上 下
43 / 227
第3章

第3話 可愛いあの娘は〇〇〇 

しおりを挟む
-1-
 とりあえずお互いの素性がはっきりし、悪魔っ娘のユニを家政婦として屋敷に置くことが決まったので中断していた引っ越しが再開された。
 とは言っても、荷物と言えば荷車一つ。エレクィル爺さんやハプテス爺さんの荷物はカワナガラス店に持ち込むので俺の荷物自体はかなり少ない。
 加えて事前の屋内掃除はユニが完璧にこなしてくれていたせいで、2時間とかからずに終わってしまった。
「早いですね」
「元々荷物持ってねぇしなぁ」
 老人2人を引き取りに来たガラス店の一同を見送ると、残るのは俺とユニの2人だけになった。
「んじゃ、これから家具屋廻るか」
「これからですか?」
「本格的に注文つけんのは明日だが、寝床くらいは今日中になんとかしねぇと拙いだろ。年頃の娘を床でごろ寝させるつもりはねぇよ。俺もベッドで寝たいしな」
「はい」
 というわけで向かったのが、エレクィル爺さんに勧められた家具屋。

「い、いらっしゃいませ」
「邪魔するよ。ちょいと急ぎでベッドを2つ欲しいんだが……」
 ちょっとひきつった顔の店員に、事情を話して急ぎでベッドの注文をする。
「カワナガラス店の大旦那様のご紹介ですか、ありがとうございます」
 事情を聴いて商売人の顔になった店員が店主を紹介しますと奥に引っ込んだ。
「お待たせしました。この度はご用命ありがとうございます。私、店主のオブサードと申します」
「初めまして。ディーゴってもんだ。こっちは使用人のユニ。よろしく頼みます」
「ベッドを2つ急ぎでご入用と伺いましたが」
「ああ。今度市内に引っ越してきたんだが、空き家に家具が何もなくってね。とりあえず今日中に寝床が2つ欲しいんだ。凝ったものは必要ないから、丈夫なやつを見繕ってほしい」
「なるほどなるほど。ディーゴ様、身長をお測りしてもよろしいですか?」
 店主の言葉に頷くと、店主はメジャーを取り出して俺の身長を測った。
「ふむ、この身長でしたらうちにも在庫がございます。今日中にお届けして組み立てられますよ」
「そいつはありがたい」
「お届け先はどちらになりますか?」
「えーと、木の葉通りの……5番地だったか?しばらく空き家になってた屋敷だ」
「おお、木の葉通りですか。高級住宅街ですな。失礼ですがディーゴ様は1級市民ですか?」
 店主の目がきらりと光った気がした。
「いや、この間、名誉市民を拝命したばかりだ。屋敷は貰いもんでな」
「なんと、それはおめでとうございます」
「あまり実感ないけどな」
 店主の言葉に苦笑して返す。
「名誉市民を拝命して屋敷を拝領したとなりますと、ベッドばかりでなく他の家具も必要ではありませんか?」
「まぁな。そこで相談なんだが、今後家具一切はこちらに任せたい。その代わりちょいと勉強しちゃくれないか?なにせ名誉市民になったばかりで予算があまりねぇんだ」
「ええ、ええ。お任せください。ではどうでしょう、名誉市民となりますと格式もそれなりに必要となってまいります。ご注文のベッドですが在庫にあるのは実用一点張りの物でして、いささか装飾が寂しゅうございます」
「いやまぁ別にそのあたりは拘らないんだが」
「いえいえ、そういうところも見られるのが名誉市民でございます。ではこうしましょう。今日のところは仮のベッドをお運びいたします。しばらくはそれを使っていただいて、その間にこちらでふさわしい品物をご用意させて頂きます」
「寝床二つの予算はちょっと厳しいんだが?」
「いえ、仮のベッドの分のご料金は頂きません。その代わり、部品の使いまわしが利くものをご用意いたします。ふさわしい品物ができ次第、仮のベッドはこちらが引き取るということでいかがでしょう」
「ふむ、それなら悪くないな。たださっきも言ったように予算があまりないんだ。家具1式全部が一度に必要なわけじゃなく徐々に買い揃えていく形をとりたい」
 最終的に揃えることになるんだろうが、客間の家具なんか優先順位低いしな。
「かしこまりました。私どももそちらの方が都合がよろしゅうございます」
「じゃあさっそくで悪いが、荷物を運んでもらえるかい?」
 大分傾いてきた陽を見上げて店主に頼む。
「かしこまりました。ではしばしお待ちください」
 そういって店主が引っ込み、店の奥にあちこち指示を出す声が聞こえると、店の中ががぜん騒がしくなった。
「ディーゴ様、私のベッドはそれほど豪華なものでなくても……」
 店の中の様子を見ながら、ユニが控えめに声をかけてきた。
「俺もそのつもりなんだが、店の中の様子を見た限りはそうも言っていられめぇ。まぁ手持ちの金が金貨で80あるから当面急ぎで暮らしに窮すなんてことはないはずだ」
「お金持ちなんですね」
「小金持ちってところだ。余裕はあるが油断はできねぇな」
 そこまで言ったとき、店主が戻ってきた。
「ディーゴ様、ユニ様、お待たせいたしました。用意ができましたので案内をお願いできますか?」
「わかった。んじゃ、いくか」
「はい」
 店主に別れを告げ、ベッド2台分の資材を積んだ荷車を先導して屋敷に戻る。
 途中寝具屋に寄り道して、布団一式も購入した。こちらはずっと使うので、がさがさ音がする安い藁布団ではなくちょっと重いが温かい羊毛布団を買った。ちなみに羽毛布団は受注生産になるそうだ。
 まぁいいけどね。羽毛布団は軽すぎて寝てる間に蹴飛ばしてどっかやっちまいそうだし。

