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第3章
第11話 教会に足りないもの
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-1-
「「ステンドグラス?」」
老人二人が揃って声を上げた。
「そうです。あの教会にはそれがなかった。というか、お二人が知らないということはまだこっちじゃ作られてないのか」
「あの、ディーゴさん。そのステンドグラスとはいったいどういうものですか?」
「簡単に言うと、色付きガラスの小片を組み合わせて幾何学模様とかにしたもので、俺のいた故郷の教会……特に大きな教会には大抵それがあったんですよ」
「ほう、そんなものが」
「ただ、ステンドグラスを設置するとなると、壁ぶち抜いて取り付けることになると思うんですが……そういうのって可能なんですかね?」
「まぁ大丈夫でしょう。補修の一環と思えばできなくはないはずです」
「じゃあ、店にいったん戻りましょう。色付きガラスの端材とかはありますよね?」
「それでしたら捨てるほどありますぞ」
「じゃあ、それ使ってサンプルを作ってみましょう」
カワナガラス店に戻ると、工房の一角に陣取りステンドグラスの試作品の製作に取り掛かる。
北海道のガラス工房で体験したステンドグラス作りがこんなところで役立つとはなー。
あの時作ったのは銅テープとはんだ付けでガラス同士を組み合わせたが、今回は大物ということで工の字の形をした鉛製のレールを使うことにする。この方が強度出るしね。
ただ今回の試作品は、鉛のレールがないので土魔法でレールを作り出し鉛のレールの代わりとする。
まぁ雰囲気が分かればそれでいいんだし。
「エレクィルさん、端材はどこにありますか?」
「あの隅の樽の中に入れてありますぞ」
「中の物は自由に使っても?」
「溶かして再利用するだけですから構いませんぞ」
「では遠慮なく」
と、皮の手袋をつけて樽の中に手を突っ込み、なるべく厚さが同じ端材を次々に拾っていく。ふむ、色も黒、青、緑、黄緑から赤や紫まであるのね。
工房にいた職人たちも、何が始まるのかと集まってきた。
ま、説明するのは後だ。これは口でグダグダ言うより物を見りゃわかるしな。
ガラス切りで端材を三角四角に切り分け、台の上に並べていく。丸も作りたいが俺の技量じゃちょっと無理だ。
そんなこんなで20個ほどの切り出した端材を並べなおし、土魔法で工の字レールを作ってガラス同士をまとめてつなぎ合わせたら、ひとまず試作品は完成だ。
「まぁ雰囲気としてはこんな感じです」
と、エレクィル爺さんに出来上がったものを渡す。
「ほう、これがステンドグラスですか。色付きガラスの一枚板ではなく、色々な色と形のガラスを組み合わせて一枚の板ガラスにするんですな」
「そうです。窓に取り付けたりすると結構きれいですよ」
「このガラスとガラスをつなぎ合わせている部分はなんですかな?」
「今回は土魔法で適当に作っちまいましたが、本来なら鉛で作ります。曲げとか切断が必要になってくるんで、柔らかい金属が向いてるんですよ」
「うぅむ……これはちょっとなかった発想ですね」
エレクィルから試作品を受け取ったカニャードが、陽にすかしたりして唸る。
「これはざっくりと簡単に作りましたが、教会に収めるならもちっと細工をした方がいいでしょうね。幾何学模様をもっと細かくするとか」
「ディーゴさんよ、これってもしかしたら、切り分けるガラス片の色や形次第でモザイクみたいに絵が描けたりしねぇかい?」
カニャードから試作品を受け取った職人頭らしい男が尋ねてきた。さすが職人、勘が鋭い。
「ちょいと難しいけど可能ですね。故郷の教会では、これで聖人の絵を描いたり伝説の一場面を再現したりとかしてましたから」
「教会の壁に浮かぶ聖人の光の一コマですか……それは絵になりますな」
その様子を想像したのか、カニャードがぶるりと身を震わせた。
「ベントリー、これは技術的に可能ですか?」
「鉛のレールさえ作れれば可能でさ。鉛のレールにしたって鍛冶屋に頼めば簡単に作れそうだ。問題ない、このステンドグラス?は俺たちだって作れる」
ベントリーと呼ばれた職人頭が力強く請け負った。
