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第1章
第10話 森の迷宮2
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-1-
「…………マジか」
イツキに頼んで崖の蔓草をどかしてもらい、下にあったものを見てしばらく硬直したのち、なんとかそれだけを絞り出した。
崖の斜面に、まるで彫刻のように竜っぽい生き物の化石があったのだ。しかもほぼ完全体で。
「うわぁああ! ディーゴ、なにこれ、なにこれぇぇええ‼」
隣でイツキが驚いたようなはしゃいだような声を上げている。
「これは……大昔の竜の化石か?」
「カセキっていうの?きれい……こんなの初めて見た……骨の竜で生きてるわけじゃないのよね?」
「幾らファンタジーでも化石の竜が動くこたねぇだろ」
「これ、一体どうなってるの?」
「大昔に死んだ竜の死骸が、気の遠くなるような年月を経て石になったもんだ。百年千年の話じゃねぇ。数万年数十万年の時を経てこうなったんだ……が……」
「竜って死ぬと虹色の石になるんだ……」
そう、竜の完全体の化石というだけでも珍しいのに、この化石は虹色に輝いていた。
「オパール化ってやつか……」
「おぱ……?」
「オパール化、というんだ。普通、動物の骨とかの化石はそのまんま石になるはずなんだが、ある特殊な条件が揃うと極々まれにこうやって骨が宝石化するんだ」
「竜の骨には魔力があるから、それでこうなったのかしら」
いや、そうじゃねぇんだがとは思ったが、ファンタジーだしなぁ……否定しきれないのも事実だよな。
「あるいはそうかも知れねぇなぁ……。なにはともあれ、よーく見て目に焼き付けとけよ。全身くまなく宝石化した、ほぼ完全体の竜の化石なんざ、世界中のどこを探しても見つからねぇだろう。まさに大自然の奇跡ってやつだ」
まさか異世界でこんなお宝を見ることができるとは思わなかった。
切り取って壁画のように飾ったら映えるなんてもんじゃねぇ、冗談抜きで人が呼べるぞと思ったが、その一方でこういったものは迷宮の奥にひっそりとあった方がサマになる、とも考えられる。
何はともあれ、もうしばらく眺めて目に焼き付けておこう。
「ちっと早いが、今日はここで野営すっか」
なんかこれだけのお宝を見たら、この日は探索を続ける気がなくなってしまった。
虹色の竜を見ながらメシを食うってのも悪くない、と思いさっそくシェルターを作り上げる。
さて近くに水場があったかな、と、記憶を頼りにうろうろすることしばし、湧き水を見つけたのでそこで水を汲んでくる。
鍋に貯めた水に木人の実を放り込み火にかけている間に、ちょっと思いついたことがあったので化石の下の辺りをうろうろしてみる。
「ディーゴ、何してるの?」
「いや、化石の欠片でも落ちてねぇかなーと思ってさ。全部を持ち帰るのは無理でも、欠片くらいは記念に持って帰りたい」
「だったらちょっと削ったら?」
「いやぁ、さすがにそれは気が咎める。せっかく完全体に近い状態なんだ、手ぇ加えるわけにはいくめぇよ……っと、あったあった」
5cmほどの欠片を見つけたので、拾って土を払い太陽にかざしてみる。
青と黄色と緑が入り混じった、なかなか奇麗な石だ。
とっといて後で何か適当に加工してもらおう。お守り代わりとしてな。
-2-
そして翌朝、いささか名残惜しいがこの小部屋に別れを告げる。
立ち去る際に、イツキに頼んで竜の化石を念入りに隠してもらった。この化石は人目に触れさせず、ずっとこのまま眠らせていた方がいいように思ったからだ。
この欠片にどれほどの価値があるのかはわからんが、多分人に知られたら削りとられて見る影もなくなってしまうような気がする。
ま、俺らだけの秘密の場所として、たまに思い出してはにやにやさせてもらおうか。
そして探索を再開したんだが……どーもテンションが上がらない。
さっきから出くわすのが虫虫虫のオンパレードで、なんかとっととこの迷宮から出たくなってきている。
「なぁイツキ、この迷宮、どのくらいまで踏破できたかわかるか?」
