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第3章

第8話 冒険者登録

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 市内の屋敷に引っ越してから大体2週間くらいが経過した。
 引っ越し後のゴタゴタも一段落つき、冒険者になるための装備も揃った。
 前にドワンゴ親方に指摘された古代文明期の金貨は、とっとと現代の現金に換えました。
 いや、色々支払いが積み重なった上に、隣近所に引っ越し挨拶としてちょっと高価な果物や蜂蜜なんかを配ったら所持金が金貨20枚を切ってしまったのよ。
 まぁ節約すればユニと二人半年は食いつなげるが、そこから先の収入が年金(報奨金)だけというのはなんとも。
 ただ、隣近所へのあいさつ回りで分かったことだが、やっぱりここの前住人、黒魔術というか悪魔関係に傾倒してたみたいですはい。
 ユニを召喚した時の儀式が使用人からばれて官憲に踏み込まれ、絞首台にぶら下がったそうです。
 そんなことを、受け取った蜂蜜に気をよくした奥さまや使用人がぺらぺらと喋ってくれました。
 初めは警戒されたけど、まっとうな服着てニコニコと低姿勢でちょっといいモノ配ったら手のひらクルーですよ。
 まぁ一緒にいた使用人ユニは、その時召喚された悪魔なんですがね。
 それに俺も獣牙族っつー悪魔なんですけどね。
 悪魔召喚で捕まった人間の後釜が本物の悪魔だなんて、事情を知ってる人が見たら苦笑いしか出んな。
 あ、ちなみにユニは両替した金で新しい服をあつらえました。
 今までの露出の多い淫魔装束ではなくて、踝まであるスカートのクラシカルなメイド服姿になってます。
 本人が女装のほうがいいって言うんだから仕方ないじゃん。
 まぁ男の娘が鎖骨とへそ出して歩くもんじゃないしな、と思う俺は考えが古いのだろうか。
 ……まぁいいや。この辺りは深く考えると泥沼にはまりそうだ。

 そして領主の方とも労働条件に関して面談し、出仕自由(ただし1ヶ月以上街を離れる時は要届け出)というお墨付きを頂いたので、冒険者稼業も胸を張って行うことができるようになった。
 その代わり給料は、開発したものに対する報奨金が年金に加算されるというある意味完全歩合制になったが。
 ちなみに今は年間金貨10枚だそうだ。全然足りん。
 これはきっと「飢えたくなければキリキリ開発せぇよ」という領主なりのハッパなんだと思いたい。