 そして帰宅後、職人さんたちがベッドを組み立てている間、こっちは明日以降の買い出しの品をリストアップしていく。
 台所用品、調理器具、什器に始まり、食堂の家具、応接室の家具、書斎の家具、浴室用品、各居室のカーテン、燭台、日用品等々、ユニと話し合いながら書き出していく。
 こうして並べてみると、結構物入りだな。手持ちの金の半分くらいは吹っ飛びそうだ。
 あと、ユニに魔界で何か便利なものはないかと聞いたところ、水道代わりに使っている、魔力で水を生み出す水の魔石と魔力で冷気を生み出す氷の魔石があるというので買って持ってきてもらうことにした。
 そうこうしているうちにベッドの組み立てが終わり、職人さんたちにはチップを渡して帰ってもらう。
 そして俺とユニの2人だけが残されることになる。
「んじゃ、メシ食って風呂入って寝るとするか。明日はいろいろ動かにゃならんからな」
「はい」
 で、ユニを連れて近場の食堂で食事を済ませたんだが、値段の割に味はイマイチだった、と言っておこう。

-2-
 そして夜。
 広い風呂にのんびりつかりながらこれからのことを考える。家具も揃えなきゃだが、冒険者ギルドにさっさと登録もせんとなー、とか考えていると
キィッ
 と、扉に開く音がして誰かが入ってきた。
 って、ユニしかいねーじゃん。
「あー、ユニ。俺がまだ入っているんだが?」
 後ろを見ずに注意を促す。
「はい。ディーゴ様のお背中をお流ししようかと」
 いやいやまてまて。それなんてエロゲだ。それとも読者サービスか?
「悪いが間に合ってる。そういう気遣いはいらんから」
「ですが、あの……私、これくらいしかお役に立てることができなくて……」
 とかいわれても、風俗店じゃあるまいし、初めて会った娘さんにいきなり背中流させるほど神経太くねぇよ。
「……まぁいいや。そのまま後ろ向いて出てけというのもなんだ、とりあえず湯船に入れ。ちと聞きたいこともある」
「はい。じゃあ……失礼します」
そういってユニが俺の隣に体を沈める。ちらりと見たが、薄い湯浴み着の上からでもわかる大平原。
イツキレベルとは言わないが、もーちょっと胸があったらなーと思ったり思わなかったり。
「広いお風呂って気持ちいいですね」
「まぁな。湯をためるのがちょっと面倒くさいが」
「でもディーゴ様がやったやり方だと早くお湯になりますよね」
「まぁ、料理のやりかたをちょっと流用しただけだ」
 うん。風呂を沸かすにあたって、ちょっと変わったことをやったからな。
 竈で湯を沸かすのと同時に、石や鉄塊も一緒に焼いておき、それを湯船に放り込む方法なんだが……屋外の露天風呂ならともかく、屋内の風呂でこの方法をとるやつはあまりいないだろう。
 浜鍋なんかで良くとられる方法だ。
 まぁそれは脇に置いといて、だ。
「これは単純な好奇心で聞くんだが、タイザってのと昔ナニがあった?」
「あ、はい。昔、タイザ様に助けてもらったことがあるんです。私、ちょっと特殊なうえに落ちこぼれで、いじめられっ子でしたから」
「ふむ。落ちこぼれっていうのは?」
「私、あまり魔法が使えないんです。お掃除とかお料理とかの生活魔法はなんとかなるんですけど、他の淫魔が使うような攻撃魔法とか幻影魔法とかはさっぱりで……」
「ふーむ、相性的なものなんかねぇ」
「あの、驚かないんですか?」
「いや別に?俺は魔法のないところにいたからなぁ。むしろ掃除だの料理だのに魔法を使うってだけで驚きなんだが」
「でも、料理魔法なんて魔界じゃ結構な人が使えますよ?」
「いやここ魔界じゃないし。しかし料理魔法っつーと、『ソルトブレス』とか奥義に『手打ち麺の技』とかあったりすんの?」
「?なんですか、それ」
「いや、忘れてくれ」
 さすがに某漫画の技はないわな。
 その後も湯船に浸かったまま、色々と魔界の話を聞かせてもらった。
「それじゃディーゴ様、私はそろそろこの辺で……」
 頃合いを見てユニが湯船から立ち上が……ろうとしてよろけた。
「うぉっと⁉」
 いきなり倒れそうになったので、慌てて抱き留める。