4m近い大百足を尖石の杭で串刺しにしてイツキに訊ねる。
「んーとね……この先の三叉路を左に曲がると大きな部屋があって、そこが最奥の行き止まりみたい」
「となると大体半分か。……大きな部屋の行き止まりっつーと、大物あたりがいそうだな」
「良く解ったわね。半人蠍が2匹いるわ」
「半人蠍?」
「体の前半分が蠍で、後ろの尻尾の部分に人間の上半身が生えてるの。人間の部分は槍を持ってるわね」
「ふーむ、それも魔物か?」
「あんな動物いないわよ」
「おけ。じゃあ、倒しておくか」
大部屋の手前で荷物を下ろし、槌鉾一つの身軽になって大部屋に入る。
目的の相手を視認すると、なるほど、確かに蠍の尻尾の部分に人間の上半身が生えてる。
ムキムキに鍛えられた赤銅色の筋肉は、なかなかの遣い手を予想させた。
同じく赤銅色の蠍の部分も、随分と皮が厚そうだ。
「イツキ、左の足止め頼む。各個撃破だ」
「おっけ」
じりじりと部屋の中を進んでいくと、1/3を過ぎたあたりで半人蠍が動き出した。
「ーーーーーーーーーーッ!!」
声にならない雄たけびを上げて、半人蠍が戦闘モードに入る。
シャカシャカと高速で近づいてくる半人蠍の一匹に
「蔦よ蔦。縛めの縄となって」
イツキの魔法が襲い掛かる。
地面から無数に飛び出した蔓草が、半人蠍の蠍部分を拘束する。
「やだ、結構力強いわよ」
「繰り返しかけで頼む」
絡む端からぶちぶちと力業で蔓草をちぎる半人蠍。だが、足止めには成功していた。
その間にこっちはとっととケリをつけ……
「うぉっ⁉」
いきなり迫ってきた槍の穂先をかろうじてかわす。
空振りした槍を逆薙ぎに振り戻す。
2m近い槍を片手で振り回すその筋力には驚嘆するが、どうも攻撃が大振りっぽい。
普通、槍ってのは突いて使うもんじゃねーの?
などと考えてたら、蠍の鋏が突き出されてきたので横っ飛びでかわす。
むぅ、1匹とはいえ人の部分と蠍の部分で2匹を相手にしてるようだな。
ならば……!
半人蠍の人間部分に思いっきり槌鉾を投げつけた。
防御のために横たえた槍の柄をへし折り、投げつけた槌鉾が人間の胸に命中する。
たまらず人間部分がのけぞるが、その隙を逃がすはずがない。
バネをためて飛び出し、蠍の頭に飛び乗るとその勢いのまま人間部分の頭を掴み、渾身の膝蹴りを叩き込んだ。
虎男の質量を伴った衝撃が膝を通して首の一点にかかったわけだから、脆弱なその部分が絶えられるはずもなく、嫌な音を立てて半分潰れた頭があり得ない方向に曲がった。
どさりと人間部分があお向けに倒れる。人間ならこれで即死だが……
「げ、人間部分が本体じゃねぇの?」
痛みは感じているようだが、蠍部分はまだまだ元気だった。
さて、2対1がこれで蠍部分との1対1となったわけだが、生憎こちらは無手になり、相手が使ってた槍も折れている。
どないすべぇと思ったが、武器がなければ作ればいいじゃん、と、財布に放り込んでおいた術晶石から魔力を使って、でっかい石の棍棒を作り上げた。
調子に乗ってちょっと大きく作りすぎたのは秘密だ。
「うおおおお……っしゃああ‼」
気合いを入れて持ち上げ、向かってきた蠍に真正面から振り下ろす。
蠍の鋏が正確に俺の首を狙ってきたが、こちらの振り下ろしの方が若干速かった。
蠍部分の分厚い皮もさすがに耐えられなかったようで、バギャ! と割れる音とともに動かなくなった。
「ディーゴ!片付いたんならこっちも早く……!」
見ればイツキの蔦もだいぶ千切られてる。
石棍棒を引きずってもう一匹の半人蠍の背後に回ると、大上段から人間部分を叩き潰した。
こいつ(人間部分)、蠍部分が固定されてると真後ろ向けないんだな。
あとは、蠍の鋏の攻撃範囲外になる蠍部分の斜め後ろに立って、石棍棒を振り下ろして決着がついた。
「ディーゴ、遅い」
「すまんすまん。だが助かった」
むふー、と鼻を鳴らすイツキをなだめて、迷宮のボス戦と思われる戦いが終わった。
-3-
「さて、ボスと倒したとなると何か褒賞が欲しいよな」
半人蠍の1匹目を倒したあたりから気になっていた、洞窟の入り口に目を向ける。
イツキも気づいていたようで、