-2-
 というわけで、三度やってきました石巨人亭。
 キィッっと音を立てて両開きの扉を開けると、カウンターの奥で皿を磨いている亭主と目があった。手を上げて軽く挨拶する。
「いらっしゃいませ。前に来られた方ですよね?冒険者の登録ですか?」
 と、猫耳の給仕が今度は噛まずに案内してきた。
「ああ。遅くなって悪かったが、やっと今日から活動できそうだ」
「じゃあ、カウンターへどうぞ」
「おう」
 頷いてカウンターに向かう。朝も遅いこの時間、店の中にはまばらな人影しかない。
 ちょうどいい依頼がなかったのか、それともただの飲んだくれか。
「こんちは。やっと来たぜ」
「やっと来てくれたか」
 椅子に座りながら挨拶すると、熊耳の亭主がにかっと笑った。
「んじゃ、冒険者について説明を始めようか。って、装備はどうした?」
「おろしたてでピカピカなもんで着てくるのがちと恥ずかしくてな。もうちっと体に鎧がなじんだらお披露目するよ」
「それに今日は街中の雑用を受けるつもりだ。護身用の鉈が一振りありゃ十分だろ」
「そうかそうか、そいつは野暮なこと聞いたな」
 亭主は軽く笑うと、カウンターの奥から帳簿を引っ張り出してきた。
「まずはこれらに名前と現住所、使える魔法とかがあったらそれも書き出してくれ」
 そういわれて厚手の紙2枚と手帳をを渡される。
 さらさらと名前と住所を書き、魔法の欄には土魔法と樹魔法と書いておく。
「そういやお前さんは名誉市民で樹の精霊憑きだってな。それも備考欄に書いといてくれ」
「あいよ」
「この紙は1枚がウチの控え、残る1枚が冒険者ギルド支部の控えになる。その手帳は冒険者手帳と言って、身分証明や依頼の結果なんかを書き込んでもらうことになる大事なものだ。絶対に無くすなよ?あと、人に貸したり譲ったりするのも禁止だ。もちろん偽造もな。厳罰が下るぞ」
「了解。でも依頼の結果を書くにしちゃ、随分薄い気がするが?」
「ランクが変われば手帳も変わる。お前さんのランクじゃそんなもんだ。ちなみに今のお前さんのランクは7。成人がなる一番初めにして一番下のランクだ。この下には10までランクがあるんだが、10から8までは子供だけのランクだな」
「なるほど」
「まずランク7では街中の簡単な依頼を受けてもらう。10回依頼を成功させたら、次のランク6に上がる仕組みだ。おっと、依頼を達成したら必ずその旨を手帳に書いてもらえよ?でないと失敗扱いになるからな」
「承知した」
「ランク7なんざ早いやつなら5日程度で通過しちまうから、ついでにランク6の説明もしとくぞ?」
「おう」
「ランク6になると街の外にも出てもらうことになる。周辺の村への手紙や荷物配達、採取や簡単な討伐依頼も受けて貰うことになる」
「ふむ。となるとランク6に上がるまではわざわざ装備を整える必要はなかったか?」
「まぁそうとも言えるが、何があるかわからねぇのが冒険者稼業だからな、早い段階で装備を揃えておいて損はねぇよ」
「……ま、そういうことにしておこうか」
「話を戻すぞ?ランク6でも依頼を10回達成してもらう。ただ、街中での依頼は基本カウントされない。街の外に出る依頼を10回成功させてランク5に上がることができる。まぁランク7~6は駆け出しで、ランク5で中堅と言われるようになる。まずは駆け出しを卒業できるよう頑張れ」
「わかった」
「あとな、ランク7の場合、依頼を2か月の間受けないでいると冒険者資格が失効されるから気をつけろよ?ランク6の場合は半年で失効、それ以上は依頼を1個も受けなくても失効されることはない。だから身分証明書代わりにランク5まで上げて止めちまうのがそこそこいるんだ」
「はぁー、そういうのがいるのか」
「まぁランク5までは比較的楽に上がるからな」
「あと、期間超過による再発行は半金貨1枚だ。冒険者手帳をなくした場合は、半金貨1枚に加えて原則もう一度ランク7からのやりなおしになる」
「それは結構きついな」
「だろ?だから冒険者手帳は大事にしまっとけ」
「あれ?さっき「原則」って言ったよな?というと、なくしてもランク7より上からのやりなおしになる場合もあるのか?」
「ある。ただこの場合はランク1とかランク2とかが対象で、それまでの十分な実績が周知されている場合に限るんだ。海で嵐に遭って、身体一つで帰ってきた、なんて場合もあるしな」
「ああ、そういうケースか」
 さすがに自然災害が相手じゃどうにもならんわな。
「さて、ここまでで何か質問は?」
「特には……あー、冒険先で拾ってきたものの鑑定とかはどこでやってもらえる?」
「それなら俺か、ギルドの支部に持ち込むといい。何かあるのか?」
「ん、こういうものを昔拾ったんでな」
 そういって無限袋から森の迷宮で拾った短杖を取り出す。
「ほぅ、魔法使いの杖か。どれ……って、お前さん無限袋持ちか?」
「森の迷宮で杖と一緒に拾った。容量に制限はなさそうなんだが、中に入れた物の重さは感じるっつーちょいと中途半端な代物だけどな」
「それでも十分便利だろ?かぁー、無限袋なんて冒険者20年やってても手に入らねぇ奴が多いのに」
「まぁ運が良かったんだろうし、それなりにあちこちフラフラしてきたからな。それよりも杖の鑑定を頼むよ」
「ああ、そうだったな」
亭主はカウンターの下からメガネを取り出すと、短杖を受け取ってしげしげと観察した。
「………………ふむ、面白いものを手に入れたな。こいつは蟲払いの杖だ。こいつを持っていると、虫が近寄ってこなかったり襲ってきても弱体化させる効果がある」
「そんな便利なものだったのか」
「?」
「いや、それを拾ったのは森の迷宮なんだが、虫系の魔物が多くて辟易した記憶があるんだ。くそぅ、そうと知ってりゃもちっと楽できたのにな」
「まぁ得てして世の中そんなもんさ。で、こいつはどうする?」
「野営の虫除けに使うかもしれんからとっとく。鑑定料は?」
「銀貨1枚で構わんよ」
「んじゃ、これ」
「はいよ、まいどあり。ほかに質問は?」
「今んとこはないかな」

