「そうですか?じゃあお言葉に甘えて……ディーゴってどうして冒険者になったんですか?」
「どうして、かぁ……。まぁーやっぱりロマンのため、だろうなぁ。稼ぐだけならもっと他にいい方法もあるんだろうが、やっぱこう、楽しくねぇとな」
「わかります。僕も冒険者になるのが夢だったんですよ。いいですよね、ロマンがあって」
「でもそのためには強くねぇとな」
「でもディーゴならすぐ強くなれそうじゃないですか」
「いやぁ分らんぞ?今日のことで結構自信喪失してるからな」
「大丈夫ですよ、その体なら」
「よーし休憩終わり!」
マスカルが笑ったところでオブレットの声が飛んできた。
「よし、じゃあ残りの鍛錬も頑張るか」
「そうですね」
よっこいせと立ち上がり、鍛錬を再開する。
……おかしいな、俺としてはここまで本気で強くなろうという気はなかったんだが。なんか雰囲気に流されてる気がする。
ただまぁ、おかげで自分が進むべき戦士としての方向性が確立できたのと、マスカルという知り合いができたのは大きいと思う。
マンツーマンでやるよりは、一緒に修行する連れがいたほうがなにかといいしな。
そして鍛錬を終えた帰り道、武器屋のゼワンゴ親方の所に行って、戦槌に手首を通す革紐の輪っかをつけてもらった。
戦槌みたいなでっぱり(ひっかかり)のある武器は、戦闘中に武器を絡めとられることが結構多いそうだ。
やられてみて確かに納得した。
今後は握りも強くして対策しよう。
あとユニのやつ、マッサージってできるかな……。
*****あとがき*****
本日19:00頃に2回目を更新します。
明けましておめでとうございます。
令和2年、1回目の更新です。
**************
-1-
「お疲れさん。これで10回目の依頼達成だな」
公園の掃除を丸1日こなしてきて、差し出した冒険者手帳を受け取った熊の亭主が、手帳をひらひらさせながら笑った。
「これでやっとランク6か」
「冒険者になってから何日だ?」
亭主に言われて、指折り数えて思い出す。
「大体2週間くらいかな」
「早いやつは5~6日でランク6に上がるんだがなぁ」
「すまんね、兼業冒険者で。それに、依頼の掛け持ちで急かされるような真似はしたくねーんだ」
「……というと、この2週間の間にまた何か作ったのか?」
「俺の後見をやってくれてるガラス屋の大旦那に相談されてね、ちょっとネタを出してやっただけさ。今はまだ守秘義務があるから詳細はぼかさせてもらうが、来月か再来月にでも天の教会に行くと面白いものが見られるかもな」
「ほう、来月か再来月ね。ずいぶん間があるな」
「ちと大掛かりなんだ。こればかりは職人さんの頑張りに期待するしかねぇな」
「そうか、じゃあ楽しみに待つことにしよう。それと、こいつが新しい冒険者手帳だ。名前と住所と特技と備考を書いてくれ」
「あいよ……って、手帳の表紙の文字の色が違うな。それと少し厚くなってないか?」
受け取った冒険者手帳を見て訊ねる。
「ランク7から黄→青→赤→白→銅→銀→金の順で色が変わってくんだ。ランクを上げるのに必要な依頼達成数は7のときと同じく10回だが、小遣い稼ぎにランク上昇にカウントされない街中での依頼を受ける奴も多くてな」
「なるほど」
そんなもんかと頷きながら、ランク7の手帳に書いた時と同じように自分の所を記入する。
「書き終わったらよこしてくれ」
「あいよ」
亭主は新しい手帳を受け取ると、古い手帳と見比べる。
「ふむ、新しい特技はなし、か。ま、そうだろうな。住所も備考も変更はなし、と」
「それとこの紙2枚にも同じように書いてくれ。ウチとギルド支部の更新用の書類だ」
「あいよ」
紙2枚にも記入して差し出す。
「よし、これでお前さんも今からランク6だ。何か質問はあるか?」
「そうだな……武術の稽古をしたいんだが、どこに行けばいい?」
「それなら支部の方に行くと教官がいる。銀貨5枚も払えば稽古をつけてくれるぞ」
「意外と安いな」
「引退した元冒険者がやってるからな」
「事前に予約とかは?」
「特に必要ない。結構暇してるみたいだからみっちり見てもらえるぞ」
「有難いんだか有り難くないんだか」
「いつ行くんだ?」
「明日にでも顔出そうかと思ってる」
「そうか、まぁ精々頑張れよ」
-2-
翌日、冒険者ギルドの支部に出向く。
街はずれだからウチからだと結構遠いんだよな。
乗合馬車を捕まえて1時間半ほどで到着した。装備関係は無限袋の中だ。依頼でもないのに完全装備で出歩くこともあるまいと思ったからだ。