「ああ、あの洞窟ね。でも深さはあまりないみたい」
「じゃあ、ちょっと入ってみるか……っとその前にだ。イツキ、ちょっと質問」
「なに?」
「あの半人蠍な、放っておくと腐って消えるんだろ?」
「ええ、そうよ。それがどうかした?」
「蠍の鋏の部分だけ切り取って残せないか?」
「ああ、それなら大丈夫よ。倒した後に切り取ったりしたものはなぜか長く残るらしいから」
「ふーん。なんか不思議だな」
「鋏なんかどうするの?」
「腹が減ったんで焼いて食えんかなと思ってな」
「半人蠍の鋏を?」
イツキが露骨に眉をひそめる。
「いや、俺の故郷の話だが、海に住んでるカニっつう生き物は鋏の肉が美味いんだ。で、ゲテモノ扱いだが蠍も食えなくはない。同じ鋏だ、もしかしたら美味いんじゃね?という考えに行きついたわけだが……」
「でも聞いたことないわよ?」
「俺も聞いたことない。だが、試してみる価値はあると思う。ぶっちゃけ木人の実があまり美味しくない」
「……まぁ、そこまで言うなら試してみたら?あたしは遠慮しておくけど」
「うし、じゃあ切り取ってくる」
半人蠍の所に取って返し、鋏の部分だけ苦労して引きちぎる。
ちぎった部分から見える肉は白色で繊維質で……すごくカニっぽい。
見た目によろしくない蠍の本体と人間部分は土に埋めて、さっそく鋏を一つ焼いてみた。
まぁ生でも行けそうな気はしたが念のためにね。
そして焼きあがった蠍鋏をたたき割ると、中から出てきたのはピンク色になったまさにカニ肉。
ちょっとほぐして少しだけ口に含むと……まごうかたなきカニの味がした。しかもほんのり甘い上物の。
「……イツキ、当たりだ。これ美味いわ」
「ほんとに?」
イツキも恐る恐る口にしてみる。というかイツキ、お前酒だけじゃなく固形物も食えたんだな。
「なにこれ、ホント美味しい!」
「うし、もう一個焼いてこれが昼飯だ。あの洞窟はその後でいいだろう」
贅沢言えば醤油が欲しいが、そのままでも旨いので良しとしよう。
ただ、カニ肉って確か日持ちしなかった気がするんだよな。
晩飯もこれにして今日のうちに食いきるか。
―――あとがき――――――――――――――――――――――――――――――
なんかポイントとお気に入り数がえれぇことになってるなと思ったら、HOT
ランキングに載ってたんですね。
訪れて読んでくれた方に心より御礼申し上げます。
……てなわけで、感謝の意を込めて急遽28日と29日も更新させて頂きます。
「…………マジか」
イツキに頼んで崖の蔓草をどかしてもらい、下にあったものを見てしばらく硬直したのち、なんとかそれだけを絞り出した。
崖の斜面に、まるで彫刻のように竜っぽい生き物の化石があったのだ。しかもほぼ完全体で。
「うわぁああ! ディーゴ、なにこれ、なにこれぇぇええ‼」
隣でイツキが驚いたようなはしゃいだような声を上げている。
「これは……大昔の竜の化石か?」
「カセキっていうの?きれい……こんなの初めて見た……骨の竜で生きてるわけじゃないのよね?」
「幾らファンタジーでも化石の竜が動くこたねぇだろ」
「これ、一体どうなってるの?」
「大昔に死んだ竜の死骸が、気の遠くなるような年月を経て石になったもんだ。百年千年の話じゃねぇ。数万年数十万年の時を経てこうなったんだ……が……」
「竜って死ぬと虹色の石になるんだ……」
そう、竜の完全体の化石というだけでも珍しいのに、この化石は虹色に輝いていた。
「オパール化ってやつか……」
「おぱ……?」
「オパール化、というんだ。普通、動物の骨とかの化石はそのまんま石になるはずなんだが、ある特殊な条件が揃うと極々まれにこうやって骨が宝石化するんだ」
「竜の骨には魔力があるから、それでこうなったのかしら」
いや、そうじゃねぇんだがとは思ったが、ファンタジーだしなぁ……否定しきれないのも事実だよな。
「あるいはそうかも知れねぇなぁ……。なにはともあれ、よーく見て目に焼き付けとけよ。全身くまなく宝石化した、ほぼ完全体の竜の化石なんざ、世界中のどこを探しても見つからねぇだろう。まさに大自然の奇跡ってやつだ」
まさか異世界でこんなお宝を見ることができるとは思わなかった。