「こいつは技術うんぬんより、美術的なセンスが問われるな。腕が鳴るぜ」
「では、今度の教会への寄付品はステンドグラスでいきますよ」
「「「応!」」」
カニャードの宣言に職人たちが答える。うむ、これなら何とかなりそうだ。
「……いやはや、ディーゴさんにはまた助けられましたな」
居間に戻り、エレクィル爺さんやカニャードたちと細かい話を詰める中、エレクィル爺さんがそう漏らした。
「単に昔の知識を引っ張り出しただけですけどね」
「その昔の知識が侮れんのですよ、ディーゴさんの場合は」
「ところでこのステンドグラスは、領主様への届け出は?」
「いやぁ、個人的なものなんで別にいいかなと」
「それはいけませんぞディーゴさん」
「そうですよ。このステンドグラスは世に出せば必ず大きな商機になります。領主様もきっと欲しがりますよ」
「それに、今回は寄付ということで大物に挑戦しますが、これは寝室のランプの風防とか、小物にも応用が利くのではありませんか?」
カニャードの目がきらりと光る。
「んー、そうですねぇ。ちょいと小洒落た空間を演出するのにちょうどいいですね」
日本でステンドグラスが使われている場面を思い出しながら答える。
「ほら、これはウチにとっても大きな商売のタネになります。教会への寄付品の出来次第ですが、富豪や貴族様からきっと注文が山のように来るはずです」
「それに、水飴の時と同じようにこれは簡単に模倣ができる商品ですからな、言い方は悪いですが領主様も噛ませて保護した貰った方が利が大きくなります」
「ディーゴさんはこれを水飴のように安値で売り出そうというお積りは?」
「いや、特にないですね。贅沢品の部類ですからむしろ金のある所から引っ張れ、というか、強気の値段で行けるなら行きたいですね」
手元不如意だからちょっとは稼ぎたい、て本音もある。まぁエレクィル爺さんたちへの恩返しは別格として。
「ではこうしましょう。私どもの方で職人の練習もかねて小品をいくつか作らせます。それをディーゴさんに見ていただいて、納得いく作りでしたら領主様の所に持っていきましょう」
「わかりました。そのようにお願いします」
その後、詳細な打ち合わせというかアドバイスをしてカワナガラス店を後にした。
絵に困るようならタイルのモザイク職人を頼ってみるといいかも、とは助言したが、もしかしたら独力でやっちまうかもしれんな。
あそこの職人たちなら。
……って、報酬の話するの忘れた。まぁいいか、あそこの人たちならあとで幾らか包んでくれるだろ。
「父さん……今回初めてディーゴさんの発明を見ましたが……あんな簡単に出てくるものなんですね。まさか魔法の碾き臼がウチにもやって来るとは思いませんでした」
-2-
そして3日後。
さて本日も日雇い仕事(冒険者の仕事)に行くべぇかと考えてた矢先、カワナガラス店から呼び出しが来た。
俺としては一週間くらいあーでもないこーでもないとこねくり回すのかと思っていたが、仕事速いな職人さんたち。
ということで、今日の日雇い仕事は急遽お休みしてカワナガラス店に向かう。
……こういう時冒険者ってのは気楽でいーやねー。休みすぎると口が干上がるけど。
そして呼び出しに来た店員とともにカワナガラス店に到着。
断りを入れて工房に行くと、目の下に隈を作った(でも元気そうな)職人たちと、こちらは体調万全ぽい老人二人が勢ぞろいしていた。
「おお、来られましたか。朝早くから申し訳ありません」
「いえいえ、ちょうどいい時間でしたよ」
謝るエレクィル爺さんに軽く返す。
「でも仕事速いですね。もう2~3日かかるかと思ってましたが」
「なに、見よう見まねでやり始めたら、あれもできるんじゃねぇかこれもできるんじゃねぇかと面白くなってな」
職人頭のベントリーが笑いながら答える。
「てなわけでいろいろ遊ばせてもらった。ここにあるのは皆自信作だ」
言われてみてみると、そこには花瓶やらランプやら壁飾りやら小物入れやらが並んでいた。
「……信じらんねぇ。平板をつなぎ合わせて曲面を作るなんて完璧じゃねぇか。俺が手直しするところなんか残ってねぇぞ」
ランプのシェード部分をなぞりながらつぶやく。いやマジでここまでやるとは思ってなかった。