「ここが冒険者ギルド(の支部)か」
意外と大きな石造りの建物の前で呟く。
中に入ると、石巨人亭の比にならない喧騒が出迎えた。
ぐるっと見回し、8つあるカウンターのうち「その他」と書かれているところに並ぶ。
いや、他は「依頼発注」と「依頼受注」と「買取」とそれぞれ書いてあるんでね。
俺の前には2人並んでいたが、すんなり話がまとまったようですぐに順番が来た。
「いらっしゃいませ、当支部は初めてですね?ご用件を承ります」
赤髪の美人に、普段荒くれ者を相手にしてるとは思えない、丁寧な口調で用件を聞かれた。
「こういう者なんだけど、教官に武術の稽古を頼みたい」
そういって冒険者手帳を差し出す。
「拝見します……冒険者のディーゴ様ですね」
備考欄を読んだか、受付の美人はちょっと眉を上げたがすぐに表情を戻して冒険者手帳を返してきた。
「教官による武術の稽古は半日で銀貨5枚になりますか、構いませんか?」
「ああ、構わんよ」
そういって銀貨5枚を支払う。
「ありがとうございます。それでしたら奥の稽古場へどうぞ。片頬に傷のあるオブレットという男性が教官になります」
「分かった、ありがとう」
受付の美人に礼を言って、稽古場へと向かう。
稽古場は、サッカーコート1面ほどの広さだろうか、平たく言えば野天の広場だった。
稽古はあまり人気がないらしく、新米らしい剣士が1人素振りをしているのと、魔法使いらしいのが2人、的に向けて魔法を撃っているだけだった。
剣士のそばで素振りを見ているのが多分教官のオブレット氏だろう。そうあたりをつけて近寄って行った。
「稽古中失礼、貴方がオブレットさんですか?」
頬傷の男性は素振りを中断させるとこちらに向き直った。
「確かに俺がオブレットだが、お前さんは?」
「ディーゴと申します。稽古をつけてもらいに来ました」
「そうか。だが装備はどうした?」
「持ってきてます」
「じゃあ着替えてこい。マスカル、素振り再開だ」
「はい!」
マスカルと呼ばれた青年?少年?が素振りを開始するのを見て、帯金鎧と戦槌という完全装備に着替えた。
「着替えました」
「おう……って、新品じゃねぇか。冒険者手帳見せてみな」
「はい、どうぞ」
「青字……つーとランク6か。依頼は……受けてねぇな。なり立てか」
「昨日ランク6に上がったばかりです」
「ふむ、特技が土魔法と樹魔法、精霊憑きの名誉市民?なんで名誉市民が冒険者なんぞやってんだ?」
「年金だけじゃ食っていけないからです。それに色々出費も多いんですよ」
「ふぅん、そんなもんか」
オブレットは頷くと、冒険者手帳を返してきた。
「よし、じゃあ見てやる。魔法でも何でも使っていい。本気でかかってこい」
マスカルから距離をとると、オブレットはそう手招きした。
木剣の平服相手に完全装備の魔法アリじゃ気が引けるが……まぁ大丈夫だろうと小手調べの鋭葉の舞の魔法を発動させる。
空中に生み出された剃刀状の落ち葉が、ざぁああっとオブレットを襲う。
それと同時に駆け出し、戦槌の一振りを叩き込もうと振りかぶったところでオブレットの姿が見えない。
反射的に横に身を投げ出すより早く、いきなり後頭部に一撃を食らった。
「本気を出せと言ったはずだが?」
次こそはと、泥沼と束縛の葛でオブレットの足を止め、渾身の一撃を叩き込む。
しかし軽くいなされる。
2度3度4度と戦槌をたたきつけるが、躱されいなされまるで当たる気配がない。
更に振り回す速度を上げて……ペースに乗ったところで突きを放つ。
次の瞬間、オブレットの木剣が戦槌に絡みつき、巻き上げられた。
ってまじかー、これすらあっさり避けられるのか。
一瞬無手となったが、腰の剣鉈を抜いて再度攻撃に出る。今度は振り回すだけでなく、通常攻撃に突きを交えて早く細かく攻め立てたが、全く通用せずに今度は手首をしたたかに打ち据えられた。
ならばと爪と足で格闘戦を挑むが、素人の喧嘩殺法が通じるわけもなく、あっという間に投げ倒されて喉に木剣を突き付けられた。
「うーん……」
ひと試合が終わり、総評を受ける段になってオブレットが顎をつまんで考え込んだ。
「お前……ほんとにずぶの素人だったんだな」
ぐふっ
「力と速度はまぁ及第点だ。魔法との連携もまぁまぁだし、武器をなくした時の反応も新人にしてはできたほうだ。だが、肝心の武器の使い方がまるでなっちゃいねぇ。
振りも遅いし軌道もブレすぎ。あとな、振りかぶったときに変な間を入れるのはやめろ。それは癖か?