「す、すみません。ちょっとのぼせたみたいで……」
「驚かさねぇでくれ、心臓に悪い。……長話して悪かったな」
「いえ、いいんです。色々お話しできてうれしかったです」
 そういって目を閉じるユニ。なんつーか、初対面の相手をここまで信頼できるもんかね、いや、タイザという下地があるからこその信頼なのか。
 女性は苦手だがこの程度ならまぁ……と抱えたまま立ち上がろうとして違和感に気付いた。
ん?
んんん?
 薄い湯浴み着が濡れて肌に貼り付いているお陰で、布越しにもユニの体形がはっきりわかる。
 ……ナニカヨケイナモノツイテマセンカ?
 って、こいつ男じゃん‼
 落としそうになるのを慌てて抱えなおす。
 そーか特殊ってこういう意味だったんか。なら胸が大平原つーのも納得だぁな。
 これは何て言うんだっけ。オカマ、ニューハーフ、女装……なんか違うな。さしずめ男の娘と言った方がしっくりくるか。
 それにしてもうまく化けたもんだ。全然気づかんかったわ。
 しかしなんだな、むしろ同性と分かったことで、ヘンな間違い起こさずに済むなとほっとしている俺がいるってのもなんだか。
 当人にしかわからん悩みとかあるんだろうし、まぁここは触れずにおいてやるか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう
ファンタジー
なろう様でも投稿しています。 真夏の昼下がり歩道を歩いていた「加賀」と「八木」、気が付くと二人、見知らぬ空間にいた。 そこに居たのは神を名乗る一組の男女。 そこで告げられたのは現実世界での死であった。普通であればそのまま消える運命の二人だが、もう一度人生をやり直す事を報酬に、異世界へと行きそこで自らの持つ技術広めることに。 「転生先に危険な生き物はいないからー」そう聞かせれていたが……転生し森の中を歩いていると巨大な猪と即エンカウント!? 助けてくれたのは通りすがりの宿の主人。 二人はそのまま流れで宿の主人のお世話になる事に……これは宿屋「兎の宿」を中心に人々の日常を描いた物語。になる予定です。

【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」  申し訳なさそうに眉を下げながら。  でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、 「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」  別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。  獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。 『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』 『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』  ――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。  だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。  夫であるジョイを愛しているから。  必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。  アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。  顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。  夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。 

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...