「そりゃ俺たちゃガラスのプロだからな。概念さえ教えてもらえりゃこのくらいは訳ねぇさ」
「で、どうですかな?ディーゴさんから見た感じとしては」
「文句なしどころか想像以上の出来ですよ。職人の底力を思い知らされた感じです」
「では領主様に献上しても?」
「大丈夫ですね。問題はどれを選ぶかですが……いっそ全部持って行っちまいましょう。持ち運びなら俺の無限袋がありますし」
「じゃあ、さっそく向かいますか」
「ですね」
一つ頷くと、職人たちの作品をまとめて無限袋に入れ、エレクィル爺さんと一緒に領主の館へと向かった。
アポなしの面会要請だったので、領主に会うのに時間がかかるかと思ったが、新しい工芸品を献上しに来たというとすぐに執務室に通された。
「おおディーゴか、よく来たな。それとエレクィルだったか、わざわざご苦労」
領主の歓迎に頭を下げて答える。
「して、今日は新しい工芸品を持ってきたと聞くが?」
「ステンドグラス、という色ガラスを使った工芸品にございます。まずはこちらをご覧ください」
そういってランプと花瓶を取り出す。
「ほぅ……色ガラスを組み合わせて形を作るか。今までにない発想だな」
「教会への寄付を考えてディーゴ様に相談したところ、ならばこういうのはどうかと提案を頂きまして、当店の職人たちが作り上げたものにございます」
「なに、ディーゴ、お前が絡んでいるのか」
「まぁそんなところで。ただ私はもっと物の大きな、壁画のようなステンドグラスを提案したのですが……こういった小物に落とし込んだのは職人たちのひらめきですね」
「そうか……ふむ、なかなか面白い。このランプは当然使えるのであろうな?」
「ええ。油と火をお借りできますか?」
そういうと、執事がさっと小瓶とマッチを差し出してきた。てかなんでそんなもの持ってるのこの人。
まぁいいや、気にしたら負けな気がする。と、ランプに油を注ぎ、マッチで火をつける。
「ほう、着火棒の使い方を知っているのか。最近出回り始めたばかりなんだがな」
「まぁ、この作者の魔術師とはちょっと縁がありまして」
「ふむ、なるほどな」
そんなやり取りをしている間に、執事が窓のカーテンを閉める。
暗くなった部屋に、ステンドグラス越しの明かりが浮かび上がった。
「うむ、色付きガラスゆえ明るさはやや落ちるが、これはいいな。寝室にちょうどいい」
「ありがとうございます」
「して、これは簡単に作れるのか?」
「ガラス職人であれば簡単だと思います。といいますか、概念を教えるのに見本を一つ作ってみせたら、3日でそれだけのものを作られました」
「はっはは、そうかそうか。そんなに簡単か。わかった。この技術は私が責任もって保護しよう。エレクィル、これを壁画のようにして教会に寄付するのか?」
「はい。そのように考えております」
「よし、教会の次はこの館にこれを取り付けろ。無論代金は払う」
「ありがとうございます」
「ディーゴ、褒賞については追って沙汰する」
「かしこまりました」
「よし、では下がって良いぞ」
「は、それでは失礼します」
こうして、領主との面談はほぼ成功裏に終わった。
ちなみに、執務室で披露し損ねた小物入れや壁飾りとかは、退出時についてきた執事に頼んで預かってもらうことにした。
「……面談の成果は、おおむね万々歳ですかな」
「ですね。領主がああいった以上は保護として何とかしてくれるでしょう」
「本当にディーゴさんには頭が上がらなくなってしまいましたな、まさか領主様の邸宅の工事まであの場で請け負うことになるとは思いませんでしたよ」
「これで少しは借りが返せましたかね」
「もう十分すぎるほど返していただいておりますぞ。それと私どもからもディーゴさんにお礼をお支払いしますでな」
「普通なら遠慮しとくところですが、今回はありがたく頂きましょう。ちょっとここんところ出費が続いて手元不如意なもんでね」
「では、カニャードに行って多めに用意させましょう」
「いやいや、気持ち程度で十分ですって。領主から貰ってエレクィルさんからも貰ったら2重取りしてる気分じゃないですか」
「ほっほ、そういうところがディーゴさんらしいですな」
エレクィル爺さんは、上機嫌にそう笑った。
とりあえず当面の財政難はなんとかなりそう……かな?