体さばきも足運びもまるっきり素人のそれだ。
魔物相手なら何とかなったかも知れねぇが、ちょっと腕の立つ人間だったらコテンパンに負けてたな」
ソウカモシレマセン
「だがまぁ、身体能力が高い分、伸びしろはでかそうだ。お前にその気があるなら、みっちり鍛えてやる」
「よろしくお願いします」
その後は、素振りと打ち込みと立ち合いを交えてみっちり稽古を行った。
いや、長時間の肉体労働はセルリ村で経験済だが、武術修行はさらにその上を行くのね。……あたりまえか。
素振りも打ち込みも、全力を出し続けることがこれほど辛いとは思わんかった。
「お前みたいなタイプは下手な小細工などせずに真正面から力で押していけ!」
「一発でも当てれば終わるようにガンガンプレッシャーをかけていけ!」
「腕力と体力を前面に出して一振り一振りを全力で振りぬけ!」
といった感じで、ガシガシ指導を受けながら、時には木剣を体で受けながら稽古にいそしむ。
2時間ほどで筋肉が悲鳴を上げ始めるが、歯を食いしばって得物をふるう。
・
・
・
たった4時間でガタガタだよ……。
「……ちょっと質問。いつもこんなことやってんの?」
休憩時間に息も絶え絶えに地面に寝転がりながら、同じく隣で休んでいるマスカルという剣士に聞いてみた。
「ええ、そうですよ」
「でも回数を重ねると慣れてきますよ。僕もそうでしたし。あ、僕5級冒険者のマスカルって言います」
「ディーゴだ。俺は昨日6級になったばかりの駆け出しだ、よろしく」
「え、ディーゴさんてまだ6級なんですか?」
「2週間前に冒険者になったばかりだからな。あと、ディーゴで構わんよ」
「そうですか?じゃあお言葉に甘えて……ディーゴってどうして冒険者になったんですか?」
「どうして、かぁ……。まぁーやっぱりロマンのため、だろうなぁ。稼ぐだけならもっと他にいい方法もあるんだろうが、やっぱこう、楽しくねぇとな」
「わかります。僕も冒険者になるのが夢だったんですよ。いいですよね、ロマンがあって」
「でもそのためには強くねぇとな」
「でもディーゴならすぐ強くなれそうじゃないですか」
「いやぁ分らんぞ?今日のことで結構自信喪失してるからな」
「大丈夫ですよ、その体なら」
「よーし休憩終わり!」
マスカルが笑ったところでオブレットの声が飛んできた。
「よし、じゃあ残りの鍛錬も頑張るか」
「そうですね」
よっこいせと立ち上がり、鍛錬を再開する。
……おかしいな、俺としてはここまで本気で強くなろうという気はなかったんだが。なんか雰囲気に流されてる気がする。
ただまぁ、おかげで自分が進むべき戦士としての方向性が確立できたのと、マスカルという知り合いができたのは大きいと思う。
マンツーマンでやるよりは、一緒に修行する連れがいたほうがなにかといいしな。
そして鍛錬を終えた帰り道、武器屋のゼワンゴ親方の所に行って、戦槌に手首を通す革紐の輪っかをつけてもらった。
戦槌みたいなでっぱり(ひっかかり)のある武器は、戦闘中に武器を絡めとられることが結構多いそうだ。
やられてみて確かに納得した。
今後は握りも強くして対策しよう。
あとユニのやつ、マッサージってできるかな……。
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