-2-
「じゃあ次は注意事項に入るぞ」
「あいよ」
「まず冒険者は基本自己責任だ。冤罪で牢に入れられたから冤罪を晴らしてくれと言われても、ギルドとしては碌に動けないから理解してくれ。まぁ、お前さんが有名になれば話は変わってくるだろうが……な」
「うん」
「それど冒険者ギルドは基本仲介組織だ。冒険者が依頼先で行ったことについて、冒険者ギルドは責任を負わない」
「うん、なんとなくわかる。ギルドの所為にはできないってことだな」
「依頼と無関係の民への殺人暴行略奪傷害等の犯罪行為は、ギルドの罰則規定に触れるからくれぐれも慎んでくれ。罰金で済めばまだいいが、冒険者としての登録抹消や場合によっては官憲に引き渡すこともあるからな」
「了解。くれぐれも気を付けるようにする」
「あと公共の場での乱闘は禁止。ただし命がかかってるなど止むを得ない場合は除く。
 街中で武器を携行する場合は鞘をかぶせること。
 違う土地ではその土地の法に従う事。
 依頼に失敗した場合は違約金が発生する」
「え、それホント?」
 それはちょっと盲点だった。
「本当だ。前払い金がある場合は倍返しが基本だな。前払い金がない場合は適宜相談だ。依頼に失敗されると、報酬を上乗せして再募集をかけなきゃならん。そのための費用だ」
 なるほど、そういうわけね。
「あとはまぁ、常識と良心に従って行動してくれれば特に問題はないな」
「わかった」

「で、依頼の受け方だが、ウチに依頼が来ると内容を聞いて、そこの板に依頼の内容と期限と報酬を書いた紙を張り出す。それを紙ごとむしって俺に言ってくれりゃいい。あとは直接現場に行くなり依頼人に会いに行くなりと俺が指示する。ただ、あまりにも分不相応な依頼は俺が止めるからな?実力不足で送り出して全滅されると寝ざめが悪ぃし」
 うん、そのあたりは本とかで読んだ冒険者ギルドと一緒やね。
「依頼の紙には番号が振ってあるが、基本自分のランクと同じ数字が一つ下のランクの依頼を受けるようにしてくれ。自分より上のランクの依頼じゃ命に関わるし、下すぎるランクの依頼ばかり受けられると後続が育たん」
「あと依頼が終わったら、成功失敗に関わらず俺に言ってくれ。まぁ失敗の場合は言いづらいだろうが、失敗した時こそ言ってもらわにゃこっちも困るんでな」
 あーうん、ミスは隠すな、ってことね。
「……とまぁ、長々語ったが俺からの説明は以上だ。特に質問は?」
「今んとこは大丈夫だ。分からないことができたらその都度聞くよ」
「そうしてくれ。……さて、俺の説明は終わったが、今日は何か依頼を受けるかい?」
「そうだな……」
 亭主を残してたちあがると、板の前に行き貼り残っている依頼を眺めてみた。
 めぼしい依頼は残ってないだろうが、何か適当なものを……と探して、下の方に貼ってある1枚の依頼書に目が留まった。
 ふむ、じゃあこいつをやってみるか。
 依頼書を板から剥がし、亭主の所に持っていく。
「一発目の依頼はこれにしておこう」
 そういって亭主に依頼書を差し出した。
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