切り取って壁画のように飾ったら映えるなんてもんじゃねぇ、冗談抜きで人が呼べるぞと思ったが、その一方でこういったものは迷宮の奥にひっそりとあった方がサマになる、とも考えられる。
何はともあれ、もうしばらく眺めて目に焼き付けておこう。
「ちっと早いが、今日はここで野営すっか」
なんかこれだけのお宝を見たら、この日は探索を続ける気がなくなってしまった。
虹色の竜を見ながらメシを食うってのも悪くない、と思いさっそくシェルターを作り上げる。
さて近くに水場があったかな、と、記憶を頼りにうろうろすることしばし、湧き水を見つけたのでそこで水を汲んでくる。
鍋に貯めた水に木人の実を放り込み火にかけている間に、ちょっと思いついたことがあったので化石の下の辺りをうろうろしてみる。
「ディーゴ、何してるの?」
「いや、化石の欠片でも落ちてねぇかなーと思ってさ。全部を持ち帰るのは無理でも、欠片くらいは記念に持って帰りたい」
「だったらちょっと削ったら?」
「いやぁ、さすがにそれは気が咎める。せっかく完全体に近い状態なんだ、手ぇ加えるわけにはいくめぇよ……っと、あったあった」
5cmほどの欠片を見つけたので、拾って土を払い太陽にかざしてみる。
青と黄色と緑が入り混じった、なかなか奇麗な石だ。
とっといて後で何か適当に加工してもらおう。お守り代わりとしてな。
-2-
そして翌朝、いささか名残惜しいがこの小部屋に別れを告げる。
立ち去る際に、イツキに頼んで竜の化石を念入りに隠してもらった。この化石は人目に触れさせず、ずっとこのまま眠らせていた方がいいように思ったからだ。
この欠片にどれほどの価値があるのかはわからんが、多分人に知られたら削りとられて見る影もなくなってしまうような気がする。
ま、俺らだけの秘密の場所として、たまに思い出してはにやにやさせてもらおうか。
そして探索を再開したんだが……どーもテンションが上がらない。
さっきから出くわすのが虫虫虫のオンパレードで、なんかとっととこの迷宮から出たくなってきている。
「なぁイツキ、この迷宮、どのくらいまで踏破できたかわかるか?」
4m近い大百足を尖石の杭で串刺しにしてイツキに訊ねる。
「んーとね……この先の三叉路を左に曲がると大きな部屋があって、そこが最奥の行き止まりみたい」
「となると大体半分か。……大きな部屋の行き止まりっつーと、大物あたりがいそうだな」
「良く解ったわね。半人蠍が2匹いるわ」
「半人蠍?」
「体の前半分が蠍で、後ろの尻尾の部分に人間の上半身が生えてるの。人間の部分は槍を持ってるわね」
「ふーむ、それも魔物か?」
「あんな動物いないわよ」
「おけ。じゃあ、倒しておくか」
大部屋の手前で荷物を下ろし、槌鉾一つの身軽になって大部屋に入る。
目的の相手を視認すると、なるほど、確かに蠍の尻尾の部分に人間の上半身が生えてる。
ムキムキに鍛えられた赤銅色の筋肉は、なかなかの遣い手を予想させた。
同じく赤銅色の蠍の部分も、随分と皮が厚そうだ。
「イツキ、左の足止め頼む。各個撃破だ」
「おっけ」
じりじりと部屋の中を進んでいくと、1/3を過ぎたあたりで半人蠍が動き出した。
「ーーーーーーーーーーッ!!」
声にならない雄たけびを上げて、半人蠍が戦闘モードに入る。
シャカシャカと高速で近づいてくる半人蠍の一匹に
「蔦よ蔦。縛めの縄となって」
イツキの魔法が襲い掛かる。
地面から無数に飛び出した蔓草が、半人蠍の蠍部分を拘束する。
「やだ、結構力強いわよ」
「繰り返しかけで頼む」
絡む端からぶちぶちと力業で蔓草をちぎる半人蠍。だが、足止めには成功していた。
その間にこっちはとっととケリをつけ……
「うぉっ⁉」
いきなり迫ってきた槍の穂先をかろうじてかわす。
空振りした槍を逆薙ぎに振り戻す。
2m近い槍を片手で振り回すその筋力には驚嘆するが、どうも攻撃が大振りっぽい。
普通、槍ってのは突いて使うもんじゃねーの?
などと考えてたら、蠍の鋏が突き出されてきたので横っ飛びでかわす。
むぅ、1匹とはいえ人の部分と蠍の部分で2匹を相手にしてるようだな。
ならば……!