「「ステンドグラス?」」
老人二人が揃って声を上げた。
「そうです。あの教会にはそれがなかった。というか、お二人が知らないということはまだこっちじゃ作られてないのか」
「あの、ディーゴさん。そのステンドグラスとはいったいどういうものですか?」
「簡単に言うと、色付きガラスの小片を組み合わせて幾何学模様とかにしたもので、俺のいた故郷の教会……特に大きな教会には大抵それがあったんですよ」
「ほう、そんなものが」
「ただ、ステンドグラスを設置するとなると、壁ぶち抜いて取り付けることになると思うんですが……そういうのって可能なんですかね?」
「まぁ大丈夫でしょう。補修の一環と思えばできなくはないはずです」
「じゃあ、店にいったん戻りましょう。色付きガラスの端材とかはありますよね?」
「それでしたら捨てるほどありますぞ」
「じゃあ、それ使ってサンプルを作ってみましょう」
カワナガラス店に戻ると、工房の一角に陣取りステンドグラスの試作品の製作に取り掛かる。
北海道のガラス工房で体験したステンドグラス作りがこんなところで役立つとはなー。
あの時作ったのは銅テープとはんだ付けでガラス同士を組み合わせたが、今回は大物ということで工の字の形をした鉛製のレールを使うことにする。この方が強度出るしね。
ただ今回の試作品は、鉛のレールがないので土魔法でレールを作り出し鉛のレールの代わりとする。
まぁ雰囲気が分かればそれでいいんだし。
「エレクィルさん、端材はどこにありますか?」
「あの隅の樽の中に入れてありますぞ」
「中の物は自由に使っても?」
「溶かして再利用するだけですから構いませんぞ」
「では遠慮なく」
と、皮の手袋をつけて樽の中に手を突っ込み、なるべく厚さが同じ端材を次々に拾っていく。ふむ、色も黒、青、緑、黄緑から赤や紫まであるのね。
工房にいた職人たちも、何が始まるのかと集まってきた。
ま、説明するのは後だ。これは口でグダグダ言うより物を見りゃわかるしな。
ガラス切りで端材を三角四角に切り分け、台の上に並べていく。丸も作りたいが俺の技量じゃちょっと無理だ。
そんなこんなで20個ほどの切り出した端材を並べなおし、土魔法で工の字レールを作ってガラス同士をまとめてつなぎ合わせたら、ひとまず試作品は完成だ。
「まぁ雰囲気としてはこんな感じです」
と、エレクィル爺さんに出来上がったものを渡す。
「ほう、これがステンドグラスですか。色付きガラスの一枚板ではなく、色々な色と形のガラスを組み合わせて一枚の板ガラスにするんですな」
「そうです。窓に取り付けたりすると結構きれいですよ」
「このガラスとガラスをつなぎ合わせている部分はなんですかな?」
「今回は土魔法で適当に作っちまいましたが、本来なら鉛で作ります。曲げとか切断が必要になってくるんで、柔らかい金属が向いてるんですよ」
「うぅむ……これはちょっとなかった発想ですね」
エレクィルから試作品を受け取ったカニャードが、陽にすかしたりして唸る。
「これはざっくりと簡単に作りましたが、教会に収めるならもちっと細工をした方がいいでしょうね。幾何学模様をもっと細かくするとか」
「ディーゴさんよ、これってもしかしたら、切り分けるガラス片の色や形次第でモザイクみたいに絵が描けたりしねぇかい?」
カニャードから試作品を受け取った職人頭らしい男が尋ねてきた。さすが職人、勘が鋭い。
「ちょいと難しいけど可能ですね。故郷の教会では、これで聖人の絵を描いたり伝説の一場面を再現したりとかしてましたから」
「教会の壁に浮かぶ聖人の光の一コマですか……それは絵になりますな」
その様子を想像したのか、カニャードがぶるりと身を震わせた。
「ベントリー、これは技術的に可能ですか?」
「鉛のレールさえ作れれば可能でさ。鉛のレールにしたって鍛冶屋に頼めば簡単に作れそうだ。問題ない、このステンドグラス?は俺たちだって作れる」
ベントリーと呼ばれた職人頭が力強く請け負った。
「こいつは技術うんぬんより、美術的なセンスが問われるな。腕が鳴るぜ」
「では、今度の教会への寄付品はステンドグラスでいきますよ」
「「「応!」」」
カニャードの宣言に職人たちが答える。うむ、これなら何とかなりそうだ。