半人蠍の人間部分に思いっきり槌鉾を投げつけた。
防御のために横たえた槍の柄をへし折り、投げつけた槌鉾が人間の胸に命中する。
たまらず人間部分がのけぞるが、その隙を逃がすはずがない。
バネをためて飛び出し、蠍の頭に飛び乗るとその勢いのまま人間部分の頭を掴み、渾身の膝蹴りを叩き込んだ。
虎男の質量を伴った衝撃が膝を通して首の一点にかかったわけだから、脆弱なその部分が絶えられるはずもなく、嫌な音を立てて半分潰れた頭があり得ない方向に曲がった。
どさりと人間部分があお向けに倒れる。人間ならこれで即死だが……
「げ、人間部分が本体じゃねぇの?」
痛みは感じているようだが、蠍部分はまだまだ元気だった。
さて、2対1がこれで蠍部分との1対1となったわけだが、生憎こちらは無手になり、相手が使ってた槍も折れている。
どないすべぇと思ったが、武器がなければ作ればいいじゃん、と、財布に放り込んでおいた術晶石から魔力を使って、でっかい石の棍棒を作り上げた。
調子に乗ってちょっと大きく作りすぎたのは秘密だ。
「うおおおお……っしゃああ‼」
気合いを入れて持ち上げ、向かってきた蠍に真正面から振り下ろす。
蠍の鋏が正確に俺の首を狙ってきたが、こちらの振り下ろしの方が若干速かった。
蠍部分の分厚い皮もさすがに耐えられなかったようで、バギャ! と割れる音とともに動かなくなった。
「ディーゴ!片付いたんならこっちも早く……!」
見ればイツキの蔦もだいぶ千切られてる。
石棍棒を引きずってもう一匹の半人蠍の背後に回ると、大上段から人間部分を叩き潰した。
こいつ(人間部分)、蠍部分が固定されてると真後ろ向けないんだな。
あとは、蠍の鋏の攻撃範囲外になる蠍部分の斜め後ろに立って、石棍棒を振り下ろして決着がついた。
「ディーゴ、遅い」
「すまんすまん。だが助かった」
むふー、と鼻を鳴らすイツキをなだめて、迷宮のボス戦と思われる戦いが終わった。
-3-
「さて、ボスと倒したとなると何か褒賞が欲しいよな」
半人蠍の1匹目を倒したあたりから気になっていた、洞窟の入り口に目を向ける。
イツキも気づいていたようで、
「ああ、あの洞窟ね。でも深さはあまりないみたい」
「じゃあ、ちょっと入ってみるか……っとその前にだ。イツキ、ちょっと質問」
「なに?」
「あの半人蠍な、放っておくと腐って消えるんだろ?」
「ええ、そうよ。それがどうかした?」
「蠍の鋏の部分だけ切り取って残せないか?」
「ああ、それなら大丈夫よ。倒した後に切り取ったりしたものはなぜか長く残るらしいから」
「ふーん。なんか不思議だな」
「鋏なんかどうするの?」
「腹が減ったんで焼いて食えんかなと思ってな」
「半人蠍の鋏を?」
イツキが露骨に眉をひそめる。
「いや、俺の故郷の話だが、海に住んでるカニっつう生き物は鋏の肉が美味いんだ。で、ゲテモノ扱いだが蠍も食えなくはない。同じ鋏だ、もしかしたら美味いんじゃね?という考えに行きついたわけだが……」
「でも聞いたことないわよ?」
「俺も聞いたことない。だが、試してみる価値はあると思う。ぶっちゃけ木人の実があまり美味しくない」
「……まぁ、そこまで言うなら試してみたら?あたしは遠慮しておくけど」
「うし、じゃあ切り取ってくる」
半人蠍の所に取って返し、鋏の部分だけ苦労して引きちぎる。
ちぎった部分から見える肉は白色で繊維質で……すごくカニっぽい。
見た目によろしくない蠍の本体と人間部分は土に埋めて、さっそく鋏を一つ焼いてみた。
まぁ生でも行けそうな気はしたが念のためにね。
そして焼きあがった蠍鋏をたたき割ると、中から出てきたのはピンク色になったまさにカニ肉。
ちょっとほぐして少しだけ口に含むと……まごうかたなきカニの味がした。しかもほんのり甘い上物の。
「……イツキ、当たりだ。これ美味いわ」
「ほんとに?」
イツキも恐る恐る口にしてみる。というかイツキ、お前酒だけじゃなく固形物も食えたんだな。
「なにこれ、ホント美味しい!」
「うし、もう一個焼いてこれが昼飯だ。あの洞窟はその後でいいだろう」
贅沢言えば醤油が欲しいが、そのままでも旨いので良しとしよう。
ただ、カニ肉って確か日持ちしなかった気がするんだよな。
晩飯もこれにして今日のうちに食いきるか。
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……てなわけで、感謝の意を込めて急遽28日と29日も更新させて頂きます。
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