「……いやはや、ディーゴさんにはまた助けられましたな」
居間に戻り、エレクィル爺さんやカニャードたちと細かい話を詰める中、エレクィル爺さんがそう漏らした。
「単に昔の知識を引っ張り出しただけですけどね」
「その昔の知識が侮れんのですよ、ディーゴさんの場合は」
「ところでこのステンドグラスは、領主様への届け出は?」
「いやぁ、個人的なものなんで別にいいかなと」
「それはいけませんぞディーゴさん」
「そうですよ。このステンドグラスは世に出せば必ず大きな商機になります。領主様もきっと欲しがりますよ」
「それに、今回は寄付ということで大物に挑戦しますが、これは寝室のランプの風防とか、小物にも応用が利くのではありませんか?」
カニャードの目がきらりと光る。
「んー、そうですねぇ。ちょいと小洒落た空間を演出するのにちょうどいいですね」
日本でステンドグラスが使われている場面を思い出しながら答える。
「ほら、これはウチにとっても大きな商売のタネになります。教会への寄付品の出来次第ですが、富豪や貴族様からきっと注文が山のように来るはずです」
「それに、水飴の時と同じようにこれは簡単に模倣ができる商品ですからな、言い方は悪いですが領主様も噛ませて保護した貰った方が利が大きくなります」
「ディーゴさんはこれを水飴のように安値で売り出そうというお積りは?」
「いや、特にないですね。贅沢品の部類ですからむしろ金のある所から引っ張れ、というか、強気の値段で行けるなら行きたいですね」
手元不如意だからちょっとは稼ぎたい、て本音もある。まぁエレクィル爺さんたちへの恩返しは別格として。
「ではこうしましょう。私どもの方で職人の練習もかねて小品をいくつか作らせます。それをディーゴさんに見ていただいて、納得いく作りでしたら領主様の所に持っていきましょう」
「わかりました。そのようにお願いします」
その後、詳細な打ち合わせというかアドバイスをしてカワナガラス店を後にした。
絵に困るようならタイルのモザイク職人を頼ってみるといいかも、とは助言したが、もしかしたら独力でやっちまうかもしれんな。
あそこの職人たちなら。
……って、報酬の話するの忘れた。まぁいいか、あそこの人たちならあとで幾らか包んでくれるだろ。
「父さん……今回初めてディーゴさんの発明を見ましたが……あんな簡単に出てくるものなんですね。まさか魔法の碾き臼がウチにもやって来るとは思いませんでした」
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そして3日後。
さて本日も日雇い仕事(冒険者の仕事)に行くべぇかと考えてた矢先、カワナガラス店から呼び出しが来た。
俺としては一週間くらいあーでもないこーでもないとこねくり回すのかと思っていたが、仕事速いな職人さんたち。
ということで、今日の日雇い仕事は急遽お休みしてカワナガラス店に向かう。
……こういう時冒険者ってのは気楽でいーやねー。休みすぎると口が干上がるけど。
そして呼び出しに来た店員とともにカワナガラス店に到着。
断りを入れて工房に行くと、目の下に隈を作った(でも元気そうな)職人たちと、こちらは体調万全ぽい老人二人が勢ぞろいしていた。
「おお、来られましたか。朝早くから申し訳ありません」
「いえいえ、ちょうどいい時間でしたよ」
謝るエレクィル爺さんに軽く返す。
「でも仕事速いですね。もう2~3日かかるかと思ってましたが」
「なに、見よう見まねでやり始めたら、あれもできるんじゃねぇかこれもできるんじゃねぇかと面白くなってな」
職人頭のベントリーが笑いながら答える。
「てなわけでいろいろ遊ばせてもらった。ここにあるのは皆自信作だ」
言われてみてみると、そこには花瓶やらランプやら壁飾りやら小物入れやらが並んでいた。
「……信じらんねぇ。平板をつなぎ合わせて曲面を作るなんて完璧じゃねぇか。俺が手直しするところなんか残ってねぇぞ」
ランプのシェード部分をなぞりながらつぶやく。いやマジでここまでやるとは思ってなかった。
「そりゃ俺たちゃガラスのプロだからな。概念さえ教えてもらえりゃこのくらいは訳ねぇさ」
「で、どうですかな?ディーゴさんから見た感じとしては」
「文句なしどころか想像以上の出来ですよ。職人の底力を思い知らされた感じです」
「では領主様に献上しても?」
「大丈夫ですね。問題はどれを選ぶかですが……いっそ全部持って行っちまいましょう。持ち運びなら俺の無限袋がありますし」
「じゃあ、さっそく向かいますか」
「ですね」
一つ頷くと、職人たちの作品をまとめて無限袋に入れ、エレクィル爺さんと一緒に領主の館へと向かった。
アポなしの面会要請だったので、領主に会うのに時間がかかるかと思ったが、新しい工芸品を献上しに来たというとすぐに執務室に通された。
「おおディーゴか、よく来たな。それとエレクィルだったか、わざわざご苦労」
領主の歓迎に頭を下げて答える。
「して、今日は新しい工芸品を持ってきたと聞くが?」
「ステンドグラス、という色ガラスを使った工芸品にございます。まずはこちらをご覧ください」
そういってランプと花瓶を取り出す。
「ほぅ……色ガラスを組み合わせて形を作るか。今までにない発想だな」
「教会への寄付を考えてディーゴ様に相談したところ、ならばこういうのはどうかと提案を頂きまして、当店の職人たちが作り上げたものにございます」
「なに、ディーゴ、お前が絡んでいるのか」
「まぁそんなところで。ただ私はもっと物の大きな、壁画のようなステンドグラスを提案したのですが……こういった小物に落とし込んだのは職人たちのひらめきですね」
「そうか……ふむ、なかなか面白い。このランプは当然使えるのであろうな?」
「ええ。油と火をお借りできますか?」
そういうと、執事がさっと小瓶とマッチを差し出してきた。てかなんでそんなもの持ってるのこの人。
まぁいいや、気にしたら負けな気がする。と、ランプに油を注ぎ、マッチで火をつける。
「ほう、着火棒の使い方を知っているのか。最近出回り始めたばかりなんだがな」
「まぁ、この作者の魔術師とはちょっと縁がありまして」
「ふむ、なるほどな」
そんなやり取りをしている間に、執事が窓のカーテンを閉める。
暗くなった部屋に、ステンドグラス越しの明かりが浮かび上がった。
「うむ、色付きガラスゆえ明るさはやや落ちるが、これはいいな。寝室にちょうどいい」
「ありがとうございます」
「して、これは簡単に作れるのか?」
「ガラス職人であれば簡単だと思います。といいますか、概念を教えるのに見本を一つ作ってみせたら、3日でそれだけのものを作られました」
「はっはは、そうかそうか。そんなに簡単か。わかった。この技術は私が責任もって保護しよう。エレクィル、これを壁画のようにして教会に寄付するのか?」
「はい。そのように考えております」
「よし、教会の次はこの館にこれを取り付けろ。無論代金は払う」
「ありがとうございます」
「ディーゴ、褒賞については追って沙汰する」
「かしこまりました」
「よし、では下がって良いぞ」
「は、それでは失礼します」
こうして、領主との面談はほぼ成功裏に終わった。
ちなみに、執務室で披露し損ねた小物入れや壁飾りとかは、退出時についてきた執事に頼んで預かってもらうことにした。
「……面談の成果は、おおむね万々歳ですかな」
「ですね。領主がああいった以上は保護として何とかしてくれるでしょう」
「本当にディーゴさんには頭が上がらなくなってしまいましたな、まさか領主様の邸宅の工事まであの場で請け負うことになるとは思いませんでしたよ」
「これで少しは借りが返せましたかね」
「もう十分すぎるほど返していただいておりますぞ。それと私どもからもディーゴさんにお礼をお支払いしますでな」
「普通なら遠慮しとくところですが、今回はありがたく頂きましょう。ちょっとここんところ出費が続いて手元不如意なもんでね」
「では、カニャードに行って多めに用意させましょう」
「いやいや、気持ち程度で十分ですって。領主から貰ってエレクィルさんからも貰ったら2重取りしてる気分じゃないですか」
「ほっほ、そういうところがディーゴさんらしいですな」
エレクィル爺さんは、上機嫌にそう笑った。
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